31話~60話
大ムロヤ。歓迎の宴。 「目出たい目出たい♪目出たい目出たい♪」 クマジイとハギが目出たい踊りを踊っている。 ハニサ 「ねえテイトンポ、15歳のシロクンヌって、どんなだったの?」 テイトンポ 「泣きベソでな、泣くと必ず、ハナをたらしておったな。」 ハ…
大ムロヤ。歓迎の宴。続き。 ヤシム 「ところでテイトンポ、来た時いきなり『子供は救ったのか?』って言ったでしょう? 子供ってウチのタホのことよね。あれはどういう事だったの?」 テイトンポ 「<見立て>を見たからだ。 <見立て>の大きさから、流された…
ハニサのムロヤ。 シロクンヌはムシロにあぐらをかいて、髪飾りを削っている。 その背中に、ハニサが寄りかかっている。 ハニサ 「テイトンポの訓練って、厳しかったの?」 シロクンヌ 「厳しかったぞ。今、生きているのが不思議なくらいだ(笑)。 だけど不思…
朝の広場。 ヤッホ 「アニキー、遅いよー、みんな待ってるんだ。」 シロクンヌ 「すまんすまん。寝坊した!」 ハギ 「ハニサ、なにやってんだよ!」 ハニサ 「ごめんなさい!寝坊しちゃった!」 ムマヂカリ 「ま、そうゆうことも、あるな。」 ニヤニヤしてい…
森の入口の作業場。続き。 テイトンポ 「ではアコよ、その樹の根元を、一心不乱に掘れるか? 出来るなら、やってみよ。道具は、使ってもよいぞ。」 アコは、鹿の角を使って、一心不乱に掘っている。 テイトンポ 「幼虫が出てきたな。そいつは取り分けろ。そ…
森の入口の作業場。お昼前。 向こうの方から、ハニサとクズハが一緒にやって来る。 その後方に、アコやムマヂカリ、ササヒコ、みんなの顔が見える。 ハニサ 「シロクンヌー。来たよー。」 シロクンヌ 「ハニサ!」 ハニサは貫頭衣の作業衣のままだ。 手には…
森の入口の作業場。昼食。 臼の材料である丸太を立て、切り口に焼き石をのせ、そこを焦がしてはコゲを削り取り、 また焦がしては・・・ そうやって窪ませて、臼を作る。 今はその途中なのだが、二つの丸太は適度に離れて置かれ、 窪みには焼き石がのせられ、…
森の入口の作業場。続き。 ハニサ 「あたし、焚火のこの辺の場所、使ってもいい?」 シロクンヌ 「いいよ。そこなら邪魔にもならないから。器やるのか?」 ハニサ 「そう。灰でまず乾かして、それからちょっと焼く。」 シロクンヌ 「出来上がりが楽しみだな…
夕食後。大ムロヤ ササヒコ 「疲れているところを、集まってもらってすまない。 祭りが近付いた。 手の空いている時は、祈りの丘の草むしりをよろしく頼む。 今日、シロクンヌの作業場で、臼二つと杵四つができた。 臼は、どんぐり小屋と作業小屋に一つずつ…
早朝の広場。 シロクンヌとハニサは、並んで朝食をとっている。 シロクンヌ 「今日もいい天気だな。コタチ山が、ハッキリ見える。」 ハニサ 「今日はずっとシロクンヌと一緒にいられるね! なんだかうれしい! お弁当持って行こうね。」 シロクンヌ 「あれ作…
川の飛び石のそば。 テイトンポ 「アコならどこに作業場を作る?」 アコ 「シロクンヌが言ってた4本の樹って、これと、これと、これと、これじゃないかな・・・」 テイトンポ 「おそらく、そんなところだろうな。」 アコ 「でもこの川は、結構な暴れ川なん…
森の入口のシロクンヌの作業場。 シロクンヌ 「どうだ? 上手い具合に焼き上がったか?」 ハニサ 「見て。あたしと、シロクンヌだよ。」 神像筒型土器 長野県富士見町 藤内遺跡出土 井戸尻考古館 シロクンヌ 「うん、これ見てると、背中がむずむずしてくるな…
ハニサのムロヤ ハニサ 「シロクンヌ、お湯が沸いた。 あたしたちの器で、初めて沸かしたお湯だよ。 体を拭いてあげるね。」 シロクンヌ 「なんだかいつもより、さっぱりする気がするぞ。 さっきアコは、チビ共に大人気だったな(笑)。」 (アコは頭上に蚊…
早朝の広場 ムマヂカリ 「干し肉だ。念のために持って行けよ。」 シロクンヌ 「すまんな。貰って行くよ。」 ササヒコ 「ヌリホツマからだ。革袋の中は漆櫛だ。五つある。 どこかの村で世話になったら、渡してくれ。 軽いし、荷物にもならんだろう?」 シロク…
下の川沿いの、荒れた道。道幅は一人分だ。 ハニサはシロクンヌにおぶわれている。 特製の革製おんぶ帯を使っているから、ハニサは疲れないし、二人とも両手が空いている。 シロクンヌの大きな背負い袋は、腹側に掛けてある。 シロクンヌ 「痛くはないか?」…
スワに向かう道。少しだけ、拓(ひら)けてきた。 ハニサ 「少し、拓けてきたね。もう近いのかな? ここならあたし、歩けるよ。」 シロクンヌ 「そうだな、じゃあここからは歩くか。」 ハニサ 「遠くに、旗が見えるね。 あ! あの丘に、ムロヤが一つあるよ。」…
さっき見えていた旗が近付いて来た。 この丘の上に、村があるようだ。 ハニサ 「あそこ、村があるんでしょう? あたしね、他の村に行ったことが無いの。」 シロクンヌ 「行ってみたいのか?」 ハニサ 「そう思ってたんだけど、さっきみたいな人がいたら嫌だな…
アユ村の出口。続き。 アシヒコ 「その子は?」 マグラ(27歳・男) 「まったく気の毒な子だ。 父親は殺され、母親と二人でさらわれたそうだ。 何日もムロヤに閉じ込められて、慰(なぐさ)み者になった挙句に、 母親は、三日前に病で亡くなったと言っておる。」 …
谷の温泉。続き。 シロクンヌ 「サチ、おれもおまえも裸だ。抱きしめるぞ。 (サチを抱え上げ抱きしめた。サチも抱きついた。) どうだ?おれのここを見てみろ。 あいつらのようにはなっていないだろう?」 サチ 「はい。父さん、温かかった。」 シロクンヌ 「…
アユ村の見晴らし広場。 シロクンヌを挟んで、ハニサとサチが座っている。 夕焼けで空は真っ赤だ。湖面も赤く染まっている。 ハニサ 「きれい・・・」 サチ 「私、夢の中にいるみたい。」 シロクンヌは二人の肩に手をまわした。 そうやって、太陽が山裾に沈む…
見晴らし広場。夜宴の続き。 アシヒコ 「ところでシロクンヌや、今後の予定は決まっておるのか?」 シロクンヌ 「子宝の湯とやらがあると聞いたのだが・・・」 アシヒコ 「ここからさほど遠くはないぞい。 人気の湯じゃから道もしっかりしておる。」 マユ(25歳…
見晴らし広場。夜宴の続き。 カタグラ 「お!その話題が出たな。 その話を始めるのは、おれが友蒸しの用意を終えてからにしてくれよ(笑)。」 ハニサ 「何かあるの?」 ソマユ 「その話題は、みんな熱くなるのよ。」 ハニサ 「そうなんだ。じゃあ待ってるね。 あ…
見晴らし広場。夜宴の続き。 カタグラ 「ハニサの手料理か! いただきます! ハフ、ハフ、旨い!」 ソマユ 「美味しい! ハニサ、後で作り方を教えて!」 ハニサ 「簡単だから、一緒に作ってみる?」 マグラ 「こりゃあ旨いな! ハニサ、もっと作ってくれよ!…
裏の温泉。 シロクンヌ達は、それぞれが手火をかざして来ていてた。 手火立てを地面に挿し、その手火立てに手火を挟ませて、かがり火にしていた。 はかなげではあったが、目が慣れてしまえば、 その三ヶ所の手火の明りと星明りだけで、周りの様子は分かるの…
アユ村の近く。下弦の月明かりの道。 シロクンヌ 「ハニサ、眠そうだが大丈夫か?」 ハニサ 「うん。」 シロクンヌ 「背負うからな。どうせまだ暗い。背中で寝ていていいぞ。」 ハニサ 「うん。」 シロクンヌ 「サチ、寒くはないか?」 サチ 「はい。」 シロ…
三人は歩いて湖に向かった。 途中、シロクンヌは道をそれ、山の斜面を駆け登った。 一度姿が見えなくなったが、すぐに戻って来た。 大きな肉芽をつけたムカゴの蔓(つる)が腰に巻かれ、 手には背丈ほどの長さの、細い枝が握られていた。 ムカゴ 歩きながら枝…
湖畔。続き。 ハニサ 「すごい!あそこって、あの色が変わってた所?子宝の湯から見た時に。」 シロクンヌ 「そうだ。湖底は、やはり砂利だった。」 ハニサ 「深いの?」 シロクンヌ 「これくらいだ。」 真っ直ぐに立ち、片手を真上に伸ばした。 ハニサ 「サ…
アユ村。 マグラ 「また随分な大荷物だな。 シジミがそんなに獲れたのか!」 シロクンヌ 「向こうじゃ鍋にできなかった。 これだけは、向こうで砂抜きしたから、 この水草といっしょにハニサに食べさせてやりたいんだ。 あとはみんなで食べてくれ。」 マグラ…
見晴らし広場。焚火のそば。 ハニサ 「シジミ、美味しかった。あの水草と合うんだね。」 シロクンヌ 「うまかったな。シジミは精が付くぞ。」 ハニサ 「そうなの?そしたらまたシロクンヌが・・・」 シロクンヌ 「おれが、何だ?」 ハニサ 「だって昨日、サ…
見晴らし広場。焚火のそば。続き。 シロクンヌ 「おれの見立てでは、この村はあっという間に沈んだんだ。」 ハニサ 「そこがあたしには、分からないの。なんでそんなふうに思うの?」 シロクンヌ 「これだけの物が出たからだよ。どれも見事な出来栄えだろう…