縄文GoGo

5000年前の中部高地の物語

縄文GoGo旅編 第28話 7日目①

 

 

 

          早朝のアヅミ野。

 
    野営所では火が焚かれ、木の皮鍋が掛けられている。
    辺りは、まだ薄暗い。
 
タカジョウ  「昨夜から冷え込んでいるが、やっぱり山は雪をかぶっておるな。」
サチ  「綺麗!この辺りはまだ日が差してないのに、山だけが朝日を浴びて真っ赤だ!」
ミツ  「寒いね。あの山々と御山って、どっちが高いんだろう?」
シロクン  「どうだろうな・・・同じ位のような気もするが・・・
        おそらく御山にも雪が降ったのだろうな。
        雪の御山も、ウルシ村から見てみたかったが。
        サチとミツ、そら、クルミだ。
        ここまで来れば、もう湖も近い。
        筏(いかだ)で渡って、昼には向こう側にいる予定だ。」
サチ  「今夜は二つの湖の間にある村に泊まるの?」
シロクン  「そうだ。アオキ村で厄介になる。筏の礼もせねばならんからな。
        夕飯に、シオユ村でもらったシシ腿の塩漬けを振舞おうと思うがいいかな?」
タカジョウ  「ああそれがいい。大きい村なのか?」
シロクンヌ  「いや、村人の数はそれほどでもない。子供も入れて20人位だ。
        だが、ムロヤは多いぞ。旅人用だな。
        おそらくイワジイも、何日か前に泊ったはずだ。」
タカジョウ  「そのイワジイだが、台風をどこでやり過ごしたのかが少し心配でな。」
シロクン  「ふむ・・・
        シオユ村でもホコラからも、イワジイの話は出なかったからな。」
タカジョウ  「まあジイの事だから、岩陰でも見つけてそこに避難しただろうが・・・
        鍋が煮えた。カジカ汁だ。キノコもたっぷり入ってる。あったまるぞ。」
サチ  「美味しい。私、カジカの夜突きって、昨日初めてやった。」
ミツ  「昨日の夜は寒かったのに、サチは平気で川に入るんだから、さすがだよ。」
タカジョウ  「それもそうだが、夜見るカジカは岩と区別がつかんから見つけにくいのだが、
        サチはあっさり見つけるんだよな。」
シロクン  「夜はサチの眼が頼りだ(笑)。
        食べ終わったら、昨日のヤマドリとムササビ、
        それからこのカジカの魂送りをして出発だ。
        サチとミツで、骨を埋める穴を掘ってくれな。」
タカジョウ  「おれはシップウの世話をして来るよ。
        水鳥を怖がらせてもいかんから、今日は腕に乗せて移動だ。」
 
 
 
          南の湖の手前。
 
 
    シップウはタカジョウの腕に乗っている。
 
サチ  「ねえ父さん、これって何だろう?」

シロクン  「何かの道具だろうが・・・深く埋まっていたのか?」
タカジョウ  「骨を埋める穴から出て来たのか?」
ミツ  「そう。木の棒で掘ってたら、半回し(35cm)くらいの所に埋まってた。」
サチ  「そう言えば、穴の近くに、あちこちで掘った跡があったよね?」
ミツ  「うん。誰かが最近、掘ったのかも知れない。」
タカジョウ  「ああ、少し離れた所に焚き火の跡があったから、
        狩りの合間に煮炊きした者でもいたんだろう。」
シロクン  「だがサチが掘った場所は、堀り跡ではないんだろう?」
サチ  「そう。だからずっと前から埋まってたんだと思う。」
シロクン  「昔の人の道具で、木のニギリと組み合わせて使っていたとしても、
        木は腐って土に還っているだろうし・・・」
タカジョウ  「思い付くのは、革なめしの道具くらいか・・・
        すぐそばが川だったろう。
        何かの作業場があったのかも知れん。」
シロクン  「お、ほら、森を抜ける。湖が見えて来たぞ。」
ミツ  「ホントだ。水鳥がいっぱいいる。
     あそこだけ葦が生えて無いんだ。船着き場になってるんだね?」
サチ  「丸木舟も筏も陸揚げされてて、屋根の下に入ってる。
     でも誰もいないね。ミツ、見に行こう!」
ミツ  「うん!」
シロクン  「ははは、走って行った。」
タカジョウ  「水鳥の数から見ても、ここは魚が多そうだな。
        葦の水間でバシャバシャと音がするが、あれは魚だろう?
        鯉か何かだな。
        筌(うけ)を仕掛けておけば、半日でそこそこ獲れそうだ。」
シロクンヌ  「あそこに竿が立っているが、多分、あれは筌を仕掛けた目印だぞ。」
タカジョウ  「そうかも知れん(笑)。
        なるほどなあ。綺麗に整備された船着き場だ。
        アオキ村の衆が、手を掛けているのか?」
シロクン  「それもあるし、塩渡りの渡し人やタビンドも、しきたりは心得ている。
        舟が長持ちするように大事に扱うし、乗って来た舟の置き場も決まっているんだ。」
サチ  「父さん、どの舟に乗るの?」
シロクン  「その筏に乗って行くか。
        あそこに丸太が積んであるだろう。
        あれを並べて、水場までのコロの道を作るぞ。」
ミツ  「水場まで石敷きの道が出来てる。
     コロが転がりやすいようにしてあるんだね。
     サチ、一緒に丸太を運ぼう!」
サチ  「うん。棹(さお)や櫂(かい)もいっぱい置いてあるよ。」
シロクン  「この辺りが丁度半分くらいだろうな、カワセミ村までの道のりの。
        これは南の湖で、明日は北の湖を渡る。」
タカジョウ  「そこから先が、何度も山越えが続くのだな?」
シロクン  「ああそうだ。
        その山越えだがな、なかなか面白い物を目に出来るぞ。」
タカジョウ  「面白い物?
        今度はタヌキが酒を造っておるのか?」
シロクンヌ  「ははは。そうではないが、まあ、行ってみてのお楽しみだ。」
タカジョウ  「ん?向こうから舟で一人、こっちに来るが・・・」
シロクン  「漕ぎ慣れたようすだ。村の者だろう。」
タカジョウ  「筌の仕掛け主かも知れんぞ(笑)。」
 
    その時、湖から「おーい、シロクンヌー」と声がした。
 
シロクン  「誰だ?」
タカジョウ  「知り合いか?」
シロクン  「あれは・・・マサキだ。タビンド仲間のマサキ(男・28歳)だ。
        おれはマサキの舟で、カワセミ村を出たんだよ。」
サチ  「アケビ村に寄る前の話?」
シロクン  「そうだ。マサキと二人、カワセミ村から舟で出て、西に向かった。
        おれだけが途中で降りて、アケビ村に寄って、そこでホコラに出会ったんだ。
        その時はホコラではなく、ミノリと名乗っていたが。
        そこで明り壺の祭りの話を聞き、ウルシ村に行ったんだよ。
        おーい、マサキーー!」
 
 
          ━━━━━━ 幕間 ━━━━━━
 
縄文人の宗教観について。
 
サチが掘り出した石器は「トロトロ石器」と呼ばれ、異形局部磨製石器とも呼ばれます。
シロクンヌの頃よりも3000年昔の、今から8000年前頃に作られたと思われます。
出土地は、東北南部から九州におよびます。
何のために作られたのかは分かっていません。
儀礼用、祭祀用とする見解が有力なのですが、使途不明品は何でもかんでも祭祀用とみなすのが考古学アルアルですので、私としましてはその立ち位置には立ちたくはなく、実用的な何かであったと思いたいところですが、では何なのだ?と言われますと見当がつきません。
ではなぜその立ち位置を好まないかと言えば、縄文人は、言われるほどには呪術的ではなかったのではないかと考えるからです。
 
これから何回かに渡り、縄文人の宗教観について考察してみたいと思っています。
もちろんそれは私自身の独断であり、世間の認識とは隔たりがあったりするでしょう。
ただ「縄文GoGo」の物語は、その私の独断の考察に基づいて描かれている訳ですし、このあたりで一度、作者が思う縄文人の宗教観を開示しておいた方がいいと考えました。
 
そこで早速、一部を述べてみたいと思います。
まずアイヌの宗教観をそのまま縄文人に当てはめる人達がいますが、私はその考え方には反対です。
理由は簡単、縄文時代アイヌは日本に居なかったからです。
アイヌの起こりは、平安末期から鎌倉時代に掛けてだと考えます。
その頃寒冷化が生じ、オホーツク人が南下し北海道に渡来して、縄文人の流れを汲む擦文文化人と交わったのがアイヌ文化の始まりだと考えます。
他に北海道渡来の理由としては、モンゴル帝国に攻められたからだとする説もあります。
とにかく渡来時点で、彼らは独自の文化、宗教、言語を持ち合わせていたはずです。
 
厳然たる事実として、アイヌ以前に北海道には先住民がいました。
縄文以前の旧石器時代からヒトが住んでいたのだから当然ですよね。
ちなみに、北海道最古の遺跡は3万年前のものだとされています。
アイヌが先住民だというのは、ナンセンス極まりないですね。
アイヌ文化と縄文文化には共通点もあるでしょうが、異なる文化であると私は思っています。
ですからアイヌ語を基に縄文語を推測するやり方にも、発音、文法共に、大いなる疑問を持っています。
 
それから東北のマタギに関しても、宗教観という意味では縄文人とは違いがあると思います。
まず第一に、マタギの家には仏壇があるでしょう?
お葬式は仏式の人が多いと思います。
天台宗真言宗日光権現などの仏教の影響を受けていますから、命を頂く、命に感謝する、と言う観念が強い。
ですから獲物を丁重に扱いますし、射殺した後のしきたりを重んじます。
忌み事も多く、禁忌を破る事は絶対にしません。
どちらかと言えば、狩猟行為は日常ではなく非日常、祭事に近い位置づけではないかと思われます。
 
これに対し縄文人の狩りは、日常の一部だったような気がするのです。
だって彼らは、完全なる狩猟民と思われる旧石器人の末裔ですから。
獲物の弔いや送りの行為はあったと思いますが、仏教思想はありません。
宗教上のタブーの数は、縄文人の方が少なかったと思っています。
 
このように、私としましてはアイヌマタギの思想や文化を、そのまま縄文人に当てはめる事はしたくありません。
彼らには、彼ら特有の宗教観があったはずです。
そして、実は縄文人の宗教観が、現代日本人に大変な影響を及ぼしていると私は考えているのですが、その辺のところを追々述べていこうかと思っている次第です。

 

 
登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女 本名はスス  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている      
追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる アヤクンヌ      エミヌ 18歳  オジヌ 16歳 エミヌの弟  カイヌ 14歳 オジヌの弟    モリヒコ シカ村のカミ  サラ 17歳 スサラの妹 ハギとトツギとなる ヌリホツマの弟子  ナクモ 18歳 エミヌの友人  シオラム 41歳 ササヒコのすぐ下の弟 塩作りの加勢のためシオ村で暮らす 5年に一度、里帰りする  ナジオ 20歳 シオラムの息子 シオ村生まれ  タカジョウ 23歳 ワシ使い  ホコラ 洞窟暮らし 哲人  シップ オオイヌワシ タカジョウが飼っている  エニ 38歳 エミヌ姉弟の母   カヤ アマカミの使者  シラク 北のミヤコのシロのムロヤの責任者  マシベ フジのシロの里の者 ヲウミのシロの村との連絡係り  トモ フジのシロの里の者  イナ 30歳 シロクンヌの姉弟子 杖の達人  コヨウ 15歳 タカジョウの妹  ゴン 洞窟で飼われている仔犬  ミツ 11歳 アユ村の少女  カザヤ 24歳 アユ村の若者 カタグラの友人  テミユ 22歳 カザヤの妹  タガオ 32歳 ミツの父親 目がみえない  ゾキ 14歳 オロチの姉 シップウの攻撃で背中に傷を負う オロチ 12歳 ゾキの弟 シップウの攻撃で顔に傷を負う  イワジイ 60歳 黒切りの里の山師 ヌリホツマの兄  シロイブキ 28歳 シロクンヌの兄弟
追加(旅編)スズヒコ 65歳 リンドウ村のリーダー  タジロ 21歳 リンドウ村の若者  セリ 11歳 リンドウ村の娘  レンザ 14歳 道中で出会った少年。足の骨が折れていた。  レン レンザが飼っているオオカミ  シシヒコ 35歳 シシガミ村のカミ  サタキ 25歳 シシガミ村の青年  ミワ 33歳 シシヒコの奥さん。  シュリ 21歳 シシガミ村の娘。レンザの宿。  ユリサ 22歳 シシガミ村の娘。一日だけのタカジョウの宿。  セジ 20歳 シシガミ村の青年。ゾキのシモベ。

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚  眼木=めぎ 眼鏡フレーム 曲げ木工房で作っている  クンヌ=イエの頭領  吊り寝=ハンモック  一本皿=長い丸太を半分に割いて作ったテーブル。一本の木から2本取れるが、一本皿と呼ばれている。  一回し=長さの単位 70㎝  半回し=35㎝ 縄文尺とも呼ばれる。  カラミツブテ・カブテ=狩りの道具。コブシ大の二つの石を紐でつなげた物。  ボウボウ=樹皮ラッパ 法螺貝よりも高い音が出る。  薙ぎ倒しの牙・薙ぎ倒しイノシシの牙=ナウマン象の象牙  バンドリ=背負子などを背負った時に、肩と背中を保護する当て物。衣服の上からバンドリを装着し、それから背負子を着ける。  黒石糊アスファルト

 

 

縄文GoGo旅編 第27話 6日目③

 

 

 

          ウルシ村。広場。

 
  旗塔の立ち上げを無事に終え、まだ陽は高いが、祝いとねぎらいの宴が始まった。
  広場中央の焚き火の周りでは、様々な肉が焼かれている。
  イノシシの熾火焼き、鴨の丸焼き、ムササビの姿焼き・・・
  などなど、焼き上がった物から各自が自由にむしり取って食すのだ。
 
ヤッホ  「そらハニサ、鴨肉をむしってやったぞ。いい感じに焼けてるだろう。
      アニキ達、もう海に着いた頃か?」
ハニサ  「ありがとう。まだだと思うよ。たぶん、二つの湖の辺りじゃないかな。」
ヤシム  「ヤッホ、姿焼き、半分コしよう。あそこの、焼けてるでしょう。
      あ~あ、でもサチが心配。無茶してなければいいけど・・・」
ヌリホツマ  「なに心配いらん。祖先の矢じりがサチを護っておる。」
ヤッホ  「そうだよ。それにアニキが一緒なんだぜ。春には元気に戻ってくるさ。
      熱っちー!姿焼きの半裂きって難しいな。」
オジヌ  「それにサチだって強いよ。
      何てったって、あの薙ぎ倒しの牙を潜って取って来たんだから。
      このイノシシ、パリッパリだ。」
コヨウ  「あれにはお爺ちゃん(イワジイ)も驚いてたよね。
      ホントだね!パリパリしてて美味しい!」
ササヒコ  「おお、コヨウ、ここにおったか。探しておったんだ。
       みんな、大いに食べて飲んでくれよ!
       カタグラが栗実酒をたっぷり差し入れしてくれおった。
       とにかく今日は目出度い。
       旗塔も無事に立ち上がったし、とうとう我が村で温泉が見つかったからな。       
       それでコヨウ、明日からだが、温泉掘りの指図を頼んでよいか。
       テイトンポが掘り頭だ。オジヌとヤッホ、手を貸してやれ。」
イナ  「あたしも手伝うのよ。」
テイトンポ  「温泉の事はおれもよく知らん。何か用意する物とかあるのか?」
コヨウ  「兄さんからカスミ網は教わったでしょう?」
ヤシム  「あれ、カスミ網って言うんだ。鳥がつかんで離さない網でしょう?
      畠の横に立てて、時々使ってるやつね。」
コヨウ  「そう。その網で、鳥を生け捕りにしておくの。」
ヌリホツマ  「瘴気(しょうき)じゃな?」
サラ  「そう言えば、瘴気が出る温泉があるって聞いたことがある。
     瘴気に中る(あたる)と、倒れるって聞いたよ。」
ハニサ  「ショウキって何?」
コヨウ  「地が吐き出す、悪い息。
      それを吸い込むと、倒れてそのまま死んじゃうの。」
ハギ  「岩の温泉って、硫黄(いおう)のニオイが凄いだろう。
     ああいう風に、温泉場では、地がいろんな息を吐くんだよ。」
ハニサ  「そうか。粘土掘りの時にもニオイはするもん。
      地はいろんな息を出すんだね。」
コヨウ  「だから掘る時は、風上に立つの。
      そして周りには、鳥かごに生きた鳥を入れて置いておく。」
ササヒコ  「瘴気が出れば、鳥が倒れるのだな。」
コヨウ  「そう。鳥の様子がおかしくなったら、すぐに息を止めて逃げるの。
      とにかく息を止めて、出来るだけ離れるのが大事。」
ヤシム  「なんだか怖いね。ヤッホ、逃げる時に転ばないでよ。」
ハギ  「ヤッホなら転ぶだろうな。」
サラ  「転びそう。」
ハニサ  「大抵の時、ヤッホは転んでるもん。」
ヌリホツマ  「転びよるじゃろうな。」
ヤッホ  「なんだよヌリホツマまで!予言めいて聞こえるじゃないか!」
イナ  「アハハ、転んだって息を吸わなきゃいいのよ。
     あたしが助けに行ってあげるから、息を止めて待ってなさいよ。」
テイトンポ  「ヤッホが転ぶのはしょうがない。転んでもあわてんことだ。」
オジヌ  「おれ、ヤッホが転んだのを見て、噴き出しちゃわないかって心配してる。」
コヨウ  「絶対笑っちゃダメだよ。息が続かなくなっちゃうから。」
ヤッホ  「なんだよみんなして!おれは転ばないよ!」
 
 
カタグラ  「そら、マユ、注いでやる。栗実酒はたっぷりあるからな。」
マユ  「ありがとう。ソマユもこっちの暮らしに慣れたみたいね。」
ソマユ  「うん。毎日楽しいよ。
      でも湖が見えないのが、ちょっと寂しいかな。
      だけどその代わりに、御山が綺麗だからね。朝なんて凄く綺麗!」
シロイブキ  「しかし豪勢な宴だなあ。こんなのは、10年振りだ。」
ムマヂカリ  「ここに熊肉が加わっておればなあ。
        そうだ、クマ狩りだが、いつ頃の予定だ?
        おれも参加させてくれ。
        シロクンヌが放った熊刺しという技をおれは見ておらんのだ。
        シロイブキ、見せてくれよ。」
シロイブキ  「おおいいぞ。おれもムマヂカリの投げ槍が見てみたい。
        では四日後でどうだ?
        夜は満月だ。ムササビ狩りをするぞ。」
カタグラ  「おおいいな。その後、洞窟で宴だ。
       ムマジカリは泊って行け。
       そうだ、タヂカリも連れて来たらいい。」
タヂカリ  「父さん、ぼくも行きたい!」
タガオ  「タヂカリは6歳か?この先が楽しみだな。」
 
 
クマジイ  「アコや、つわりは良うなったか?」
アコ  「前ほどじゃないけどね、まだ肉はチョット・・・」
タマ  「キノコ汁だって美味しいからさ、トチ団子だって特製さね。」
マシベ  「確かにこのトチ団子は味が良いな。」
クズハ  「エミヌが何かを混ぜてたのよ。あれ、何かしら?」
スサラ  「エミヌは今、醤(ひしお)作りに必死なのよ。
     なにか新しい味の物を見つけたのかも知れないわね。」
ナジオ  「あ!クマジイがいた。なんでこんなに離れた所にいるの?」
クマジイ  「そりゃあ、アコとスサラが肉の焼ける煙が苦手じゃからじゃ。」
ナジオ  「ああ、そうだったね。テミユが森小屋のことを聞きたいってさ。」
テミユ  「樹の上に小屋を建てるんでしょう?はかどってるの?」
クマジイ  「上と言うても、てっぺんではないぞ。
       床は張り上がっておるが、ちょうど樹の中ほどの位置じゃな。
       樹の枝を利用して小屋を作るんじゃよ。」
クズハ  「その床の高さってどれくらいなの?」
マシベ  「送り杉のてっぺんと同じくらいではないかな。」
テミユ  「じゃあ樹の高さは、送り杉の倍ってことね。」
ナジオ  「大きいな。何の樹?」
クマジイ  「ケヤキじゃ。森で一番の巨木じゃよ。」
カイヌ  「ぼく、さっき送り杉に登ったでしょう。
      そこから見えたよ。遠くに一本だけ大きな樹があるの。」
マシベ  「枝から枝にハシゴを渡して登るのだが、段数で言えば床まで50段位だ。」
アコ  「すごいな。今度見に行こう。登ってもいいの?」
テミユ  「私も登ってみたい!でも下から見られちゃう?」
マシベ  「登ってくれていいぞ。
      女衆が登る時には、男着に着替えてもらうことにしたのだ。
      見られるってのもあるが、そもそも女着では危ないのでな。」
クマジイ  「小屋よりも上にの、今、見晴らし台を作っておるところじゃ。
       40段上じゃぞ。
       出来上がりを見れば、シロクンヌとて驚くじゃろうな。
       どうせなら、シロクンヌを魂消させるものを造らにゃあ。」
スサラ  「わー、下を見たら怖そうね。」
タマ  「あたしゃ高い所は苦手さね。」
アコ  「あたしは絶対登る!」
テミユ  「私も!ナジオ、一緒に登ろう!」
ナジオ  「お、おれはどっちかと言うと、タマ寄りなんだよな・・・
      下が海ならいいんだけど・・・」
 
 
エニ  「そうだったの。エミヌ、あなたいい人見つけたじゃない。」
エミヌ  「えへへ。」
カザヤ  「それで、おれはアユ村を離れられないから、エミヌにアユ村に来てもらいたいんだ。」
エニ  「近いし、いいじゃない。私も遊びに行っていいかしら?」
カザヤ  「もちろん大歓迎だ。ナジオが造った舟で、湖の向こう岸に渡ってもいいよ。」
エニ  「素敵ねー!あなた達、早く一緒になっちゃいなさいよ。
     冬に湖が凍ったりするんでしょう?氷の上を歩けるのかしら。
     見晴らし広場から見る夕陽って綺麗だって言うわね。
     早く一緒になりなさいよ。私、アユ村に行ってみたかったのよ。
     あ!裏の温泉に、いたずら好きの神坐がお祀りしてあるそうね!
     わざとお供えしなかったらどうなるんだろう。試した人っている?
     テイトンポとクズハも誘ってみようかしら。
     テイトンポは絶対に行くって言うわね。
     シジミグリッコを食べたいはずだから。
     えっと、まずはエミヌの荷物をまとめて、オジヌに運ばせればいいわね・・・」
 

 

 
登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女 本名はスス  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている      
追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる アヤクンヌ      エミヌ 18歳  オジヌ 16歳 エミヌの弟  カイヌ 14歳 オジヌの弟    モリヒコ シカ村のカミ  サラ 17歳 スサラの妹 ハギとトツギとなる ヌリホツマの弟子  ナクモ 18歳 エミヌの友人  シオラム 41歳 ササヒコのすぐ下の弟 塩作りの加勢のためシオ村で暮らす 5年に一度、里帰りする  ナジオ 20歳 シオラムの息子 シオ村生まれ  タカジョウ 23歳 ワシ使い  ホコラ 洞窟暮らし 哲人  シップ オオイヌワシ タカジョウが飼っている  エニ 38歳 エミヌ姉弟の母   カヤ アマカミの使者  シラク 北のミヤコのシロのムロヤの責任者  マシベ フジのシロの里の者 ヲウミのシロの村との連絡係り  トモ フジのシロの里の者  イナ 30歳 シロクンヌの姉弟子 杖の達人  コヨウ 15歳 タカジョウの妹  ゴン 洞窟で飼われている仔犬  ミツ 11歳 アユ村の少女  カザヤ 24歳 アユ村の若者 カタグラの友人  テミユ 22歳 カザヤの妹  タガオ 32歳 ミツの父親 目がみえない  ゾキ 14歳 オロチの姉 シップウの攻撃で背中に傷を負う オロチ 12歳 ゾキの弟 シップウの攻撃で顔に傷を負う  イワジイ 60歳 黒切りの里の山師 ヌリホツマの兄  シロイブキ 28歳 シロクンヌの兄弟
追加(旅編)スズヒコ 65歳 リンドウ村のリーダー  タジロ 21歳 リンドウ村の若者  セリ 11歳 リンドウ村の娘  レンザ 14歳 道中で出会った少年。足の骨が折れていた。  レン レンザが飼っているオオカミ  シシヒコ 35歳 シシガミ村のカミ  サタキ 25歳 シシガミ村の青年  ミワ 33歳 シシヒコの奥さん。  シュリ 21歳 シシガミ村の娘。レンザの宿。  ユリサ 22歳 シシガミ村の娘。一日だけのタカジョウの宿。  セジ 20歳 シシガミ村の青年。ゾキのシモベ。

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚  眼木=めぎ 眼鏡フレーム 曲げ木工房で作っている  クンヌ=イエの頭領  吊り寝=ハンモック  一本皿=長い丸太を半分に割いて作ったテーブル。一本の木から2本取れるが、一本皿と呼ばれている。  一回し=長さの単位 70㎝  半回し=35㎝ 縄文尺とも呼ばれる。  カラミツブテ・カブテ=狩りの道具。コブシ大の二つの石を紐でつなげた物。  ボウボウ=樹皮ラッパ 法螺貝よりも高い音が出る。  薙ぎ倒しの牙・薙ぎ倒しイノシシの牙=ナウマン象の象牙  バンドリ=背負子などを背負った時に、肩と背中を保護する当て物。衣服の上からバンドリを装着し、それから背負子を着ける。  黒石糊アスファルト

 

 

縄文GoGo旅編 第26話 6日目②

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 台風で折れる前の旗塔。その他カテゴリーの『ウルシ村  絵コンテ』参照
 
旗塔の建て方は、地面に横倒しで組んだ物を、手前の『送り杉』を利用して立ち上げる。
横倒しの旗塔上部に縄を何本も結び、そのいくつかを送り杉の上部の枝に掛ける。
枝を経由した縄は、地面にまで延ばす。
地面に立ち縄を引けば、旗塔の頭が持ち上がる仕組みになっている。
支点となる送り杉の枝には、枝の保護と滑りやすくする目的で、割いた竹が巻き付けられていた。
 
 
          ウルシ村。旗塔の立ち上げ。
 
ササヒコ  「では、組分けをする。
       まずクマジイ、音頭取りだ。『送り杉』に登って出来るだけ高い場所から頼む。」
クマジイ  「おいさ、マシベ、手伝うてくれ。」
マシベ  「承知した。早速登ろうか。」
ササヒコ  「オジヌとカイヌ、送り杉に登って滑り竹にイノシシの脂を塗ってくれ。」
オジヌ  「分かったよ。カイヌ、命綱を忘れるなよ。」
ササヒコ  「テイトンポは引き上げ縄組の頭(かしら)を頼む。
       クマジイの指示に従って、組の衆に指示してくれ。
       女衆もここに入ってくれ。」
テイトンポ  「引き上げ縄は6本だ。
        まず女衆が適当に6本に分散してみてくれ。その間に男衆が入る。
        引く時は上を見るのではなく、自分の足元を見るのだぞ。
        転ばぬようにな。」
ササヒコ  「それから、東の縄頭がハギ。西の縄頭がイナ。
       これは立ち上げの最中に旗塔が左右に傾かんように、調整縄を引く役目だ。
       クマジイやマシベの指示に従ってくれ。
       縄は、東西共に3本ずつあるから、息を合わせてやってくれ。」
ハギ  「カタグラとナジオ、手伝ってくれ。」
イナ  「それならこっちは女でいこうかしら。」
エミヌ  「私やってみたい。ナクモも一緒にやろうよ。」
イナ  「それなら、エミヌ、ナクモ、マユ、コヨウでいくわ。」
ササヒコ  「さて、引き上げ縄で旗塔の頭がある程度持ち上がった後だが、
       仕上げは立ち上げ縄を引いて立ち上げる。
       立ち上げ縄頭はムマヂカリだ。
       ムマヂカリはそれまで、わし達と根本番だ。」
ムマヂカリ  「おお、いい役目だ。」
テイトンポ  「立ち上げ縄に移る時、引き上げ縄は、杉の根元に結び付ければよいのだな?」
ササヒコ  「そうだ。その後、ムマヂカリに合流してくれ。
       その辺の判断は、テイトンポに任せる。」
テイトンポ  「カザヤ、クズハ、エニ、結び付け係りを頼む。」
ササヒコ  「杭への縛り組の頭はわしだ。シロイブキ、手伝ってくれよ。」
シロイブキ  「了解した。まずは旗塔の根本がズレんようにしておくのだな?」
ササヒコ  「そうだ。途中、何度も仮結びをする。
       テイトンポとオジヌとカイヌも、引き上げが済んだらこちらに合流してくれ。
       それから、ヤッホは子供衆とワッショイ踊りだ。」
ヤッホ  「チビ達、威勢よくいくぞ。」
ササヒコ  「スサラとアコとハニサもワッショイ踊り組に入ってくれ。」
アコ  「ちぇー、あたしも引きたかったな。」
ヤッホ  「何言ってるんだ。ワッショイ踊りが肝なんだぞ。
      ワッショイ踊りの出来栄えで、はかどり方が違うんだから。」
テイトンポ  「その通りだ。ヤッホも良い事を言うな。」
ヤッホ  「そら見ろ。師匠がそう言ってる。」
アコ  「分かったよ。ヤッホのマネして踊ればいいんだな。」
ハニサ  「ヤッホ踊りのマネは・・・チョット恥ずかしいかも・・・」
スサラ  「そうよね・・・」
ヤッホ  「何言ってる。おれのクネリなんて、そう簡単にマネできるもんか。」
ササヒコ  「ハハハ、好きに踊ってくれればよい。
       それから、ヌリホツマ、歌い上げを頼む。
       みんな、配置に付いてくれ。」
 
 
ヌリホツマ  「おーよーたーちーあーげーーー」 
ヤッホ  「ワッショイ!ワッショイ!ワッショイ!ワッショイ!・・・」
クマジイ  「引き上げ始めーーー」
テイトンポ  「ゆっくり引き始めろーー」
ヌリホツマ  「ちーのーみーたーまーとーきーのーみーたーまーとーひーのー・・・」
アコ  「ワッショイ!ワッショイ!」
ハニサ  「ワッショイ!ワッショイ!」 
クマジイ  「テイトンポ、引けーーー」
テイトンポ  「引くぞーー、足元に気をつけろーー」
タマ  「おおさ、おおさ・・・」
クマジイ  「東と西ーー縄を張れーーー」
タヂカリ  「ワッショイ!ワッショイ!」
タホ  「ワッショイ!ワッショイ!」
ササヒコ  「よし!仮括りを始めるぞ。ムマヂカリ、立ち上げ縄に行ってくれ。」
ヌリホツマ  「とーこーよーくーにーのーなーかーにーあーりーてー・・・」
テイトンポ  「ゆっくりと杉の根本に戻るぞーー引きながらだーー」
マシベ  「イナの組ーー少しゆるめてくれーー」
カザヤ  「3本は結び終わった。あと3本だ。」
テイトンポ  「ヤシムとソマユとサラの列は、シカダマシに合流だ。」
ソマユ  「シカダマシって?」
サラ  「ムマヂカリのあだ名。」
ヤシム  「鹿笛が上手だから付けられたみたい。」
ムマヂカリ  「ゆっくりと、後ろに引きさがってくれ。転ぶなよ。」
クマジイ  「東西の組ーー南側に寄ってくれーーい」
マシベ  「よし、綺麗な三つ巴になったぞ。」
クマジイ  「ムマヂカリーーそのまま引くんじゃーーー」
スサラ  「ワッショイ!ワッショイ!ワッショイ!・・・」
ササヒコ  「よーし、立ち上がったーーそこで留まれーーー」
シロイブキ  「こっちの杭は縛りあがったぞ。」
テイトンポ  「ここも縛りあがった。」
カイヌ  「あと一本だね!」
オジヌ  「タガオ、グッと引いて。」
タガオ  「ふん、ふん、ふん。」
ササヒコ  「よし!縛り上がりーーー!」
全員  「目出度い目出度い♪目出度い目出度い♪・・・」
テイトンポ  「マシベとオジヌ、柱を登って縄を外すぞ。」

 

 

クズハ  「立派に立ち上がったわね。」

ハニサ  「あの長い縄はタガオが綯ったの?」

ソマユ  「そう。毎日縄綯い(なわない)してたからね。」

マユ  「タガオ、目の具合はどうなのよ?」

タガオ  「マユ、そこで指を立ててみてくれ。何本か言い当ててやる。」

マユ  「え?そんなに見えるようになってるの?これは?」

タガオ  「3本。ぼんやりと見えるだけだが、人の顔の区別はおおよそ出来るぞ。」

マユ  「すごいじゃない!ミツも帰って来たら驚くわよ。」

カタグラ  「タガオ、これは何か分かるか?」

タガオ  「わはは、相変わらずだ。ケツを出しておるのだな。」みんなが笑った。

 

 

 
登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女 本名はスス  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている      
追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる アヤクンヌ      エミヌ 18歳  オジヌ 16歳 エミヌの弟  カイヌ 14歳 オジヌの弟    モリヒコ シカ村のカミ  サラ 17歳 スサラの妹 ハギとトツギとなる ヌリホツマの弟子  ナクモ 18歳 エミヌの友人  シオラム 41歳 ササヒコのすぐ下の弟 塩作りの加勢のためシオ村で暮らす 5年に一度、里帰りする  ナジオ 20歳 シオラムの息子 シオ村生まれ  タカジョウ 23歳 ワシ使い  ホコラ 洞窟暮らし 哲人  シップ オオイヌワシ タカジョウが飼っている  エニ 38歳 エミヌ姉弟の母   カヤ アマカミの使者  シラク 北のミヤコのシロのムロヤの責任者  マシベ フジのシロの里の者 ヲウミのシロの村との連絡係り  トモ フジのシロの里の者  イナ 30歳 シロクンヌの姉弟子 杖の達人  コヨウ 15歳 タカジョウの妹  ゴン 洞窟で飼われている仔犬  ミツ 11歳 アユ村の少女  カザヤ 24歳 アユ村の若者 カタグラの友人  テミユ 22歳 カザヤの妹  タガオ 32歳 ミツの父親 目がみえない  ゾキ 14歳 オロチの姉 シップウの攻撃で背中に傷を負う オロチ 12歳 ゾキの弟 シップウの攻撃で顔に傷を負う  イワジイ 60歳 黒切りの里の山師 ヌリホツマの兄  シロイブキ 28歳 シロクンヌの兄弟
追加(旅編)スズヒコ 65歳 リンドウ村のリーダー  タジロ 21歳 リンドウ村の若者  セリ 11歳 リンドウ村の娘  レンザ 14歳 道中で出会った少年。足の骨が折れていた。  レン レンザが飼っているオオカミ  シシヒコ 35歳 シシガミ村のカミ  サタキ 25歳 シシガミ村の青年  ミワ 33歳 シシヒコの奥さん。  シュリ 21歳 シシガミ村の娘。レンザの宿。  ユリサ 22歳 シシガミ村の娘。一日だけのタカジョウの宿。  セジ 20歳 シシガミ村の青年。ゾキのシモベ。

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚  眼木=めぎ 眼鏡フレーム 曲げ木工房で作っている  クンヌ=イエの頭領  吊り寝=ハンモック  一本皿=長い丸太を半分に割いて作ったテーブル。一本の木から2本取れるが、一本皿と呼ばれている。  一回し=長さの単位 70㎝  半回し=35㎝ 縄文尺とも呼ばれる。  カラミツブテ・カブテ=狩りの道具。コブシ大の二つの石を紐でつなげた物。  ボウボウ=樹皮ラッパ 法螺貝よりも高い音が出る。  薙ぎ倒しの牙・薙ぎ倒しイノシシの牙=ナウマン象の象牙  バンドリ=背負子などを背負った時に、肩と背中を保護する当て物。衣服の上からバンドリを装着し、それから背負子を着ける。  黒石糊アスファルト

 

 

ウラ話 ①

 

 

ここでは縄文GoGoに出て来るエピソードなどの、元ネタの話などをしてみたいと思います。

 

今回は、第176話  「ドングリ取り」のお話です。
 
サチ  「ドングリ取りで、私全然ミツに勝てないの。父さん、やってみて。」
シロクンヌ  「どうやるんだ?」
ミツ  「ドングリを並べるよ。最初は一個。次の列は三個。次の列は五個。次の列は七個。
     二人で交互にドングリを取って行くの。同じ列なら、一度に何個取ってもいいんだよ。
     でも五個の列から二個取って七個の列からも取るっていうのは駄目。
     そして、最後に取った人が負けなの。」
シロクン  「よし! とにかくやってみるか。おれから行くぞ。
        一遍に七個でもいいのか?」
ミツ  「いいよ。次、私ね。」
 
 
 
ミツ考案のゲームの内、「飛び越し」は私が考えたもので、お察しの通り雰囲気で書いているだけですから、実際にやってみてくれって言われると、出来ないんですよね(笑)。
 
でも「ドングリ取り」は、実際にあるゲームです。
誰がいつ考案したのかは知りませんが、わたしがこのゲームを知ったのは映画からでした。
 
高校生の私は映画少年でして、当時名画座で観た『去年マリエンバードで』という映画の中に、何度もこのゲームを行うシーンがあったのです。
ただし使われていたのは、もちろんドングリではありませんよ。
確かマッチ棒、コイン、カードだったと思います。
 
1:20 の形から始めて、 2:30 のような終わり方をします。
1回に取っていいのは、一つの列からだけです。
 
この映画を観た後に、私は友人と二人でこのゲームの研究(大袈裟か)をしました。
結果、後手必勝だと分かりました。
初手でそこを取れば、次はここを取る。3手目がそこなら今度はここを取る・・・
そういう風に間違えずに取って行けば、必ず後手が勝ちます。
 
自分が先手の場合は、とりあえず少ない本数を取ってみて、次に相手が間違えれば、必ずこちらが勝てます。
途中、一度でも間違えてくれたら、必ず勝てるのです。
だから、初めてやるよっていう人(ほとんどの人がそうですよね)が相手なら、わざと負けない限り、勝てます。
そんなゲームなのですね。
 
 
話は変わりますが、私が映画少年になったきっかけの映画は、中学3年生で観た『サスペリア』でした(笑)。
それまでも、『エクソシスト』や『ジョーズ』、『オーメン』など、話題の映画は観に行っていたのですが、『サスペリア』の主演女優のジェシカ・ハーパーの魅力にハマってしまったんですね(笑)。
「決して一人では見ないで下さい。」というキャッチコピーのテレビCMが話題で、どぎつい残酷描写のあるホラー映画なのですが、ずっと後に、綾辻行人さん始め、新本格推理小説の人達がこの映画の大ファンだというのを読んで驚きました。
皆さん、病んでますね(失礼)。
 
私の住まいは名古屋駅から車で1時間ほどの田舎町でして、当時はお小遣いの全てを映画につぎ込んでいました。
気に入った映画は、3回くらいは観に行っていました。
大抵一人で観に行くのですが、近場の小さい映画館で観るのが嫌で、必ず名古屋に出ていました。
映画館のハシゴをするのは普通で、お昼ご飯は食べません。(お金がもったいないから。)
帰りは交通費を浮かすために、数時間歩いたり(笑)。
 
未知との遭遇』や『スターウォーズ』が封切られた頃で、SFブーム真っ最中。
リバイバル上映の『2001年宇宙の旅』を観てぶっ飛びました。
誰が置いたのか妖しい石板(金属板?)に触れたヒトザルが道具を使う事に目覚め、骨(大腿骨かな?)で叩く事を覚えます。
その骨を空に放り投げたら、骨が宇宙船になります。
骨も道具、宇宙船も道具。
道具を使う事に目覚めたら、あとは骨が宇宙船になるまでは一瞬だよ、と言っているのでしょうか。
 
などととりとめもなく書いてきましたが、今回はこの辺で。
次回はいつになるかわかりませんが、足のニオイがすると話題の「ネバネバ」のお話を予定しております。

縄文GoGo旅編 第25話 6日目①

 

 

          早朝の湧き水平。

 
オジヌ  「姉ちゃん遅いよ。遅れちゃうぞ。」
エミヌ  「ごめん。お待たせ。さあ行こう!」
カタグラ  「ゴン。しっかり番をしておれよ。」
ナクモ  「パヤパヤには、多めにエサをあげて来た。村に帰るの、久しぶり。」
ナジオ  「夜宴の日以来、まだ一度も帰ってないの?」
ナクモ  「そうだよ。もうひと月近くになるよね。」
カザヤ  「おれ達が到着したら、旗塔の立ち上げを始めるのか?」
オジヌ  「そう。全員で縄を引くんだって言っていたよ。」
コヨウ  「でも驚いたよね。あの布が、ホントにウルシ村の旗だったなんて。」
シロイブキ  「おれが布を持って行ったら、もうウルシ村では大騒ぎだ。」
カタグラ  「そうなるよな。不思議な話だから。」
シロイブキ  「4人の旅は護られているという事になって、ハニサもヤシムも泣いていたよ。」
マユ  「タガオは?」
シロイブキ  「ああ、タガオが一番泣いていた(笑)。」
マユ  「でもシロクンヌ達を守ったって言う三本の御神木も、太い樹なんでしょう?」
ナジオ  「そうだけど、あの帰りに改めて見たら、もっと太い樹が何本も折れていたんだ。
      シオ村は台風きついけど、ああいう樹が折れるなんて珍しいよ。
      あの辺りは、相当な風が吹いたんだと思う。」
テミユ  「あんな樹が折れるなんて、竜巻かも知れないわね。
      でもマユ、あなたホントに大丈夫?
      あの山の上、風が強そうだし、きっとかなり寒いよ。
      小屋が出来てからの方がいいんじゃない?」
マユ  「平気平気。イブキと抱き合って寝るから。
     寒い方がいいの。」
カザヤ  「ハハハ。シロイブキが真っ赤になっておるぞ。」
マユ  「カザヤだって、昨日はエミヌと寒い奥の洞窟で寝たんでしょ?」
カザヤ  「ふむ。確かにエミヌと一緒なら、寒いのは苦にならんな(笑)。」
エミヌ  「私も気にならないよ。
      でもいいな。マユはシロイブキと小屋作りをしながら一緒に暮らすんでしょう。
      コヨウは今日からハニサのムロヤに住むから、いつでもオジヌに会えるし、
      空いたマユのムロヤで、テミユはナジオと暮らすんだよ?
      ねえカザヤ、私達だけ離れ離れだよ。
      十日の月が出る日に、洞窟で会うんだもん。
      私、もうアユ村に行こうかな・・・」
カザヤ  「エミヌがその気なら、おれ、エニに話をするぞ。」
 
 
          ウルシ村。曲げ木工房。
 
ハニサ  「あー、逃げたスッポン、見っけ。」
アコ  「どこ?」
ハニサ  「あの樹の向こう。ひょこひょこ歩いてるよ。」
テイトンポ  「おお、よく見つけたな。」走って行った。
アコ  「これで6匹か。4匹はもう見つからないだろうな。」
ハニサ  「台風で池があふれちゃったもんね。
      卵が孵るといいね。全部交尾した卵なんでしょう?」
アコ  「そうだよ。光に透かすと中にいるのが見えたから。」
テイトンポ  「ほら、池に戻れ。その前にエサをやるか。ずっと喰っておらんのだろう。
        アコ・・・」
アコ  「ほい、これだろ。」
イナ  「ねえ、この少し下流だけど、今見たらやっぱり様子が変よ。湯気が出てるの。」
テイトンポ  「あの台風で崩れた所か?」
アコ  「石の河原の所だね?」
イナ  「そう。昨日もゆらゆらしてたから、気になっていたのよ。」
テイトンポ  「穴掘り器を持って行ってみるか。」
 
    丁度そこにシロイブキ達が到着した。
 
テイトンポ  「おおシロイブキ、いい所に来た。一緒に来てくれ。」
シロイブキ  「どうした?」
イナ  「少し下流に石の河原があって、湯気が出てるの。」
コヨウ  「温泉?」
テイトンポ  「そうか。コヨウは黒切りの里でイワジイと暮らしておったのだな。
        イワジイから何か聞いておるか?」
コヨウ  「ちょっと聞いたよ。
      お爺ちゃんと一緒に水脈を探していて、温泉を見つけた事もある。」
ハニサ  「温泉見つけるってすごいね。」
コヨウ  「あ、ハニサ、今日からよろしくお願いします。
      イナも、よろしくお願いします。」
ハニサ  「こちらこそ、よろしくね。」
イナ  「よろしくね。ちょっと見に行きましょうよ。」
 
    全員で石の河原に向かう事になった。
 
アコ  「久しぶり。元気にしてた?」
ナクモ  「元気だよ。毎日、結構忙しいの。アコはつわりは?」
アコ  「だいぶ治まって来てる。今夜はこっちに泊まるんだろう?」
ナクモ  「そうだよ。みんなで大ムロヤで寝るみたい。
      ハニサはつわりは大丈夫なの?」
ハニサ  「あたしは平気。何でも美味しく食べれちゃう。」
マユ  「ハニサが元気そうで良かった。
     シロクンヌが旅立ったから、どうしてるかな?って心配だったの。」
アコ  「ハニサは元気だよ。むしろヤシムの方がサチが居なくなって淋しがってる。」
カタグラ  「女神は淋しくないのか?」
ハニサ  「淋しいよ。
      でも護られてるって分かったし、絶対に無事に戻って来てくれるからいいの。」
マユ  「そうよね。4人は護られてるわよ。」
ハニサ  「マユはいつからシロイブキと暮らすの?」
マユ  「明日からよ。」
アコ  「え?でも、小屋はまだ建ってないだろう?ああ、洞窟で寝るのか。」
マユ  「違うわよ。山の上で寝るの。
     シロクンヌ達だって行った先で野宿してるんでしょう?そんな感じよ。」
テミユ  「でもシロクンヌ達は、抱き合ってないと思うよ(笑)。」
エミヌ  「抱き合って寝るから、寒い方がいいんだって。私、うらやましくって。
      ねえカザヤ、私やっぱりアユ村に行く。毎日一緒がいい。」
アコ  「なんだかみんな、激しいな(笑)。」
ハニサ  「見せつけられてる・・・」
カザヤ  「ハハハ。ではエニとコノカミにあいさつするよ。」
イナ  「ほら見てあそこ。湯気が出てるでしょう?」
 
 
          石の河原。
 
ナジオ  「いつからこうなの?」
イナ  「今日から。昨日も様子は変だったけど、こんなに湯気は出てなかったわね。」
オジヌ  「石はそんなに熱くないね。」
テイトンポ  「掘ってみるか。」
コヨウ  「待って。いきなり噴き出すかも知れないから。ヤケドしちゃうよ。」
カタグラ  「温泉掘りには、いろいろしきたりがあるみたいだな。」
シロイブキ  「それで、これは温泉なのか?」
コヨウ  「そこが川でしょう。
      この下は伏流だけど、湯気が出てるから掘れば間違いなくお湯が出ると思うよ。
      それがどれだけ熱いかまだわからないから、慎重に進めた方がいいよ。」
テイトンポ  「なるほど、その通りだ。
        コノカミやみんなを待たせてもいかんし、
        地の祓えをしてから事を進めた方がよいな。」
アコ  「送り場にみんな集まってる頃だから、あたし達もそっちに行こうよ。」
イナ  「温泉が見つかったって言えば、コノカミ、きっと凄く喜ぶわよ。」
 
 
この日、シロクンヌ一行はつつがなく旅を続け、特に事件もありません。そしてゾキとセジは、西を目指して旅立ち、その後の消息はつかめなくなります。ですからこの機会に、久しぶりにウルシ村の様子を見ていこうと思っています。
 
 
 
登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女 本名はスス  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている      
追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる アヤクンヌ      エミヌ 18歳  オジヌ 16歳 エミヌの弟  カイヌ 14歳 オジヌの弟    モリヒコ シカ村のカミ  サラ 17歳 スサラの妹 ハギとトツギとなる ヌリホツマの弟子  ナクモ 18歳 エミヌの友人  シオラム 41歳 ササヒコのすぐ下の弟 塩作りの加勢のためシオ村で暮らす 5年に一度、里帰りする  ナジオ 20歳 シオラムの息子 シオ村生まれ  タカジョウ 23歳 ワシ使い  ホコラ 洞窟暮らし 哲人  シップ オオイヌワシ タカジョウが飼っている  エニ 38歳 エミヌ姉弟の母   カヤ アマカミの使者  シラク 北のミヤコのシロのムロヤの責任者  マシベ フジのシロの里の者 ヲウミのシロの村との連絡係り  トモ フジのシロの里の者  イナ 30歳 シロクンヌの姉弟子 杖の達人  コヨウ 15歳 タカジョウの妹  ゴン 洞窟で飼われている仔犬  ミツ 11歳 アユ村の少女  カザヤ 24歳 アユ村の若者 カタグラの友人  テミユ 22歳 カザヤの妹  タガオ 32歳 ミツの父親 目がみえない  ゾキ 14歳 オロチの姉 シップウの攻撃で背中に傷を負う オロチ 12歳 ゾキの弟 シップウの攻撃で顔に傷を負う  イワジイ 60歳 黒切りの里の山師 ヌリホツマの兄  シロイブキ 28歳 シロクンヌの兄弟
追加(旅編)スズヒコ 65歳 リンドウ村のリーダー  タジロ 21歳 リンドウ村の若者  セリ 11歳 リンドウ村の娘  レンザ 14歳 道中で出会った少年。足の骨が折れていた。  レン レンザが飼っているオオカミ  シシヒコ 35歳 シシガミ村のカミ  サタキ 25歳 シシガミ村の青年  ミワ 33歳 シシヒコの奥さん。  シュリ 21歳 シシガミ村の娘。レンザの宿。  ユリサ 22歳 シシガミ村の娘。一日だけのタカジョウの宿。  セジ 20歳 シシガミ村の青年。ゾキのシモベ。

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚  眼木=めぎ 眼鏡フレーム 曲げ木工房で作っている  クンヌ=イエの頭領  吊り寝=ハンモック  一本皿=長い丸太を半分に割いて作ったテーブル。一本の木から2本取れるが、一本皿と呼ばれている。  一回し=長さの単位 70㎝  半回し=35㎝ 縄文尺とも呼ばれる。  カラミツブテ・カブテ=狩りの道具。コブシ大の二つの石を紐でつなげた物。  ボウボウ=樹皮ラッパ 法螺貝よりも高い音が出る。  薙ぎ倒しの牙・薙ぎ倒しイノシシの牙=ナウマン象の象牙  バンドリ=背負子などを背負った時に、肩と背中を保護する当て物。衣服の上からバンドリを装着し、それから背負子を着ける。  黒石糊アスファルト

 

 

縄文GoGo旅編 第24話 5日目⑤

 
 
 
          アヅミ野。岩の崖の上。
 
ホコラ  「野山で恐ろしい生き物と言って思い浮かべるのは・・・
      オオカミの群れも恐ろしい。
      熊も恐ろしい。
      そうそう、シシ神も恐ろしいな。
      しかし他にもおるんだぞ。分かるか?」
ミツ  「マムシ?」
サチ  「蜂も怖いよ。」
ホコラ  「そうだそうだ。そいつらも怖いな。
      だがな、もっと恐ろしいものがおるんだ。」
シロクン  「地ネズミだろう。」
ホコラ  「そうだ。シロクンヌは知っておるんだな。
      地ネズミほど恐ろしいものも、まあなかなかおらん。」
タカジョウ  「地ネズミだと?それがクマザサの花と関係あるのか?」
ホコラ  「関係大有りだぞ。花ではなく、実の方だがな。
      クマザサの実は、地ネズミの大好物だ。」
シロクン  「クマザサの花にまつわる言い伝えで、大雪崩が起きる、があるだろう。
        その他におれが聞いたので、地ネズミが湧く、と言うのがある。
        それも大量発生するそうだ。」
ホコラ  「クマザサは何十年か知らんが、とにかく何十年に一度しか花が咲かん。
      それも、辺り一面のクマザサに一斉に花が咲く。
      花が咲けば、実を結び、その後一斉に枯れる。
      山の斜面にクマザサの広大な藪があるとするだろう。
      それが一斉に枯れて、その上に大雪が積もればどうなる?」
サチ  「根っ子が持たないんだね?枯れてるから。」
ミツ  「根っ子がちぎれて、大雪崩が起きるんだ。」
タカジョウ  「そういう理屈があったのか。
        おれは、縁起が悪いっていう話の延長かと思っていた。」
ホコラ  「クマザサに花が咲くと、縁起が悪いと言われておるからな。
      それで問題の地ネズミだが、一斉に実を結ぶという事は、
      エサが大量に増えるという事だろう?
      するとやつらは、次々に子を産み始める。
      その子がすぐに成長し、また子を産むから、
      あっと言う間に地を覆うほどになる。
      だがその頃には、もう実は喰い尽くされておる。
      そうなると今度は樹の皮でも何でも喰う。
      結果、山は立ち枯れの樹ばかりになってしまう。
      人も動物も、困り果てる事態になるんだよ。」
シロクン  「ここらがそうなっておらんのは、猿が活躍したからなのか?」
ホコラ  「そうだ。地ネズミが増えすぎる前に、猿に地ネズミの尻をかじらせた。」
タカジョウ  「普通、猿はネズミなど喰わんだろう?」
ホコラ  「喰わんな。だから喰ってはおらん。かじるだけだ。
      地ネズミも死にはせんし、元気に走り回っている。
      ただ猿に尻をかじられた地ネズミは、オスならメスに寄りつかんし、
      メスならオスを寄せ付けんようになる。
      樹が枯れては、猿達も困るからな。
      猿に言い聞かせたんだよ。」
 
    そこに一匹の猿が、ホコラのもとにクルミを持って来た。
    なんだか、千鳥足になっている。
 
シロクン  「不思議な話もあるもんだなあ。猿が大地を守ったのか。
        あの洞窟だって、猿工房だろう。
        猿が酒作りする工房だ。」
タカジョウ  「ハハハ。猿工房か。
        それはそうと、この猿酒、結構強いな。
        いい気分になってきた。
        猿達も酔っ払ってきておるぞ。」
サチ  「キャハハ。あの猿、樹に登ろうとして、落ちた。」
ミツ  「サチ、あそこ見て!あの猿、踊ってる!」
ホコラ  「あれ達も、興が乗って来おったな(笑)。
      ところで、シシ神のウワサを聞いたが?」
タカジョウ  「おお、大変だったぞ。あのな・・・」
 
    月明りに照らされて、興が乗った猿達が、樹の枝からブラブラとぶら下がったり、
    枝の上で肩を組んだり、地面の上で宙返りしたり、楽し気にはしゃいでいる。
 
 
ホコラ  「それでそのレンとレンザは、シシガミ村で暮らす事になったのか?」
シロクン  「ああそうだ。おれ達はシシガミ村ではなく、シオユ村と呼んでいるがな。」
ホコラ  「昔はシオユ村と呼ばれておったらしいな。
      サチ、その矢を手に取って見てよいか?」
サチ  「いいよ。はい。」
ホコラ  「うん。うん。うん。うん。・・・
      七つ目の心の眼が、少ーし近づいて来おったな。
      あー、よい気分だ。
      ミツ、旅には慣れたか?」
ミツ  「うん!なんだかいろんな事がいっぱいあった。
     旅をすると、いろんな人に出会うんだね。」
サチ  「セリはどうしてるかな・・・」
ミツ  「セリと遊びたいね。」
タカジョウ  「いかん。おれはユリサが恋しくなって来た。」
シロクン  「ユリサと一緒になってしまえばよいではないか。」
タカジョウ  「そうだな。ミヤコに行ってそれからタカの村に行くだろう。
        その後、シオユ村に寄ってみるかな。
        レンやレンザにも会いたいし・・・
        おお、そうだ、ホコラは見晴らし岩の下の洞窟を知らんだろう?
        薙ぎ倒しの牙が出た洞窟だ。」
ホコラ  「薙ぎ倒しの牙?なんだそれは?」
タカジョウ  「物を見たら驚くぞ。長さで言えば・・・」
 
    サチとミツは、猿の輪の中で遊び始めた。
    甘酒は、少量のアルコールを含んでいて、
    程よい心地よさをもたらす程度に醸されていた。
 
 
 
タカジョウ  「そこにおれは、タカの里を作るつもりなんだよ。」
ホコラ  「石のツララの洞窟か・・・それは見に行かねばならんな。
      ついでにウルシ村に寄って、タマに会っておくか。」
シロクン  「そうだ、サラを知っているだろう?ヌリホツマの弟子の。」
ホコラ  「知っておるよ。祭りの日にトツギをした娘だな。」
シロクン  「ふむ、そのサラだが、ミツバチの巣作りに躍起になっていてな。
        ついでに見てやってくれよ。」
ホコラ  「ああそうだったな。ミツバチを飼いたいと言っていた。
      ミツバチは、春でないと新しい巣に引っ越しせんのだが、
      どんなのをこしらえたのか見てみるか。」
シロクン  「ササヒコに湯塩の件も伝えておいてくれ。」
ホコラ  「分かった。タガオにも会って、ミツは元気にしておったと伝えてやるか。」
 
    いつの間にか、シロクンヌのヒザにもタカジョウのヒザにも猿が座っている。
    猿達が、ひっきりなしにクルミやドングリを持って来る。
    サチとミツは、猿と手をつないで大はしゃぎだ。
    月夜のアヅミ野で、人と猿との賑やかな宴(うたげ)は夜更けまで続いたのだった。
 
 
登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女 本名はスス  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている      
追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる アヤクンヌ      エミヌ 18歳  オジヌ 16歳 エミヌの弟  カイヌ 14歳 オジヌの弟    モリヒコ シカ村のカミ  サラ 17歳 スサラの妹 ハギとトツギとなる ヌリホツマの弟子  ナクモ 18歳 エミヌの友人  シオラム 41歳 ササヒコのすぐ下の弟 塩作りの加勢のためシオ村で暮らす 5年に一度、里帰りする  ナジオ 20歳 シオラムの息子 シオ村生まれ  タカジョウ 23歳 ワシ使い  ホコラ 洞窟暮らし 哲人  シップ オオイヌワシ タカジョウが飼っている  エニ 38歳 エミヌ姉弟の母   カヤ アマカミの使者  シラク 北のミヤコのシロのムロヤの責任者  マシベ フジのシロの里の者 ヲウミのシロの村との連絡係り  トモ フジのシロの里の者  イナ 30歳 シロクンヌの姉弟子 杖の達人  コヨウ 15歳 タカジョウの妹  ゴン 洞窟で飼われている仔犬  ミツ 11歳 アユ村の少女  カザヤ 24歳 アユ村の若者 カタグラの友人  テミユ 22歳 カザヤの妹  タガオ 32歳 ミツの父親 目がみえない  ゾキ 14歳 オロチの姉 シップウの攻撃で背中に傷を負う オロチ 12歳 ゾキの弟 シップウの攻撃で顔に傷を負う  イワジイ 60歳 黒切りの里の山師 ヌリホツマの兄  シロイブキ 28歳 シロクンヌの兄弟
追加(旅編)スズヒコ 65歳 リンドウ村のリーダー  タジロ 21歳 リンドウ村の若者  セリ 11歳 リンドウ村の娘  レンザ 14歳 道中で出会った少年。足の骨が折れていた。  レン レンザが飼っているオオカミ  シシヒコ 35歳 シシガミ村のカミ  サタキ 25歳 シシガミ村の青年  ミワ 33歳 シシヒコの奥さん。  シュリ 21歳 シシガミ村の娘。レンザの宿。  ユリサ 22歳 シシガミ村の娘。一日だけのタカジョウの宿。  セジ 20歳 シシガミ村の青年。ゾキのシモベ。

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚  眼木=めぎ 眼鏡フレーム 曲げ木工房で作っている  クンヌ=イエの頭領  吊り寝=ハンモック  一本皿=長い丸太を半分に割いて作ったテーブル。一本の木から2本取れるが、一本皿と呼ばれている。  一回し=長さの単位 70㎝  半回し=35㎝ 縄文尺とも呼ばれる。  カラミツブテ・カブテ=狩りの道具。コブシ大の二つの石を紐でつなげた物。  ボウボウ=樹皮ラッパ 法螺貝よりも高い音が出る。  薙ぎ倒しの牙・薙ぎ倒しイノシシの牙=ナウマン象の象牙  バンドリ=背負子などを背負った時に、肩と背中を保護する当て物。衣服の上からバンドリを装着し、それから背負子を着ける。  黒石糊アスファルト

 

 

縄文GoGo旅編 第23話 5日目④

 
 
 
          アヅミ野。移動中。
 
    もうすぐ陽が沈む。空は晴れ、東の山の上に十日の月が見えている。
 
シロクン  「プンプン匂って来たぞ。」
ホコラ  「もう近い。
      向こうに岩の崖が見えるだろう?
      あの上がそうだ。」
タカジョウ  「シップウはあの樹で夜を越させる事にした。
        さっきテンを食べて満足しておるから、ぐっすり寝るよ。」
サチ  「ホコラは猿と友達なの?」
ホコラ  「そうだぞ。光るハニサを見て、六つ目の心の眼が開いてな、
      以来、猿と心が通じ合うようになった。」
ミツ  「猿と遊ぶの?」
ホコラ  「まあ遊ばん事もないが、ここでは仕事をしてもらったんだ。
      あの岩の崖の上だが、シロクンヌ、ミツを抱えて登れるかな?」
シロクン  「ミツ、抱っこ帯だ。
        猿酒と言ったが、この匂いからしてかなりの量があるんじゃないか?
        仕事と言うのは猿酒作りか?」
ホコラ  「そっちは余力でやってもらった。
      さあ、登るぞ。」
 
 
          岩の崖の上。
 
サチ  「父さん、すごい数の猿が集まってるよ。」      
シロクン  「ホントだな。猿だらけだ(笑)。ミツ、降ろすぞ。」
ミツ  「キーキー言ってて、私達の声が聞こえないね。」
シロクンヌ  「あそこのちょっとした洞窟の奥に猿酒があるんだな。」
ホコラ  「そうだ。中に入っただけで酔っ払うぞ(笑)。」
 
    ホコラの姿を見つけて、猿達が一斉に樹から降りて来て、飛び跳ねて喜んでいる。
 
タカジョウ  「ホコラは大人気だな(笑)。」
ホコラ  「よしよし、待っておったのだな。もう少しの辛抱だ。
      月が輝いたらはじめるぞ。
      おれ達は、あの岩の上に場を作ろう。」
タカジョウ  「レンザの事を、サルサルと言ってからかって来たが、
        猿もこれだけ集まると壮観だな。」
ミツ  「猿と一緒に宴会するの?」
ホコラ  「そうだぞ。あれ達はよく働いてくれたから、ねぎらいの宴会だよ。
      待っていてくれ、ヒョウタンに猿酒と甘酒を汲んでくるから。」
      
シロクン  「タカジョウはホコラとは古いのか?」
タカジョウ  「5年以上だな。ある日、大きなワシを見たと言って訪ねて来たんだ。」
シロクン  「サチはホコラと話した事があったのか?」
サチ  「はい。
     大ムロヤでスワの人達に矢の根石の村(アヤの村)の話をしたでしょう。
     その時に熱心に聞いていて、その後でいろいろ質問されたの。
     それからいろり屋で、アユ村のフクホが持って来たアユの甘露煮を一緒に食べたよ。」
シロクン  「へー、そんな事があったんだな。明り壺の祭りの日だろう?」
サチ  「そう。それで、心の眼が五つ開いたって言っていて、
     アユ村のカミのアシヒコに頼まれて、矢の根石の村の歌を詠んだの。
     即興で。」
ミツ  「どんな歌だったの?」
サチ  「確かね・・・
    『矢切り立つ スワの湖 妻籠めに 矢頭(やがしら)作る その矢頭を』
     って詠んで、村の女の人は、矢尻ではなく矢頭を作っていたんだって言ってた。」
ミツ  「その歌知ってる。マグラが作業しながら口ずさんでた。」
タカジョウ  「即座に詠んだのか?」
サチ  「そう。その場にいたみんなが感心してた。」
タカジョウ  「しかし、サチもよく覚えていたな。そっちにも感心するぞ。」
サチ  「なんとなく覚えてた。」
ホコラ  「ほいほい、ヒョウタン切りの椀(わん)だ。人数分あるからな。
      ヌリホツマの漆塗りだぞ。酒を呑むのはこれに限る。
      さて、山の上に十日の月が輝いた。始めるとするか。」
 
    ホコラが猿の群れの真ん中に歩み出た。
    猿達が喜んで飛び跳ねている。
 
ホコラ  「かーかーかーしゃっ!」 猿達が静まり返った。
 
ホコラ  「ひょーほーれーしゃっ!」 猿達が一斉に南東の空の月を仰いだ。
 
ホコラ  「きゃーざー!」 猿達が一斉に鳴き声を上げた。
 
ホコラ  「しぇーーー!」 猿達が我先にと洞窟になだれ込んだ。
 
 
シロクン  「タカジョウ、こんな猿を見た事あるか?」
タカジョウ  「あるはず無いだろう。夢を見ておるようだ。」
サチ  「ミツ、面白かったね!」
ミツ  「ねえ、猿酒ってどうやって作るの?」
サチ  「岩の窪みに野ブドウや山ブドウの実が落ちて、自然に出来るって聞いた事があるよ。」
ミツ  「でもあそこは洞窟の中だから、落ちて来ないよね。
     猿が実を集めたのかな?」
シロクン  「おそらくそうだろう。あとでホコラに聞いてみればいい。」
タカジョウ  「あれだけ猿に慕われておるのだから、猿もそれぐらいはするだろうな。」
ホコラ  「お待たせしたな。さあ、そこで火を熾して、おれ達も始めようか。」
 
 
 
          シオユ村(シシガミ村)。見張り小屋。
 
シシヒコ  「そういう事か・・・レンがなあ・・・」
レンザ  「うん。人に対して、レンはあそこまでした事はないんだ。」
シュリ  「ゾキがコノカミに何か言って来たの?」
シシヒコ  「今しがたセジと二人で来てな、明日、二人で旅立つそうだ。
       お世話になりましたってあいさつに来たんだ。
       焚き上げで、セジと意気投合したそうだ。」
レンザ  「そうか・・・なんだか悪い事したな。
      あそこまで唸られると、ゾキもこの村にいるのが怖くなったんだと思う。」
シシヒコ  「そうなのだろうが・・・何でレンはゾキに唸ったんだろうな?
       レンはゾキに何かを感じたんだろう?
       ・・・ミツにゾキの顔を見てもらえばよかった。今更言っても遅いが。」
シュリ  「コノカミもそう思うんだ。」
シシヒコ  「まあな。昨日、シロクンヌから聞いたオロチの姉の話は、衝撃的だったからな。
       今、つらつら思い返してみると、ゾキには不審な点もあるんだ。
       だがゾキはこの村に来て、何も悪事を働いてはいない。
       明日は、元気でなと言って見送るしかないな。」
シュリ  「セジと意気投合ってのも何かありそうよね。」
レンザ  「セジって?」
シュリ  「あたしの1個下なの。鼻つまみ者。
      あたし、何度も覗かれたんだよ。
      あたしだけじゃなくて、みんな覗かれてる。
      あいつがいなくなると、村の女は大喜びすると思うよ。」
 
 
 
          アヅミ野。岩の崖の上。
 
ホコラ  「あの洞窟の中に岩の窪みが十ほどあってな、
      猿が実を集めてきて、窪みに入れて石でコッツンコッツンたたくんだ。
      そのあとは、放ったらかしだ。」
サチ  「それでお酒になるの?」
ホコラ  「あとは運まかせ。腐る窪みもあれば、醸(かも)す窪みもある。
      だから窪みによって、味も強さもちがっておる。」
ミツ  「これ、美味しいよ。山ブドウの味とはちょっと違うけど。」
ホコラ  「微妙に醸されておるからな。
      あ!そりゃあシシ腿の塩締めではないか。
      おぬしら、シシガミ村に立ち寄ったのだな。」
タカジョウ  「そうだよ、今朝向こうを発ってきたんだ。」
ホコラ  「かなり遠いぞ。ここまで走って来たのか。
      だがシシ腿は大事に取っておけ。
      黒切りを入れてしまうと、切り口は傷み始めるから。
      今夜は灰燻しで行こう。」
シロクンヌ  「そうなんだな。
        ところで猿達は何の仕事をしたのだ?」
ホコラ  「この地を守ってもらった。
      この春に、ここらのクマザサに花が咲いたんだ。」
 
 
※ 番外ニュース
 
昨日(2022年1月19日)NHKで驚くべき報道があったようです。
 

www3.nhk.or.jp

以下、報道内容です。

 
鹿児島県の種子島の遺跡で、7400年以上前の地層から土器や石器が見つかりました。
およそ7300年前に発生した巨大噴火の直前のものとみられ、壊滅的な被害をもたらした噴火の影響で解明されていないことが多い、この時代を知る手がかりになると期待されています。
 
鹿児島県の種子島にある西之表市の下之平遺跡は、7400年から7800年前の縄文時代早期のものとみられ、去年10月から始まった発掘調査で地層から土器や石器などおよそ1000点が出土しました。
 
そしてなんと!

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トロトロ石器が出たと言うのです!
鬼界カルデラの大噴火によって発生した幸屋火砕流の地層の下からです。
 
このトロトロ石器こそ、私にとって、縄文最大の謎なのです。
シロクンヌ一行の次の通過地点、大町市の山の神遺跡ではトロトロ石器が41個出ています。
41個は、一遺跡最多です。

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約8000年前のものだそうです。
これ、いったい何なのでしょうね?
 
 
 
登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女 本名はスス  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている      
追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる アヤクンヌ      エミヌ 18歳  オジヌ 16歳 エミヌの弟  カイヌ 14歳 オジヌの弟    モリヒコ シカ村のカミ  サラ 17歳 スサラの妹 ハギとトツギとなる ヌリホツマの弟子  ナクモ 18歳 エミヌの友人  シオラム 41歳 ササヒコのすぐ下の弟 塩作りの加勢のためシオ村で暮らす 5年に一度、里帰りする  ナジオ 20歳 シオラムの息子 シオ村生まれ  タカジョウ 23歳 ワシ使い  ホコラ 洞窟暮らし 哲人  シップ オオイヌワシ タカジョウが飼っている  エニ 38歳 エミヌ姉弟の母   カヤ アマカミの使者  シラク 北のミヤコのシロのムロヤの責任者  マシベ フジのシロの里の者 ヲウミのシロの村との連絡係り  トモ フジのシロの里の者  イナ 30歳 シロクンヌの姉弟子 杖の達人  コヨウ 15歳 タカジョウの妹  ゴン 洞窟で飼われている仔犬  ミツ 11歳 アユ村の少女  カザヤ 24歳 アユ村の若者 カタグラの友人  テミユ 22歳 カザヤの妹  タガオ 32歳 ミツの父親 目がみえない  ゾキ 14歳 オロチの姉 シップウの攻撃で背中に傷を負う オロチ 12歳 ゾキの弟 シップウの攻撃で顔に傷を負う  イワジイ 60歳 黒切りの里の山師 ヌリホツマの兄  シロイブキ 28歳 シロクンヌの兄弟
追加(旅編)スズヒコ 65歳 リンドウ村のリーダー  タジロ 21歳 リンドウ村の若者  セリ 11歳 リンドウ村の娘  レンザ 14歳 道中で出会った少年。足の骨が折れていた。  レン レンザが飼っているオオカミ  シシヒコ 35歳 シシガミ村のカミ  サタキ 25歳 シシガミ村の青年  ミワ 33歳 シシヒコの奥さん。  シュリ 21歳 シシガミ村の娘。レンザの宿。  ユリサ 22歳 シシガミ村の娘。一日だけのタカジョウの宿。  セジ 20歳 シシガミ村の青年。ゾキのシモベ。

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚  眼木=めぎ 眼鏡フレーム 曲げ木工房で作っている  クンヌ=イエの頭領  吊り寝=ハンモック  一本皿=長い丸太を半分に割いて作ったテーブル。一本の木から2本取れるが、一本皿と呼ばれている。  一回し=長さの単位 70㎝  半回し=35㎝ 縄文尺とも呼ばれる。  カラミツブテ・カブテ=狩りの道具。コブシ大の二つの石を紐でつなげた物。  ボウボウ=樹皮ラッパ 法螺貝よりも高い音が出る。  薙ぎ倒しの牙・薙ぎ倒しイノシシの牙=ナウマン象の象牙  バンドリ=背負子などを背負った時に、肩と背中を保護する当て物。衣服の上からバンドリを装着し、それから背負子を着ける。  黒石糊アスファルト