縄文GoGo

5000年前の中部高地の物語

縄文GoGo旅編 第33話 8日目①

 
 
          翌日。北の湖の手前。
 
アオキ村のムロヤで一晩ゆっくりと休んで、シロクンヌ一行はイワジイを加えた5人でカワセミ村を目指す事となった。
今、川に沿って、北の湖に近づいている。
キサヒコ、カゼト、マサキが見送りで同行していて、シップウは、天高くを飛んでいた。
 
キサヒコ  「眼木は大助かりだよ。これからの季節、湖面がまぶしくてかなわんのだ。」
シロクン  「テーチャが弾けておったな(笑)。」
カゼト  「何やら妙な葉っぱを付けて喜んでいた(笑)。」
マサキ  「あんな葉っぱ、どっから持って来たんだろうな。」
イワジイ  「いきなり尻を突き出して踊り出しおって、突き飛ばされたぞい。
       サチも転かされておったろう。」
サチ  「うん。お尻でやられた。」
ミツ  「私も危なかった。」
タカジョウ  「ああいうカクカクした踊りは初めて目にしたが、こっちではああやるのか?」 
キサヒコ  「ハハハ、あんな怪しげな踊り、テーチャにしか出来んぞ。」
シロクンヌ  「おれはヤッホを思い出したよ(笑)。」
キサヒコ  「そうそうこの川だがな、大雨でも水嵩が増さんし濁らんのだぞ。」
シロクン  「そうだってな。神が施す水なんだろう?」
タカジョウ  「どういう事だ?」
カゼト  「北の湖には神が住んでいて、無限に水を吐き出してくれているんだ。
      だから、北の湖に流れ込む川が一本も無いのに、
      この川はこれだけの水を湛(たた)えている。」
キサヒコ  「この川の水は、村の命の水だ。
       北の湖は、真冬でも凍らんのだぞ。」
ミツ  「えー!何だか不思議。」
カゼト  「全く凍らんと言う訳ではないが、全面に氷が張ったりはせん。」
キサヒコ  「村にとっては、北の湖は聖なる湖だ。
       魚も水鳥も獲らんのだよ。
       まあ、もともと魚はほとんどおらんし、水鳥の数も少ないが。」
シロクン  「恐ろしいほどに水が澄んでいて、筏で漕ぎ出したら不思議な気分になるぞ。」
マサキ  「湖底に筏の影が映るからな。」
キサヒコ  「船着き場の横に、見守り杉と言う御神木があって、
       みづ神の話し相手だと言い伝えられている。
       だから見守り杉に祈りを捧げてから、舟に乗るようにしておるんだ。」
サチ  「流れ込む川が無い湖なのに、こんなに水が流れ出しているの?」
キサヒコ  「そうだよ。不思議だろう?
       シロクンヌもマサキもみづ神祭りを見ておらんよな?」
シロクンヌ  「ああ、行き合わせていない。」
マサキ  「おれもだ。綺麗だそうだな。」
イワジイ  「わしは見ておるぞ。蛍祭りじゃ。すごい数の蛍じゃぞ。」
サチ  「蛍がいるの?」
カゼト  「いるなんてもんじゃないぞ。もの凄い数だよ。
      見守り杉の下が浅瀬になっていて、ニナ(巻貝)だらけなんだ。
      ニナを喰う生き物がおらんのだな。」
ミツ  「そうか!蛍の幼虫はニナを食べるんだったね。」
サチ  「そうなんだ。だから蛍が・・・わー、見てみたいなー。」
キサヒコ  「本来、わしらがみづ神に感謝を捧げる祭りなのだが、
       みづ神の方が、わしらを楽しませてくれておる・・・」
カゼト  「舟に乗って蛍を見るんだぞ。湖面に光が映るし、漂う光に囲まれる。」
タカジョウ  「そりゃあ綺麗だろうな。」
サチ  「ミツ、いつか来てみたいね!」
ミツ  「うん!セリも誘って、三人で来たいね!」
カゼト  「話は変わるが・・・
      昔あったカゼの里の横には、真っ白な水が流れる川があったと言うぞ。
      この川の水とは大違いだよな。
      そっちは乳の川と呼ばれていて、水浴びすると乳の出が良くなったそうだ。」
ミツ  「白っぽい水が流れる川のそばで、昨日の朝、不思議な物を見つけたよ。」
サチ  「あ!そうだ。忘れてた。
     イワジイ、これと似たのを掘り出したの?」
イワジイ  「おお、サチも掘ったか。わしも三つ持っておるぞい。
       そう言やあ、白っぽい川が流れておったの。岩が溶け出したんじゃろう。
       ほら、これじゃ。こりゃあ一体、何じゃろか?」

トロトロ石器

カゼト  「あ!どこにあったんだ?」

サチ  「野営した所。昨日の朝、魂送りの穴を掘ったら出て来たの。」
マサキ  「おれがイワジイと出会った所だよ。」
カゼト  「そこだ!そこに昔、カゼの里があったんだ。
      マサキ、明日そこに案内してくれ。祈りを捧げる。」
マサキ  「ああ良いが、これは何なんだ?」
カゼト  「これは、カゼの証しだ。
      もう今は使っていないが・・・」
タカジョウ  「カゼノアカシとは?」
カゼト  「カゼの者である証しだよ。こうやって紐をからめて、こうやって髪に結ぶ。
      知らん者が見ても、ただの髪結いにしか見えんだろう?
      カゼの者が見ると、仲間だと分かるんだ。
      カゼのイエは、イエの者の他にも仲間を作っていた。
      旅先で出会った仲間を、そうやって見分けていた訳だ。
      カゼの里で、これを作っていたらしい。
      模様が綺麗だろう?色石(チャート)で作るんだ。」
キサヒコ  「カゼの里には、風の塔の言い伝えもあるぞ。
       一日で、高い塔を組み上げたらしいな。
       それでもって、風占いをしていたのだろう?」
カゼト  「風祭りだな。」
ミツ  「風占いって、どんなの?」
カゼト  「占いと言うより、願い掛けだな。
      もう、うんと昔の話だぞ。
      風祭りでは、風の塔を組み上げたと言うんだ。
      今はもう組み手がいないから、どんな塔か分からんが、高かったらしい。
      長い木の組み合わせなんだが、柱は埋めない。
      礎石の上に載せただけだったらしい。
      その塔に風が当たれば、塔が声を出す。
      そしたらいくつも穴を掘って、その声を埋めたそうだ。」
サチ  「それで何の願いを掛けるの?」
イワジイ  「子宝じゃろう?」
カゼト  「うん。子宝とか安産とかだったようだな。
      声を埋めた後に、そこで女衆が踊ったと言うから。」
イワジイ  「産む、産める・・・埋めるは産めるじゃ。
       丈夫に産まれるようにと、神の声霊(こえだま)を埋めたのじゃろう。」
タカジョウ  「なるほど。そこで踊って体の中に声霊を取り入れるのだな?
        そうすれば、元気な子を産めると言うわけだ。」
 
 
          ━━━ 幕間 ━━━
 
さて、くだんのトロトロ石器ですが、「カゼの証し」と言う事にしてしまいました。
ハッキリ言って、苦し紛れですね(笑)。
これではあの形である必然性がありませんし。
まあ、祭祀に使われていた可能性も大ですから、呪術的な何かだったかも知れません。
 
ここで長野県大町市の山の神遺跡について、少し説明しておきます。
犀川(さいがわ)水系の乳川(ちかわ)によって形成された神明原扇状地の扇央部に位置し、標高約730m。西側には北アルプス、東に大町盆地を臨む。
現在は「国営アルプスあづみの公園」の敷地内となっています。
 
特徴は集石遺構の存在。
動画を貼っておきます。
この遺跡は少なくとも3回の土石流被害を経験していて、8千年前は、石列部分のすぐ横を乳川が流れていたらしいです。
石列と川との高低差も少なかったようなので、川の水を取り入れた作業場か加工場、もしかして工場があった?トロトロ石器は工具?などと空想してみるのですが、革なめしの作業場くらいしか具体的には思い付いていません。
 
熊本県の瀬田裏遺跡でも20点のトロトロ石器が出土していて、21m×7mの石列があるようです。
この事から、石列とトロトロ石器には関係性があるとも考えられています。
 
 
「縄文ランドスケープ」・・・そんな言い方をする人もいます。
各地に点在する配石遺構や石柱、環状列石、巨大環状木柱列・・・
そこから見渡せる山並み、夏至の朝日が昇る山、冬至の日の入りの山・・・
石柱の影が指し示す物、星座の写し取り・・・
などなど、大自然の営みを人工造営物に反映させ・・・
 
天文や地動の予見を図ったのか?
祈りのパワーの強化装置にしたのか?
邂逅や融合の場にしたのか?
神が降りたのか?
 
謎めいていて推測するしかないのですが、まるで宇宙の中のこの地点、というよな捉え方で、大勢が協力して構造物を創り上げ・・・
とにかくそこには、その一時代、その地域共通の精神性が現れています。
 
もしかすると、時としてカリスマが現れ、宗教的な何かを説いて人々を導き、そして消えて行ったのかもしれません。
縄文人の宗教観は、アニミズムを拡大解釈したとしても、その一言では説明しきれない、いろいろな側面があったのではないでしょうか。
 
      
 
登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女 本名はスス  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている      
追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる アヤクンヌ      エミヌ 18歳  オジヌ 16歳 エミヌの弟  カイヌ 14歳 オジヌの弟    モリヒコ シカ村のカミ  サラ 17歳 スサラの妹 ハギとトツギとなる ヌリホツマの弟子  ナクモ 18歳 エミヌの友人  シオラム 41歳 ササヒコのすぐ下の弟 塩作りの加勢のためシオ村で暮らす 5年に一度、里帰りする  ナジオ 20歳 シオラムの息子 シオ村生まれ  タカジョウ 23歳 ワシ使い  ホコラ 洞窟暮らし 哲人  シップ オオイヌワシ タカジョウが飼っている  エニ 38歳 エミヌ姉弟の母   カヤ アマカミの使者  シラク 北のミヤコのシロのムロヤの責任者  マシベ フジのシロの里の者 ヲウミのシロの村との連絡係り  トモ フジのシロの里の者  イナ 30歳 シロクンヌの姉弟子 杖の達人  コヨウ 15歳 タカジョウの妹  ゴン 洞窟で飼われている仔犬  ミツ 11歳 アユ村の少女  カザヤ 24歳 アユ村の若者 カタグラの友人  テミユ 22歳 カザヤの妹  タガオ 32歳 ミツの父親 目がみえない  ゾキ 14歳 オロチの姉 シップウの攻撃で背中に傷を負う オロチ 12歳 ゾキの弟 シップウの攻撃で顔に傷を負う  イワジイ 60歳 黒切りの里の山師 ヌリホツマの兄  シロイブキ 28歳 シロクンヌの兄弟
追加(旅編)スズヒコ 65歳 リンドウ村のリーダー  タジロ 21歳 リンドウ村の若者  セリ 11歳 リンドウ村の娘  レンザ 14歳 道中で出会った少年。足の骨が折れていた。  レン レンザが飼っているオオカミ  シシヒコ 35歳 シシガミ村のカミ  サタキ 25歳 シシガミ村の青年  ミワ 33歳 シシヒコの奥さん。  シュリ 21歳 シシガミ村の娘。レンザの宿。  ユリサ 22歳 シシガミ村の娘。一日だけのタカジョウの宿。  セジ 20歳 シシガミ村の青年。ゾキのシモベ。  マサキ 28歳 シロクンヌのタビンド仲間。  テーチャ 23歳 アオキ村で暮らす女。  カゼト 28歳  アオキ村で暮らすカゼのイエの者  キサヒコ 33歳 アオキ村のカミ。

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚  眼木=めぎ 眼鏡フレーム 曲げ木工房で作っている  クンヌ=イエの頭領  吊り寝=ハンモック  一本皿=長い丸太を半分に割いて作ったテーブル。一本の木から2本取れるが、一本皿と呼ばれている。  一回し=長さの単位 70㎝  半回し=35㎝ 縄文尺とも呼ばれる。  カラミツブテ・カブテ=狩りの道具。コブシ大の二つの石を紐でつなげた物。  ボウボウ=樹皮ラッパ 法螺貝よりも高い音が出る。  薙ぎ倒しの牙・薙ぎ倒しイノシシの牙=ナウマン象の象牙  バンドリ=背負子などを背負った時に、肩と背中を保護する当て物。衣服の上からバンドリを装着し、それから背負子を着ける。  黒石糊アスファルト

 

 

縄文GoGo旅編 第32話 7日目⑤

 

 

          アオキ村。夕食の広場。続き。

 
タカジョウ  「なるほど、聞けば聞くほど狂暴な奴等だ。」
シロクン  「まだ徒党を組んではおらんようだが、この先は分からんな。」
マサキ  「とにかく、地元の衆は恐れ切っておるらしい。」
イワジイ  「オロチに劣らぬ凶暴な兄弟と言う事か・・・」
テーチャ  「怖いねー。指を、骨ごと噛み砕いて食べるなんて・・・」
カゼト  「それでその兄弟だが、南の島のどのあたりが棲みかなんだ?」
マサキ  「いや、おそらくだが、今はもう南の島にはおらんぞ。
      セトの海のどこかの島だと思う。」
カゼト  「シロクンヌはセトの海に詳しかったな。
      どんな所なんだ?」
シロクン  「海は穏やかだ。島の数は多い。
        海に流れがあって、流れる方向が日に何度か変わる。」
キサヒコ  「ほう、面白い海だな。」
カゼト  「人が住む島は多いのか?」
シロクン  「住み付いているかで言えば少ないな。
        大きな島があって、そこには住んでいる。
        小島がすごく多いんだが、そこには住んでいない。
        水に難儀する島が多い。」
タカジョウ  「カゼトはそのハタレの話を聞いて、どうしようと言うのだ?」
カゼト  「近くまで行って、調べてみるつもりでいる。
      おれに何とか出来る相手であれば成敗するが、
      話を聞いた感じでは、まあ無理だろうな。」
テーチャ  「旅に出るの?」
カゼト  「ああ。それから、ハッキリ場所は分からんのだが、セトの海を臨むどこかで、
      昔、イネという草を育てておったらしいのだ。」
シロクン  「イネなら聞いた事があるぞ。
        コメと言う実が生るんだろう?小さい実らしいな。」
カゼト  「うん。海の向こうの南の方では盛んに作っておるようだ。
      ただ寒さに弱くて、トコヨクニのイネは全滅した。
      そのイネについても、調べておきたいんだ。
      そういう風に、いろいろ調べて回るのが、カゼのイエの仕事だからな。」
イワジイ  「ほう。調べた事を、アマカミに報告するんじゃな?」
カゼト  「そうだよ。シロクンヌ、ミヤコでアマカミに会うだろう。
      きっと、驚く事をいろいろ聞かされると思うぞ(笑)。」
シロクン  「そうか。楽しみだ。
        サチから聞かされた事でも、相当驚いたからな(笑)。」
イワジイ  「どんな事じゃ?」
シロクン  「今ちょうど海の向こうの話が出たが、竹は海の向こうに取りに行ったそうだぞ。」
ミツ  「どういう事?」
サチ  「笹竹はあったんだけど、竹は、もともとトコヨクニには生えてなかったの。」
イワジイ  「なんじゃと!」
マサキ  「だけど西に行けば、竹林だらけだぞ?」
シロクンヌ  「な?驚いたろう。おれもそう言ったんだよ(笑)。」
タカジョウ  「おれの生まれた村のすぐ横は、広い竹林だったぞ。」
カゼト  「竹とかエゴマ、麻は、トコヨクニには無かった。
      ハニのイエの者が、海の向こうに取りに行ったんだ。」
ミツ  「ひゃー、びっくり!」
テーチャ  「あたしもそれ聞いた時は驚いたわ。
       今度はイネを取りに行くの?」
カゼト  「そのつもりなのだろうが・・・
      どうも、今、海の向こうがキナ臭い事になっておるようなのだ。」
イワジイ  「キナ臭いとは?」
カゼト  「おれも詳しくは知らんが・・・
      イネの里の衆が、北から攻め立てられて、皆殺しになったと言うんだな。」
ミツ  「ヒト同士が殺し合いするの?」
カゼト  「どうもそうらしいんだ・・・
      信じられん話だが・・・
      二手に分かれて、大勢が殺し合うらしい。
      多くの人死にが出て、それが千や2千ではきかんと言うんだ。」
タカジョウ  「そんなにか!」
イワジイ  「そんな事を仕出かしたら、怨霊が湧こうが。」
キサヒコ  「そうだ。怨霊であふれるぞ。」
カゼト  「そうだよな・・・」
サチ  「海を渡ったミズのイエの人が、全然帰って来ていないの。」
シロクン  「トコヨクニから出て、海の向こうに渡ったのか?」
サチ  「そう。行ったきりになってる。
     それが3回続いてるの。」
ミツ  「なんか怖いね。怨霊って、怖いんでしょう?」
イワジイ  「ほうじゃ。
       流行り病を起こしたり、地割れを起こしたり、瘴気を吐き出したりしよるな。
       人を、憑り殺しもしよる。」
キサヒコ  「憑りつかれると、四つ足でしか歩けんようになると聞いたぞ。」
イワジイ  「海の向こうの連中は、怨霊が恐ろしゅうないんじゃろうか?」
シロクン  「まあこっちにも、怨霊を恐れん連中がいるがな。」
テーチャ  「その人達、舟に乗って、こっちに来たりしない?」
カゼト  「どうだろうな・・・
      とにかく、ハッキリした事はおれも知らんのだ。
      シロクンヌ、アマカミなら詳しく知っていると思うぞ。」
シロクン  「そうか・・・これは浮かれてばかりではおれんな。
        ハタレの兄弟の話もあるし。」
カゼト  「そうだ!シロクンヌ、船乗りになった兄弟がいると言ってなかったか?
      シロのイエは、武のイエだ。その兄弟も強いのか?」
シロクンヌ  「ああ、強いぞ。腕っぷしは、おれより強いだろうな。」
カゼト  「会ってみたい。今どこにいるのか分かるか?」
シロクン  「東の海だ。黒切りが採れる島があって、その辺りだと思う。」
マサキ  「シロミズキならおれも知っている。
      カゼト、もし行くなら、付き合ってやろうか?
      おれもそっちに行くつもりだったから。」
カゼト  「そうか、是非頼む!」
マサキ  「シロミズキがいれば心強い。3人でハタレの兄弟を探してみるか。」
カゼト  「シロミズキは一緒に行ってくれそうか?」
シロクン  「そりゃあ行くさ。ハタレの話を聞いて、動かんはずがない。
        おれだってミヤコの件が無ければ行っている。
        ついでに、海の向こうの様子も調べてもらえると有難いが・・・」
マサキ  「もちろんそのつもりだよ。3人で渡ってみてもいい。」
カゼト  「そうだな。シロクンヌはミヤコに行った後、どうするんだ?」
シロクン  「ウルシ村に戻るさ。ハニサが待ってるからな。
        ハニサはどうしてるかなあ。」
タカジョウ  「お、今度はハッキリ言いおったな(笑)。サチ?」
サチ  「15回目。」
 
 
          ━━━ 幕間 ━━━
 
以前は「世界四大文明」ということが盛んに言われていました。
しかし最近では「四大文明」なんて言ってるのは日本人だけだ、世界最古の文明は、縄文文明だ!などと言われたりもしています。
私自身は縄文文明では無く、縄文文化が正しい言い方だと思っていますが、それはともかく、黄河文明よりもずっと古い文化が、揚子江下流域で発展していたことが分かっています。
 
名付けて河姆渡文化。かぼとぶんかと読みます。
長江文明という言い方をしたりもしますが、その言い方はどうかと思いますので、ここでは河姆渡文化と言っておきます。
高床式住居に住み、水耕稲作を行っていました。
土器も何種類か出土していて、その中には縄文の付いた土器もあります。
河姆渡遺跡そのものは、8千年前~6千年前くらいのものであろうとされています。
そしてその近辺にはいくつも遺跡が存在し、それらをひっくるめて河姆渡文化とここでは呼んでいます。
 
この地域のイネが日本に伝わったことが、イネのDNA鑑定から分かっています。
それは朝鮮半島経由ではなく、おそらく舟で海を渡り、直接伝わったとされています。
現在、稲作の歴史は、朝鮮半島よりも日本の方が古いのは、確定的となっています。
日本から朝鮮半島に伝わったのだろう、とも言われています。
では、日本ではいつ稲作が始まったのか?
これについては毎年のように新発見が出ていて、どんどんさかのぼっていく状況です。
ポイントとなるのが、プラントオパール
イネの葉に含まれる植物珪酸体です。
イネ科植物の葉でシュッと擦ると、手の皮膚が切れたりするでしょう?
あれがそうです。
ガラス質の物質で、土中でも1万年以上残り、その形によって植物の種類を同定するのに役立ちます。
 
岡山県の2ヶ所の遺跡の6千年前の土壌から、イネのプラントオパールが大量に出ているのですが、それが稲作によるものかどうかとなると、意見が分かれています。
藁の状態で持ち込まれても、葉が付いていればプラントオパールは残りますから。
でももしかすると、短期的な陸稲栽培があったのかもしれませんね。
しかし、伝承は途絶えたと考えるべきでしょう。
では、伝承が続いたのはいつからか?
 
同じ岡山県では、3千5百年前の土器の土からイネのプラントオパールが見つかっています。
これは土器を作る土に、イネの葉が紛れ込んでいたことを意味します。
岡山県の3千年前の土器からも見つかっています。
でもこういうのって、これからどんどん発見されて行くと思いませんか?
それを考慮に入れると、この頃は伝承があったのかも知れませんね。
稲を作り続けていたかも知れない。
現在、日本での稲作開始は、5千年くらい前ではなかろうか、と言われていたりもしますね。
陸稲から始まり、試行錯誤があり、段々と水稲耕作に変わって行ったのではないかと私は思っています。
弥生人が稲作を伝えた、なんて嘘っぱちです。
 
ちなみに、7千3百年前の鬼界カルデラの大噴火。
それによって九州縄文人が舟で避難した。
行き先は、沖縄であり、朝鮮半島であり、そして河姆渡だった。
だから、河姆渡文化を文化たらしめたのは、縄文人である・・・
そう主張する人もいますね。
真偽のほどは分かりませんが、河姆渡人も縄文人モンゴロイドです。
対して、後に黄河文明を築いた人達はコーカソイドだと言われています。
そして大陸において、コーカソイドが南下して、モンゴロイドを侵略した形跡があるのも事実です。
 
 
登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女 本名はスス  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている      
追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる アヤクンヌ      エミヌ 18歳  オジヌ 16歳 エミヌの弟  カイヌ 14歳 オジヌの弟    モリヒコ シカ村のカミ  サラ 17歳 スサラの妹 ハギとトツギとなる ヌリホツマの弟子  ナクモ 18歳 エミヌの友人  シオラム 41歳 ササヒコのすぐ下の弟 塩作りの加勢のためシオ村で暮らす 5年に一度、里帰りする  ナジオ 20歳 シオラムの息子 シオ村生まれ  タカジョウ 23歳 ワシ使い  ホコラ 洞窟暮らし 哲人  シップ オオイヌワシ タカジョウが飼っている  エニ 38歳 エミヌ姉弟の母   カヤ アマカミの使者  シラク 北のミヤコのシロのムロヤの責任者  マシベ フジのシロの里の者 ヲウミのシロの村との連絡係り  トモ フジのシロの里の者  イナ 30歳 シロクンヌの姉弟子 杖の達人  コヨウ 15歳 タカジョウの妹  ゴン 洞窟で飼われている仔犬  ミツ 11歳 アユ村の少女  カザヤ 24歳 アユ村の若者 カタグラの友人  テミユ 22歳 カザヤの妹  タガオ 32歳 ミツの父親 目がみえない  ゾキ 14歳 オロチの姉 シップウの攻撃で背中に傷を負う オロチ 12歳 ゾキの弟 シップウの攻撃で顔に傷を負う  イワジイ 60歳 黒切りの里の山師 ヌリホツマの兄  シロイブキ 28歳 シロクンヌの兄弟
追加(旅編)スズヒコ 65歳 リンドウ村のリーダー  タジロ 21歳 リンドウ村の若者  セリ 11歳 リンドウ村の娘  レンザ 14歳 道中で出会った少年。足の骨が折れていた。  レン レンザが飼っているオオカミ  シシヒコ 35歳 シシガミ村のカミ  サタキ 25歳 シシガミ村の青年  ミワ 33歳 シシヒコの奥さん。  シュリ 21歳 シシガミ村の娘。レンザの宿。  ユリサ 22歳 シシガミ村の娘。一日だけのタカジョウの宿。  セジ 20歳 シシガミ村の青年。ゾキのシモベ。  マサキ 28歳 シロクンヌのタビンド仲間。  テーチャ 23歳 アオキ村で暮らす女。  カゼト 28歳  アオキ村で暮らすカゼのイエの者  キサヒコ 33歳 アオキ村のカミ。

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚  眼木=めぎ 眼鏡フレーム 曲げ木工房で作っている  クンヌ=イエの頭領  吊り寝=ハンモック  一本皿=長い丸太を半分に割いて作ったテーブル。一本の木から2本取れるが、一本皿と呼ばれている。  一回し=長さの単位 70㎝  半回し=35㎝ 縄文尺とも呼ばれる。  カラミツブテ・カブテ=狩りの道具。コブシ大の二つの石を紐でつなげた物。  ボウボウ=樹皮ラッパ 法螺貝よりも高い音が出る。  薙ぎ倒しの牙・薙ぎ倒しイノシシの牙=ナウマン象の象牙  バンドリ=背負子などを背負った時に、肩と背中を保護する当て物。衣服の上からバンドリを装着し、それから背負子を着ける。  黒石糊アスファルト

 

 

縄文のコトダマ

 
 
縄文人の信仰について、アニミズムであったとするのが考古学界の主流のようです。
アニミズムとは何かと言えば、世の中すべての物、生物であれ無機物であれ、とにかくすべての物に霊が宿っているという考え方だとされています。
精霊信仰と訳されたりもします。
でもなぜ縄文人=アニミズム、そう言えるのか?
その納得のいく説明を、私はまだ目にしたことがありません。
推測するに、アイヌの宗教観を参考にしたのではないでしょうか。
 
でも私は、縄文人の自然観、宗教観をアニミズムとは別のものだととらえています。
縄文人の宗教観を構成する要素としてはいくつかあるのでしょうが、一つは言霊(ことだま)信仰。
もう一つは怨霊信仰。
その二つが関わっているのではないかと思っています。
つまり、現代日本人と同じですね。
日本人は無宗教だと言われたりしますが、とんでもありません。
言霊と怨霊。無意識のうちに、この二つには囚われているのではないでしょうか。
 
怨霊信仰については別稿に譲るとして、ここでは言霊信仰について考えてみたいと思います。
 
島国であるために、日本人は特異な歴史を歩んで来ました。
その結果、日本人ならでは、というのが多々ありますよね。
たとえば、日本語。
日本語は孤立語だと言われています。世界中のどの言語とも似ていない。
言語学では、日本語の起源については様々な説があり、いまだにコレだとは決まっていないようです。
でも見ていると、まるで外国の、どこかの言語に起源を求めなければならないと決めつけているような感じもします。
しかし、現代日本人のY遺伝子、つまり父方の祖先を調べてみると、縄文人にたどり着くのです。
もちろん混血はしています。ですが侵略もされていないし、民族交代もありません。
これからしても、日本語の起源は、縄文語なんじゃないですか?
縄文時代は一万年に及び、その間、大陸との交流は少なかったのです。
当然、独自の文化が育まれました。言語もその一つでしょう?
そしてこの間、日本列島の中では、人々は自由に行き来していました。
遺跡からの出土品が、それを証明しています。
たとえば一万年前の長野県の遺跡から、海の貝の装飾品がたくさん出ています。
それも貝の生息地を調べてみると、一ヶ所の海ではないのです。
 
方言はあったでしょうが、現在よりも、むしろ少ないかも知れませんよ。
なにしろ領地という概念が無かったのです。つまり、どこに行こうが自由です。
土器形体の違いから、地域による文化圏の区別をすることは可能ですが、縄文でくくれば共通文化です。
弥生以降、列島内での争いが生じました。
その結果、自由な往来は出来にくくなったでしょう。
すると閉ざされますから、言語にも地域色が出て来ます。
 
弥生以降、渡来人が様々な言語をもたらしました。
その人達との混血で、現代日本人がいます。
言語も同じで、縄文語との混血で日本語が出来たのではないでしょうか。
しかしあくまで、ベースとなっているのは縄文語です。
だから日本語は、世界でも特異な言語なのです。
縄文人のY遺伝子を持った男性は、大陸にはほとんどいません。
唯一の例外が、チベット高原です。
標高4千メートルの、攻め込まれない場所ですね。
 
日本語の特徴、それは一語一音節で、一語一語を明瞭に発音する点に現れています。
この特徴は、アイヌ語にはありません。
世界中の言語の中で、ほぼ日本語だけではないかと言われているようです。
母音も子音も、しっかりと発音するのが日本語です。
日本語で「ストライク」と言えば5音節ですが、英語で「strike」と言えば1音節です。
 
この日本語の特徴から、面白い現象が起きているようです。
日本人は虫の鳴き声を聞いて風流だと感じるのですが、驚いたことに、西洋人にとっては雑音にしか聞こえないと言うのです。
そもそも「虫の声」と言うでしょう。擬人化していますよね。
海が「唸(うな)る」と言いますし、小川の「せせらぎ」とも言います。
つまり日本人は、自然界の音に親しみを感じているのです。
これは日本人が、自然が発する音を、言語脳(左脳)で処理する稀有な民族だかららしいのです。
対して西洋人が言語脳で処理するのは、文字通り会話音程度です。
 
でもこれは遺伝子に原因があるのではなく、幼少期に使っていた言語に原因があるらしいのです。
音の捉え方について言えば、10歳まで日本語で育てば西洋人でも日本人のような感覚になるし、逆に英語で育てば日本人でも西洋人の感覚になるようです。
日本語の持つこれらの特徴は、縄文語にもあったのではないでしょうか?
もしかすると縄文語の方が、もっと研ぎ澄まされた効果をもたらしたのかも知れません。
 
私は『縄文GoGo』の中で、鹿や猪はあっさりと殺すくせに、樹を伐る前には大袈裟に祈りを捧げている縄文人の姿を描いています。
これはもちろん、意識してそう描いているのですが、それにはいくつか理由があります。
その一つが、縄文人には樹の声が聞こえていたのではないか?という思いがあるからです。
つまりですね、動物に対しては、急所を攻撃してなるべく苦しまないように、とどめを刺していたと思います。
ところが大樹となればそれはできません。
何百何千回と石斧を打ちつけ、倒すまでにはかなりの時間がかかります。
それに石斧とは、幹を切るのではなく、削り取る道具なのです。
ある意味、石斧で樹を伐る光景は、残酷なのです。
 
森に立つと葉や梢のそよぎが聞こえます。
石斧を打ちつけても音がします。
倒れる時には、それこそミシミシバキバキと大きな音が出ます。
それらの音を、もしかすると樹が発する声と捉えていたかも知れません。
 
樹だけではありません。
水が滴る声。雨が降る声。風が吹く声。地面を掘る時の声。石を加工する時の声。
これは、あらゆる物に霊が宿っているのではなく、命が宿っているということです。
つまり縄文人は、あらゆる物に息吹きを感じていたのではないでしょうか。
石も土も水も風も、もちろん樹も、自分達に近しい息吹く存在だったのかも知れません。
ハッキリとそう認識していたというよりも、ぼんやりとそう感じていたのではないかと、私は思っているのです。
 
そういう自然観が根底にあり、そこから少し飛躍しますが、言葉というものに対して、特別な思い入れが生じたのではないかと思うのです。
霊が宿るのは、世の中のあらゆる物にではなく、言葉そのものに霊が宿ると考えたのではないか。
そこで生じたのが、言霊信仰です。
 
この言霊信仰は、その後も脈々と日本人に受け継がれました。
そして現代日本人を、強烈に縛り付けています。
平和憲法が日本を護る」という発想は、言霊信仰そのものです。
憲法九条が日本を護る」と口に出して言えば、それは日本人にとって、立派に呪詛となり得ます。
 
日本人は、感染症に対しては猛烈に対策を講じました。
危機意識のかたまりと言ってもいい。
ところが現在の国際情勢を目にしても、なんら防衛策を講じようとしていません。
これこそが、縄文人現代日本人にもたらした、負の遺産ではないかと私は思っているのです。
 
世界中の人々にとって、憲法とは時代の変化に伴って改正して行く存在です。
情勢の変化に対応して話し合って改正して行く、当たり前ですよね?
私は今まで、日本には世界最古がたくさんあると言って来ました。
ここで一つ追加しておきます。
世界中の現行憲法の中で最古のもの、それは日本国憲法です。
75年間、改正どころか、話し合いも行われていません。
言霊には、議論すらさせない作用もあるのです。
 
 
 

縄文GoGo旅編 第31話 7日目④

 
 
 
          アオキ村。夕食の広場。
 
タカジョウ  「シシ腿の塩漬け、切り分けて来たぞ。おれ達の分だ。」
テーチャ  「今、摘まんでみたけど、美味しいのね!
       炊事場では、みんな、美味しい美味しいって大騒ぎよ。」
タカジョウ  「そうだったな(笑)。そら、コノカミ、食べてみてくれ。」
キサヒコ(男・33歳)  「おおすまんな。どれ、ウワサには聞いたが・・・
             旨い!初めて食ったが、旨いもんだな!」
カゼト  「なんだこれは!口の中でとろけるぞ。」
イワジイ  「久しゅう食うておらなんだが・・・ほう!こりゃ上物じゃ!」
マサキ  「ほう、薄いのか・・・
      どれ・・・なんと!ホントにとろけるんだな。」
サチ  「ミツ、やっと食べれるよ!」
ミツ  「うん!美味しい!」
シロクン  「ははは、お預けだったもんな。」
 
 ここでテーチャは乳飲み子をおぶっているが、服を着た上からおぶっているのではない。
 素肌に直接裸の子をおぶって、その上から服をまとい、その上から帯を締めて支えている。
 子が泣くと、そのままクルリと腹側に移動させ、乳を飲ませるのだ。
 
イワジイ  「それで蒸し室はどうじゃった?三人で入ったんじゃろう?」
サチ  「暑かった!でも気持ち良かった。ミヤコの人にも教えてあげる!」
ミツ  「出た後に冷たい水を浴びると、シャキッとするね。」
テーチャ  「あたし、初めて入った。中で火を焚くのは駄目なの?」
イワジイ  「いかんぞ!明りは手火立てで二本。それ以上はいかん。
       熾きなどもっての外じゃ!瘴気でやられる。死んでしまうぞ。」
ミツ  「手火に器をかぶせると火が消えるけど、同じ意味?」
イワジイ  「ほうじゃ。」
サチ  「掘る場所って、どこでもいい訳じゃないでしょう?」
イワジイ  「ほうじゃ。ほいじゃが、口で説明するのは難しいが・・・」
カゼト  「多分、ハニのイエの者なら分かるよ。」
サチ  「そうだね。それに掘らなくても、張り屋みたいなやり方もあるし。」
キサヒコ  「イワジイのお陰で村の名物が増えた。
       旅の者も癒される。ありがとうな。」
イワジイ  「なあにコノカミ、お安い御用じゃ。」
カゼト  「ところで、女衆も裸で入ったのか?」
テーチャ  「そうよ。まさかカゼト、あんたどっかに潜んで、覗こうとしてないわよね?」
ミツ  「してそう。」
サチ  「水浴びの時がアブナイよね?」
タカジョウ  「カゼトなら、やりたい放題だぞ(笑)。」
マサキ  「ハハハ、間違いない。」
イワジイ  「わしにもその技を教えてくれんか。」
カゼト  「何言ってる。覗きなんかするもんか。」
シロクン  「よく言うぞ。」
キサヒコ  「ははあ、さてはカゼト、また旅の衆に悪さをしたな?」
シロクン  「ああ、おれをハメようとした。テーチャと組んで。」
キサヒコ  「テーチャも悪乗りするからな。困った奴等だ(笑)。」
テーチャ  「えへへ。」
シロクン  「テーチャ、その子の父親はどこにいるんだ?」
テーチャ  「旅に出ちゃった。あたしとこの子をこの村に預けて。
       カゼのイエの人なのよ。」
キサヒコ  「随分昔からの言い伝えなのだが、南の湖の向こうにカゼの里があったらしいのだ。
       この村とも行き来して、良い付き合いだったらしい。
       ところがある日、大雨が降って、土石流で押しつぶされてしまったと言うのだ。」
カゼト  「一夜にして埋まってしまったらしいぞ。
      犠牲者も多く出たが、助かった者はこの村の世話になった。
      以来ここは、カゼのイエの連絡場所になっている。」
シロクン  「そうだったのか!
        それで分かったぞ。
        ここから北に続く塩の道、そのブナの木の・・・」
カゼト  「ヲシテか?」
シロクン  「ああ。誰が彫ったのか不思議に思っていた。」
タカジョウ  「ヲシテだと?」
サチ  「ヲシテがあるの?」
マサキ  「ヲシテって何だ?イワジイは知っておるか?」
イワジイ  「いや知らん。初めて聞くのう。
       ミツ、知っておるか?」
ミツ  「私も初めて聞いた。イエにまつわる何か?」
シロクン  「ああ、そうだ。
        やはり、タカジョウも知っていたな?
        塩の道に面白いものがあると言っていただろう。
        それがヲシテだよ。」
タカジョウ  「ヲシテは師匠から一通り教わった。
        絶対、人には話すなと言われてな。
        イエの者なら知っていると言うことか・・・」
イワジイ  「じゃから、そのヲシテとは何じゃい?
       教えてくれても良かろうが。」
シロクン  「言の葉の、書き記しだ。モジとも言う。」
イワジイ  「何じゃと!言の葉の・・・
       コノカミやテーチャは知っておったのか?」
キサヒコ  「ヲシテがあるのは聞いていた。
       しかし読み方は知らん。」
テーチャ  「私も同じ。この子に教える時に、あたしにも教えてくれるみたい。」
イワジイ  「驚いたぞい。言霊(コトダマ)を操りよるのか?」
カゼト  「もちろん悪用はせんよ。
      地図の補足のために書いたのだ。
      それに、石に刻んだりはしていない。樹の幹だ。
      ブナの幹に彫ったのだ。とこしえには残ったりしない。」
シロクン  「普通は乾いた粘土版に彫ることが多いな。
        そしてその粘土版は、決して焼きはせん。
        不要になれば、水で湿らせ崩していまう。」
ミツ  「なんか、よく分からない。
     サチ、詳しく教えてよ。」
サチ  「父さん?」
シロクン  「ああいいさ。教えてやれ。」
サチ  「言の葉には、一枚一枚に意味があるのは知ってる?」
ミツ  「少しだけ。は、開く意味だよね?ける、かるいの
     逆に、は閉じる意味。める、つむく、めくの。」
マサキ  「は積極性だ。いーと言う時、口が前に出るからな。口と言うか、舌が。
      く、のち、きの。」
サチ  「そう。は出るもの。っぱ、らう、れる・・・
     は調和。ごやか、めらか、かま、らぶ、めす・・・
     だから、はなは出ていてまとまったもの。
     顔の鼻や地面から出ている花。」
イワジイ  「はしっこの意味の端(はな)もあるのう。」
サチ  「うん。はーって伸ばすとになるでしょう?
     なーって伸ばすとになる。
     だから同じの組。は、ける、かるいだったでしょう?
     だからはなと言えば、ける、かるい感じがするの。
     さわやかなかまも全部になる。ける、かるい感じがするでしょう?」
キサヒコ  「なるほど・・・他に、の組、の組、の組、の組があるのだな?」
サチ  「そう。それは横の組で、縦にも組があるの。
     例えば、と同じ組は、
     こすってる感じがするでしょう?
     そういう風に組分けして、言の葉一枚一枚を形にして書いたのがヲシテ。
     昔、アヤのイエで考え出されたの。」
シロクン  「そうなのか!アヤのイエが・・・それは知らなかった。」
カゼト  「シロクンヌはクンヌのくせに、要所要所で知らん事が多いんだな(笑)。」
シロクン  「そうなんだよ・・・
        こんなことで、アマカミになって良いものなのかと思ったりするぞ。」
カゼト  「のんきな男だ(笑)。」
イワジイ  「しかしサチ、それを知った者は、コトダマを操れるようになりはせんか?
       その気になれば、人に呪詛をかけられようが。」
シロクン  「ふむ。確かにそれは言える。コトダマの力が強まるからな。
        魂写しをしていない粘土であっても、ヒトガタを作り、
        そこに名を刻めば本人になる。
        それを踏みつければ・・・」
カゼト  「白樺の皮に[もえよ]と書いてムロヤに埋めて置けば、
      いつかそのムロヤは火事を出すだろうな。」
テーチャ  「わー、怖い。」
タカジョウ  「そうか。だからむやみに伝えてはならんのだな。
        ハタレが知ったら大ごとだ。」
シロクン  「イエの者にしか伝えてはいけないとなっている。
        だからイナは知っているが、テイトンポは知らん。
        テイトンポが知ったところで悪用するとは思えんが、それが掟なんだ。」
イワジイ  「なるほどのう。」
ミツ  「言の葉を書きしるすなんて、思ってもみなかった!
     サチのご先祖様はすごいんだね。
     言の葉では、他にどんなことが出来るの?」
サチ  「例えばね・・・もう一つ、名前を作ったりできるよ。新しい名前。
     やってみようか?
     言の葉の中で、一番強い言の葉は、なの。わめる、るの
     キッ って言うと、いかにも強いでしょう?
     だから父さんをひと言で表せば、
     そしてお姉ちゃん(ハニサ)は、
     は、まろび優しく受け止める意味があるの。きの
     つる、ずの
     そして父さんとお姉ちゃんは、祈りの丘に誘(いざな)われて出会ったでしょう。
     もしかすると、お互いに、相い誘(いざな)って、出会ったのかも知れない。
     そんなだから・・・
     父さんは、イザナキ。お姉ちゃんは、イザナミ。」
 
 
やまとことば 参考資料  林英臣 縄文のコトダマ  
本稿には、林先生の発言をそのまま引用させていただいた部分が多々あります。
作者としまして、無許可での引用の非礼をお詫びすると共に、学ばせて頂いたことに対し、林先生には深く感謝し、お礼を申し上げます。
 
縄文人の言霊信仰。
それが現代日本人に落とす影について、私見を持っております。
それは別稿で詳しく触れてみたいと思っています。
 
 
 
登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女 本名はスス  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている      
追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる アヤクンヌ      エミヌ 18歳  オジヌ 16歳 エミヌの弟  カイヌ 14歳 オジヌの弟    モリヒコ シカ村のカミ  サラ 17歳 スサラの妹 ハギとトツギとなる ヌリホツマの弟子  ナクモ 18歳 エミヌの友人  シオラム 41歳 ササヒコのすぐ下の弟 塩作りの加勢のためシオ村で暮らす 5年に一度、里帰りする  ナジオ 20歳 シオラムの息子 シオ村生まれ  タカジョウ 23歳 ワシ使い  ホコラ 洞窟暮らし 哲人  シップ オオイヌワシ タカジョウが飼っている  エニ 38歳 エミヌ姉弟の母   カヤ アマカミの使者  シラク 北のミヤコのシロのムロヤの責任者  マシベ フジのシロの里の者 ヲウミのシロの村との連絡係り  トモ フジのシロの里の者  イナ 30歳 シロクンヌの姉弟子 杖の達人  コヨウ 15歳 タカジョウの妹  ゴン 洞窟で飼われている仔犬  ミツ 11歳 アユ村の少女  カザヤ 24歳 アユ村の若者 カタグラの友人  テミユ 22歳 カザヤの妹  タガオ 32歳 ミツの父親 目がみえない  ゾキ 14歳 オロチの姉 シップウの攻撃で背中に傷を負う オロチ 12歳 ゾキの弟 シップウの攻撃で顔に傷を負う  イワジイ 60歳 黒切りの里の山師 ヌリホツマの兄  シロイブキ 28歳 シロクンヌの兄弟
追加(旅編)スズヒコ 65歳 リンドウ村のリーダー  タジロ 21歳 リンドウ村の若者  セリ 11歳 リンドウ村の娘  レンザ 14歳 道中で出会った少年。足の骨が折れていた。  レン レンザが飼っているオオカミ  シシヒコ 35歳 シシガミ村のカミ  サタキ 25歳 シシガミ村の青年  ミワ 33歳 シシヒコの奥さん。  シュリ 21歳 シシガミ村の娘。レンザの宿。  ユリサ 22歳 シシガミ村の娘。一日だけのタカジョウの宿。  セジ 20歳 シシガミ村の青年。ゾキのシモベ。  マサキ 28歳 シロクンヌのタビンド仲間。  テーチャ 23歳 アオキ村で暮らす女。  カゼト 28歳  アオキ村で暮らすカゼのイエの者  キサヒコ 33歳 アオキ村のカミ。

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚  眼木=めぎ 眼鏡フレーム 曲げ木工房で作っている  クンヌ=イエの頭領  吊り寝=ハンモック  一本皿=長い丸太を半分に割いて作ったテーブル。一本の木から2本取れるが、一本皿と呼ばれている。  一回し=長さの単位 70㎝  半回し=35㎝ 縄文尺とも呼ばれる。  カラミツブテ・カブテ=狩りの道具。コブシ大の二つの石を紐でつなげた物。  ボウボウ=樹皮ラッパ 法螺貝よりも高い音が出る。  薙ぎ倒しの牙・薙ぎ倒しイノシシの牙=ナウマン象の象牙  バンドリ=背負子などを背負った時に、肩と背中を保護する当て物。衣服の上からバンドリを装着し、それから背負子を着ける。  黒石糊アスファルト

 

 

縄文GoGo旅編 第30話 7日目③

 

 

 

          アオキ村の入口。

 
 湧き水のメシ食い場から森を抜けると、アオキ村が見えた。
 アオキ村は小高い丘の上にあり、丘の西側に川が流れている。
 北の湖から流れ出し、南の湖に注ぐ川だ。
 この川が、南の湖の水源であった。
 川の水は澄んでいて、そのまま飲むことが出来た。
 
 その川沿いに道があり、村への入口となるのだ。
 道の途中が崖のようになっているのだが、そこにイワジイの姿があった。
 
タカジョウ  「ジイ、どうした?汗びっしょりで。」
イワジイ  「おお!来たか!
       丁度完成したところじゃ。
       コノカミに頼まれての、蒸し室(ムシムロ)を掘ったんじゃよ。」
シロクン  「ほう!本格的な蒸し室はこうやるのか。
        入口は小さいんだな。中はそこそこ広いぞ。
        四人くらい、いけそうだ。」
サチ  「大人でも背が立つんだね。一人で掘ったの?」
イワジイ  「ほうじゃよ。三日で掘ったのう。
       出た土で室の前を地ならしして、ここが焚き場じゃ。
       ミツ、どうじゃった?旅には慣れたかの?」
ミツ  「うん!でもいろんな事があったよ。」
シロクン  「話す事が山ほどあるぞ(笑)。」
イワジイ  「ほうか。おいおい聞くとしようかの。
       ここからの旅は、わしも同行させておくれ。
       そうじゃシロクンヌ、川原石を運ぶのを手伝うてくれんかのう。」
シロクン  「焼き石にするんだな?いいぞ。
        石はイワジイが選んでくれ。」
タカジョウ  「おれも手伝うぞ。」
マサキ  「一度村に落ち着こう。荷物を置いてそれからだ。
      おれも手伝うよ。
      焼いて、水を掛ければ、石は割れやすい。
      沢山運んでおこう。」
  「シロクンヌー!待ってたよー!」
 
 乳飲み子をおぶった女が一人、こっちに走って来る。
 
  「シロクンヌ、会いたかったよ!
    見て!シロクンヌの子だよ!」
シロクン  「何い!
        ま、待て・・・
        だ、誰であったかな・・・」
  「え?」
シロクン  「お、おれはおぬしを知らんが・・・」
女  「えーーー!!!」
イワジイ  「シロクンヌや、それは無かろう!
       テーチャはシロクンヌはまだかと、何度もここに見に来ておったのだぞ。」
テーチャ(女・23歳)  「・・・・・」
マサキ  「テーチャはシロクンヌの事を良く知っておったぞ。」
シロクン  「そ、そうなのか?」
マサキ  「ああ、間違いない。
      テーチャの子が、シロクンヌとの間に出来た子だというのは、おれも今初めて聞いたが。」
 
 サチとミツが心配そうにシロクンヌを見ている。
 タカジョウは一人、ニヤニヤしている。シロクンヌの窮地が楽しいのかも知れない。
 
シロクン  「待ってくれ・・・
        間違いない。おれはおぬしを知らん。
        ・・・・・
        ははあ、分かったぞ!
        カゼト!どこに隠れておる!」
 
 すると、アハハハハと籠ったような笑い声が聞こえて来た。
 
イワジイ  「ん?どこじゃ?」
タカジョウ  「蒸し室からだ。いつの間に?」
 
 蒸し室の中から、一人の男が現れた。
 
カゼト(男・28歳)  「シロクンヌ、久しぶりだな。」
シロクン  「ああ久しぶりだ。相変わらず、手の込んだたぶらかしをやっておるな。」
イワジイ  「何じゃ?どういう事じゃ?」
マサキ  「あ!ひょっとして・・・
      テーチャ?」
テーチャ  「アハハ、ごめんなさい。カゼトから頼まれたの。」
タカジョウ  「なんだなんだ?」
シロクン  「カゼトはこういうのが好きなんだよ。
        旅人をダマしては楽しんでおる。悪い男だ(笑)。」
タカジョウ  「と言う事は?」
テーチャ  「ごめんなさい。この子は別の人との子。
       あたしもシロクンヌと会うのは初めてよ。」
マサキ  「しまった、おれも完全にダマされた(笑)。」
イワジイ  「なんとも、仕込みの込んだマネをしよるのう(笑)。」
サチ  「あー、良かった!」
ミツ  「心配したよねえ。」
カゼト  「すまんな。アマカミになってしまっては、仕掛けられんだろう?
      今の内にやっておかねばと思ってなあ。」
マサキ  「それにしても、いつの間に蒸し室に入ったのだ?
      おれ達がさっき見た時には、カゼトの姿はなかったが。」
カゼト  「ああ、みんながテーチャの演技に気を取られている隙にな。
      それまでは、あそこに太い樹があるだろう。あの陰に隠れていた。」
タカジョウ  「けっこう遠いぞ。よく気付かれずに来られたな。」
シロクン  「カゼトはそういうのが得意なんだ。
        音も無くに近づいて来て、いきなりワッ!ってやりおる。」
ミツ  「アハハ、なんかアブナイ人だね。」
サチ  「カゼト・・・カゼ・・・もしかして?」
カゼト  「そうだよ。おれの生まれは北のミヤコ。
      カゼのイエの流れをくむ者だ。」
シロクン  「そうなのか!知らなかった!
        おれはてっきり、この村の生まれだと思っていたよ。
        カゼのイエと言えば、たしか今のアマカミがカゼのイエの御出身だと・・・」
カゼト  「うん。アマカミは、かつてはカゼクンヌと名乗っておられた。
      おれは当然、シロクンヌがシロのイエのクンヌだと分かっていたさ。
      でもシロクンヌが何も言わんから、おれもそこには触れずにおいた。」
シロクン  「そうだったんだな。
        そうだ、カゼト、紹介しておくよ。」
カゼト  「もう分かってる。この子がミツ。
      この子がサチ。アヤクンヌだ。
      おれがミヤコを出た時には、まだ3歳だったはずだから、お互い、初対面だ。
      そしてタカジョウ。たぶん、タカクンヌだ。
      それからあの枝にいるのがシップウ。
      おぬしらが飯食い場で鍋談義をしているのを、おれは樹の上で見ていたんだぞ(笑)。
      マサキ、その時、気になる事を言っていたな。
      南の島のハタレの兄弟だ。
      後で、もっと詳しく教えてくれ。」
 
 
登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女 本名はスス  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている      
追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる アヤクンヌ      エミヌ 18歳  オジヌ 16歳 エミヌの弟  カイヌ 14歳 オジヌの弟    モリヒコ シカ村のカミ  サラ 17歳 スサラの妹 ハギとトツギとなる ヌリホツマの弟子  ナクモ 18歳 エミヌの友人  シオラム 41歳 ササヒコのすぐ下の弟 塩作りの加勢のためシオ村で暮らす 5年に一度、里帰りする  ナジオ 20歳 シオラムの息子 シオ村生まれ  タカジョウ 23歳 ワシ使い  ホコラ 洞窟暮らし 哲人  シップ オオイヌワシ タカジョウが飼っている  エニ 38歳 エミヌ姉弟の母   カヤ アマカミの使者  シラク 北のミヤコのシロのムロヤの責任者  マシベ フジのシロの里の者 ヲウミのシロの村との連絡係り  トモ フジのシロの里の者  イナ 30歳 シロクンヌの姉弟子 杖の達人  コヨウ 15歳 タカジョウの妹  ゴン 洞窟で飼われている仔犬  ミツ 11歳 アユ村の少女  カザヤ 24歳 アユ村の若者 カタグラの友人  テミユ 22歳 カザヤの妹  タガオ 32歳 ミツの父親 目がみえない  ゾキ 14歳 オロチの姉 シップウの攻撃で背中に傷を負う オロチ 12歳 ゾキの弟 シップウの攻撃で顔に傷を負う  イワジイ 60歳 黒切りの里の山師 ヌリホツマの兄  シロイブキ 28歳 シロクンヌの兄弟
追加(旅編)スズヒコ 65歳 リンドウ村のリーダー  タジロ 21歳 リンドウ村の若者  セリ 11歳 リンドウ村の娘  レンザ 14歳 道中で出会った少年。足の骨が折れていた。  レン レンザが飼っているオオカミ  シシヒコ 35歳 シシガミ村のカミ  サタキ 25歳 シシガミ村の青年  ミワ 33歳 シシヒコの奥さん。  シュリ 21歳 シシガミ村の娘。レンザの宿。  ユリサ 22歳 シシガミ村の娘。一日だけのタカジョウの宿。  セジ 20歳 シシガミ村の青年。ゾキのシモベ。  マサキ 28歳 シロクンヌのタビンド仲間。

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚  眼木=めぎ 眼鏡フレーム 曲げ木工房で作っている  クンヌ=イエの頭領  吊り寝=ハンモック  一本皿=長い丸太を半分に割いて作ったテーブル。一本の木から2本取れるが、一本皿と呼ばれている。  一回し=長さの単位 70㎝  半回し=35㎝ 縄文尺とも呼ばれる。  カラミツブテ・カブテ=狩りの道具。コブシ大の二つの石を紐でつなげた物。  ボウボウ=樹皮ラッパ 法螺貝よりも高い音が出る。  薙ぎ倒しの牙・薙ぎ倒しイノシシの牙=ナウマン象の象牙  バンドリ=背負子などを背負った時に、肩と背中を保護する当て物。衣服の上からバンドリを装着し、それから背負子を着ける。  黒石糊アスファルト

 

 

縄文人、もし戦わば。

 

 

 

現代日本人のDNAを調べた結果、本土日本人には30%ほど縄文人の遺伝子が含まれていることが分かっています。

これが沖縄やアイヌの人達となると、もっと比率が上がります。
これは、北海道から沖縄まで縄文人は暮らしていて、絶滅は無かったことをあらわしています。
ただ考古学者の中には、北の文化、中の文化、南の文化と文化の差異を執拗に強調し、まるで異人種が住んでいたかのように錯覚させ、どっかの国の日本分断化計画のプロパガンダのお先棒を担いでいるんじゃないの?と言いたくなる人達がいますから要注意です。
それはともかくDNAから分かるのは、「弥生人縄文人を駆逐したから、日本人は弥生人の子孫だ。」「日本人の起源は、弥生時代にある。」と言う説は、大ウソだったと言う事です。
 
そもそも「弥生人渡来」という言葉が馬鹿馬鹿しい。
弥生人」と言う人種ないしは民族が、大陸のどこかにいたのですか?
渡来したのは、大陸人でしょう?
その人達が縄文人と交わって生まれたのが弥生人です。
つまり弥生人誕生の地は、日本です。
 
日本人の祖先は弥生人で、その弥生人朝鮮半島から渡来したんだよ、と言いたいのでしょうね。
でもDNAを見る限り、日本人は東アジアのどの民族とも大きく違っています。
あと、『縄文GoGo第25話』の幕間にも書きましたが、「稲作伝来」と言う言葉にも私は疑問を持っています。
 
とにかく、言葉の選択が不適切な歴史学者が多過ぎます。
例えば、「縄文時代は男女平等だったか?」を論じようとしたりします。
男女平等だったはずが無いでしょう。
男と女の間には、明確な役割分担があったに決まっています。
同じ事を同じ様にする、など有り得ない。
論じるとするならば、「男女対等であったか?」です。
私は縄文時代は男女対等であったと思っています。
そしてそれは当時において、世界中で縄文人だけがそうだったかも知れないと思っています。
大陸では、男は女を隷従させていたでしょう。
 
あきれるのは、「琉球王国は中国に朝貢していた。」などと平気で(もしかして確信犯的に)言ったりすることです。
だってそうでしょう?
琉球王国の時代に、「中国」という言葉も、国も、概念も存在していませんよ。
「中華」という言葉はありましたが、「中国」という言葉が生まれたのは100年ほど前です。
中華民国が中国ですから。
これは、「日本」「日ノ本」に対抗して考え出された言葉だと言われています。
日が昇る国に対抗して、世界の中心の国という気概のあらわれですね。
ちなみに日本神話の「芦原の中つ国」の中つ国とは上中下の中の国という意味です。
横の広がりの中の、中心の意味ではありません。
上は高天原。下は黄泉の国。つまり人が暮らす、この世をさしています。
そして現在、中国と言えば、中華人民共和国ですね。
琉球王国」が朝貢していたのは、「明」であり「清」です。
明と清と中華人民共和国は、地理的に重なる場所があるというだけで、それぞれ全く別の国です。
 
この様に考古学者や歴史学者の中には、中国や朝鮮半島に日本の起源がある事にしたい人達が大勢いて、児童書などで工作活動(?)をしていたりしますから、厄介な話です。
 
 
 
さてこの辺で「弥生人縄文人を駆逐」できたか、その可能性を考えてみたいと思います。
ここで言う弥生人とは、私が否定した、従来認識型の弥生族とします。
渡来した弥生族が、先住民としての縄文人と対立したという仮定です。
弥生族がその気になれば、縄文人を駆逐できたかどうかの考察です。
 
弥生族は金属の武器を持っていますし、馬に乗ることも出来ます。
大陸の進んだ文化を身に付けていますから、弥生族、つまり弥生人の圧勝だとされて来た訳ですね。
 
でも私の考えは全く違います。
戦闘を行えば、縄文人の圧勝です。
だって弥生族って農耕民なんでしょう?
農耕民が、戦闘で狩猟民に勝てる訳がない。
縄文男子は、子供の頃から弓矢の腕を磨いています。
その矢に、もしかすると、トリカブトの毒を塗っていたかもしれません。
おそらく木登りだって得意だったでしょうね。採集民でもありますから。
樹の上で待ち伏せして、共同で獲物を追い詰め、狩る。
それが縄文人の日常です。
獣に負けずに山や森を駆け回るのが縄文男子なのです。
山や森に潜む縄文人を、山駆けに慣れていない弥生族が、どうやったら駆逐出来るのでしょうか?
 
また、縄文時代には、牛も馬もいません。
使役できる家畜がいなかったのです。
よって、全ての労働は人間が行いました。どんなに重い荷も、ヒトが運んだのです。
そういう身のこなしを、一人一人の縄文男子が身に付けていたはずです。
体格がどうであれ、戦闘で大事なのは身のこなしです。
徒手で取っ組み合いになったとしても、縄文男子は強かったでしょうね。
 
それに何と言っても重要なのがケハイの問題です。
気配を消せるか?気配を感じ取れるか?の問題ですね。
気配を消して、獣に近づき、狩る。それが縄文人の日常です。
これは音を立てずに歩くという意味ではなく、周りの音に溶け込む音しか立てないという意味です。
これには相当な訓練が必要です。
気付いた時には、真後ろに縄文人が立っている・・・これは弥生人にとって、相当な恐怖ですよ。
そして、獣が立てるわずかな気配を察知しようと訓練して来たのが縄文男子なのです。
 
馬に乗って戦えば、弥生族が有利だろう?と言う人がいるかも知れません。
確かに平原での戦闘なら、そうかも知れませんね。
ところが、北海道は別ですが(北海道に弥生時代はありません)、当時の日本に平地など存在していなかったと思いますよ。
平地は、古墳時代以降に人間が造ったのだと思います。牛馬は利用したでしょうが。
当時はほとんどが山で、低地は湿地か荒れ地。馬に乗って駆け回る場所など無かったでしょうね。
山と言っても、大半が手付かずの原生林です。
その後、焼き畑などで様相が変わったのでしょうが。
 

 https://twitter.com/boppo2011/status/541049002246938624

左は古地図です。おそらく奈良時代以前に描かれたものだと思われます。
1500年ほど前に、濃尾平野がそっくり海だったなんて驚きですよね?
でも実際、この地には海にまつわる地名が多いのです。
島が付く地名だけでも、飛島村津島市西枇杷島町、長島町、中島郡・・・
その場所に、そういう名前の島が描かれている古地図もあります。
私は学校で、木曽三川によって濃尾平野が造られたと教わったのですが、どうやらそれは間違いですね。
大半は人間が埋め立てたのだと思います。
でも考えてみればそうですよ。河口の位置が常に変わっていましたから。
2万年前は、130mも海面が低かった。河口は遥か海の底です。
縄文海進では、5mほど現在よりも高い。約6000年前の話です。
その後海退が起きて、それが落ち着くのが3500年ほど前でしょうか。
たぶん千年や二千年程度では、木曽三川をもってしても、広大な平野は造れないのでしょうね。
ちなみに関東平野を造ったのは、徳川家康です。
 
 
弥生族が縄文人に勝利するとすれば、それはダマシ討ち以外になかったと思いますよ。
友好を装って近づき、寝込みを襲う、みたいな。
しかしそんな手口も、すぐに広まってしまうでしょうね。
弥生人縄文人を駆逐したと言っていた歴史学者は、この辺のところをどう説明するのでしょうか?
 
 
では縄文女子の戦闘力はどうでしょう?
例えば平安時代の農民女子と、5000年前の縄文女子を比べたとしたら。
私は、平安農民女子の圧勝だと思っています。
 
だって労働時間が違い過ぎます。
平安農民女子は、日が出ている間中、野良仕事をしていました。
じゃないと納税できません。
だからそれだけ体が鍛えられています。
縄文女子は、大した力仕事はしていなかったかも知れません。
力仕事は、男の役目だったでしょう。
納税の義務もありませんから、自分達が食べる分だけを狩猟、採集、栽培すればいいんです。
労働時間は一日3時間程度だった、と言う人もいますね。
 
私は、縄文女子は縄文男子から大切に扱われていたと思っています。
女性の墓に副葬されていた装飾品からそう思うのです。
貝輪程度なら女でも作れるでしょうが、石の加工はおそらく男がしていると思います。
女性へのプレゼントですね。
女性には身を飾っていて欲しかったのだと思います。
そして女性に喜んで欲しかったのでしょう。
対して男の墓からは、装飾品ってそれほど出ていないようです。
力の要る加工品をプレゼントするということは、重労働も肩代わりするということでしょう?
縄文時代、男から見れば、女性は命懸けで出産してくれていました。
では男の役目は何かと言えば、そういう女性を命懸けで護ることだったと思います。
そういう意味で男女対等だったのだと、私は思っています。
 

縄文GoGo旅編 第29話 7日目②

 

 

          南の湖の湖上。

 
 シロクンヌ一行とマサキが筏(いかだ)に乗って移動中だ。
 シップウは筏の上で大きな鯉を食べている。
 マサキが仕掛けておいた筌(うけ)に入っていたのだ。
 
シロクン  「それでイワジイはアオキ村でおれ達を待っているんだな?」
マサキ  「そうなんだ。おれはイワジイとこの先で出会ってな。
      一心不乱に地面を掘っている爺さんがいたから、何をしておるのか声を掛けた。
      するとおれに手伝えと言う。
      変わった形の石が埋まっておるから一緒に探せと。」
サチ  「こんな形の石?」

マサキ  「おお、そうだそうだ。」
ミツ  「あそこにいっぱい掘った跡があったけど、マサキとイワジイがやったんだ。」
サチ  「やっぱり、これの他にもいくつか埋まってたんだね?」
マサキ  「イワジイは三つ持っておるよ。
      それで話をしておるうちにシロクンヌの知り合いだと分かってな。
      もうすぐここに来るはずだと言うではないか。
      それで予定を変更して、おれもアオキ村に留まっておったのだ。」
タカジョウ  「イワジイは元気なのか?」
マサキ  「ああ元気だよ。足腰のしっかりした爺さんだな。」
シロクン  「マサキはどこに向かうつもりだったのだ?」
マサキ  「それがたまたまだが、スワを抜けて東の海まで行ってみようと思っていた。
      シロクンヌと別れて後にだな、おれは舟で南の島に渡った。
      それからまたカワセミ村に戻って、そこで舟を預けてこっちに来たんだ。
      ところで驚いたぞ。アマカミになるんだって?
      しかもスワの向こうがミヤコになると言うではないか。
      イエの者だと言う事も、おれには一言も言ってなかっただろう(笑)。
      シロミズキも何も言わんし。」
シロクン  「ははは、すまんすまん。イエの件は、あまり人には話しておらんのだ。」
ミツ  「シロミズキって?」
シロクン  「おれのもう一人の兄弟だよ。同い年の。母親は違うが。
        船乗りになっていて、マサキと三人で南の島に行ったりもしたんだ。
        ミズキはその南の島から何日も掛けて行く、もっと南の島まで行っているんだ。
        ほら、リンドウ村で綺麗な貝殻をやっただろう?
        セリが喜んでおったよな。
        あれはミズキからもらったんだぞ。
        ハニサの髪飾りに使ったヤコウ貝もな。
        トコヨクニの一番南の島の海で獲れる貝だ。」
タカジョウ  「その一番南の島だが、おれは不思議に思っていたんだ。
        周りが全部海で、陸など見えぬ所を漕ぎ進むと聞いたぞ。
        どこに向かえばいいのか分かるのか?
        見えぬ島に、どうやってたどり着く?」
マサキ  「雲の無い、晴れた日であれば分かるんだ。
      遠くに雲があれば、その下には島がある。」
タカジョウ  「そうなのか?不思議な話だな。」
マサキ  「あとは海鳥が帰る先にも陸地があるぞ。
      シップウが空高く舞い上がれば、陸地を見つけるだろうな。」
タカジョウ  「なるほどなあ。船旅というのも楽しそうだな。」
ミツ  「海ってどんなのだろう?早く見てみたいー。」
マサキ  「ミツ、海の食い物は旨いんだぞ。
      きっとシロクンヌが潜って貝を獲ってくれるぞ。
      浜で焼いて食うと、最高だ。」
ミツ  「ホント?サチも潜って、貝を獲ったり出来る?」
サチ  「出来るよ。父さん、競争しようか?」
シロクン  「よし、やるか!
        ん~、だが岩場に棲む巻貝ならともかく、砂底に棲む二枚貝となると、
        見つけるのが難儀だから、サチに負けそうだ(笑)。」
タカジョウ  「砂に潜っておるのか?」
サチ  「そう。潜っててね、小っちゃい眼だけがぴょこんと出てるの。砂から。
     それを見つけて掘るんだよ。」
ミツ  「面白そう!私もやってみる!」
マサキ  「ハハハ。クラゲには気をつけろよ。」
シロクンヌ  「もう着くな。竿に替えるか。
        そうだ、魚を獲って行こう。
        あそこの葦の辺りに寄せてくれ。大物がバシャバシャやっておる。
        矢で射て獲る。」
マサキ  「筏を置いて少し行けば湧き水がある。そこでメシにしよう。
      熾火があって器もいくつか置いてあるから。」
 
 
 
          湧き水の近く。
 
サチ  「湖に雪の山が映って綺麗だー。」
ミツ  「ここって面白い。樹の枝に屋根が渡してあって雨に濡れないんだ。
     灰も沢山あって、灰焼きもできるね。いつも熾火がくすぶってるの?」
マサキ  「便利だろう?ここはメシ食い場だ。
      通りがかった者が誰でも使っていい。景色もいいし。
      近くにキノコ樹もあって、ここで自分たちが食べる分だけを採って食う。
      そこに柴が積んであるが、使ったら同量を鍋が沸く間に集めて積んでおくんだ。」
シロクン  「ここからカワセミ村までの山越えの道中にも、
        こういうみんなで使うネグラなんかが所々にあるんだぞ。
        村は無い。
        だが水場のそばに、岩陰を利用して屋根が張られていたりするんだ。」
タカジョウ  「塩の道だという話だが、人の行き来は多いのか?」
マサキ  「いや、そこまで多くはないと思う。たまに人とすれ違う程度だ。
      ただしっかりした道になってはおらんから、離れた所ですれ違っておるかも知れんな。」
シロクン  「鍋が沸いた。魚も焼けたし食うとしよう。」
サチ  「これ、土の器でしょう。
     私、不思議に思ってたけど、木の皮鍋の方が速く沸くよね?」
タカジョウ  「確かにそうだ。木の皮鍋に慣れると、土の器はまどろっこしい気がする。」
シロクン  「ヒョウタンを鍋にしても速く沸くぞ。」
マサキ  「だが味は、土の鍋が一番だよな?
      火の通りが柔らかいせいじゃないか?」
ミツ  「土の鍋は、土に水が染み込むでしょう?だからじゃない?
     厚みの違いもあるかも知れないけど。土の方が厚いから。」
シロクン  「水が染み込むからか・・・そうかも知れんな。」
マサキ  「ああそうだ、話は変わるがシロクンヌ、南の島で悪い噂を耳にしたぞ。」
シロクンヌ  「悪い噂?」
マサキ  「ああ、ハタレだ。どうも腕の立つハタレの兄弟がいるそうだ。
      それが、まだ十代の少年らしい。
      とんでもなく強いそうだぞ。」
 
 
           ━━━━━━ 幕間 ━━━━━━
 
縄文人の宗教観を考察するにあたり、まず彼らが死者をどのように見ていたかを考えてみたいと思います。
 
彼らは死者を土葬していました。
その埋葬場所ですが、集落の中が多いのです。
それも集落の中央。
墓地を囲むようにして、竪穴住居跡が見つかったりしています。
ウルシ村の場合は、中央に広場があり墓地は村の縁にありますが、そういう例は実際は少ないようです。
この事を見ても、彼らは死者を恐れてはいなかったと思います。
むしろ死者と親しんでいたかもしれない。
それで「縄文GoGo」では、墓場は子供の遊び場だとなっています。
 
 
あと、埋葬時の姿において、屈葬と伸展葬に分かれます。
伸展葬とは体を伸ばして、おそらく上を向かせて埋葬しています。
問題は、屈葬です。
屈葬は、死者が蘇って動き出すと恐ろしいから、手足を縛って埋めたのだとする説があります。
でももしその観念があったのなら、集落の中央を墓地にはしなかったはずです。
 
弥生以降、屈葬の意味は変わったかも知れませんが、ここでは縄文人について考えています。
私は、縄文時代の屈葬は、むしろ蘇りを願ったのではないかと思っています。
つまり屈葬とは、母の胎内の、胎児の様子の再現です。
胎児の姿勢にして、また産まれて来て下さいと願ったのかも知れません。
 
これは別の機会に詳しく触れますが、弥生時代と言うのは、西日本一帯で怨霊が大発生した時代だと、私は思っています。
おそらく怨霊鎮魂に明け暮れたことでしょう。
その頃の方が、縄文時代よりも遥かに呪術的だったのではないでしょうか?
弥生以降、死者とはタタリをなす恐ろしい存在となりました。
弥生時代の墓地は、居住区から離れた所に作られる例が多いのです。
 
では、その怨霊信仰の根っ子はどこにあったのか?
私は、縄文人であったのだろうと思っています。
 
 
登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女 本名はスス  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている      
追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる アヤクンヌ      エミヌ 18歳  オジヌ 16歳 エミヌの弟  カイヌ 14歳 オジヌの弟    モリヒコ シカ村のカミ  サラ 17歳 スサラの妹 ハギとトツギとなる ヌリホツマの弟子  ナクモ 18歳 エミヌの友人  シオラム 41歳 ササヒコのすぐ下の弟 塩作りの加勢のためシオ村で暮らす 5年に一度、里帰りする  ナジオ 20歳 シオラムの息子 シオ村生まれ  タカジョウ 23歳 ワシ使い  ホコラ 洞窟暮らし 哲人  シップ オオイヌワシ タカジョウが飼っている  エニ 38歳 エミヌ姉弟の母   カヤ アマカミの使者  シラク 北のミヤコのシロのムロヤの責任者  マシベ フジのシロの里の者 ヲウミのシロの村との連絡係り  トモ フジのシロの里の者  イナ 30歳 シロクンヌの姉弟子 杖の達人  コヨウ 15歳 タカジョウの妹  ゴン 洞窟で飼われている仔犬  ミツ 11歳 アユ村の少女  カザヤ 24歳 アユ村の若者 カタグラの友人  テミユ 22歳 カザヤの妹  タガオ 32歳 ミツの父親 目がみえない  ゾキ 14歳 オロチの姉 シップウの攻撃で背中に傷を負う オロチ 12歳 ゾキの弟 シップウの攻撃で顔に傷を負う  イワジイ 60歳 黒切りの里の山師 ヌリホツマの兄  シロイブキ 28歳 シロクンヌの兄弟
追加(旅編)スズヒコ 65歳 リンドウ村のリーダー  タジロ 21歳 リンドウ村の若者  セリ 11歳 リンドウ村の娘  レンザ 14歳 道中で出会った少年。足の骨が折れていた。  レン レンザが飼っているオオカミ  シシヒコ 35歳 シシガミ村のカミ  サタキ 25歳 シシガミ村の青年  ミワ 33歳 シシヒコの奥さん。  シュリ 21歳 シシガミ村の娘。レンザの宿。  ユリサ 22歳 シシガミ村の娘。一日だけのタカジョウの宿。  セジ 20歳 シシガミ村の青年。ゾキのシモベ。  マサキ 28歳 シロクンヌのタビンド仲間。

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚  眼木=めぎ 眼鏡フレーム 曲げ木工房で作っている  クンヌ=イエの頭領  吊り寝=ハンモック  一本皿=長い丸太を半分に割いて作ったテーブル。一本の木から2本取れるが、一本皿と呼ばれている。  一回し=長さの単位 70㎝  半回し=35㎝ 縄文尺とも呼ばれる。  カラミツブテ・カブテ=狩りの道具。コブシ大の二つの石を紐でつなげた物。  ボウボウ=樹皮ラッパ 法螺貝よりも高い音が出る。  薙ぎ倒しの牙・薙ぎ倒しイノシシの牙=ナウマン象の象牙  バンドリ=背負子などを背負った時に、肩と背中を保護する当て物。衣服の上からバンドリを装着し、それから背負子を着ける。  黒石糊アスファルト