第110話 16日目②
飛び石。
シロクンヌ 「二人共、よく似合ってる。男っぷりを上げたぞ。」
カタグラ 「よせよ。照れるではないか。
これが自分の物だなんて、まったく夢のようだ。」
マグラ 「村で見せたら、みんながうらやましがるぞ。良い物を頂いた。」
サチ 「凄い弓だね。ミヤコでも見掛けない。」
ヤッホ 「これを見てから、サチが興奮気味だ。」
ハニサ 「サチは弓にも詳しいの?」
サチ 「弓師と付き合いがあったの。コノカミは立派な弓師なんだね。」
ヤッホ 「同様のを3張り作ってヌリホツマに渡してあったんだ。
この前、漆が仕上がったんだよ。一つは父さんが自分で使うんだろう。
カヤの銘木だから、使い込むほど威を増すって言ってたぞ。」
ナクモ 「カタグラ、かっこいい。」
ヤシム 「マグラもかっこいいよ。」
エミヌ 「ナクモー、カタグラに抱きついちゃえー。」
ムマヂカリ 「ハハハ。二人共、真っ赤だぞ。ナクモも真っ赤だ。」
タカジョウ 「今だカタグラ、尻を出せっ!」
シロクンヌ 「アハハハ。タカジョウもこれで一旦帰るんだろう?」
タカジョウ 「ああ、ハギ達と見晴らし岩まで行って打ち合わせする。
その足で、おれはねぐらの整理に帰るよ。」
シロクンヌ 「サラも一緒に行くのか?」
サラ 「うん。先生が女衆の休日だから、自由にしていいって。」
ハギ 「向こうに着いたら、あまり相手をしてやれないぞ。」
サラ 「いいよ。私、サンショウウオを探すから。」
シロクンヌ 「そうだ。ハギ、これをやるよ。トツギのお祝いだ。
(コブシ大の)原石二つ、ハギが好きに加工してくれ。」
ハギ 「いいのか? なんだこれ! 見たことない石だぞ。」
シロクンヌ 「石同士、打ちつけてみろよ。キーンキーンと高い音がするから。」
ハギ 「本当だ! 硬そうだな。」
シロクンヌ 「瑪瑙(メノウ)と言う石だ。
割って使えば黒切りみたいに使えるし、磨けば綺麗に光るんだぞ。
暗闇で光を当てると、石に少し光が通るんだ。
おれは・・・ほら、木の握りを付けて、こんな風にして使ってる。
鹿骨を削るには最適だよ。ヤス作りにはいいぞ。
黒切よりも刃こぼれしない。」
ハギ 「見せてくれ。これはいいな・・・
ありがとうシロクンヌ! おれもこういうの、作るよ。
サラのは磨いて、首飾りにするか。」
ハニサ 「兄さんとサラ、喜んでたね!
母さん達遅いね。ここで待ち合わせなんでしょう?
じゃあ、あたし、作業小屋に行くね。」
シロクンヌ 「ああ、もし早く帰ったら、顔をだすよ。
夜は粘土搗きやるからな。」
サチ 「お姉ちゃんは、行かないんだねえ。」
シロクンヌ 「ハニサは器作りだ。サチ、河原の石で、カラミツブテを作るぞ。」
クズハ 「お待たせ。いい天気で良かったわね。」
エニ(38歳・女) 「こんにちは、シロクンヌ。
あたしはエニ。クズハとはお友達なの。よろしくね。」
エミヌ 「へへー、シロクンヌ、私も行くからね。
ハニサがいないけど、行かないの?」
シロクンヌ 「ハニサは器作りだ。エミヌが行くなら賑やかになるな。エニ、よろしくな。
よし! では出発するか。」
クズハ 「手ぶらでいいって言ったから、本当に手ぶらで来ちゃったわよ。」
シロクンヌ 「ああ、いいさ。道具はおれが持っている。
昼めしは、何が食べたい?」
エニ 「何がって、アケビを食べるんじゃないの?」
エニはキジバトは好きか?」
エニ 「キジバトは美味しいわよね。
そう言えば最近、食べてないわね。」
サチ 「父さん、カラミツブテで獲るの?」
シロクンヌ 「そうだ。後で使い方を教えるから、サチは今日からカブテの練習をしろ。」
サチ 「はい!」
絡み礫(カラミツブテ、カブテ)とは、コブシ大の石と石とを、紐(ひも)で繋(つな)げた物だ。
紐の長さは、50cmから1m。
遠心力を利用して投げるから、女でも威力を発揮できる。
ただし使いこなすには、相当な訓練を要する。
縄文人が絡み礫で狩りをしていたとしても、紐は朽ちて無くなるから、
ただの石だけしか、遺跡からは出土しない。
アケビの谷への道中。水場。
シロクンヌ 「湧き水があるし、ここで休憩しよう。」
エミヌ 「もう、凄すぎる! シロクンヌってカラミツブテの達人なんだ!
それはいいけど、何でオコジョの居場所が分かったの?
あんなの普通の草むらだったでしょう?
私達ここまで、普通に歩いて来たんだよ。
その横で、オコジョ一匹とキジバトを二羽も狩るなんて信じられない!」
シロクンヌ 「草が数本、根本から揺れただろう? ウサギだと思ったらオコジョだったんだ。」
エニ 「あたしもびっくりしたわ。歩きながらグルグルしたと思ったらヒュッと投げるんだもの。
そしたら、キジバトが落ちて来るじゃない。あたし、口開いちゃったわよ。」
シロクンヌ 「鳴き声がしたから見たら、枝に居たんだよ。
逃げるだろうと思ってちょっと上を狙ったら、図星だった。
それはさておき・・・サチ、落とし穴を掘ってみろ。
水を飲みに来る獣を狙うんだ。
オコジョは毛皮を取って、あとはエサにする。
帰りに見て、掛かっていればしめたものだ。
サチなら、どこに、どんな落とし穴を掘る?」
サチ 「もし、イチかバチかでもいいのなら・・・」
シロクンヌ 「ああ、いいぞ。思い付いた事を言って見ろ。」
サチ 「あの樹の下に大人の背丈くらいの段差があるでしょう?」
シロクンヌ 「樹の下が、崖みたいになっている、あそこか。
上か下か、どっちを掘るんだ?」
サチ 「段差の上。樹の根本。」
シロクンヌ 「大きい穴は掘れんが・・・まあいい。やってみろ。」
サチ 「トチの葉で蓋(ふた)をして、落ち葉をのせて・・・できた。」
エミヌ 「随分小さな穴ね。半回し(35cm)くらいなものじゃない?」
サチ 「休憩時間で掘るのだから、小さい穴が良いと思ったの。」
エミヌ 「でも、エサがオコジョでしょう?
エサよりも小さな獲物が掛かっても、割が合わなくない?」
サチ 「だから、イチかバチかなの。」