第1話~第10話
森の中を進むと、樹の枝に布が結ばれていた。 近くに落とし穴がある印だ。 シロクンヌ(男28歳)はヤスの柄(え)で足元の落ち葉を払いながら、前に進んだ。 シロクンヌのヤス。魚を突く道具。突起部は鹿の骨。柄のニギリ部位には桜の樹皮。 大きな荷物を背負っ…
ウルシ村。広場。 広場の中央では焚き火(たきび)が焚かれ、数人の村人が御座(ゴザ)を広げて座っていた。 その間を子供たちが、大はしゃぎで駆け回っている。 広場に面したいろり屋では、大鍋がいくつも火にかけられ、女衆がにぎやかに調理中だ。 ムマヂカリ …
広場。続き。 タマ 「コノカミ、鍋一つはここに置くよ。たしかシロクンヌとか言ったね。 男前だね。あたしはタマ。 前の村でもモテただろう。 遠慮せずに食べておくれよ。」 シロクンヌ 「実は腹ペコなんだ。しかしこの鍋の器、こんな器は見た事が無い! こ…
広場。続き。 シロクンヌ 「美味かった!椀一杯で、この満足感か! ところで、大鍋(縄文土器)を見た時に、正直おれは度肝を抜かれたの だが・・・方々を旅して来たが、おれは今までに、こんなに見事な大 鍋を見たことが無い。 水煙渦巻紋深鉢 井戸尻考古館 …
広場。続き。 シロクンヌ 「旨い!」 タマ 「旨いだろう。たくさんあるからね、遠慮はいらないよ。」 シロクンヌ 「この肉は、熟しだな。見事なこなれだ!それに、タレが最高だ!」 ハギ 「ムマヂカリが投げ槍でしとめた鹿だよ。 鹿笛の名人で、狩りの腕もい…
広場。続き。 シロクンヌ 「おいおいみんな、もう少し離れてくれ。袋から取り出せない。 ほら、まずこれがキッコ。グリッコの味付けや鍋料理にもいいぞ。」 ヤッホ 「キッコって何だ?」 シロクンヌ 「これは珍しいんだぞ。 南の島から舟で何日も掛けてたど…
広場。続き。 クズハ 「コノカミ、私から、そうお願いしようと思っていたんですよ。 ハニサ、こっちに来なさい。」 顔を赤らめて、恥ずかしそうにハニサがクズハの横に立った。 みんなは思わぬ展開に、成り行きを見守っている。 まさか、あのハニサを?とい…
夕食後の大ムロヤ(大型竪穴式建物)。 炉が二ヶ所あり、そこでは薪(まき)が焚けた。 使う薪は、クヌギが多かった。煙や煤(すす)が少ないからだ。 クヌギの樹は村に接してクヌギ林があり、そこでゆるやかな管理栽培がおこなわれていた。 クヌギは燃料にもなる…
朝の広場。 季節は秋。高原の村の広場はまだ薄暗い。 しかし山々は赤く染まり、シロクンヌはそのあまりの美しさに、深く感動していた。 そこへ女が一人駆け寄ってきて、シロクンヌの前に立った。 ハニサ 「居たーー、おはよー!」 うれしそうだ。 シロクンヌ…
ハニサ 「これがどんぐり小屋。昨日、話題になってたでしょう。」 シロクンヌとハニサは、小屋に入った。 炉で薪が焚かれていて、周りに魚の串がたくさん刺してある。 シロクンヌ 「なるほど、奥が消し熾き(おき)の置き場になってるんだな。」 ハニサ 「そう…