縄文GoGo

5000年前の中部高地の物語

縄文GoGo旅編 第38話 8日目⑤

 

 

          小屋の近く。夕食。続き。

 

    辺りには肉の焼けたいい匂いが漂っている。

    カゼマルはテーチャのそばで、毛皮に包まれて眠っている。
    

シロクン  「この串、アナグマの肉がパリッパリじゃないか!
        旨いなあ!」
イワジイ  「胃袋とは泣かせおるのう。
       このぶにゅぶにゅしたところが、官能を揺さぶって来おる!
       サチには分かるかの?
       まだ早いか。」
サチ  「私、分からない・・・」
テーチャ  「子供ねー!
       串の食べ方だって子供っぽいもの。」
サチ  「どうやればいいの?」
テーチャ  「左手を遊ばせちゃダメよ。
       そっちでも、別の串を持つの。
       こうやって、両手に一本ずつ持つんだよ。」
ミツ  「こう?」
サチ  「持ったよ。」
テーチャ  「そしたら顔の前で二本の串の先っぽを向き合わせるの。
       そう。ミツ、もっと口のそばに引き寄せて。
       いい?ここからが大事よ。
       手はこのまま! 動かしちゃダメ!
       首を左右にカクッ、カクッてやって口で食らいついて行くの。
       左を食べたら、すぐ右を食べる! 行くよっ!」
サチ  「キャハハハ。下品だ。」
ミツ  「こう?」
サチ  「キャハハハ。ミツも下品だ。」
テーチャ  「でもまだカクッが下手だね。」
シロクン  「こうか?」
タカジョウ  「こうだぞ!」
サチ  「キャハハハ。」

    こうして楽し気に食事は進んでいった・・・
    串から鍋に移り、みな美味しそうにムジナ汁をすすっている。
    すると、

テーチャ  「あ!そうだ! これ聞いてみよう!
       ねえ誰か、カジゴって知ってる?」
イワジイ  「カジゴ? 知らんのう。」
ミツ  「知らない。サチは?」
サチ  「知らない。父さん、知ってる?」
シロクン  「いや、初めて聞いた言葉だ。」
タカジョウ  「そうなのか? 驚いたぞ。みんな、知らんのか!」
イワジイ  「なんじゃい、タカジョウは、知っておるのか?」
タカジョウ  「ああ、師匠から教わってる。
        テーチャ、そのカジゴがどうかしたのか?」
テーチャ  「うちの人、カジゴ作りに何度も失敗してるのよ。
       タカジョウは、カジゴ焼き、出来るの?」
タカジョウ  「当たり前だろう。
        カジゴ無しで、どうやって八ヶ岳で暮らすって言うんだ。
        真冬の風なんてもの凄くて、焚き火などは無理な時だってあるんだぞ。
        カジゴ無しでは、湯も沸かせられんではないか。
        待てよ・・・
        言われてみれば、おれが生まれた西の村では、カジゴは無かったな。
        熾きを使っていた。」
イワジイ  「そのカジゴとは、いったい何なんじゃ?」
サチ  「炭のことを言ってるの?」
タカジョウ  「そうだ。炭とも言うらしいな。」
サチ  「炭なら知ってる。ミヤコでは使っていたよ。
     でも、そう言えば、どうやって作ってたんだろう・・・
     舟で運び込まれていたのは知ってるけど・・・」
ミツ  「栗のイガを蒸し焼きにして、炭にしたのを蜂追いで使うよ。」
シロクン  「ああ、地バチの巣のいぶし出しに使うらしいな。」
テーチャ  「ミツの方では、蜂を食べるって聞くね。
       カジゴはね、見た目は消し熾きみたいだけど、熾きの何倍も長持ちするんだよ。
       あたしが住んでいた所から、東に向かっていくつも山越えすると、タダミの里に出るの。
       雪の衆が暮らす里。
       うちの人が、そこでカジゴをもらって来て、作り方も教わったって言っていたのに、
       やってみたら全然ダメ。」
タカジョウ  「灰になっていたのだろう?」
テーチャ  「そう。3回やって、3回とも。」
イワジイ  「待て待て。 話に付いて行かれんじゃろうが。
       そのカジゴとやらがどんな物なのか、もっと詳しゅう教えてくれ。」
シロクン  「熾きの代わりになる物なのか?」
タカジョウ  「消し熾きとカジゴを比べた場合、まず火を点けやすいのは消し熾きだ。
        だが点いてしまえば、あとはカジゴの勝ちだ。
        長持ちする上に、熱い。
        吹けば赤くなって、すぐに湯が沸くぞ。」
ミツ  「木から作るの?」
タカジョウ  「そうだ。その辺のブナでいい。
        あの枝くらいの太さの物がカジゴ焼きには適してる。
        熾きはな、木が燃えた後に出来るだろう?
        熾きになるまでに、その木は炎を出し切っている。
        だから木の命の、残りわずかな部分が熾きだ。」
シロクン  「なるほど・・・ そういう見方も出来る訳か。」
ミツ  「カジゴは? 木を燃やさないの?」
タカジョウ  「完全には、燃やさない。
        そこの加減が難しいんだ。
        失敗して燃えてしまうと灰しか残らんし、
        逆に塞(ふさ)ぎが早いと、ナマの木にしかならん。」
シロクン  「塞ぎと言うのは?」
タカジョウ  「地面に深い穴を掘って、そこに木を詰め込んで、下から焼く。
        全部に火が回ったら、小枝や青葉でふたをして、
        その上から土をかぶせて埋めてしまうんだ。
        そうやって塞いで、踏み固めるんだよ。」
イワジイ  「消えてしまおうが?」
タカジョウ  「消えてしまえば、失敗だ。ナマ木の出来上がりだ。」
シロクン  「細かなコツがありそうだな。
        ここでやって見せてくれ。」
タカジョウ  「今と言う訳にはいかん。
        それに、埋めた後、次に掘り出すのは六日後だぞ。
        それまで、放ったらかしにするんだ。」
シロクン  「そうなのか!」
イワジイ  「そのあいだに、何かが起きるんじゃろうか?」
テーチャ  「そのあいだが待ち遠しいのよ。
       あたしなんて、内緒でコッソリ掘ってやろうかって思ったもん。」
タカジョウ  「あぶない女だな。
        絶対にいかんぞ。玉が潰れる。
        師匠がそう言ったんだ。」
テーチャ  「タマ? あたし、無いよ。」
タカジョウ  「目玉があるだろう。」
テーチャ  「ああそうか・・・ わあ!怖い! 掘らなくて良かった!」
サチ  「そのカジゴ焼きって、一度にどれくらいの量の炭が出来るの?」
タカジョウ  「いろいろだが、その気になれば、おれの背負い袋で三つ分だ。」
ミツ  「タカジョウの袋って、私とサチがスッポリ入れそうだよ。
     一度にそんなに出来るんだ。」
タカジョウ  「こうしたらどうだ?
        カワセミ村の近くの山で、おれがカジゴ焼きの実演をしてやる。
        シロクンヌなら大穴だろうがすぐに掘るだろうし、
        木材集めだって、シロクンヌがやればあっと言う間だ。」
シロクンヌ  「おいおい、おれが一人でやるのか? まあ、いいが。」
テーチャ  「さっきだってやったじゃない。
       びっくりしたわよ! ダケカンバが歩いて来たんだから。」
イワジイ  「あれはたまげたのう!
       黒マイタケを抱えたまま、わしゃあ腰を抜かしそうになったぞい。」
ミツ  「暗くなってたし、私、怖くて逃げだそうとしたよ。
     そしたらサチが横で飛び跳ねていたから、あ、シロクンヌだって思ったんだもん。」
サチ  「アハハ、だって父さん、凄いんだよ。
     ダケカンバの倒木に駆け寄って、皮を剥ぐのかと思えば、
     荷縄(にな)を掛けていきなり背負っちゃったんだよ。」
タカジョウ  「あきれるよな? ああまでして物を運ぶ男などおらんぞ。」
シロクン  「テイトンポがいるけどな。
        いや、後日にここを使う者が重宝するだろう? 焚き付けに持って来いだ。
        おれはこの塩の道を、何と言うか、もっと便利にしたくてな。
        今後は人の行き来が盛んになるはずだ。
        まあそれはいいが、話の続きだ。
        おれが穴を掘って、木を集めて、それから?」
タカジョウ  「おお、そうだった。
        火を点けてから半日掛かりで燃やすんだ。 そして土を掛ける。
        だから、ざっと丸一日あれば終わりそうじゃないか?」
テーチャ  「掘り出しはどうするの?」
タカジョウ  「それは村の衆にたくすしかない。
        おれ達は立ち会えんが、それでも作り方は分かるだろう?」
テーチャ  「そうね。あたしが覚えて、うちの人に教えてあげればいいんだ。」
ミツ  「私も覚えて、アユ村の人に教えてあげる。」
タカジョウ  「そうか・・・ 村の連中は知らんでいた訳か・・・
        おれはてっきり、みんなやってるとばかり思っておった。
        教えてやれば良かったなあ。」
シロクン  「今頃ウルシ村では、総出で消し熾き作りをしているぞ(笑)。
        おれも、戻ったら教えるよ。
        でもまさかそんな方法があるとはなあ。
        しかし思うのだが、タカジョウの師匠は、イエの話は何ひとつしておらんようだが、
        ヲシテやら中今やら、磐座もか、ボウボウもだ、
        それにカジゴ焼きか・・・
        ワシ使いはもちろんだが、大事な伝承は全部教えているではないか。
        タカジョウは、おれなどよりも、随分といろいろと知っている。」
タカジョウ  「まったく、そうなんだよな。
        この二日間、つくづくそれに気づかされたよ。
        今になって、ようやくそれに気づくなんてな・・・」

 

 

 

 

登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女 本名はスス  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている      
追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる アヤクンヌ      エミヌ 18歳  オジヌ 16歳 エミヌの弟  カイヌ 14歳 オジヌの弟    モリヒコ シカ村のカミ  サラ 17歳 スサラの妹 ハギとトツギとなる ヌリホツマの弟子  ナクモ 18歳 エミヌの友人  シオラム 41歳 ササヒコのすぐ下の弟 塩作りの加勢のためシオ村で暮らす 5年に一度、里帰りする  ナジオ 20歳 シオラムの息子 シオ村生まれ  タカジョウ 23歳 ワシ使い  ホコラ 洞窟暮らし 哲人  シップ オオイヌワシ タカジョウが飼っている  エニ 38歳 エミヌ姉弟の母   カヤ アマカミの使者  シラク 北のミヤコのシロのムロヤの責任者  マシベ フジのシロの里の者 ヲウミのシロの村との連絡係り  トモ フジのシロの里の者  イナ 30歳 シロクンヌの姉弟子 杖の達人  コヨウ 15歳 タカジョウの妹  ゴン 洞窟で飼われている仔犬  ミツ 11歳 アユ村の少女  カザヤ 24歳 アユ村の若者 カタグラの友人  テミユ 22歳 カザヤの妹  タガオ 32歳 ミツの父親 目がみえない  ゾキ 14歳 オロチの姉 シップウの攻撃で背中に傷を負う オロチ 12歳 ゾキの弟 シップウの攻撃で顔に傷を負う  イワジイ 60歳 黒切りの里の山師 ヌリホツマの兄  シロイブキ 28歳 シロクンヌの兄弟
追加(旅編)スズヒコ 65歳 リンドウ村のリーダー  タジロ 21歳 リンドウ村の若者  セリ 11歳 リンドウ村の娘  レンザ 14歳 道中で出会った少年。足の骨が折れていた。  レン レンザが飼っているオオカミ  シシヒコ 35歳 シシガミ村のカミ  サタキ 25歳 シシガミ村の青年  ミワ 33歳 シシヒコの奥さん。  シュリ 21歳 シシガミ村の娘。レンザの宿。  ユリサ 22歳 シシガミ村の娘。一日だけのタカジョウの宿。  セジ 20歳 シシガミ村の青年。ゾキのシモベ。  マサキ 28歳 シロクンヌのタビンド仲間。  テーチャ 23歳 アオキ村で暮らす女。  カゼト 28歳  アオキ村で暮らすカゼのイエの者  キサヒコ 33歳 アオキ村のカミ。  カゼマル 1歳 テーチャの息子

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚  眼木=めぎ 眼鏡フレーム 曲げ木工房で作っている  クンヌ=イエの頭領  吊り寝=ハンモック  一本皿=長い丸太を半分に割いて作ったテーブル。一本の木から2本取れるが、一本皿と呼ばれている。  一回し=長さの単位 70㎝  半回し=35㎝ 縄文尺とも呼ばれる。  カラミツブテ・カブテ=狩りの道具。コブシ大の二つの石を紐でつなげた物。  ボウボウ=樹皮ラッパ 法螺貝よりも高い音が出る。  薙ぎ倒しの牙・薙ぎ倒しイノシシの牙=ナウマン象の象牙  バンドリ=背負子などを背負った時に、肩と背中を保護する当て物。衣服の上からバンドリを装着し、それから背負子を着ける。  黒石糊アスファルト  ヲシテ=ここでは文字を意味する。 中今=ここでは超能力を発揮する心の状態を意味する。

 

 

縄文GoGo旅編 第37話 8日目④

 

 

          山掛け小屋。夕刻。

    小屋の前では大きく火が焚かれ、夕食の準備中だ。

タカジョウ  「ねぐらが最初から出来てるってのは便利この上ないな。
        メシの支度に集中できる。」
テーチャ  「タカジョウ、なんか嬉しそー。
       いっぱい串も打ってるし、料理が好きなの?」
タカジョウ  「そうなんだよ。山で一人暮らしだと暇を持て余すだろう。
        そんな時は、いろんな料理を試してたんだ。
        おい、ミツ、その木はくべてはいかんぞ。」
ミツ  「これ、何かに使うの?
     割いて、薪にしようと思ってた。」
タカジョウ  「熾き焼きに丁度いい倒木があったんで、持って来たんだ。」
テーチャ  「おきやき?これでどうやるの?」
タカジョウ  「長さが一回し(70cm)で、太さが半回し(35cm)だろう。
        ミツ、半分に割いてみてくれ。
        芯は腐っていて、ボロボロ取れるはずだ。」

 ミツは石を割って作ったクサビで、丸太を割いた。
 すると中身は、虫食いやら腐食やらで、石でこすればボロボロと剥がれ落ちてくる。

タカジョウ  「よし、あとはおれがやるよ。
        ここからはこうやってな、きれいに削っていくんだ。
        半割きだから、似た物が二つ出来るだろう。」
サチ  「分かった!串を渡す台なんだね。
     粘土を採って来る。ミツ、行こう!」
ミツ  「ああ、粘土を塗るのか!
     水場の近くに粘土があったよ。」
テーチャ  「そう言う事ね!
       串を立てて焼くんじゃなくて、その木に渡すように乗っけるんだね。」

        

    タカジョウが即席で削った木。これの内側に粘土を塗る。そして、熾きを投入。
          横長七輪みたいな物。点火中でも持ち運び可能。
      薄くであっても粘土が塗ってあれば、熾きの火は木に燃え移らない。

テーチャ  「あ、イワジイとシロクンヌが帰って来た。
       また山ほどススキとクマザサを背負ってるよ(笑)。」
タカジョウ  「あれが普通だ(笑)。
        柴でも何でも、山ほど背負わんと気が済まん男だぞ。」
テーチャ  「アハハ。そうなんだ。なんだかシロクンヌらしいね(笑)。
       お帰りなさい。」
イワジイ  「ふー。シロクンヌは凄いのう。
       ススキ刈りのついでだと言うて、あっと言う間にウサギ2匹とウズラを1羽狩りよった。
       カラミツブテの達人じゃな。」
テーチャ  「すっごーい。」
シロクン  「テーチャ、ススキはこれで足りるか?」
テーチャ  「足りるに決まってるでしょ。
       だって、サチとミツは蓑(みの)を持ってるんだよ?
       イワジイとあたしの蓑を作るだけだから・・・
       そうだ、笠も編んでおこうか。雨笠。」
ミツ  「粘土を採ってたら、サチがカブテでハトを狩ったよ。」
テーチャ  「えー!サチまでカラミツブテが出来ちゃうの?」
サチ  「父さんに教わったの。」
テーチャ  「なんかイエの人ってやっぱり凄いんだね。」
タカジョウ  「食材が増えたが、どうする?」
シロクン  「おれの予想では、夜中に降り始めて、明日は終日雨だ。
        たぶん明日は狩りもしづらいだろうな。
        ウサギとハトは明日の分に回そうか。」
タカジョウ  「ではウズラは叩いてつくねにするぞ。
        香草を混ぜてもいいな。
        だがその前にシップウだ。寝かしつけて来る。
        小屋の一番奥を使ってもいいだろう?」
シロクン  「ああいいさ。シップウと寝るのも台風以来だ。」
テーチャ  「ねえタカジョウ、調理はまかせちゃって、あたしは蓑と笠を作っててもいい?」
タカジョウ  「ああ、戻ったらおれがさばくよ。」
シロクンヌ  「おれは明日に備えるか。火熾しで使えそうな物を探してくる。
        サチ、行くぞ。
        ミツはススキの穂をしごいて、小袋に詰め込んでおいてくれ。」
ミツ  「はい。火口に使うんだね。粘土も塗っておくね。」
イワジイ  「あの辺り、あやしいのう。生えとりゃあせんかな・・・」

 

 

          小屋の近く。夕食。

    

    シロクンヌはアブラチャンの枝とダケカンバの倒木を持ち帰っていた。
    一度細く割いたアブラチャンの枝を再び束ね、それにダケカンバの樹皮を巻く。
    そうやって作られた手火が、数ヶ所で手火立てに挟まれ燃えていた。
    だから焚き火の炎だけでなく、小屋の前はそこここで明りが灯っていた。

タカジョウ  「熾き焼き台は、ここと・・・もう一個はここに置くぞ。
        串物だが、ウズラの心臓と肝の串はテーチャの分だ。
        血のもとになる物を摂っておいた方が良いからな。
        つくねは骨も砕いて混ぜてある。
        サチとミツはたっぷりと食えよ。骨が強くなる。
        その横にある串はアナグマの胃袋だ。
        ジイ、大好物だったろう?
        芹(せり)と交互に刺してみた。セリマだ。
        あのフキの葉に載ってる串は、アナグマのモモ肉。
        あばらの肉は、骨しゃぶりだ。
        焼けば脂がしたたるぞ。
        シオユ村の塩をかければ最高だろうな。
        だが骨が割れて弾けるかも知れんから、気をつけてくれよ。
        ジイが採って来たブナシメジと平茸の半分には串を打った。
        焦がしキノコで味わってくれ。
        残りの半分と黒マイタケはムジナ汁に入れた。
        ムジナ汁のダシは、ジイ持参の鮎の焦がし干しだ。
        あの小ヒョウタンの大きい方はシオユ村の塩。
        小さい方は、山椒の粉。
        その隣は、くさみ葉(行者ニンニク)と茎わさび。
        その他香草がいろいろある。好みで使ってくれ。
        まあ大体、そんなとこだ。
        さあ、好きに焼いて食ってくれ。」

     みんなが串に飛び付いた。

         

        熾き焼き台の使用例。くり抜いた木の内側に粘土を塗って熾きを載せる。
               冬場は、火鉢として屋内で使ってもいい。


さて、ここから夕食の会話が弾むのですが、それは次回に譲るとして、ここではこの熾き焼き台について考えてみたいと思います。

まず、こういう物って、実際にあったと思いませんか?
ここで熾きを使っているのは、縄文時代に炭は無かったとされているからです。
でも私は、炭はあったかも知れないと思っているんです。
ただし縄文遺跡からは、炭焼き窯の跡は発見されていませんから、窯焼きではなく、別の方法で作られた炭ですね。
その炭焼き法については、この先の物語り中に登場させるつもりでいます。

炭についてですが、もっと言ってしまえばですね・・・
もしかすると、竪穴住居が出来た当初から、その最初から、竪穴住居の炉では、炭が使われていたのかも知れないと私は思っているのです。
私には、もともと竪穴住居とは、炭を使用するのを前提として設計された物だとしか思えないんです。
そうではあるのですが、ただここでの本題は炭の話ではありません。
粘土の方です。

私は今まで、縄文時代がいつから始まったのか、その起源についての明言は避けて来ました。
それには理由があるのですが、それがこの熾き焼き台の粘土なんです。
こういうのって、ずいぶん昔からあったんじゃないかと、私には思えるんです。
たとえば、16,500年前にもあった気がするんですよ。

旧石器人も火は焚いていたし、火を焚けば熾きも出来ます。
炎だけではなく、熾き火で肉を焼いていたかも知れません。
粘土を間に挟めば火が燃え移って行かない、その事に気づいた人だっていたと思うんです。
氷期で寒かったのですから、火鉢くらいは作っていても不思議は無いでしょう?
テントの中にだって持ち込めますからね。

それでですね、この粘土ですが、適度に焼成された可能性ってあるでしょう?
熾き火だけで縄文土器は焼かれたのかも知れない、そう言っていた陶芸家もいました。

       

陶芸家の吉田明氏です。
氏の縄文土器に対する見識は素晴らしく、この本は陶芸の本ですが、私が今までに読んだ縄文関係の書物の中で、私が最も影響を受けた一冊です。

土器を焼くのに炎は必要無く、熾き火や炭火の熱で十分に焼けます。
表紙の写真の、氏の右手の前に置かれた尖底土器、その中で燃えているのが熾きです。
氏は、このやり方で実際に何個も土器を焼いてみたそうです。
私も実際に、これに近いやり方で土器を焼きました。

では、熾き焼き台の粘土が焼成されたとした場合、その時の見た目って、どんな風だと思いますか?

 

これは、日本最古の土器片と言われている物です。
そしてもしかすると、世界最古の土器片なのかも知れません。
青森県の大平山元Ⅰ遺跡(おおだいやまもといちいせき)で出土した、16,500年前の物です。
文様は無く、無文土器であり、縁(へり)の部分は見つかっていません。
そして、これをもって、縄文時代の始まりを16,500年前だとする見方が、今の主流になっているようです。

言われる通りに、これが土器の一部であった可能性は、もちろんあります。
ただ縁が出ていないので、器であったとは断言できないとする意見もあります。
では私の意見はと言えば・・・

人類にとって、土器の発明は大きな進歩でした。
革命的な出来事だと言っても過言ではありません。
土器があるおかげで、煮炊きが容易にできるようになりました。
天然の植物が持つベータデンプンを、ヒトが消化できるアルファデンプンに変化させるには、煮炊きするのが一番です。
煮炊きによって楽にアク抜き出来る物も含めると、食べられる植物の種類が圧倒的に増えたのです。
現在、サラダとして食べる生野菜は、それ用に品種改良された物です。
天然種で生食に適した植物って、じつは意外に少ないようですね。
このように土器の存在は、人類の食料事情に大いなる躍進をもたらしました。

そしてこれらの土器片と呼ばれている物は、そんな土器発明のヒントになった物ではないかと思うのです。
つまり、これら自体は土器ではなく、何かの拍子に焼成された物。
たとえば私が言うところの熾き焼き台、それで使われた粘土が焼成されれば、これとそっくりになるかも知れません。
以上は私独自の考察ではあるのですが、絶対にこうだと言うつもりなどサラサラ無く、可能性の一つを提示したに過ぎません。
ただこういう発想って、考古学の人からはなかなか出て来ないように感じています。

それに、もしこれらが最古の土器ではなかったとしても、それで価値が薄れるとは思いません。
そもそも「最古の土器」とは、「出土した土器の中で最古の物」という意味であって、「人類が最初に発明した土器」ではないですよね。
では、人類がどうやって土器を発明したのか?
それは、大いなる謎なのです。
そしてもしかするとですね、これらこそが言ってみればひらめきの素であり、こういう物を見て、人類は土器を発明するに至ったのかも知れないでしょう?
当時の人々は、こういう焼成物を産み出す何らかの活動をしていたのです。
そういう意味で、これは超特級の資料であり、非常に重要な出土品であるのは間違いないはずです。
ですからこれらこそが、土器発明の謎を解く鍵ではないかというのが私の意見なのです。
そして私の中では、「最古の土器」よりも、「土器発明の謎を解く鍵」の方が、遥かに魅力的な存在なのですよ。


 

 

登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女 本名はスス  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている      
追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる アヤクンヌ      エミヌ 18歳  オジヌ 16歳 エミヌの弟  カイヌ 14歳 オジヌの弟    モリヒコ シカ村のカミ  サラ 17歳 スサラの妹 ハギとトツギとなる ヌリホツマの弟子  ナクモ 18歳 エミヌの友人  シオラム 41歳 ササヒコのすぐ下の弟 塩作りの加勢のためシオ村で暮らす 5年に一度、里帰りする  ナジオ 20歳 シオラムの息子 シオ村生まれ  タカジョウ 23歳 ワシ使い  ホコラ 洞窟暮らし 哲人  シップ オオイヌワシ タカジョウが飼っている  エニ 38歳 エミヌ姉弟の母   カヤ アマカミの使者  シラク 北のミヤコのシロのムロヤの責任者  マシベ フジのシロの里の者 ヲウミのシロの村との連絡係り  トモ フジのシロの里の者  イナ 30歳 シロクンヌの姉弟子 杖の達人  コヨウ 15歳 タカジョウの妹  ゴン 洞窟で飼われている仔犬  ミツ 11歳 アユ村の少女  カザヤ 24歳 アユ村の若者 カタグラの友人  テミユ 22歳 カザヤの妹  タガオ 32歳 ミツの父親 目がみえない  ゾキ 14歳 オロチの姉 シップウの攻撃で背中に傷を負う オロチ 12歳 ゾキの弟 シップウの攻撃で顔に傷を負う  イワジイ 60歳 黒切りの里の山師 ヌリホツマの兄  シロイブキ 28歳 シロクンヌの兄弟
追加(旅編)スズヒコ 65歳 リンドウ村のリーダー  タジロ 21歳 リンドウ村の若者  セリ 11歳 リンドウ村の娘  レンザ 14歳 道中で出会った少年。足の骨が折れていた。  レン レンザが飼っているオオカミ  シシヒコ 35歳 シシガミ村のカミ  サタキ 25歳 シシガミ村の青年  ミワ 33歳 シシヒコの奥さん。  シュリ 21歳 シシガミ村の娘。レンザの宿。  ユリサ 22歳 シシガミ村の娘。一日だけのタカジョウの宿。  セジ 20歳 シシガミ村の青年。ゾキのシモベ。  マサキ 28歳 シロクンヌのタビンド仲間。  テーチャ 23歳 アオキ村で暮らす女。  カゼト 28歳  アオキ村で暮らすカゼのイエの者  キサヒコ 33歳 アオキ村のカミ。  カゼマル 1歳 テーチャの息子

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚  眼木=めぎ 眼鏡フレーム 曲げ木工房で作っている  クンヌ=イエの頭領  吊り寝=ハンモック  一本皿=長い丸太を半分に割いて作ったテーブル。一本の木から2本取れるが、一本皿と呼ばれている。  一回し=長さの単位 70㎝  半回し=35㎝ 縄文尺とも呼ばれる。  カラミツブテ・カブテ=狩りの道具。コブシ大の二つの石を紐でつなげた物。  ボウボウ=樹皮ラッパ 法螺貝よりも高い音が出る。  薙ぎ倒しの牙・薙ぎ倒しイノシシの牙=ナウマン象の象牙  バンドリ=背負子などを背負った時に、肩と背中を保護する当て物。衣服の上からバンドリを装着し、それから背負子を着ける。  黒石糊アスファルト  ヲシテ=ここでは文字を意味する。 中今=ここでは超能力を発揮する心の状態を意味する。

 

 

縄文GoGo旅編 第36話 8日目③

 
 
          北の湖の湖上。筏で移動中。
 
ミツ  「この湖、すごく深いんだね。」
タカジョウ  「スワの湖は、浅いからな。
        しかし深いのに、どこまで行っても底が見える。
        覗き込んで、真下を見れば底が見えるのに、横を見れば美しい山々が映っている。」
シロクン  「な?不思議な気分になるだろう?」
サチ  「父さん、潜ってみていい?」
シロクン  「ああいいぞ。」
 
 サチが、服を脱いで飛び込んだ。そのまま深く潜って行く。

テーチャ  「わー!サチって凄いね!あんなに深く潜って行く。
       あたしもやってみよう!
       カゼマル、待っててね。」
タカジョウ  「おいおい!」

 テーチャはスルスルと服を脱ぎ、あっと言う間に全裸になると、
 カゼマルを脱いだ服でくるんで寝かせ、湖に飛び込んだ。

イワジイ  「なんともはや、気ままなおなごじゃ(笑)。」
テーチャ  「気持ちいいよー!
       水だって、そんなに冷たくないよー!」
ミツ  「私も行こう!」
サチ  「父さーん、青くて綺麗だよー!」
シロクン  「おいタカジョウ、行くぞ!」
タカジョウ  「お、おー。」

 ミツとシロクンヌ、そしてタカジョウもしぶしぶ全裸になって飛び込んだ。

テーチャ  「つーかまーえた!」
タカジョウ  「こ、こら、離れろ!」
サチ  「キャハハハ。
     父さん、潜りっこしよう!」
シロクン  「よし、いくぞっ!」
ミツ  「プハー。湖の中、すごく広い!青くて綺麗!
     青い世界にいるみたい。」
イワジイ  「青き湖か・・・」
ミツ  「気持ちいいよ。
     イワジイも一緒に潜ろう!」
イワジイ  「言うてなかったかの。わしは泳げんのじゃ。」
 
 
 
          海に向かう山越えの道中。
 
ミツ  「ブナの落ち葉を踏みしめながら山を歩くのって、気持ちがいいね。」
イワジイ  「ひなたを歩くのと変わらんのう。汗が出て来よる。」
テーチャ  「フンフンフン・・・」
シロクン  「テーチャはごきげんだな(笑)。」
テーチャ  「ターカジョウに勝ったもーん。」
タカジョウ  「あんなのは反則だ!」
テーチャ  「反則なんかーじゃないですよー。」
サチ  「ねえテーチャ、どんな顔したの?」
テーチャ  「これ。」
ミツ  「アハハハハ。イワジイの変な顔とそっくり!」
シロクン  「ワハハハ。ホントだなあ。」
サチ  「キャハハ、これ見たら吹き出すよね。」
イワジイ  「それでタカジョウはあんなに早く浮き上がったんじゃな。」
タカジョウ  「自信満々に息止め潜りっこを挑んで来られれば、受けん訳にはいかんだろう。
        せーので潜って、ヒョイとテーチャを見たらこの顔だ。
        おんなイワジイめ。」

 勝負に負けたため、タカジョウはテーチャの荷物を持たされていた。

サチ  「あ!あのブナの幹に、何か描いてある。」
シロクン  「地図ブナだ。見てみよう。」(地図ブナ=樹の幹に地図が刻まれたブナ)
タカジョウ  「ここからは、こういう地図ブナが方々にあるんだな?」
シロクン  「そうだ。だから村は無いが、割合安全に海に出られるんだ。」
イワジイ  「なになに・・・こっちに行けば・・・こりゃ湖の絵じゃな。
       わしらが今来た方角じゃ。
       こっちは、泉と川かいの?」
シロクン  「そうだな。おそらくヌナ川が始まる泉だ。
        その泉まで行って、休憩しようか。」
テーチャ  「そこでこの子にお乳あげよう。
       ねえ、ヲシテってどれ?」
シロクン  「これだよ。キタと書いてある。
        ここがこの樹の北面だ。
        曇っていても方角が分かるように書いたのだな。」
 
 
          ヌナ川の泉。
 
サチ  「泉の水、冷たくて美味しい!
     ここがヌナ川の源流なの?」
イワジイ  「そうじゃ。雄大な湧き水じゃろう。
       地すべりの溝が造った川の始まりじゃよ。
       曲がりくねりはするが、大きく見ればここから真北に向かって流れておる。」
シロクン  「この先ヌナ川は深い谷になっていて、川に沿って歩くのは難儀する。
        だから川から離れて、山越えが続くんだ。
        ミツは随分と元気だが、疲れてはいないのか?」
ミツ  「うん平気。だって早く海を見てみたいから、もっと急いでも平気だよ。
     そうだ、今夜は十三夜でしょう?
     ブナの山なら月の光で明るいよ。夜も歩こう!」
シロクン  「ハハハ。ところがな、夜半には雨になりそうなんだ。
        月も隠れて真っ暗だぞ。」
サチ  「雨雲のニオイがするの?」
シロクン  「ふむ。明日も、雨だろうな。」
イワジイ  「おそらくそうじゃろう。細かな虫が、群れて飛んでおる。」
テーチャ  「あーもーやだ。月のものが来ちゃった。
       タカジョウ、荷物の中に当て物があるから取って。」
タカジョウ  「自分で取れよ。って乳をやってるのか。
        どれだ?シロクンヌ、分かるか?」
シロクン  「どら・・・これじゃないか?」
テーチャ  「それそれ。当てて。」
シロクン  「腰を浮かせてくれ。よし、下ろせ。仮当てだぞ?」
テーチャ  「うん。ありがとう。あとで自分でやる。」
イワジイ  「テーチャは乳をやっておるのに、月のものが始まったのか?」
テーチャ  「うん、先月から。
       珍しいって言われたよ。」
タカジョウ  「月のものか・・・
        子が出来ておればいいが・・・
        ユリサはどうしているかな・・・」
サチ  「あはは、父さんと入れ代わってる。」

 作者は、縄文人とは、経血を汚辱視しない人々ではなかったかと思っている。
 したがって、そこから来る女性差別も持ち合わせてはいなかったであろう。

サチ  「あ!シップウが何かを捕まえて来てる!」
タカジョウ  「アナグマだ。今夜はムジナ汁だ。
        テーチャ、腹一杯食わせてやるぞ。」
テーチャ  「わー嬉しい!お乳あげると、お腹減るのよ。」
タカジョウ  「シップウ、よくやった!
        ハラワタをシップウに食わせて来る。ちょっと待っててくれ。」
シロクン  「分かった。サチとミツ、クルミだ。
        そら、テーチャも食っておけ。」
イワジイ  「今夜は冷えそうじゃのう。小屋の火は、絶やさんようにした方がよかろうな。」
ミツ  「小屋の中で火が焚けるの?」
イワジイ  「山掛け小屋はの、岩陰を利用してこさえてあるんじゃ。
       岩壁を伝って、煙は抜ける。
       炎を浴びた岩が、夜っぴて火照っておって、あったかいんじゃぞ。
       この先に何ヶ所もある。

山掛け小屋の断面図。右側は岩陰。数本の木を立て掛け、横木を渡し、樹皮を張る。そこに笹を下向きに重ねて留める。岩肌が煙道となり、天井から煙は抜ける。また、適度にいぶされ、小屋内に虫が湧きにくくなる。
 
 
 
          山掛け小屋の前。夕刻前。
 
ミツ  「ホントに地図ブナって便利だ。たどって行けば、小屋に出るんだもん。
     地図の通りに、ちゃんとあそこに湧き水もあるよ。」
タカジョウ  「中は結構広そうだな。これなら余裕で寝られる。
        お?器もあるぞ。誰かがここで焼いたんだろうな。」
シロクン  「よし、先客もいない。今夜はここを使わせてもらおう。
        火は中と外と、両方で焚こう。
        中は一度、いぶしておいた方がいいな。
        まず、地の祓えをするぞ。
        イワジイ、お願いする。」
イワジイ  「ふむ。ではそこに一列に並び、ひざまずいてこうべをたれよ。
       ん?テーチャ、どうした?」
テーチャ  「あたしは舞いの役。」
イワジイ  「なるほどの。では、神妙にな。
       ちーのーみーたーまーにーもーうーしーきーかーせーたーきー・・・」

 目をつぶって詠い上げるイワジイの背後で、テーチャがカクカクした舞いを舞った。
 見ると変顔になっている。
 みんな、笑いをこらえるのに必死であった。
 
 
 
登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女 本名はスス  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている      
追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる アヤクンヌ      エミヌ 18歳  オジヌ 16歳 エミヌの弟  カイヌ 14歳 オジヌの弟    モリヒコ シカ村のカミ  サラ 17歳 スサラの妹 ハギとトツギとなる ヌリホツマの弟子  ナクモ 18歳 エミヌの友人  シオラム 41歳 ササヒコのすぐ下の弟 塩作りの加勢のためシオ村で暮らす 5年に一度、里帰りする  ナジオ 20歳 シオラムの息子 シオ村生まれ  タカジョウ 23歳 ワシ使い  ホコラ 洞窟暮らし 哲人  シップ オオイヌワシ タカジョウが飼っている  エニ 38歳 エミヌ姉弟の母   カヤ アマカミの使者  シラク 北のミヤコのシロのムロヤの責任者  マシベ フジのシロの里の者 ヲウミのシロの村との連絡係り  トモ フジのシロの里の者  イナ 30歳 シロクンヌの姉弟子 杖の達人  コヨウ 15歳 タカジョウの妹  ゴン 洞窟で飼われている仔犬  ミツ 11歳 アユ村の少女  カザヤ 24歳 アユ村の若者 カタグラの友人  テミユ 22歳 カザヤの妹  タガオ 32歳 ミツの父親 目がみえない  ゾキ 14歳 オロチの姉 シップウの攻撃で背中に傷を負う オロチ 12歳 ゾキの弟 シップウの攻撃で顔に傷を負う  イワジイ 60歳 黒切りの里の山師 ヌリホツマの兄  シロイブキ 28歳 シロクンヌの兄弟
追加(旅編)スズヒコ 65歳 リンドウ村のリーダー  タジロ 21歳 リンドウ村の若者  セリ 11歳 リンドウ村の娘  レンザ 14歳 道中で出会った少年。足の骨が折れていた。  レン レンザが飼っているオオカミ  シシヒコ 35歳 シシガミ村のカミ  サタキ 25歳 シシガミ村の青年  ミワ 33歳 シシヒコの奥さん。  シュリ 21歳 シシガミ村の娘。レンザの宿。  ユリサ 22歳 シシガミ村の娘。一日だけのタカジョウの宿。  セジ 20歳 シシガミ村の青年。ゾキのシモベ。  マサキ 28歳 シロクンヌのタビンド仲間。  テーチャ 23歳 アオキ村で暮らす女。  カゼト 28歳  アオキ村で暮らすカゼのイエの者  キサヒコ 33歳 アオキ村のカミ。  カゼマル 1歳 テーチャの息子

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚  眼木=めぎ 眼鏡フレーム 曲げ木工房で作っている  クンヌ=イエの頭領  吊り寝=ハンモック  一本皿=長い丸太を半分に割いて作ったテーブル。一本の木から2本取れるが、一本皿と呼ばれている。  一回し=長さの単位 70㎝  半回し=35㎝ 縄文尺とも呼ばれる。  カラミツブテ・カブテ=狩りの道具。コブシ大の二つの石を紐でつなげた物。  ボウボウ=樹皮ラッパ 法螺貝よりも高い音が出る。  薙ぎ倒しの牙・薙ぎ倒しイノシシの牙=ナウマン象の象牙  バンドリ=背負子などを背負った時に、肩と背中を保護する当て物。衣服の上からバンドリを装着し、それから背負子を着ける。  黒石糊アスファルト  ヲシテ=ここでは文字を意味する。 中今=ここでは超能力を発揮する心の状態を意味する。

 

 

縄文GoGo旅編 第35話 8日目②

 
 
          シオユ村。見張り小屋。
 
ユリサ  「クマザサに花が咲くと不吉だって聞いていたけど、地ネズミが湧くんだね。」 
シシヒコ  「おれが子供の頃、おれが育った村での話だ。
       ある日、着の身着のままの人達が何人か来て、何日か村で一緒に過ごした。
       話を聞くと、その人達の村が地ネズミに襲われたらしい。」
シュリ  「地ネズミから逃げて来た人達だったの?」
レンザ  「踏みつけてやっつけてもダメなのか?」
シシヒコ  「村が地ネズミで埋め尽くされたらしいぞ。
       ムロヤから何から。
       何もかも喰われたと言っておった。ヒトまでな。」
シュリ  「怖い!」
シシヒコ  「あー、また夢に出るかも知れんなー。
       子供だったし、おれは彼らから話を聞いて、毎晩うなされたんだ。」
ホコラ  「うまい!口の中でとろけおる。二年物か?」
シシヒコ  「ホコラ!のん気にシシ腿など食いおってからに。」
レンザ  「ハハハ、でも良かったよな。
      今回のは、猿の働きで救われたんだろう。
      タカジョウの奴、おれをサルサルとからかってやがったが、猿はえらいんだぞ。
      そうだ、ホコラなら、もしかすると何とか出来るかもしれない。」
シュリ  「何の事?」
レンザ  「姉ちゃんとこっちに向かってる途中に、大騒ぎしてる連中がいたんだ。
      行ってみると、黒い水が、
      あれ?
      ユリサがあわてて出て行ったけど、どうしたんだ?」
シュリ  「もしかして・・・
      ちょっと見て来るね。」
シシヒコ  「なあホコラ、数日、逗留してもらえるだろう?
       哲人の子種を分けてくれ。」
ホコラ  「残念だが、そうも言っておれん。
      先を急いでおってな。
      シシ腿をご馳走になったら出て行くよ。
      そうだ、子猿は置いて行くが、構わんか?」
レンザ  「いいのか?こっちから頼もうと思ってた。
      これでレンにも友達が出来た。
      レン!良かったな!
      子猿に名前を付けなきゃな。まだ名前は無いんだろう?」
ホコラ  「ああ、まだ付けておらんよ。」
シシヒコ  「レンは、気持ち良さげに毛づくろいされておるな(笑)。
       あれで傷の治りも早まるのではないか?
       ホコラ、今度ゆっくり遊びに来てくれよ。」
ホコラ  「ああ、レンザの子でも見に来るか。
      この炙り山イモ、こうやって串に刺してシシ腿と一緒に口に放り込むと最高だぞ。
      お、二人が戻って来たな。」
レンザ  「どうした?ユリサが泣いてるみたいだけど。」
シュリ  「うん・・・」
ホコラ  「ああ、ご馳走になった。旨かった。
      お礼に猿酒を置いて行く。
      ヒョウタン三つあるから、村のみんなでやってくれ。
      ユリサ、月のものが来たとて泣かんでいい。
      タカジョウはここに戻って来る。
      そなたを迎えにな。
      一年、待っておれ。
      コノカミ、」
シシヒコ  「分かっている。もともとユリサに宿を取らす気はないよ。
       良かったな、ユリサ。」
 
 
 
 
 
  さて、ここからはまた、シロクンヌ達の動向を追うこととなります。
 
          北の湖のほとり。見守り杉。
 
キサヒコ  「・・・びーのーぶーじーをーみーまーもーらーれーん-こーとーをー。
       よろしい。みんなこうべを上げてくれ。
       見守り杉も、喜んでくれた。」
テーチャ  「あたし、北の湖って初めて見る。
       南の湖とは、全然雰囲気が違うんだね。
       何あれ!
       サチ、ミツ、あそこの水辺を覗いてごらんよ。」
サチ  「うわー!小石だと思ったら、全部ニナ(巻貝)だ!」
ミツ  「重なりあってる!」
タカジョウ  「こっちも凄いぞ。どこまで続いておるんだ?」
カゼト  「この辺りの湖水は、冷たくないんだ。
      ここらは真冬でも凍らんのだぞ。」
マサキ  「不思議な湖だよな。」
イワジイ  「ここからスワの湖、そこからさらに御山とフジの西を通って海に出る、
       そんな地の溝の存在が昔から山師の間では伝わっておっての、
       それは地すべりの溝とも呼ばれておるんじゃ。」
テーチャ  「溝って事は、地面が掘れているの?」
イワジイ  「そうではのうて、パッと見は何も違うとりはせん。
       同じように樹が生えておる。
       溝と言うよりも、ズレとでも思うてもらった方がよいかも知れん。
       地の下の様子が、溝の西と東とでは違うんじゃよ。
       何と言うか・・・地の顔つきが違うておるんじゃ。
       地の成り立ちが違うんじゃとわしは思うておる。」
テーチャ  「へー、不思議な話だねー。」
キサヒコ  「ミツ、スワの湖には神が住むと言い伝えがあるだろう?」
ミツ  「うん。凍った湖を、神が渡るって言うよ。」
カゼト  「この湖もそうだ。
      凍りはせんが、みづ神の住みかだと言われている。」
キサヒコ  「ふむ。ほら、あそこらに見えるのは、全部桜だ。
       春にはにぎやかに咲き誇る。
       よその村では、栗の花が咲く頃に、盛大に神坐祭りをするのだろう?
       ここでは、神坐祭りは無いんだ。
       その代わり、夜桜祭りをやる。
       湖の神に感謝を捧げる、春の祭りだ。
       この辺りでかがり火を焚いて、夜、執り行われる祭りだよ。」
タカジョウ  「夜桜か・・・それも風流であろうな。」
キサヒコ  「春の訪れを寿(ことほ)ぐ祭りだ。
       その時な、ここらの水底が光るんだぞ。」
タカジョウ  「ミナゾコがヒカル?」
テーチャ  「どういう事?」
ミツ  「わかった!蛍の幼虫が光るんだね?」
サチ  「え?蛍の幼虫って、ザザ虫の仲間でしょう?光るの?」
テーチャ  「蛍って、幼虫まで光ったりするの?」
ミツ  「そう。光るから、蛍の幼虫だ、って分かったんだもん。」
サチ  「知らなかった!父さん、知ってた?」
シロクン  「いや、おれも初めて聞いたよ。」
キサヒコ  「向こうの方までおぼろに光が広がっていて、不思議な光景なんだぞ。
       あと夏にはな、これは滅多に拝めんのだが・・・
       わしも三度しか見ておらんが・・・
       その見守り杉に、蛍が集まる夜があるんだ。」
タカジョウ  「ん?樹に蛍が止まるのか?」
カゼト  「おれは、一度だけ見たが、呆けの様に見惚れてしまったぞ。
      いや、あまりの出来事に、腰を抜かしかけたと言ってもいい。
      蛍が見守り杉の幹に集まって来て、段々上に登って行くんだ。
      どんどん集まって来るんだぞ。
      ひっきりなしに、集まって来る。」
マサキ  「蛍は、高い所は飛ばんだろう?」
カゼト  「普段はな。だがその時は違った。
      あの一番下の枝が光で埋め尽くされて、その光が上の枝も埋めて行く。
      どんどん上に広がって行くんだ。
      周りの蛍は集まり続けている。
      それだけじゃないんだ。なあ?」
キサヒコ  「ああ、そこからが不思議なんだ。
       見ている間に、かたまりごとに、明滅が合わさって行く。
       そのうちに、隣の集団とも合って行く。
       そうやって、しまいには見守り杉を覆ったおびただしい蛍の集団が、
       全部おんなじ調子で点滅するんだ。
       まるで見守り杉が、光の鼓動を打っているようにも見える。」
テーチャ  「わー!」
カゼト  「このまま巨人となって歩き出すんじゃないかと思ったぞ。」
マサキ  「信じられん・・・神の仕業か?おれも見てみたい。」
イワジイ  「ふむ・・・」
サチ  「やっぱりこの湖、生きてるんだよ。そんな気がするもん。」
シロクン  「そうだな。神そのものかも知れん。
        ・・・さあ、筏で渡らせてもらおう。」
キサヒコ  「ここでお別れだ。旅の無事を祈っておるぞ。」
タカジョウ  「世話になったな。蛍の季節に、また来るよ。」
マサキ  「コロの準備が出来た。みんな、また会おうな。」
カゼト  「荷物の整理をして、おれとマサキはふつか後の出立だ。」
シロクン  「いずれまた会おう!
        コノカミ、世話になった。
        サチ、ミツ、筏を押すぞ!」
 
 
 
 
※ 岡山県の二ヶ所の遺跡で、6千年前の地層から、イネのプラントオパールが大量に見つかっている・・・
長いこと、そう言われて来ました。
その言説に基づいてストーリー展開して行くつもりでしたが、言説が間違いであることが判明しました。
6千年前ではなく、もっと新しい地層だったようです。
 
よって、旅編の32話~35話を書き直すことにしました。
書き直しした物が、こちらになります。
 
 
 
登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女 本名はスス  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている      
追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる アヤクンヌ      エミヌ 18歳  オジヌ 16歳 エミヌの弟  カイヌ 14歳 オジヌの弟    モリヒコ シカ村のカミ  サラ 17歳 スサラの妹 ハギとトツギとなる ヌリホツマの弟子  ナクモ 18歳 エミヌの友人  シオラム 41歳 ササヒコのすぐ下の弟 塩作りの加勢のためシオ村で暮らす 5年に一度、里帰りする  ナジオ 20歳 シオラムの息子 シオ村生まれ  タカジョウ 23歳 ワシ使い  ホコラ 洞窟暮らし 哲人  シップ オオイヌワシ タカジョウが飼っている  エニ 38歳 エミヌ姉弟の母   カヤ アマカミの使者  シラク 北のミヤコのシロのムロヤの責任者  マシベ フジのシロの里の者 ヲウミのシロの村との連絡係り  トモ フジのシロの里の者  イナ 30歳 シロクンヌの姉弟子 杖の達人  コヨウ 15歳 タカジョウの妹  ゴン 洞窟で飼われている仔犬  ミツ 11歳 アユ村の少女  カザヤ 24歳 アユ村の若者 カタグラの友人  テミユ 22歳 カザヤの妹  タガオ 32歳 ミツの父親 目がみえない  ゾキ 14歳 オロチの姉 シップウの攻撃で背中に傷を負う オロチ 12歳 ゾキの弟 シップウの攻撃で顔に傷を負う  イワジイ 60歳 黒切りの里の山師 ヌリホツマの兄  シロイブキ 28歳 シロクンヌの兄弟
追加(旅編)スズヒコ 65歳 リンドウ村のリーダー  タジロ 21歳 リンドウ村の若者  セリ 11歳 リンドウ村の娘  レンザ 14歳 道中で出会った少年。足の骨が折れていた。  レン レンザが飼っているオオカミ  シシヒコ 35歳 シシガミ村のカミ  サタキ 25歳 シシガミ村の青年  ミワ 33歳 シシヒコの奥さん。  シュリ 21歳 シシガミ村の娘。レンザの宿。  ユリサ 22歳 シシガミ村の娘。一日だけのタカジョウの宿。  セジ 20歳 シシガミ村の青年。ゾキのシモベ。  マサキ 28歳 シロクンヌのタビンド仲間。  テーチャ 23歳 アオキ村で暮らす女。  カゼト 28歳  アオキ村で暮らすカゼのイエの者  キサヒコ 33歳 アオキ村のカミ。  カゼマル 1歳 テーチャの息子

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚  眼木=めぎ 眼鏡フレーム 曲げ木工房で作っている  クンヌ=イエの頭領  吊り寝=ハンモック  一本皿=長い丸太を半分に割いて作ったテーブル。一本の木から2本取れるが、一本皿と呼ばれている。  一回し=長さの単位 70㎝  半回し=35㎝ 縄文尺とも呼ばれる。  カラミツブテ・カブテ=狩りの道具。コブシ大の二つの石を紐でつなげた物。  ボウボウ=樹皮ラッパ 法螺貝よりも高い音が出る。  薙ぎ倒しの牙・薙ぎ倒しイノシシの牙=ナウマン象の象牙  バンドリ=背負子などを背負った時に、肩と背中を保護する当て物。衣服の上からバンドリを装着し、それから背負子を着ける。  黒石糊アスファルト  ヲシテ=ここでは文字を意味する。 中今=ここでは超能力を発揮する心の状態を意味する。

 

 

索引

     制作途中です。おいおい書き足していきます。

ア行
アブラギ、アブラチャン  49話
石斧の石、ネフライト  204話
石棒  8話 大ムロヤでなら薪が焚けます 第8話 初日⑧ - 縄文GoGo
縄文人  9話 ウルシ村の朝 第9話 2日目① - 縄文GoGo 
岩の温泉  73話
縄文人  10話 ウルシ村案内 第10話 2日目② - 縄文GoGo
       15話 ヌリホツマの予言 第15話 3日目② - 縄文GoGo
       27話 エゴマと漆 どんぐり小屋のアコ 第27話 5日目③ - 縄文GoGo
エミヌオジヌカイヌ登場  77話


カ行
回転式離頭銛  39話
カタグラ登場  47話
ガッチン漁  36話
仮面の女神  75話
蚊遣りキノコ  16話
蚊遣りトンボ  36話 37話 43話 65話
カワウソ漁  71話 74話
鬼界カルデラ  18話 19話
キジ狩り  56話
木曲げ  39話
グリッコの作り方  5話 グリッコの作り方 第5話 初日⑤ - 縄文GoGo
杭上住居  58話


サ行
サチ登場  47話
サチの出自  68話
サメ皮  37話 39話
サラ登場  79話
サルスベリ  78話
塩渡りの説明  8話 大ムロヤでなら薪が焚けます 第8話 初日⑧ - 縄文GoGo
鹿の生け捕り  31話
鹿笛  5話 グリッコの作り方 第5話 初日⑤ - 縄文GoGo
沈んだ村の言い伝え  42話 52話 53話
沈んだ村の言い伝え②  82話 83話 84話
シップウカモシカ狩り  171話
樹皮スッポ抜き  80話
樹皮鍋  56話
樹皮らせん剥ぎ  37話
樹皮ラッパ  167話
縄文海進  17話
縄文農耕  24話
縄文ランプ  75話 76話
シロクンの出自  19話 33話
神像筒型土器  42話
星座の話  167話 175話


タ行
タカジョウ登場  93話
ダケカンバ
  34話
はあったのか?  43話
手火立て  54話
タビンドの説明  7話 大傑作水煙渦巻紋深鉢の作者 第7話 初日⑦ - 縄文GoGo
テイトンポ登場  30話
土器  16話 29話
土偶  75話
トツギの説明  7話 大傑作水煙渦巻紋深鉢の作者 第7話 初日⑦ - 縄文GoGo


ナ行
ネバネバ  37話


ハ行
ハタレ初出  46話
蜂の子取り  72話
火おこし  28話
ヒスイ海岸  203話
ヒスイの穴の開け方  205話
ヒョウタ  26話
ボウボウ  167話
ホコラ登場  93話


マ行
丸木舟の作り方  147話
ミツ登場  168話
眼木  65話 66話


ヤ行


ラ行


ワ行

縄文人と山岳信仰

 
 
 
『考古学推理帖』なる書籍があります。
著者は兼康保明(かねやすやすあき)さんという方で、1996年の発行ですから少し古い本なのですが、私は最近になって読む機会がありました。
その中に「山上の石鏃」と題された考察文があり、大変興味深く拝読しましたので、それについて少し書いてみたいと思います。
ちなみに石鏃はせきぞくと読み、石の矢じりを指します。縄文時代弥生時代に使われました。
 
兼康さんについては、私はそれまで存じ上げていなかったのですが、現在は東海学センター理事というお立場で活躍されているようです。
 
「山上にのこされた石やじりの謎」
伊吹山をはじめ、全国の山容が美しい高い山から見つかる縄文時代の矢じり。狩猟できないような場所から見つかるこの石矢じりの意味するものは何だろう。
このような内容で、最近も講座を持たれているようです。
 
私はこの講座を受講していませんし、最近の兼康さんの発言なども一切知りません。
ですから以下の文章は、あくまでも1996年に発行された書籍に基づいたものとなります。
 
ちなみに三内丸山遺跡において、直径1メートルの栗の柱6本が見つかったのが1994年です。
それにより縄文学に大きなうねりが生じました。
その一つが、定住生活を送っていたことが、確定的になった点があげられます。
「山上の石鏃」の執筆はそれ以前であった可能性もあり、現在の縄文学の知見とは異なった部分もあるかと思いますが、それを度外視しても余りある興味深い内容でした。
 
まず出版当時の著者紹介文から拾い出しますと、著者は近畿各地の遺跡調査に携わり、石造美術から中世の石工の実態解明にも取り組み、各地の山岳信仰の遺跡を探訪されているとの事です。
 
 
 
前置きが長くなりましたが、さっそく内容の紹介に移ります。
 
比叡山の山頂部での発掘調査で、縄文時代の物と思われる石鏃1点と、石くず2点が見つかった。石くずは石鏃作成時に出た破片である可能性がある。
 
②その近くでは他に縄文遺跡は無く、ふもと部分に遺跡群が散見するが、山頂との比高差は700メートル以上もある。
 
伊吹山(標高1377m)の山頂付近でも①と同じケースがあった。こちらはふもと部分の遺跡群との比高差は900メートル以上。
 
④ほかの山の山頂付近でも似たケースがあり、見つかる矢じりは縄文期の物で、弥生時代の物は見つかっていない。山の特徴は、独立峰で平地から見た時の山容が美しい山が多い。
 
比叡山でも伊吹山でも、ふもと部分に散見する遺跡群の標高は、縄文時代の方が高く弥生時代の方が低い。つまり縄文人はけっこう高地でも暮らしていた。
 
山梨県三ッ峠山の標高1780メートルの山頂付近から、縄文土器や石器が出土することが大正時代から知られていた。
 
八ヶ岳南峰の編笠山(標高2524m)の標高2400メートル地点で、藤森栄一さんが黒曜石の石鏃を見つけている。
 
⑧その近くの蓼科山(たてしなやま、標高2350m)の山頂からも石鏃が採取されている。
 
著者は、⑥⑦⑧に類する例を、他にいくつか挙げています。
読んでいて私は改めて思ったのですが、縄文人は海洋の民の側面があるだけではなく、山岳の民の一面も持ち合わせていますよね。
海に漕ぎ出してもいましたが、山にも登っている。
八ヶ岳の西麓や南麓の標高1000メートル付近では、おびただしい数の縄文遺跡が見つかっています。
 
そして著者は、①③のケース、石くずが出土した点に注目します。
わざわざ山頂で石を加工して、真新しい矢を作ったのでしょう。
それは狩猟が目的だったのか?
以下、少し長文ですが、そのまま引用します。
 
 『私は稲作以前と以後とでは、人間の山に対する想いが異なっていたのではないかと、密かに思っている。そのことを説くには、さらに紙数を必要とするが、ひとことで言えば稲作以後の古代人にとって、生活空間としての山は、里から手が届く範囲の高さを指したのであろう。弥生時代、大阪湾を望む高地性集落をはじめ、琵琶湖でも西岸に点々とみられる高地性集落のあるところは、山全体からみればまだ生活空間としての里山の範疇である。そしてそれより標高が高く、平地からの比高差が500~600メートル以上のところともなれば、遺跡はほとんどなく、生活とは直接縁のない、まさに神の住む領域であったのだろう。遺跡の分布からみると、峠越えなど特定の道を別にすれば、おそらく山には垂直分布による、人と神との住み分けがあったのではなかろうか。
 周りの山々より高く、季節によっては雪をいただき、風の吹きすさぶ高山の山頂や、山麓や山腹をうっそうたる樹林に包まれた、あたかも入山を拒むように神秘的な山の姿は、生活空間としての里山とは異なった世界であったに違いない。ただ、稲作民のように土地に縛りつけられず、広い領域を生活空間として移動していた縄文時代にあっては、稲作文化とは異なった神観念があったはずである。こうした神観念の相違から、里山よりもさらに奥深い山の頂に挑む冒険の炎が燃え盛っていたのだろう。あるいは、日常の生活空間と比べ、風が強かったり、温度が低かったりする山の厳しい気象条件は、大自然の神と語る場所であったのかもしれない。後の時代に、山岳修行者が求めたのと同じ感覚があったと考えても、けっして不思議なことではない。
 一方、矢は単に武器であるだけでなく、神を祀る道具でもある。
 地面に矢を挿して神を祀った話は、各地の民間伝承にみられる。例えば・・・』
 
この後に、封内風土記にある坂上田村麻呂の例や、新編常陸国誌の中の源義家の例を提示しています。
さらにアイヌが熊送りの祭祀に用いる花矢を例示し、『山で真新しい石鏃をつくって矢をこしらえ、地上に矢を挿して神を祀った名残りなのかもしれない。』と続きます。
そして以下のように結びます。
 
 『こうした山上から出土する石鏃が私に与えた一番の感銘は、神秘的な威圧感すらある独特の山容をした山々の、しかもおそらくまだ道とは言いがたい道を登って山頂を目指した、縄文人の冒険心につきよう。その意味では、この石鏃ほど、遠い祖先の情熱のたぎりが、ひしひしと現代に伝わってくる遺物は他に例がないであろう。
 山頂の風雪に耐えたわずかな遺物こそ、道なき道を拓いて神の坐(ましま)す頂きへ挑んだ、縄文登山家(クライマー)達の夢の残り香と信じたい。』
 
 
以上、長々と引用しましたが、私は感銘を受けました。
山頂から矢じりが出ていたのも初めて知りましたし、なるほど比高差を考えれば、狩猟行為の一環とは思えない。
そこでは特別な儀礼が行われたのだと思います。
稲作文化とは異なった神観念』とか『垂直分布による、人と神との住み分け』とか、稲作文化発祥以前と以後とでは、山岳信仰のあり方にも異なった様相がある点が浮き彫りになりました。
見方によっては、縄文人は神のそばに身を置いたと言えるのかもしれません。
 
私はこの著作に啓発もされましたし感銘も受けたのですが、実を言うと、もしかすると・・・と思う部分が一点だけあるのです。
ふと、実際はどうだったのだろう?と疑念を持ってしまった部分があり、
以下にそれを書き記します。
 
 
著者は地面に矢を挿したと推測していますが、確かにそうかもしれません。
それは、その山での狩猟行為の成功を願ったのかもしれないし、山との同化を図かり、無事故を祈願したのかもしれない。
その他の動機も有り得ますし、十分に可能性がある行為だと思います。
 
しかし矢とは本来、弓につがえて放つ物です。
弓につがえて放つ時に、真下を向けるでしょうか?
古文書の例にはあるでしょうが、地に突き立てるのであれば、矢ではなく剣が思い浮かびます。
アメノサカホコやアメノヌホコ、海外ではエクスカリバーなどが思い浮かびます。
縄文時代に剣はありませんが槍ならありました。石槍です。
しかし出土したのは尖頭器(せんとうき、槍の穂先)ではなく、石鏃です。
私が疑問に思ったのは、この一点に尽きます。
私は、矢は、やはり放たれたのだと思うのです。
では、どこに向けて放たれたのか?
彼らは何に向かって弓を引いたのか?
 
雨乞いという言葉がありますが、農耕の民にとって、天に対しては常に請う(乞う)のが正しい態度だったのかもしれません。
日照を乞い、降雨を乞い、霜が降りないことを乞い、洪水の無いことを乞いました。
天候不順は、場合によっては死に直結しました。
 
対して縄文人は、狩猟(漁労)、採集、栽培の民です。
そして栽培に関しては、携わらなかった人も多かったはずです。
栽培は、種をまいてお世話をして収穫にたどり着くのですが、採集は、放っておいても勝手に生った物を、もぎ取るだけです。
天候により生命をおびやかされる度合いは低かったと言えます。
狩猟採集民に飢饉はありません。
縄文人が雨乞いをするイメージって、あんまり無いでしょう?
 
そしてこれは、もしかすると、なんですけど・・・
縄文人にとっての天は、時に、こらしめる存在だったのかもしれません。
いえ、太陽に対してではありませんよ。
その逆で、こらしめる相手は雨雲であり黒雲です。
彼らは、もともと水場のそばで暮らしていました。
ですから雨については、降らない方がよかったのかもしれない。
おそらく彼らには、干ばつという概念は無かったでしょう。
大雨や大雪を降らせ、強風を起こし、雷を落とす、そんな黒雲の勢力を弱めてやろうと計ったかもしれないでしょう?
であるならば、矢は、どこに向けて放ったのか?
天に向けて放ったのです。
天に近づくために山頂に登り、そこから放ったのです。
おそらく、山の神の力を借りて。
 
と、まあ以上は、私の空想にすぎないのですが、実際のところは地に挿したのかもしれません。
でもどっちも可能性があるとした場合、一般認識から遠い方を選んでみたいというのが、『縄文GoGo』を描く上での私の立ち位置であったりします。
自然と共存する縄文人・・・現代人が思い描く縄文時代のイメージがそれでしょう。
ですが私の描く縄文人は、時として天に立ち向かい、大自然に歯向かって行動したりもするのです。
 
 
 
 

 

縄文GoGo旅編 第34話 8日目①

 
 
 
          北の湖に向かう川沿いの道。
 
シロクンヌ一行はアオキ村のムロヤで一晩ゆっくり体を休め、翌朝カワセミ村を目指して出発した。
イワジイとテーチャ、そしてカゼマルが新たに旅に加わり、キサヒコ、マサキ、カゼトが見送りに同行している。
サチとミツ、そしてテーチャは葉っぱ付きの眼木を掛けている。
 
 
キサヒコ  「木の皮をこう丸めて、ここを結ぶ。こんな簡単なやり方でいいのか?」
タカジョウ  「それでいい。腹から吹いてみてくれ。」
 
  ブオーと音が出た。タカのイエ伝来の樹皮ラッパだ。
 
カゼト  「ボウボウと言うのか。これは使える。」
キサヒコ  「ふむ。よい事を教わった。さっそく村で合図の取り決めをしよう。
       ブォボーと吹けば、<聞こえた者は返事をくれ。>の合図。
       聞こえた者は、ボーーと吹き返す。
       ・・・こんな具合でいいんだろう?」
テーチャ  「他にも、舟でこっちに来て、とかいろいろできそうだね。
       あ!あの葉っぱいい!真っ赤っか!
       サチ、ちょっとカゼマルを抱いてて。葉っぱを採って来る!」
サチ  「いいよ。カゼマル、おいで。
     ミツ、見て!嬉しそうな顔したよ。」
ミツ  「いいなー。カゼマルは、私よりサチの方が好きみたいだもん。」
マサキ  「もしかすると、母親よりもサチが好きかもしれんぞ(笑)。
      その母親だが、なんとまあ、尻丸出しで樹によじ登っておる。」
タカジョウ  「おんなカタグラだ。」
ミツ  「アハハハ。もう必死だね。」
シロクン  「無邪気なもんだ(笑)。
        おれの子を産んだと担がれた時には、さすがにあせったが(笑)。」
マサキ  「おれやイワジイまで巻き込むとは、まったく質(たち)が悪い奴等だ(笑)。」
キサヒコ  「ははは。だがそんなみんなが旅立ってしまうと、村も寂しくなる・・・
       そうそうこの川だがな、大雨でも水嵩が増さんし濁らんのだぞ。」
シロクン  「そうだってな。神の施す水、そう聞いたぞ。」
タカジョウ  「どういう事だ?」
カゼト  「北の湖には神が住んでいて、無限に水を吐き出してくれているんだ。
      北の湖には流れ込む川が一本も無いんだぞ。」
キサヒコ  「沢と呼んだ方がふさわしいくらいの小川ではあるが、この水は、村の命の水だ。
       北の湖は、真冬でも凍らんのだぞ。」
ミツ  「えー!何だか不思議。」
カゼト  「全く凍らんと言う訳ではないが、全面に氷が張ったりはせん。」
キサヒコ  「村にとっては、北の湖は聖なる湖だ。
       魚も水鳥も獲らんのだよ。
       まあ、もともと魚はほとんどおらんし、水鳥も数が少ないが。」
シロクン  「恐ろしいほどに水が澄んでいて、筏で漕ぎ出したら不思議な気分になるぞ。」
マサキ  「湖底に筏の影が映るからな。」
キサヒコ  「船着き場の横に、見守り杉と言う御神木があって、
       みづ神の話し相手だと言い伝えられている。
       だから見守り杉に祈りを捧げてから、舟に乗るようにしておるんだ。」
サチ  「流れ込む川が無い湖なのに、こんなに水が流れ出しているの?」
キサヒコ  「そうだよ。不思議だろう?
       シロクンヌもマサキもみづ神祭りを見ておらんよな?」
シロクンヌ  「ああ、行き合わせていない。」
マサキ  「おれもだ。綺麗だそうだな。」
イワジイ  「わしは見ておるぞ。蛍祭りじゃ。すごい数の蛍じゃぞ。」
サチ  「蛍がいるの?」
カゼト  「いるなんてもんじゃないぞ。もの凄い数だよ。
      見守り杉の下が浅瀬になっていて、ニナ(巻貝)だらけなんだ。
      天敵がおらんのだな。」
ミツ  「そうか!蛍の幼虫はニナを食べるんだったね。」
サチ  「そうなんだ?だから蛍が・・・わー、見てみたいなー。」
キサヒコ  「本来、わしらがみづ神に感謝を捧げる祭りなのだが、
       みづ神の方が、わしらを楽しませてくれておる・・・」
カゼト  「舟に乗って蛍を見るんだぞ。湖面に光が映るし、漂う光に囲まれる。」
タカジョウ  「そりゃあ綺麗だろうな。」
サチ  「ミツ、いつか来てみたいね!」
ミツ  「うん!セリも誘って、三人で来たいね!」
 
 
 
          シオユ村(シシガミ村)の近く。
 
ホコラ  「朝蕗(あさぶき)は、たんと採れたかな?」
シュリ  「わー!びっくりしたー!
      もう!いきなりおどかさないでよ!」
ホコラ  「これはすまんかった。
      旅の者だが、腹が減ってしまってなあ。まだ朝メシを食っていない。
      シオユ村で何か食わせてもらえんかな?」
シュリ  「いいよ。あたしはシュリ。
      でも今、シオユ村って言ったよね?もしかして・・・」
ホコラ  「ふむ。アヅミ野でシロクンヌらと出会ってな。
      おれの事は、ホコラとでも呼んでくれ。
      シュリと言えば、確かレンザのお相手だな?」
シュリ  「そうだよ。いろいろ話は聞いたんだね。
      レンザやレンにも会って行く?」
ホコラ  「そのつもりでここに来たんだよ。あとユリサと言う娘にもな。」
シュリ  「肩に載ってる子猿は友達なの?」
ホコラ  「アヅミ野では猿達に囲まれて暮らしていてな。
      別れを告げて旅立つつもりが、こいつだけはどうしても付いて来よって、
      言い聞かせても、おれから離れようとしない。
      仕方ないから一緒に旅をする事にしたのだ(笑)。」
シュリ  「可愛いね(笑)・・・あ!思い出した!
      ずっと前、フラッと訪ねて来て、いっぱい蜂蜜をくれた人でしょう?」
 
 
 
          アオキ村から北に向かう川沿いの道。
 
カゼト  「話は変わるが・・・
      昔あったカゼの里の横には、真っ白な水が流れる川があったと言うぞ。
      この川の水とは大違いだよな。
      そっちは乳の川と呼ばれていて、水浴びすると乳の出が良くなったそうだ。」
ミツ  「白っぽい水が流れる川のそばで、昨日の朝、不思議な物を見つけたよ。」
サチ  「あ!そうだ。忘れてた。
     イワジイ、これと似たのを掘り出したの?」

                 

イワジイ  「おお、サチも掘ったか。わしも三つ持っておるぞい。
       そう言やあ、白っぽい川が流れておったの。岩が溶け出したんじゃろう。
       ほら、これじゃ。こりゃあ一体、何じゃろか?」

トロトロ石器

カゼト  「あ!どこにあったんだ?」
サチ  「野営した所。昨日の朝、魂送りの為の穴を掘ったら出て来たの。」
イワジイ  「わしもあそこで野営したんじゃよ。」
マサキ  「おれはそこでイワジイに出会ったんだ。」
カゼト  「そこだ!そこに昔、カゼの里があったんだ。
      マサキ、明日そこに案内してくれ。祈りを捧げる。」
マサキ  「ああ良いが、これは何なんだ?」
カゼト  「これは、カゼの証しだ。
      もう今は使っていないが・・・」
タカジョウ  「カゼノアカシとは?」
カゼト  「カゼの者である証しだよ。こうやって紐をからめて、こうやって髪に結ぶ。
      知らん者が見ても、ただの髪結いにしか見えんだろう?
      でもカゼの者が見ると、仲間だと分かるんだ。
      カゼのイエは、イエの者の他にも仲間を作っていた。
      旅先で出会った仲間を、そうやって見分けていた訳だ。
      カゼの里で、これを作っていたらしい。
      模様が綺麗だろう?色石(チャート)で作るんだ。」
テーチャ  「面白い形してるね。」
イワジイ  「カゼのイエにまつわる物じゃったか。
       そんならカゼトとテーチャに一つずつやろうかいの。
       テーチャから選んでよいぞ。」
テーチャ  「いいの?ありがとう!あたし、これがいい!」
カゼト  「あ!おれもそれが良かった!黒がハッキリ出ているし。」
テーチャ  「もう遅いよーだ。
       髪を縛ってみよう。カゼト、やり方教えて!」
 
 
 
 
          シオユ村。見張り小屋。
 
ホコラ  「お!このキノコ汁のダシはシシ腿の塩漬けだな?
      この汁は、グリッコと最高に合う。
      グリッコも上手にあぶったな!焦げの香ばしさ具合が丁度良い。
      こっちは朝摘み蕗の灰くぐりか。
      これは灰の熱さ加減が難しいんだ。見ればいい色を出しておるが、どれ・・・
      旨い!」
レンザ  「うまそうに食うなあ。
      なんだかおれも腹が減って来た。そこのグリッコを取ってくれ。」
シュリ  「はい。レンは気持ち良さそうだよ。」
レンザ  「シップウが居なくなって、レンも寂しそうだったからな。
      でもさっきは肝を冷やしたよ。
      小屋に入って来るなり肩から飛び降りて、レンに駆け寄ったもんな。」
ユリサ  「私、あっ!って叫んじゃった。もう身が凍る思いだったよ。」
シシヒコ  「お邪魔するよ。ホコラが来ていると聞いてな。」
ホコラ  「おおコノカミ、久しぶりだ。ご馳走になっているぞ。」
シシヒコ  「元気そうで何よりだ。
       ホコラはシロクンヌやタカジョウの知り合いだったの・・・
       何と!
       あの子猿、レンの毛づくろいをしているのか!」
 
 
 
          ━━━ 幕間 ━━━
 
さて、くだんのトロトロ石器ですが、「カゼの証し」と言う事にしてしまいました。
ハッキリ言って、苦し紛れですね(笑)。
あの形である必然性を持った道具は何か無いかと考えを巡らせたのですが・・・。
 
ここで長野県大町市の山の神遺跡について、少し説明しておきます。
犀川(さいがわ)水系の乳川(ちかわ)によって形成された神明原扇状地の扇央部に位置し、標高約730m。
西側には北アルプス、東に大町盆地を臨む。
現在は「国営アルプスあづみの公園」の敷地内となっています。
 
特徴は集石遺構の存在。
動画を貼っておきます。
この遺跡は少なくとも3回の土石流被害を経験していて、8千年前は、石列部分のすぐ横を乳川が流れていたらしいです。
石列と川との高低差も少なかったようなのです。
だから・・・
川の水を取り入れた作業場か加工場、もしかして工場があった?
トロトロ石器は工具?それか部品の一部?
などと空想してみるのですが、革なめしの作業場くらいしか具体的には思い付いていません。
 
熊本県の瀬田裏遺跡でも20点のトロトロ石器が出土していて、21m×7mの石列があるようです。
この事から、石列とトロトロ石器には関係性があるとも考えられています。
 
 
 
 
※ 岡山県の二ヶ所の遺跡で、6千年前の地層から、イネのプラントオパールが大量に見つかっている・・・
長いこと、そう言われて来ました。
その言説に基づいてストーリー展開して行くつもりでしたが、言説が間違いであることが判明しました。
6千年前ではなく、もっと新しい地層だったようです。
 
よって、旅編の32話~35話を書き直すことにしました。
書き直しした物が、こちらになります。
 
 
 
登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女 本名はスス  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている      
追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる アヤクンヌ      エミヌ 18歳  オジヌ 16歳 エミヌの弟  カイヌ 14歳 オジヌの弟    モリヒコ シカ村のカミ  サラ 17歳 スサラの妹 ハギとトツギとなる ヌリホツマの弟子  ナクモ 18歳 エミヌの友人  シオラム 41歳 ササヒコのすぐ下の弟 塩作りの加勢のためシオ村で暮らす 5年に一度、里帰りする  ナジオ 20歳 シオラムの息子 シオ村生まれ  タカジョウ 23歳 ワシ使い  ホコラ 洞窟暮らし 哲人  シップ オオイヌワシ タカジョウが飼っている  エニ 38歳 エミヌ姉弟の母   カヤ アマカミの使者  シラク 北のミヤコのシロのムロヤの責任者  マシベ フジのシロの里の者 ヲウミのシロの村との連絡係り  トモ フジのシロの里の者  イナ 30歳 シロクンヌの姉弟子 杖の達人  コヨウ 15歳 タカジョウの妹  ゴン 洞窟で飼われている仔犬  ミツ 11歳 アユ村の少女  カザヤ 24歳 アユ村の若者 カタグラの友人  テミユ 22歳 カザヤの妹  タガオ 32歳 ミツの父親 目がみえない  ゾキ 14歳 オロチの姉 シップウの攻撃で背中に傷を負う オロチ 12歳 ゾキの弟 シップウの攻撃で顔に傷を負う  イワジイ 60歳 黒切りの里の山師 ヌリホツマの兄  シロイブキ 28歳 シロクンヌの兄弟
追加(旅編)スズヒコ 65歳 リンドウ村のリーダー  タジロ 21歳 リンドウ村の若者  セリ 11歳 リンドウ村の娘  レンザ 14歳 道中で出会った少年。足の骨が折れていた。  レン レンザが飼っているオオカミ  シシヒコ 35歳 シシガミ村のカミ  サタキ 25歳 シシガミ村の青年  ミワ 33歳 シシヒコの奥さん。  シュリ 21歳 シシガミ村の娘。レンザの宿。  ユリサ 22歳 シシガミ村の娘。一日だけのタカジョウの宿。  セジ 20歳 シシガミ村の青年。ゾキのシモベ。  マサキ 28歳 シロクンヌのタビンド仲間。  テーチャ 23歳 アオキ村で暮らす女。  カゼト 28歳  アオキ村で暮らすカゼのイエの者  キサヒコ 33歳 アオキ村のカミ。  カゼマル 1歳 テーチャの息子

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚  眼木=めぎ 眼鏡フレーム 曲げ木工房で作っている  クンヌ=イエの頭領  吊り寝=ハンモック  一本皿=長い丸太を半分に割いて作ったテーブル。一本の木から2本取れるが、一本皿と呼ばれている。  一回し=長さの単位 70㎝  半回し=35㎝ 縄文尺とも呼ばれる。  カラミツブテ・カブテ=狩りの道具。コブシ大の二つの石を紐でつなげた物。  ボウボウ=樹皮ラッパ 法螺貝よりも高い音が出る。  薙ぎ倒しの牙・薙ぎ倒しイノシシの牙=ナウマン象の象牙  バンドリ=背負子などを背負った時に、肩と背中を保護する当て物。衣服の上からバンドリを装着し、それから背負子を着ける。  黒石糊アスファルト  ヲシテ=ここでは文字を意味する。 中今=ここでは超能力を発揮する心の状態を意味する。