縄文GoGo

5000年前の中部高地の物語

第133話 20日目① 

 

 

 

          朝の広場。

 
サチ  「おはよう。お姉ちゃん、なんだか嬉しそうだね。」
ハニサ  「シロクンヌがね、一緒に暮らしてくれるって!」
サチ  「ほんと! 良かったね!」
タカジョウ  「シロクンヌ、おれは妹の引っ越しの付き添いで、
        今から黒切りの里に向かわねばならん。
        次に会えるのは、早くて6日後くらいになりそうだ。
        その時に一度ゆっくり話がしたい。」
シロクン  「分かった。それはおれも同じ気持ちだ。
        次に会うのを楽しみにしているよ。」
タカジョウ  「うん。ハニサ、身代わり人形を作って行くからな。」
ハニサ  「ありがとう。気をつけて行って来てね。」
アコ  「あたしも一緒に作って来るよ。
     あ! 大事な事を忘れてた!
     テイトンポがね、眼木をあるだけ全部、黒切りの里に持って行けって。
     絶対、喜ばれるからって。工房に用意してあるの。」
タカジョウ  「眼木を?・・・そうか! 絶対喜ばれるな!」
ハニサ  「何か特別な事でもあるの?」
シロクン  「眼や顔の保護だな?」
タカジョウ  「うん。黒切りは、割ると破片が飛び散るんだ。
        細かい破片が、知らぬうちに刺さっている。
        それで眼をやられる鉱夫もいるくらいだ。」
シロクン  「竹皮に細い切り込みを入れて覗き穴にして、それを眼木に付ければどうだ?」
タカジョウ  「いいな! アコ、ありがとう! 持って行くよ。」
 
シロクン  「コノカミ、言っておかねば後で恨まれてもいかん。
        カヤは、アマカミの使者として、ここに来たのだ。」
ササヒコ  「それは本当か!
       凄いヒスイをしておったから、その辺の所を聞いたのだが、けむに巻かれてしまってな。
       いや、よく知らせてくれた。」
シロクン  「そして、その事で相談があるのだ。
        カヤ達を見送ったあとに・・・」
 
 
          祈りの丘。サルスベリの樹の近く。
 
    サチはクズハから草履をもらい、ハシャギまわっている。
    シロクンヌ、ハニサ、ササヒコ、テイトンポ、クズハ、ヌリホツマが御座に座っている。
    周りにひと気はない。
    大ムロヤは身代わり人形の制作で人の出入りが多いので、ササヒコの発案でこの場が選ばれた。
 
サチ  「父さん、この草履、凄く履きやすいよ。
     私、こんなに履きやすい草履って、初めて!」
シロクン  「よかったな(笑)。ん?
        テイトンポも、こないだとは違う草履を履いているのか。」
クズハ  「この人ね、私が誰かに草履を編んでいると、おれにも作れってうるさいの。
      サチには同じのを、あと2足編んであげるわね。」
サチ  「ありがとう!」嬉しそうだ。
シロクン  「テイトンポは、変な所でヤキモチやくんだな(笑)。」
ササヒコ  「ワハハ、よいではないか、仲が良くて。」
テイトンポ  「光の子は、アマテルというのか。
        いい名だ。」照れくさそうだ。
クズハ  「ハニサ、良かったわね。シロクンヌと暮らせる事になって。」
ハニサ  「うん。」涙ぐんでいる。
ササヒコ  「しかし、何とも誉れ高い事になったもんだな。
       我が村からアマカミを出すとは、夢にも思っておらんかった。」
ヌリホツマ  「まったくじゃ。
        シロクンヌの周りで起こる事は、わしの予見を超えておる。」
クズハ  「アマカミになったら、シロクンヌとはお話しできなくなってしまうの?」
シロクン  「そんな事は無い。
        そこは今まで通りだと思ってもらっていい。
        アマカミとなった後どうするかは、おれが決めていいのだが、
        おれは今まで通りでいようと思っている。
        違ってくるのは八つのイエに対する発言だな。
        しかしおれは他のイエの事をよく知らんし、これから学ばねばならん。
        サチが当面の先生だ(笑)。」
サチ  「今のアマカミはカゼのイエの御出身で、カゼのイエはシロのイエとは違って、
     武には優れている訳では無いの。
     だから用心のために、姿を隠しておられるんだと聞いた事があるけど、
     父さんは強いから。」
ササヒコ  「なるほどな。それでミヤコとなった場合だが、ここはどう変わるのだ?」
シロクン  「サチの見立ては?」
サチ  「おそらく各イエが、ムロヤを持ちたがると思う。
     父さん、アヤのイエはミヤコ住まいなの。
     小さいイエだから、里も持っていなくて、
     今はと言えば、私以外のイエの者全員がミヤコに住んでいて、ムロヤは六つ。
     今のミヤコに何人か残ったとしても、アヤのイエだけで四つのムロヤは必要で、
     イエの関係のムロヤの総数は、15くらいになるかも知れない。
     あとはミヤコに住みたいと希望する人達だけど・・・
     おそらくだけど、光の子の話が伝われば、希望者はとっても多いと思うよ。
     受け入れなければ済むかもしれないけど、
     それを知らずにいっぱい来たら混乱するかも知れない。」
シロクン  「そうか。ここではイエのムロヤさえ作る場所が無いな。」
サチ  「今ミヤコになっている所は、何百年も前から計画的に開発して来た所だから、
     500人くらいが住んでいられるのだけど、食べ物は獣よりも海の魚が多いの。
     魚はいっぱいいるから、たくさん舟を出せば、その分たくさん獲れるから。
     たくさんの舟で網をつなげてでしか獲れない魚もいるし。
     栗林も、永い年月をかけて計画的に作ったから、人数分が賄えるんだよ。」
ササヒコ  「カヤに聞いたが、村の中にもクリの木があるのか?」
サチ  「クリ林の中に、ムロヤがあるの。村の周りは、海かクリ林なの。」
ササヒコ  「カヤの言う通りなんだな・・・」
ヌリホツマ  「凄いのう。神坐祭りも盛大なんじゃろうな。」
シロクン  「盛大らしいぞ(笑)。」
テイトンポ  「ハタレの乱の制圧の時、アマカミは、ミヤコから動いてはおらんかったはずだ。
        少なくとも表向きはな。
        しかしシロクンヌ、おまえなら先頭に立つだろう?
        その時、今のミヤコでは話にならん。
        ここか、ここより西にミヤコが無ければな。」
シロクン  「うん。だがハニサとアマテルの事を思うと、ここから近い所がいいのだが。」
クズハ  「それなら、分散させるしか無いんじゃない?
      コノカミ、以前話題に上った事があったわよね。
      ここより上(かみ)にいくつ村を作れるかって。」
 
 
登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている

      

追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる アヤクンヌ      エミヌ 18歳  オジヌ 16歳 エミヌの弟  カイヌ 14歳 オジヌの弟    モリヒコ シカ村のカミ  サラ 17歳 スサラの妹 ハギとトツギとなる ヌリホツマの弟子  ナクモ 18歳 エミヌの友人  シオラム 41歳 ササヒコのすぐ下の弟 塩作りの加勢のためシオ村で暮らす 5年に一度、里帰りする  ナジオ 20歳 シオラムの息子 シオ村生まれ  タカジョウ 23歳 ワシ使い  ホコラ 洞窟暮らし 哲人  シップ オオイヌワシ タカジョウが飼っている  エニ 38歳 エミヌ姉弟の母   カヤ アマカミの使者  シラク 北のミヤコのシロのムロヤの責任者  マシベ フジのシロの里の者 ヲウミのシロの村との連絡係り  トモ フジのシロの里の者 

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚  眼木=めぎ 眼鏡フレーム 曲げ木工房で作っている  クンヌ=イエの頭領  吊り寝=ハンモック  一本皿=長い丸太を半分に割いて作ったテーブル。一本の木から2本取れるが、一本皿と呼ばれている。  一回し=長さの単位 70㎝  半回し=35㎝ 縄文尺とも呼ばれる。  カラミツブテ・カブテ=狩りの道具。コブシ大の二つの石を紐でつなげた物。

 

 

第132話 19日目⑥

 

 

 

          大ムロヤ。

 
タカジョウ  「どうしたんだ、アコ?」
アコ  「テイトンポに追い出された。」
ナジオ  「アコはタカジョウを待ってたんだ。
      二人で散歩でもしてくればいい。」
マシベ  「あのテイトンポが女と暮らしておるとはビックリだよ。
      それも二人の美人とだ。」
ササヒコ  「ハハハ。テイトンポはウチの若い者にも人気でな。
       お話は済みましたかな?
       栗実酒など御一緒しませんか。
       ん? これはまた立派なヒスイだ。
       見たことも無いほどの物だが・・・
       御仁はそういう御方か?」
シオラム  「どれ、ほう! 昼はしておらんかったと思うが。」
カヤ  「おれはそんな御仁とかではないぞ。
     だがこれには訳があってな、これを猿に奪われておったのだ。
     それを見つけてくれた者と知らせてくれた者と、今まで一緒だったのだ。
     聞けば驚くと思うが、話して聞かそうか?」
シオラム  「それは聞かねばならんな。」
ササヒコ  「では、お二人に一献進ぜようか。」
 
 
          ハニサのムロヤ。
 
    みんなが引き上げて、今はハニサとシロクンヌの二人だけだ。
    シロクンヌは毛皮に寝転がり、いつものようにハニサが寄り添って座っている。
 
ハニサ  「いきなりで、びっくりしなかった?」
シロクン  「実は、いきなりでも無いんだ。一度別の者から内々に話があった。
        固く口止めされていたから、ハニサにも言わなかったが。
        ただその時は、シロのイエの子に限るような言い方だったが、
        今日は違っていたな。」
ハニサ  「あたしを同席させたという事は、アマテルがアマカミになるかもしれないの?」
シロクン  「カヤはその可能性も考えたのだろう。」
ハニサ  「アマテルがアマカミになると、あたし、引き離されてしまうの?」
シロクン  「そんなことが有る訳がない。それを決めるのは、おれだぞ?
        おれが、ハニサを悲しませる事をするはずがないだろう?
        言ったはずだ。何があってもハニサを護ると。」
ハニサ  「シロクンヌ!
      あたしにはいきなりの話だったから、戸惑ってる。
      シロクンヌが、アマカミになるの?」
シロクン  「たぶん、そうなるだろうな。」
ハニサ  「アマカミになると、どうなるの?」
シロクン  「八つのイエを統(す)べる立場になる。と言って強制力は無い。
        この前話に出たハタレの乱以来、アマカミは大きく動いていない。
        だから、平時にはこれと言って特別なことはしていない。
        ただ日々、祈りを捧げておられる。
        トコヨクニの民の安寧を願って。
        クニトコタチのこころざしを継ぐ者、それがアマカミだ。
        特に何かの縛りがある訳では無く、例えば今のアマカミは、顔を隠しておられるが、
        おれは人前に出て行くだろうな。
        そういう事は、その時のアマカミが、自分の考えで決めてきた。」
ハニサ  「さっき、みんながいる時に、なるほど、そういうことだったのだな・・・
      と言ったでしょう? あれは?」
シロクン  「アマテルだ。
        天の計らいでアマテルが護られてきた理由が分かった気がした。
        ハニサ、おれは将来、アマテルをアマカミにしようと思っている。
        もちろん産まれてみなければ、どんな人物かは分からんが。
        ハニサは反対か?」
ハニサ  「反対じゃないよ。
      ただ、あたしが産んだ子が、アマカミになるなんて・・・
      アマカミってあたしには、遠く掛け離れた存在だったからね。
      戸惑っているだけ。
      心の整理がつくまでには時間が掛かるけど、反対じゃない。
      アマテルは絶対に、何かを成すために産まれて来るのだと思ってた。
      この事を、村の人達には話すの?」
シロクン  「その前に、ハニサに話しておきたい事がある。
        おれはアマカミとなった後も、今ほどではないが、旅に出るつもりだ。
        だが拠点は必要だ。そこがミヤコになる。
        どこをミヤコにするかは、今はまだ迷っている。
        だがミヤコでは、ハニサと暮らすつもりだ。」
ハニサ  「シロクンヌ!」
シロクン  「このウルシ村も候補の一つだ。
        他の候補としては、フジのシロの里、ヲウミのシロの村、そして、今のミヤコだ。
        他の三つは問題無いが、ここウルシ村については元々おれはここの者ではないし、
        おれの一存という訳には行かんだろう。
        村のみんなの同意が必要だ。」
ハニサ  「でも、アマテルはここで産まれるんだよ。」
シロクン  「うん。だが、アマテルがアマカミとなるのは、何年も先だ。
        今のアマカミは御高齢だ。
        カヤははっきりとは言わなかったが、シラクがおれに耳打ちした。
        最近お体がすぐれん様だ。それもあって、二人は急いで帰る。
        おれがアマカミになる日は近いかも知れん。」
ハニサ  「そうなの・・・
      あたし、この先もシロクンヌと暮らせるの?」
シロクン  「そうだ。アマテルは、おれの傍でハニサが育てるのだ。
        だが、ハニサもアマテルもシロのイエに入る必要は無い。
        イエに入ると、不自由な面もあるからな。
        そこで村の者に話すのかという質問だが、
        明日、コノカミ、テイトンポ、クズハ、ヌリホツマの四人に話そうと思っている。
        その四人の意見を聞きたいし、村のみんなに話すのなら、
        その役はコノカミにお願いするつもりだ。」
 
 
          大ムロヤ。
 
シラク  「ミヤコには、竹林というものは無いんですぞ。竹が育つには北過ぎましてな。」
カヤ  「ミヤコは、何をするにおいても、栗、栗、栗だな。
     材木はもちろん、焚火もクリの木。」
ササヒコ  「ほう! しかしクリの木は、燃やすと爆(は)ぜませんか?」
カヤ  「爆ぜる爆ぜる。危なくてしょうがない(笑)。
     燃え切りも悪いからカスが残る。
     しかし爆ぜようが燃えカスだらけになろうが、栗の炎を有難がるのがミヤコビトでな。
     村全部が、クリ林の中にあるようなもんだ。よそ見してると、イガを踏む(笑)。
     シラクなどは、栗実酒は飲むのではなく浴びる物だと思っておる。」
シオラム  「ワハハハ。それはまた豪快だな。」
シラク  「それは言い過ぎだ(笑)。」
カヤ  「ミヤコは栗だが、ここの丘には何やらいわく有り気に、
     一本そびえておるようにお見受けするが・・・」
ササヒコ  「さすがにお目が高い。サルスベリですな。よそでは見かけんでしょう?
       確かにいわくが有る。特別に、お話ししましょうか?」
 
 
 
登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている

      

追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる アヤクンヌ      エミヌ 18歳  オジヌ 16歳 エミヌの弟  カイヌ 14歳 オジヌの弟    モリヒコ シカ村のカミ  サラ 17歳 スサラの妹 ハギとトツギとなる ヌリホツマの弟子  ナクモ 18歳 エミヌの友人  シオラム 41歳 ササヒコのすぐ下の弟 塩作りの加勢のためシオ村で暮らす 5年に一度、里帰りする  ナジオ 20歳 シオラムの息子 シオ村生まれ  タカジョウ 23歳 ワシ使い  ホコラ 洞窟暮らし 哲人  シップ オオイヌワシ タカジョウが飼っている  エニ 38歳 エミヌ姉弟の母   カヤ アマカミの使者  シラク 北のミヤコのシロのムロヤの責任者  マシベ フジのシロの里の者 ヲウミのシロの村との連絡係り  トモ フジのシロの里の者 

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚  眼木=めぎ 眼鏡フレーム 曲げ木工房で作っている  クンヌ=イエの頭領  吊り寝=ハンモック  一本皿=長い丸太を半分に割いて作ったテーブル。一本の木から2本取れるが、一本皿と呼ばれている。  一回し=長さの単位 70㎝  半回し=35㎝ 縄文尺とも呼ばれる。  カラミツブテ・カブテ=狩りの道具。コブシ大の二つの石を紐でつなげた物。

 

 

第131話 19日目⑤

 

 

 

          ハニサのムロヤ。

 
カヤ  「ほう。何とも妖しくも美しいムロヤだ。」
サチ  「あの木、ああするんだね。
     お昼に見た時は、何か分からなかった。」
タカジョウ  「なるほど。ムロヤで見るハニサは、他で見るハニサとは雰囲気が違うのだな。」
ハニサ  「ヌリホツマのお茶を淹れるね。」
カヤ  「ああ、すまんな。では本題に入る前に、タカジョウについてだが、おれは本当に驚いたよ。
     タカジョウは間違いなくタカのイエのクンヌだろうな。
     もちろん、タカのイエが決めることで、おれが決めることではないが。
     タカのイエでは、今でもおぬしを探しておるぞ。」
タカジョウ  「おれの父親がどこにいるのか、知っているか?」
カヤ  「タカの村があるのは、ミヤコとこことの丁度中間くらいだ。
     たぶんそこだと思うのだが、必ずとは言いきれん。
     だが、タカの村は分かりにくいぞ。
     もちろん旗は立てておるが、山に囲まれておるからな。
     周りに村も少ない。
     おぬしが行けば、皆、大喜びだ。」
タカジョウ  「一度ミヤコに行き、そこで案内を求めた方がいいということだな。」
カヤ  「遠回りの様で、それが近道だと思うぞ。
     おれも、ハッキリと地図にすることは出来んからな。
     それから、サチ。ご両親は災難だったな。
     しかしサチは無事で何よりだった。
     アヤのイエでは、今頃は心配しておるだろうと思う。
     シロクンヌの娘になっておると知れば、逆に大喜びだろうがな。
 
     さて本題だが、最初に言っておかねばならんのは、
     アマカミの使者としておれがシラクの案内でミヤコを出たのは、ひと月半前だということだ。
     二人で、フジにある、シロの里を目指した。
     シロクンヌの消息を掴むためだ。
     ひと月半前と言えば、シロクンヌはアケビ村だろう?
     まだハニサとは出会っていないな?
     ではアマカミの御意志を伝える。これはアマカミ御自身の御発案である。
     次のアマカミは、シロクンヌか、シロクンヌの子とする。
     シロクンヌの子であれば、シロのイエの者である必要はない。
     それは、これから産まれて来る子であってもよい。
     男女は問わぬ。
     どの子をアマカミにするか決めるのは、シロクンヌだ。
     以上だ。
     念のためにハニサに説明するが、アマカミはミヤコに住むのではなく、
     アマカミが住めば、そこがミヤコなのだ。
     どこに住むかは、アマカミ御自身がお決めになることだ。」
ハニサ  「シロクンヌ・・・」
シロクン  「アマカミの御意向とあらばお受けせねばならんが・・・
        なるほど、そういう事だったのだな。」
カヤ  「ハニサ、身代わり人形作りは明日からか?」
ハニサ  「三晩過ぎるから、そう、明日からね。」
カヤ  「シラク、おれ達も作って行こう。
     それを済ませて、おれとシラクは、すぐにも出立してミヤコに戻るのだが、
     サチはシロクンヌとミヤコを目指すのだな?」
サチ  「はい。父さんいい?」
シロクン  「もちろんだ。こうなった以上、おれ自身もミヤコに出向かねばなるまい。
        タカジョウも一緒に行くだろう?」
タカジョウ  「もちろんだ。そこは予定通りという事だな。」
シロクン  「いや、フジの向こうに行く必要は無くなったから、直接ミヤコを目指す。」
カヤ  「アヤクンヌの無事とタカジョウの件はおれが伝えておく。
     アマカミには、シロクンヌが諒解したと伝えるぞ?」
シロクン  「分かった。あと、この事は、内密にしておかねばならんのか?」
カヤ  「そこはおぬしに任せる。
     おぬしも相談したい者もおるだろうしな。
     あと一つ気になったのだが、祈りの丘に一本ある樹、あの樹は?」
ハニサ  「サルスベリの樹だよ。」
カヤ  「サルスベリ・・・まさかな・・・」
ハニサ  「どうかしたの?」
カヤ  「いや、何でもない。
     他に何か聞いておきたい事は?」
サチ  「村の広場から見える、夕映えの美しい山並みがあったでしょう?」
シラク  「おお、あった。見惚れるほどであったな。」
カヤ  「まさか・・・八ヶ岳か?」
サチ  「そうだと思う。一番高い峰が、クニト山とかコタチ山とか呼ばれてるの。」
シラク  「クニトコタチの山・・・間違いない。八ヶ岳だ。」
シロクン  「やはりここは、約束の地のような場所なのか?」
カヤ  「ふむ・・・まあそうなのだが、この話は不吉の裏返しなのだ。
     世が平和であれば、八つのイエが集まる必要は無いのだからな。
     しかし、八ヶ岳の場所がハッキリしたのは良い事だ。
     シラク、まったくこっちに来て、驚きの連続だな。
     他に聞いておきたいことは無いかな? ハニサはどうだ?」
ハニサ  「あたし、会った時から気になっていたんだけど、
      カヤはずっと首の所をさすったりして気にしてるでしょう?」
カヤ  「何かと思えば・・・それは不調法をしたな。」
ハニサ  「そうじゃなくて、赤くなってるし・・・猿に首飾りを取られたんじゃない?」
カヤ  「よく分かったな。今朝方、大事な物を持って行かれた。」
ハニサ  「大きなヒスイでしょう?」
カヤ  「そうだが、何故分かる?
     ハニサは人の心が見えるのか?」
ハニサ  「そんなの見えないよ。ピンと来ただけ。サチ、出してみて。」
サチ  「そうか! これだね!」
カヤ  「それは! どこにあったのだ?」
 
シラク  「良かったな。これで今晩、ゆっくり眠れるだろう?」
カヤ  「アマカミから頂いた物だからな。
     サチとハニサに礼を言わねばならん。
     本当に有難う。」
シロクン  「ハニサは何で分かったんだ?」
ハニサ  「だってヒモが無かったでしょう?
      温泉に入っていてヒモが切れたのかな?って最初は思ったの。
      でも大事なものをしたまま、深い所に行くのかな?とも思ってた。
      そしてカヤに会って、何か違和感があったの。
      胸元が寂しいのよ。
      それにアマカミの遣いと言うなら、その証拠のような装飾品を身に付けて言わない?
      それで拾ったヒスイを胸に付けてみたの。空想でよ。
      そしたらぴったりだったから、この人のなんだって思ったよ。」
 
 
 
登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている

      

追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる アヤクンヌ      エミヌ 18歳  オジヌ 16歳 エミヌの弟  カイヌ 14歳 オジヌの弟    モリヒコ シカ村のカミ  サラ 17歳 スサラの妹 ハギとトツギとなる ヌリホツマの弟子  ナクモ 18歳 エミヌの友人  シオラム 41歳 ササヒコのすぐ下の弟 塩作りの加勢のためシオ村で暮らす 5年に一度、里帰りする  ナジオ 20歳 シオラムの息子 シオ村生まれ  タカジョウ 23歳 ワシ使い  ホコラ 洞窟暮らし 哲人  シップ オオイヌワシ タカジョウが飼っている  エニ 38歳 エミヌ姉弟の母   カヤ アマカミの使者  シラク 北のミヤコのシロのムロヤの責任者  マシベ フジのシロの里の者 ヲウミのシロの村との連絡係り  トモ フジのシロの里の者 

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚  眼木=めぎ 眼鏡フレーム 曲げ木工房で作っている  クンヌ=イエの頭領  吊り寝=ハンモック  一本皿=長い丸太を半分に割いて作ったテーブル。一本の木から2本取れるが、一本皿と呼ばれている。  一回し=長さの単位 70㎝  半回し=35㎝ 縄文尺とも呼ばれる。  カラミツブテ・カブテ=狩りの道具。コブシ大の二つの石を紐でつなげた物。

 

 

第126話 18日目⑤

 

 

 

          ハニサのムロヤ。

 
    シロクンヌは毛皮の上に寝転がっている。
    ハニサが寄り添うように座っている。
 
ハニサ  「あー、なんか、やっと二人きりになれた!って感じだね。」
シロクン  「そうだな。昨日、ハニサは、神域ですぐに寝てしまったからな。」
ハニサ  「うん。いろいろ思い出したりして、やっぱり疲れてたのかな。」
シロクン  「ハニサもハタレから酷い目に遭っていたんだな。
        だから、ハタレに対する憎悪の情が、人一倍強かったのかも知れん。」
ハニサ  「それはあたしも思った。
      忘れてはいたけど、きっと心の奥の方には、何かがあったんだね。」
シロクン  「ハニサは護られていたのだな。」
ハニサ  「そうだね。供宴の場では、オジヌがずっと横にいてくれたんだもん。
      だからあいつら、手が出せなかったんだよ。」
シロクン  「そしてその様子を、謎の人物は見ていたのだろうな。」
ハニサ  「その人、オジヌに、よくハニサを護ったって言ったからね。
      その人も、見ててくれたんだね。
      ねえシロクンヌ、また会えるんでしょう?
      あたしシロクンヌが旅立ってしまったら、もう会えないと思っていたから、
      会いに来るって言ってくれた時、死ぬほど嬉しかったの。
      アマテルのおかげだ。」
シロクン  「あの時は、サチに諭(さと)された。
        遠慮して頼み事もして来んくせに、会いに来いと叱りつける勢いだった。
        さっきも、ずぶ濡れになってカブテの練習をしておったが・・・
        できれば来年の明り壺の祭りには戻っていたい。
        ハニサとアマテルに会いたいのはもちろんだが、
        やはり、何かを感じるんだ。」
ハニサ  「呼び寄せられたという・・・それのこと?」
シロクン  「そうだ。この村には、やはり何かがあると思えてならんのだ。
        ハニサは、明らかに護られていた。
        オジヌのような11歳など、そうそうおるものでは無いし、
        謎の人物にしても、その時居合わせたのは、単なる偶然とは思えない。
        何と言えばいいか・・・天の計らい、とでも言うのかな。
        そんなものを感じるんだ。
        もしかすると、次の祭りでも、何かがあるかもしれないだろう?」
ハニサ  「天の計らい・・・
      アユ村で綺麗な夕陽を見た時に、アユ村のカミがそんな言葉を使ってたよね・・・
      シロクンヌ、あたし、分かったよ。
      あたしが光り出したのって、シロクンヌに会ってからだよ。
      それにシロクンヌに会ってから、あたし、体が丈夫になった。
      これって、光の子を無事に産むためなんだよ。
      シロクンヌがあたしを光らせたんだ。
      その光は、子に宿った。
      天の計らいで護られていたのは、あたしと言うよりは、アマテルだよ。
      シロクンヌの子を、光の子を、あたしが無事に産むためなんだ。
      ああ! あたし幸せだ!
      シロクンヌは他の女の人を光らせてないでしょう?
      あたしだって、相手がシロクンヌでなければ、絶対に光ってないと思う。
      もしそうなら、これって、お互いに唯一無二の相手ってことでしょう?
      あたしの言ってる事、おかしい?
      でもいい。誰が何と言おうと、あたしは勝手にそう信じていられるもん。
      あたしとシロクンヌが唯一無二の相手、幸せだー!」
シロクン  「ハニサ・・・唯一無二の相手・・・ハニサとおれが・・・
        きっとそうなんだろうな。
        ハニサ、今日背負子を作っただろう?
        明日、晴れたらあれに乗せてやる。
        サチと三人で、岩の温泉に行こう。
        宿したお祝いだ。」
ハニサ  「行く! サチと三人って、スワの旅を思い出すね!」
シロクン  「湯中りするといけないから、ハニサは浴びるだけだぞ。
        そうだ、今日作った桶を持って行こう。
        おれが何度も湯を掛けてやる。」
ハニサ  「うん。ねえ、カブテの腕前を見せてね。」
シロクン  「よし、昼めしはキジバトを焼くか。」
 
 
          ハギのムロヤ。
 
ハギ  「栗実酒はまだまだあるから、遠慮無くやってくれよ。」
タカジョウ  「このイワナ、燻(いぶ)しが加わって、酒の肴に持って来いだな。」
ハギ  「二日掛けてそうとう獲ったからな。お祭りで余った分は、火棚で燻し吊りだ。」
サラ  「このオオヤマネコの毛皮の座布団、気持ちいい。」
カタグラ  「そうだろう? おれの自信作だ。」
ハギ  「この毛布、全部オコジョの冬毛だろう? ぜいたくだなあ。」
タカジョウ  「シップウに甘掴みで狩らせたから、皮には爪痕も矢穴も無いぞ。」
ナジオ  「オコジョの冬毛は、シオ村の女達の憧れの的だよ。
      しかし、イワナのとなりで火棚からスダレみたいにぶら下がってる物が、
      おれはどうも気になって・・・」
サラ  「サンショウウオ、可愛くないの?」
ナジオ  「いや、一匹くらいならどうという事も無いが・・・」
サラ  「ハギは、可愛いよね?」
ハギ  「・・・慣れなきゃ、しょうがないだろうな・・・」
カタグラ  「何匹いるんだ?」
サラ  「35匹。」
タカジョウ  「食べるのか?」
サラ  「乾燥させて、薬にするの。」
ハギ  「良かった! サラの好物って訳じゃ無いんだな。」
サラ  「私が食べると思ってたの?」
ハギ  「い、いや、思って無いさ。
     そうだ、サラはネバネバ、作り方知ってるのか?」
サラ  「知ってるよ。ツルマメ村の人から習ったから。作ってあげようか?」
ハギ  「じゃあ、今度作ってくれ。」
ナジオ  「ネバネバって何だ? タカジョウは知ってるか?」
タカジョウ  「いや、知らん。」
カタグラ  「おれも知らん。何かをくっつけるのか?」
ハギ  「食べ物だよ。オオ豆から作るんだ。
     少しネバネバしてて、臭うんだけど、くせになるぞ。」
タカジョウ  「すぐに出来るのか?」
サラ  「仕込んでから何日かかかるよ。
     何で仕込む? 枯れススキか、トチの枯れ葉か。
     それとも何か、他の葉っぱがいい?」
ハギ  「その辺はよく分からんから、サラに任せるよ。」
サラ  「分かった。明日、仕込むね。
     それからツルマメ村の人が言ってたけど、昔はオオ豆って無かったんだって。
     ツルマメを育ててるうちに、生った中の大きい豆を選んで蒔いていたら、
     そのうちにオオ豆が出来たんだって。」
ナジオ  「へー、それは知らなかった。オオ豆は塩の礼で時々シオ村に届くんだよ。」
ハギ  「みんなも試しに食ってみろよ。臭いけど美味いんだ。」
 
 
 
登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている

      

追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる アヤクンヌ      エミヌ 18歳  オジヌ 16歳 エミヌの弟  カイヌ 14歳 オジヌの弟    モリヒコ シカ村のカミ  サラ 17歳 スサラの妹 ハギとトツギとなる ヌリホツマの弟子  ナクモ 18歳 エミヌの友人  シオラム 41歳 ササヒコのすぐ下の弟 塩作りの加勢のためシオ村で暮らす 5年に一度、里帰りする  ナジオ 20歳 シオラムの息子 シオ村生まれ  タカジョウ 23歳 ワシ使い  ホコラ 洞窟暮らし 哲人  シップ オオイヌワシ タカジョウが飼っている  エニ 38歳 エミヌ姉弟の母 

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚  眼木=めぎ 眼鏡フレーム 曲げ木工房で作っている  クンヌ=イエの頭領  吊り寝=ハンモック  一本皿=長い丸太を半分に割いて作ったテーブル。一本の木から2本取れるが、一本皿と呼ばれている。  一回し=長さの単位 70㎝  半回し=35㎝ 縄文尺とも呼ばれる。  カラミツブテ・カブテ=狩りの道具。コブシ大の二つの石を紐でつなげた物。

 

 

第127話 19日目①

 

 

 

          朝の広場。

 
ハニサ  「いい天気になって良かった! サチ、風邪引かなかった?」
サチ  「おはよう。全然平気だよ。」
シロクン  「サチ、ハニサが宿したお祝いに、今日は岩の温泉に行くぞ。
        サチも一緒だ。」
サチ  「3人で? 私も行っていいの?」
シロクン  「そうだ。3人で行くぞ。ハニサは背負子だが、サチは走るんだ。
        落とし穴の水場まで休憩無しだ。できるか?」
サチ  「はい!」
カタグラ  「おはよう。どうした?サチ、嬉しそうな顔をしておるが。」
サチ  「岩の温泉に行くの。父さんと、お姉ちゃんとで。」
カタグラ  「ほう、3人で温泉か。スワに来た時みたいだな。」
タマ  「カタグラ、今夜はサチの熊をやるからね。食べにおいでな。
     テイトンポとアコも、今日には帰って来るだろうからね。
     タカジョウを見かけないが・・・」
カタグラ  「シップウの世話だ。ちょっと山に行くと言っておった。」
タマ  「それなら、寝袋は今夜には渡せると伝えておくれよ。」
カタグラ  「分かった。では遠慮なく熊を頂くとするか。油煮か?」
タマ  「油煮とアコのタレと、熊汁。足はぷるぷる煮。
     大きな足だからね、もう煮始めてるよ。」
カタグラ  「ぷるぷる煮とは豪勢だな。サチ、ご馳走になるぞ。」
サチ  「うん。」照れている。
ハニサ  「ねえ、カタグラって、基地からだと、どっちに帰っても同じ時間でしょう?
      もうこっちに住んじゃいなよ。」
カタグラ  「そうなんだ。ナクモが居るからこっちに来たいんだが、迷惑ではなかろうか?」
ササヒコ  「聞こえたぞ。何を言っておる。こっちでは誰も迷惑しやせんだろう。
       大ムロヤなら好きに使えばいい。」
カタグラ  「そうか、コノカミ、ではお言葉に甘えてたびたび世話のなると思う。
       カモなど射て、持って来るぞ。」
ハニサ  「昨日はどこに泊まったの?」
カタグラ  「ハギのムロヤだ。タカジョウとナジオとな。」
ハニサ  「ナジオは?」
カタグラ  「タカジョウについて行った。
       あいつ、熊肉を食うのを楽しみにしておったから、喜ぶだろうな。」
 
 
          落とし穴の水場。
 
    サチは一人、湧き水を頭からかぶって、汗を洗い流している。
 
ハニサ  「サチはずっと、走りながらカブテを投げてたね。」
シロクン  「ああ、大したものだ。前に投げては拾い、また投げては拾い。
        それだけかと思っていたら、横にも投げたからな。
        おれの倍くらいの距離を走っているぞ。」
ハニサ  「あの崖の所に熊が逆さ吊りになってたの?」
シロクン  「そうだ。上の樹の根本が落とし穴だ。」
ハニサ  「あ! サチが樹に登ってる!」
シロクン  「カラミツブテが、枝に絡んだのだな。」
ハニサ  「でも、首に掛けてるのは、なに?」
シロクン  「カブテだ・・・何かを採っているのか。」
 
ハニサ  「綺麗ねー! 頭に載せるんだね。サチ、ありがとう!
      シロクンヌ、どう?」
シロクン  「似合ってる!」
サチ  「お姉ちゃん、綺麗!
     野ブドウを見つけたから、お祝いに作ったの。
     光りの子のお母さんになるお祝い。虹の髪飾りだよ。」
ハニサ  「サチ!」
シロクン  「こうして見ると、ハニサは本当に綺麗だな!」
ハニサ  「もう! シロクンヌ! あたし、ふわふわしちゃうでしょ!」

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    虹の髪飾り・・・
    黄、黄緑、緑、青緑、青、青紫、紫・・・
    野ブドウは、秋にさまざまな色の実をつける。
    その実を、綺麗なグラデーションを描くように数珠つなぎにした王冠型の髪飾り。
    ただし、長持ちはしない。
 
ハニサ  「その落ち葉は、何に使うの?」
サチ  「折り葉だよ。こうしてね・・・
     ・・・はい、すずめ。」

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ハニサ  「そっくり! 上手ねー! 他にもできるの?」
サチ  「こうやって・・・
     ・・・・・はい、イノシシ。帰って、タホに作ってあげるの。」
ハニサ  「おもしろーい! 今度、折り方を教えてね。」
シロクン  「上手だな。サチは器用なんだな。
        帰りもここで休憩するから、その時にまた落ち葉を拾えばいい。」
サチ  「そうだ、父さん、あっちに大きな蚊遣りキノコ
     (サルノコシカケの一種。食べられない。)が生えてたよ。」
シロクン  「どこだ?」
 
ハニサ  「ほんとだ! おっきいね!」
シロクン  「よく見つけたなあ。今まで、誰も気付かなかったんだな。」
サチ  「樹の上から見つけたの。」
シロクン  「よし、これは帰りに採って行こう。サチのお手柄だ。」
ハニサ  「蚊遣りキノコって、塩のお礼にもなるんだよ。」
シロクン  「ああ、シオ村の辺りには、生えていないだろうな。
        似た物ならあるだろうが。
        これも、タビンドの七つ道具の一つなんだぞ。
        今だってほら、こうして持ち歩いている。
        これは小さいが、ハニサのムロヤに置いてある袋の中には、大きいのが入っている。
        あれも一度袋から出して、再乾燥させなきゃな。」
ハニサ  「旅でも使うんだ。虫よけ?」
シロクン  「夏はそうだな。なんせ火持ちがいいからな。
        枝の先を少し割いて、そこにこれを挟んで火を点けるだろう。
        ムロヤで使うならその枝を炉の所に刺すよな?
        旅ではそれを、吊り寝(ハンモック)からぶら下げるんだ。
        あとは火口(ほくち)として使ったりもする。
        乾燥させなきゃ煙が少ないから、
        山で手に入れてもすぐには役に立たないないだろう。
        だから乾燥させた物を、こうして持ち歩いている。
        さあ、ここからは、ハニサも少し歩くか。
        サチはカブテで鳥や獣を狙ってみろ。失敗してもいいからな。」
 
 
 
登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている

      

追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる アヤクンヌ      エミヌ 18歳  オジヌ 16歳 エミヌの弟  カイヌ 14歳 オジヌの弟    モリヒコ シカ村のカミ  サラ 17歳 スサラの妹 ハギとトツギとなる ヌリホツマの弟子  ナクモ 18歳 エミヌの友人  シオラム 41歳 ササヒコのすぐ下の弟 塩作りの加勢のためシオ村で暮らす 5年に一度、里帰りする  ナジオ 20歳 シオラムの息子 シオ村生まれ  タカジョウ 23歳 ワシ使い  ホコラ 洞窟暮らし 哲人  シップ オオイヌワシ タカジョウが飼っている  エニ 38歳 エミヌ姉弟の母 

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚  眼木=めぎ 眼鏡フレーム 曲げ木工房で作っている  クンヌ=イエの頭領  吊り寝=ハンモック  一本皿=長い丸太を半分に割いて作ったテーブル。一本の木から2本取れるが、一本皿と呼ばれている。  一回し=長さの単位 70㎝  半回し=35㎝ 縄文尺とも呼ばれる。  カラミツブテ・カブテ=狩りの道具。コブシ大の二つの石を紐でつなげた物。

 

 

第128話 19日目②

 

 

 

          岩の温泉。

 
シロクン  「サチ、奥はヤケドするくらい熱いぞ。気をつけろ。
        ハニサ、頭から掛けるぞ。」
ハニサ  「温かくて気持ちいい!」
サチ  「父さん、ここ、とっても深いよ。潜っていい?」
シロクン  「ああ、いいぞ。トガッタ岩があるかも知れんから注意しろ。」
ハニサ  「サチは大喜びね。」
シロクン  「ハニサ、ここに座ってみろ。
        あの岩の上から、湯を掛けてやる。」
ハニサ  「あんなに高い所から?
      待ってね、ここ?」
シロクン  「行くぞ、頭のテッペンを狙うからな。」
ハニサ  「ウワーーーー!重いーーーー!
      バチバチ来るよ。
      ねえ、今度、肩にやってみて。
      サチもこっちにおいで。
      バチバチして面白いよ。」
サチ  「深かったー。スワの湖で潜った時の倍くらいだった。」
シロクン  「サチも座れ。バチバチやるぞ。
        真っ赤っかだな。熱かったんだろう?」
サチ  「うん。楽しそう。ここ?」
シロクン  「いいか? 行くぞ!」
サチ  「アー、アー、アー、キャハハハハ!
     父さん、最後に細いので、チョロチョロチョロってやったでしょう。
     あれ、くすぐったい。」
ハニサ  「え? そんな技があるの?」
シロクン  「ハニサにも、やってやろうか?」
ハニサ  「やってみて。」
シロクン  「待ってろ。チョロで行くのなら、熱い湯を汲むか。」
 
サチ  「あー、お腹減ったー! いただきます!」
ハニサ  「美味しい! パリパリしてる。母さんが言ってたのこれね。」
シロクン  「あの時は確か、ノビルの秋芽を挟んだんだ。」
ハニサ  「母さん、シロクンヌのキジバト料理が美味しかったって、うるさく言うんだよ。
      だからあたし、バチバチやチョロチョロをやってもらった事、自慢しよう。」
サチ  「バッシャンも凄かったよ。」
ハニサ  「あれはびっくりしたね! いきなりだったから。」
サチ  「それも、あっつい湯でやられた。」
ハニサ  「そう言えばサチ、何か拾ってきてなかった? 潜った時に。」
サチ  「忘れてた。あっちに置いたんだ。
     あ!」
ハニサ  「どうしたの?」
サチ  「ヒスイ・・・」
シロクン  「どうした?」
サチ  「ヒスイの大玉。深い所に潜った時、底から拾ってきてここに置いておいたの。
     今見てみたら、穴あきヒスイの大玉だった!」
 
ハニサ  「真っ赤だよ。熱かったんでしょう? 何度も潜るからだよ。」
シロクン  「他にはこれといって落ちてなかった。」
サチ  「これだけ、誰かがここで、落としちゃったんだ・・・
     父さん、これ、どうしよう?」
シロクン  「落とし主が分かれば、返せば済むことだが・・・
        大事にしておったのだろうに。
        とりあえず、サチが持っていろ。
        これが底で拾った別の石だ。
        ヌルヌルしているだろう?
        ヒスイはヌルヌルしていなかったから、最近、落としたのかも知れん。」
ハニサ  「綺麗な緑色だから、価値が高いんでしょう?」
シロクン  「ああ、かなりの上物だ。
        加工の技術も最上格だ。
        まあそれは当たり前で、いい原石は、腕のいい職人が加工するからな。
        さあ、火の片付けをして、イオウを採って帰るか。
        帰りはのんびり行こう。
        サチ、またカブテでいろいろ狙ってみろ。」
ハニサ  「さっきは惜しかったから、今度は獲れるんじゃない?
      それから今度ね、みんなでハチの子を獲りに行こうって言ってたよ。」
シロクン  「ハニサはハチの子獲りって、やったことあるのか?」
ハニサ  「ないの。ハチの子グリッコは大好物だけど(笑)。」
 
 
          帰り道
 
ハニサ  「背負子に乗ってると見晴らしがいいから、全然眠くならないよ。」
シロクン  「ヤシムもこれなら大丈夫だな。」
ハニサ  「アハハ。そうだね。」
サチ  「父さーん、待っててー。」
ハニサ  「またキジバトを獲ったのかな?」
 
サチ  「ヤシムにお土産。綺麗でしょう?」
ハニサ  「綺麗! ユリ? 今の時期に珍しいね。
      夏のユリとはちょっと違うのか。」
サチ  「髪飾りを編んで、ヤシムにあげる。」
ハニサ  「ヤシムは喜ぶよー! サチは気が付くいい子だね。」
 
 
 
登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている

      

追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる アヤクンヌ      エミヌ 18歳  オジヌ 16歳 エミヌの弟  カイヌ 14歳 オジヌの弟    モリヒコ シカ村のカミ  サラ 17歳 スサラの妹 ハギとトツギとなる ヌリホツマの弟子  ナクモ 18歳 エミヌの友人  シオラム 41歳 ササヒコのすぐ下の弟 塩作りの加勢のためシオ村で暮らす 5年に一度、里帰りする  ナジオ 20歳 シオラムの息子 シオ村生まれ  タカジョウ 23歳 ワシ使い  ホコラ 洞窟暮らし 哲人  シップ オオイヌワシ タカジョウが飼っている  エニ 38歳 エミヌ姉弟の母 

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚  眼木=めぎ 眼鏡フレーム 曲げ木工房で作っている  クンヌ=イエの頭領  吊り寝=ハンモック  一本皿=長い丸太を半分に割いて作ったテーブル。一本の木から2本取れるが、一本皿と呼ばれている。  一回し=長さの単位 70㎝  半回し=35㎝ 縄文尺とも呼ばれる。  カラミツブテ・カブテ=狩りの道具。コブシ大の二つの石を紐でつなげた物。

 

 

第129話 19日目③

 

 

 

          曲げ木工房。

 
アコ  「また大きな蚊遣りキノコだね! サチが採ったの?」
サチ  「私が見つけたの。」
アコ  「サチの半分くらいあるよ(笑)。」
ハニサ  「アコ、お帰り。日焼けしたね。」
アコ  「ハニサも日焼けしてるよ。
     光の子を宿したんだって? おめでとう。よかったね。」
ハニサ  「ありがとう。もう誰かに聞いたの?」
アコ  「何言ってるの、シカ村は、もうその話題で持ちきりだよ。」
シロクン  「ハハハ。タマの言う通りだ。伝わるのが速い。
        ホコラとやらが、そっちに行ったのか?」
アコ  「ホコラ? ホコラは見かけなかったよ。
     シカ村とこことは、何やかやと行き来があるからね。
     狩り場も重なってるし。」
シロクン  「なるほどな。ところでテイトンポは?」
アコ  「そうだ! 昼に道中でシロクンヌのお客さんと一緒になったよ。
     マシベとトモって人。
     あと、ミヤコの人が二人。
     テイトンポは大ムロヤにその人達といると思う。
     三人ですぐに行って。」
ハニサ  「あたしも?」
アコ  「そう。テイトンポはハニサとサチと三人でって言ってたよ。」
シロクン 「分かった。スッポンは獲れたのか?」
アコ  「今、あの池に10匹いる。」
 
 
          村の入口への上り坂。
 
シロクン  「トモとマシベはイエの者だ。何かあったのかな。」
ハニサ  「ヲウミから来たの?」
シロクン  「いや、二人共フジの向こうだ。おれが次に行くと言っていた所だ。」
ハニサ  「ミヤコから人が訪ねて来るなんて、ウルシ村では初めてじゃないかな?
      サチの関係かも知れないね。」
サチ  「父さん、私、先にヤシムに髪飾りを渡して来てもいい?」
シロクン  「いいぞ。すぐ戻って来いよ。」
サチ  「はい。」走って行った。
 
 
          大ムロヤ。
 
    シロクンヌとハニサとサチが入って行くと、テイトンポと4人の客が待っていた。
 
トモ  「クンヌ、お久しぶり。元気そうですな。
     道中、テイトンポに出会いまして、案内をしてもらいました。」
マシベ  「突然押しかけまして、驚かれたことでしょうが、ご容赦を。
      我が里に、ミヤコからアマカミの御使者がやって来まして、
      クンヌに直接会って話したいと言われるので我々でお連れしました。」
シラク  「クンヌ、お目にかかるのは初めてですな。
      ミヤコでシロのムロヤを仕切るシラクと申します。
      こちらがアマカミからの御使者のカヤです。」
カヤ  「シロクンヌ、話には聞いていたが、堂々たる若者。
     シロのイエのクンヌは先代も立派であったが、当代も引けを取らんな。
     マシベやトモの言う通りの御仁だ。」
シロクン  「遠い所まで足を運んでいただき・・・」
カヤ  「いやシロクンヌ、硬い挨拶は抜きで行こう。
     さっきテイトンポから聞いて驚きの連続でな。
     早くアヤクンヌの横の美人を紹介してくれんか。
     ハニサなのだろう?」
 
カヤ  「シラク、こんな器、見たことあるか?」
シラク  「いや、無い。抜きん出て素晴らしい。ミヤコにも、北の島にも無いな。」
カヤ  「ハニサ、今夜シロクンヌに大事な話をする。それはハニサにも関係のあることだ。
     それにアヤクンヌ。ここではサチと呼べばよいのだな?
     サチとハニサにも話に加わってほしい。
     タカジョウも交えて、おれとシラク、その6人で話したいのだ。
     ハニサのムロヤを使わせてはもらえぬか?」
ハニサ  「いいよ。でもあたしも関係あるって、どんな事なの?」
カヤ  「話し始めると最後まで話さねばならん。
     だから今夜まで待ってくれぬか。」
ハニサ  「分かった。今はタカジョウが居ないしね。」
カヤ  「テイトンポ。さっきから難しい顔をして黙っておるが、後でおぬしにも頼みがある。」
テイトンポ  「うん。いや、スッポンがどうなっておるかが心配でな。
        おれは、もう行っていいか?」
カヤ  「それは気が付かんで悪かった。
     まだクズハの顔も見ておらんのだったな。
     色々と案内を有難う。それではご苦労様。」
テイトンポ  「シロクンヌ、シジミグリッコの配給はあったか?」
シロクン  「忘れておらんのだな。あったぞ。クズハが受け取った。」
カヤ  「さっきコノカミに会って挨拶したのだが、
     おれがアマカミの遣いだということは伏せてある。
     隠す必要は無いが、いらん気を遣わせては悪いからな。
     ところでサチだが、おぬしの子の一人と娶(めあ)わせるというのは間違いないか?」
シロクン  「間違いない。おれもまだ息子には会っておらんのだが、
        三人おれば一人くらいは物になりそうなのもおるだろうから、
        その者と娶わせるつもりだ。」
マシベ  「クンヌは御存知無いだろうが、三人共に立派ですぞ。並の9歳ではござらん。」
シロクン  「そうか。まあいい。サチが好きなのを選べばいい。」
カヤ  「ハハハ。サチは買われておるな。
     こんな大きな熊を捕まえるくらいだからな。」
シロクン  「キジバトも、2羽狩ったな?」
サチ  「はい。」
カヤ  「それは頼もしい。ではサチを娶った者は、アヤのイエに入るのだな?」
シロクン  「当然、そうなるな。何か問題でもあるか?」
カヤ  「問題などあるもんか。その逆だ。
     サチがいて、シロクンヌの子がおれば、アヤのイエは安泰だ。」
シラク  「こっちでは皆が眼木というのを掛けておって驚いたのだが、
      サチ、持っておったら掛けてもらえんか?」
サチ  「はい。持っています。」
 
    サチは、真っ赤なカエデの葉を付けた眼木をかけた。
    四人は驚きの声を上げた。
 
シラク  「まるで別人だ!」
 
 
 
登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている

      

追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる アヤクンヌ      エミヌ 18歳  オジヌ 16歳 エミヌの弟  カイヌ 14歳 オジヌの弟    モリヒコ シカ村のカミ  サラ 17歳 スサラの妹 ハギとトツギとなる ヌリホツマの弟子  ナクモ 18歳 エミヌの友人  シオラム 41歳 ササヒコのすぐ下の弟 塩作りの加勢のためシオ村で暮らす 5年に一度、里帰りする  ナジオ 20歳 シオラムの息子 シオ村生まれ  タカジョウ 23歳 ワシ使い  ホコラ 洞窟暮らし 哲人  シップ オオイヌワシ タカジョウが飼っている  エニ 38歳 エミヌ姉弟の母   カヤ アマカミの使者  シラク 北のミヤコのシロのムロヤの責任者  マシベ フジのシロの里の者 ヲウミのシロの村との連絡係り  トモ フジのシロの里の者 

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚  眼木=めぎ 眼鏡フレーム 曲げ木工房で作っている  クンヌ=イエの頭領  吊り寝=ハンモック  一本皿=長い丸太を半分に割いて作ったテーブル。一本の木から2本取れるが、一本皿と呼ばれている。  一回し=長さの単位 70㎝  半回し=35㎝ 縄文尺とも呼ばれる。  カラミツブテ・カブテ=狩りの道具。コブシ大の二つの石を紐でつなげた物。