縄文GoGo

5000年前の中部高地の物語

107話 15日目③

 

 

 

          供宴の場。続き。

 
    囲炉裏のそばのシロクンヌの机の周りでは、ウルシ村の女衆がにぎやかに立ち働いている。
 
スサラ  「今年も天気が良くて良かったわね。」
タマ  「スサラは今日一日上機嫌だったね。
     いいことあったのかい?」
スサラ  「ウフフ。」
ホコラ  「タマ、それとなく聞いて回ったが、やはり明日の出立がほとんどだな。
      明日の夕食は、客人の分は大していらんぞ。」
タマ  「そうかい。それなら明日の夕食分も、今からこしらえようかね。
     そして明日は、いろり屋は休みだ。
     明日は女衆の休日にするよ。」
スサラ  「それがいいわね。
      タマはずっと働き詰めだったから。」
クズハ  「ホコラとゆっくりするといいわよ。」
タマ  「ホコラはゆっくりさせちゃくれないよ。アッハッハッハ。」
 
ヤシム  「ナジオの今後の予定は?」
ナジオ  「ひと月はこっちに居るって父さんは言ってたな。
      おれはもっと居ようと思ってる。
      五年に一度だしな。」
ハニサ  「海が離れて行くっていうのは、どうなってるの?」
ナジオ  「うん。コノカミにもそれは聞かれた。
      おれらの方では、大して無いんだ。
      いきなり深くなってるからじゃないかな。
      もっと東の海辺では、遠浅のせいか、離れていってるって聞くけど。
      そっちから越して来たやつもいるんだよ。」
ムマヂカリ  「シオ村は、今何人くらい住んでいるんだ?」
ナジオ  「シオ村と言っても、ここみたいにキッチリとした村じゃないんだ。
      もっと広範囲に散らばってるんだが、全部で300人くらいだな。」
エミヌ  「そんなにいるんだ!ウチの六倍ね。」
ナジオ  「おれのウチのように、塩渡りの村からの塩作りの加勢で住んでいる者も、
      50人くらいいる。」
ハギ  「海で働く者が多いのか?」
ナジオ  「男は、ほぼ全員がそうだな。狩りには出ない。
      海で魚を獲る。塩を作る。あとは、海運だ。旅びとや物を舟で運んでやる。
      こっちの子供達はドングリ拾いだろう? あっちじゃあ貝採りだ。」
カタグラ  「塩はどうやって作るんだ?」
ナジオ  「まずアマモという海草をたくさん採る。
      これは少し潜ればいくらでも採れる。
      浜にアマモを広げて乾かす。
      アマモは乾きやすいんだ。
      乾いたアマモを積み重ね、そこに海水を掛ける。
      また広げて乾かす。
      また積み重ねて海水を掛ける。
      それを繰り返して、アマモにできるだけ多くの塩を付ける。
      それを大きなカメに貯めた海水ですすぐ。
      すると濃い塩水ができる。
      それを何度か繰り返して、かなり濃い塩水になったら塩鍋に小分けにする。
      塩鍋は薄い粘土で作ってあって、それを火に掛けて水を全部飛ばすんだ。
      すると塩鍋の内側に、塩がこびり付いている。
      それを削り取るんだよ。
      削り取らずに塩鍋を割って、塩の付いた破片を集めて、
      破片ごと袋詰めして、それを塩渡りにする所もあるみたいだな。」
ハニサ  「大変な作業なんだね。」
カタグラ  「そんなに手間が掛かるのか。」
ハギ  「そういう事を聞くと、塩は大事なんだと思うな。」
ナジオ  「だけどおれ達は、木の実のアク抜きはしないから、おあいこさ。
      ドングリ粉やトチの実粉なんかはアク抜きされた物が塩の礼で届くし、
      グリッコもトチ団子も塩の礼だ。
      自分らでは、作らん。」
カタグラ  「なるほど。そう言われれば、そうだな。」
ヤシム  「トチの実のアク抜きなんて、気が遠くなるものね。
      ドングリも種類によって、アク抜きの仕方が違うし。
      やっていて、こんなの誰が考えついたのかしらって思うわよ。」
シロクン  「今、囲炉裏に食い物を取りに行ったら、アケビ村で出会ったハグレと出くわした。」
ハニサ  「シロクンヌに明り壺の祭りの話をした人?」
シロクン  「そうだ。ミノリという男で、おれは木の実だと言って、樹の上で暮らしているんだ。
        大きな樹の太い枝に、鹿皮を張り巡らせてその中で住んでいた。
        ハニサを見て心の眼が開いたと言っていたが、
        ハニサはミノリを知っているのか?
        向こうは知っている風だったが。」
ハニサ  「あたしはそんな人、知らない。」
シロクン  「そうか・・・
        ところで、明日の片付けは何があるんだ?」
ヤッホ  「ここだよ、この供宴の場の片付けだよ、アニキ。」
シロクン  「朝一番で、できないかな?」
ヤッホ  「そりゃあ、できるさ。そう取り決めておけば。
      何かあるのかい?」
シロクン  「明日、クズハとエニという人を連れて、
        アケビの谷に、アケビの蔓(つる)を採りに行く事になったんだ。」
エミヌ  「エニって私の母さんだよ。
      シロクンヌとアケビを採りに行った話をしたら、すごくうらやましがっていたの。」
タカジョウ  「ちょっといいか。
        今、囲炉裏でタマから伝言を頼まれた。
        明日の食い物は、今から全部作ってしまうらしい。
        そして明日は、いろり屋は休みで、女衆の休日だそうだ。」
エミヌ  「やったー!」
タカジョウ  「囲炉裏の火の番は、男衆でやるように伝えてくれと言われた。」
ヤッホ  「火の番は、クマジイがやるよ。
      ちびちびやりながら。」
ムマヂカリ  「では、明日は朝一番に、一本皿と机を作業小屋まで運ぶとするか。」
ヤシム  「じゃあ私達は、明日の夕飯作りを手伝いに行こう。」
 
 
 
登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている

      

追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる アヤクンヌ      エミヌ 18歳  オジヌ 16歳 エミヌの弟  カイヌ 14歳 オジヌの弟    モリヒコ シカ村のカミ  サラ 17歳 スサラの妹 ハギとトツギとなる ヌリホツマの弟子  ナクモ 18歳 エミヌの友人  シオラム 41歳 ササヒコのすぐ下の弟 塩作りの加勢のためシオ村で暮らす 5年に一度、里帰りする  ナジオ 20歳 シオラムの息子 シオ村生まれ  タカジョウ 23歳 ワシ使い  ホコラ 洞窟暮らし 哲人  シップ オオイヌワシ タカジョウが飼っている  

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚  眼木=めぎ 眼鏡フレーム 曲げ木工房で作っている  クンヌ=イエの頭領  吊り寝=ハンモック  一本皿=長い丸太を半分に割いて作ったテーブル。一本の木から2本取れるが、一本皿と呼ばれている。  一回し=長さの単位 70㎝  半回し=35㎝ 縄文尺とも呼ばれる。