1話~30話
広場。続き。 タマ 「コノカミ、鍋一つはここに置くよ。たしかシロクンヌとか言ったね。 男前だね。あたしはタマ。 前の村でもモテただろう。 遠慮せずに食べておくれよ。」 シロクンヌ 「実は腹ペコなんだ。しかしこの鍋の器、こんな器は見た事が無い! こ…
広場。続き。 シロクンヌ 「美味かった!椀一杯で、この満足感か! ところで、大鍋(縄文土器)を見た時に、正直おれは度肝を抜かれたの だが・・・方々を旅して来たが、おれは今までに、こんなに見事な大 鍋を見たことが無い。 水煙渦巻紋深鉢 井戸尻考古館 …
広場。続き。 シロクンヌ 「旨い!」 タマ 「旨いだろう。たくさんあるからね、遠慮はいらないよ。」 シロクンヌ 「この肉は、熟しだな。見事なこなれだ!それに、タレが最高だ!」 ハギ 「ムマヂカリが投げ槍でしとめた鹿だよ。 鹿笛の名人で、狩りの腕もい…
広場。続き。 シロクンヌ 「おいおいみんな、もう少し離れてくれ。袋から取り出せない。 ほら、まずこれがキッコ。グリッコの味付けや鍋料理にもいいぞ。」 ヤッホ 「キッコって何だ?」 シロクンヌ 「これは珍しいんだぞ。 南の島から舟で何日も掛けてたど…
広場。続き。 クズハ 「コノカミ、私から、そうお願いしようと思っていたんですよ。 ハニサ、こっちに来なさい。」 顔を赤らめて、恥ずかしそうにハニサがクズハの横に立った。 みんなは思わぬ展開に、成り行きを見守っている。 まさか、あのハニサを?とい…
夕食後の大ムロヤ(大型竪穴式建物)。 炉が二ヶ所あり、そこでは薪(まき)が焚けた。 使う薪は、クヌギが多かった。煙や煤(すす)が少ないからだ。 クヌギの樹は村に接してクヌギ林があり、そこでゆるやかな管理栽培がおこなわれていた。 クヌギは燃料にもなる…
朝の広場。 季節は秋。高原の村の広場はまだ薄暗い。 しかし山々は赤く染まり、シロクンヌはそのあまりの美しさに、深く感動していた。 そこへ女が一人駆け寄ってきて、シロクンヌの前に立った。 ハニサ 「居たーー、おはよー!」 うれしそうだ。 シロクンヌ…
ハニサ 「これがどんぐり小屋。昨日、話題になってたでしょう。」 シロクンヌとハニサは、小屋に入った。 炉で薪が焚かれていて、周りに魚の串がたくさん刺してある。 シロクンヌ 「なるほど、奥が消し熾き(おき)の置き場になってるんだな。」 ハニサ 「そう…
森の入口。 ササヒコ 「あれだ。立派であろう?」 シロクンヌ 「うん。あの槙の木(コウヤマキ)なら申しぶんない。 木目が真っ直ぐ通ってる。 世田谷区西澄寺のコウヤマキ Tripadvisorより こっちに倒せばそのまま地に着きそうだし、 地に着けば、後はおれ一…
シロクンヌとハニサは並んで、夕食の広場に向かっている。 子供 「遅い遅い~!シロクンヌ、早く~!」 子供達に引っ張られ、シロクンヌは広場の真ん中に連れて行かれ、子供達に囲まれた。 ハニサ 「こうなると思ってた。あたし、炊事の手伝いしてくるね。」…
ハニサのムロヤ。 ハニサ 「やったー!二人っきりだ。ねえ、お祝いしていい?」 シロクンヌ 「いいが、どうやるんだ?」 ハニサ 「あたしがやるから、シロクンヌは、そこでくつろいでくれてていいよ。 (台に明り壺を置き、灯を入れた。) これは、こうやるん…
村で二度目の朝・・・昨日と同じように、広場で寄り添って朝食をとる二人。 ハニサ 「このグリッコ、おいしい!」 シロクンヌ 「旨いな!キッコが入ってる。」 ハニサ 「シロクンヌが持ってきてくれた、あれ?」 シロクンヌ 「そうだ。」 ハニサ 「怒らない…
ウルシ林。 ヌリホツマ 「漆櫛のことは、ササヒコからも頼まれておる。次の村への土産じゃな。 さて問題はこのヤコウ貝というやつじゃが・・・ 確かにうまく出来れば美しかろうが。」 シロクンヌ 「七つあるから、三つを使ってお願いしたい。 残りは好きに使…
森の入口の作業場。 ハニサ 「居たー!シロクンヌが、居たーーー!」 ハニサが駆け寄って来る。 ハニサ 「お弁当、持って来たよ。 いっしょに食べよ!」 シロクンヌ 「おいおい、びっくりしたぞ。来るって言って無かっただろう?」 ハニサ 「来ちゃダメだっ…
夕食の広場。 ササヒコ 「海が離れて行くと聞くが、本当なのか?」 シロクンヌ 「ああ、本当だ。場所によって違うようだが、 ここから真東に行ったあたりでは、離れが速いんだ。」 クズハ 「そこを訪れたことはあるの?」 シロクンヌ 「ある。 いくつかの村…
ハニサのムロヤ。 ハニサ 「ねえ、シロクンヌのこと、いろいろ知りたいの。 聞いたら迷惑?」 シロクンヌ 「迷惑じゃないさ。 何から言えばいい?」 ハニサ 「じゃあ、まず、生まれたところ!」 シロクンヌ 「ヲウミと言って、大きな湖があるところだ。 トコ…
ハニサのムロヤ。続き。 ハニサ 「だって、最近、聞き集めた話にしては、詳しすぎるし、生々しかったもの。 それにあたし、何となく思ってた。 シロクンヌは特別なイエの生まれなんだろうなって。 そうなんだしょう?」 シロクンヌ 「そうだ。 火の山の事を…
森の入口の作業場。 シロクンヌは黙々と石斧を振るっている。 板も何枚か取れ、脚も何本か出来ている。 そこへハニサが血相を変えて走って来た。 ハニサ 「シロクンヌー!大変なのー!」 シロクンヌ 「何があった?」 ハニサ 「ヤッホの子が、飛び石から落ち…
河原。続き みんな、タホの名を呼んでいる。 シロクンヌはタホにまたがって、胸を押している。 相変わらず、全裸だ。 シロクンヌの服は、タホの体を包んでいる。 やがてタホが水を吐いて、意識を取り戻した。 今度こそ、全員が歓声を上げた。 ヤシム 「あり…
ハニサのムロヤ ハニサ 「アーンアンアンアン、アーンアンアンアン」 大泣きしている。 シロクンヌ 「・・・・・」 ハニサ 「アーンアンアンアン、シロクンヌのバカー、アンアンアン」 シロクンヌ 「ハニサ、もう泣くなよ。」 ハニサ 「アンアンアン」 シロ…
夕食の広場。 子供達が走り回っている。 タホの顔も見える。 「目出たい、目出たい♪ 目出たい、目出たい♪」 クマジイとヤッホが、目出たい踊りを踊っている。 タマ 「鴨鍋があがったよー」 鍋を持ってやってきた。 ササヒコ 「タマ、そこに置いてくれ。みん…
ハニサのムロヤ。 シロクンヌはムシロの上で、木を削っている。その背中に、ハニサが寄り添っている。 ハニサ 「あたし、シロクンヌの子が産めるんだね・・・」 シロクンヌ 「なんだ、あらためて。」 ハニサ 「あたし、幸せだ。 シロクンヌがいなくなっても…
朝のいろり屋。 タマ 「雨で肌寒いだろう?オオ豆くずしの出来立てだよ。」 ハニサ 「ありがとう。あつーい!ホックホク!あったまるね。」 シロクンヌ 「フーッ、フーッ、熱っ!美味いなー!出来立ては、格別に美味いんだな。」 ハニサ 「シロクンヌは、オ…
作業小屋。 シロクンヌ 「本当だ。ハニサの言った通りだ。いろんなものが山積みになってるな。 ハニサはここで一人で居ることが多いのか?」 ハニサ 「そうだよ。あたし作業衣に着替えるね。 元々ここは男の人達の作業場だったの。弓矢を作ったり石斧を作っ…
どんぐり小屋。 アコ 「あ!シロクンヌ!」 シロクンヌ 「あ!すまん。邪魔してしまったか?」 アコ 「びっくりしただけだよ。邪魔とかじゃないよ。どうしたの?一人?」 シロクンヌ 「一人だ。」 アコ 「なにか用事だった?」 シロクンヌ 「そうではない。…
大屋根の下。 ヤッホ 「アニキ、待ってたぜ。さあ、ここに座ってくれよ。」 シロクンヌ 「ヤッホは鏃(やじり)作りか。お!意外に器用なんだな。」 子供達 「シロクンヌだー。お話聞かせてー。」 クズハ 「ちょうどよかった!シロクンヌ、服が編めたからちょ…
いろり屋。 ヤシム 「はい。熱いからヤケドしないでね。」 椀を渡した。 シロクンヌ 「ああ、いただきます。」 ヤシム 「私も横に座っていい?」 シロクンヌ 「いいが、くっつかないでくれよ。」 ヤシム 「わかってるわ。これくらいなら、いいでしょう? タ…
いろり屋。続き。 ハニサ 「居たーーー! シロクンヌ、あたし探したんだよ! 気付いたら、居ないんだもん! ホムラが鳴いてたけど、ムマヂカリが、帰ってきたんでしょう?」 シロクンヌ 「ハニサ!びしょ濡れじゃないか!」 ハニサ 「雨が降ってるからだよ。…