第105話 15日目①
祭りの翌日。朝の広場。
シロクンヌ 「今日は祭りの後片付けがあるんだよな?」
ハニサ 「そう。でも起き出して来るのは、みんな遅いよ。
もう一泊するお客さんも多いし。」
サチ 「おはよう。昨日は楽しかったね。
お姉ちゃんと父さん、お揃いの首飾りだ。」
ハニサ 「スワの人達が来たら、お礼を言おうね。」
ハギ 「おはよう。カタグラを見なかった?」
ハニサ 「兄さん、おはよう。ちょうど向こうから来たよ。」
アコ 「ハニサ、首飾り、素敵だよ。」
シロクンヌ 「タカジョウ、連絡取りたい時はどうすればいい?」
タカジョウ 「そこなんだが、一度ねぐらには戻るが、荷物の整理をしてすぐこっちに来るよ。」
シロクンヌ 「ウルシ村で暮らすのか?」
タカジョウ 「それも考えたんだが・・・ハギとカタグラに相談があるんだ。」
カタグラ 「おはよう。よく寝たぞ。どうした?」
タカジョウ 「おれも基地作りを手伝うから、旅立つまで、そこで寝泊まりさせてくれんか?」
カタグラ 「そりゃあ、大歓迎だ。なあ? ハギ。」
ハギ 「ああ。タカジョウが手伝ってくれたら、相当はかどるぞ。」
アコ 「良かったね、タカジョウ。あたし、一度ムロヤに戻るよ。」
ハギ 「ところで、マグラは?」
カタグラ 「大ムロヤだ。スワのカミ達と、打ち合わせしておる。
兄者は、あまり自由に動けんかも知れんな。」
ナクモ 「おはよう。干物が焼けてたからもらってきたよ。」
カタグラ 「おお、ありがとう。ハギは今日、祭りの片付けだろう?」
ハギ 「うん。明日、三人で見晴らし岩に行って、段取りを決めないか?」
カタグラ 「おれはそれでいい。タカジョウは?」
ヤッホ 「おはよう。聞いてくれ! 昨日から夜宴の話を父さんにしてたんだ。
父さん、あれで慎重なところがあるだろう?
子供は行っちゃいかんとか言い出すといけないと思ったから、
上機嫌な時に話しておこうと思ったんだよ。
今も大ムロヤでその話をしてたんだけど、それを聞いてたスワの人達が、
あの場所で休憩できると助かるって言うんだ。
これから毎年、明り壺の祭りには来たいらしい。
だから基地作りは、ウルシ村公認ということになったよ。」
ハギ 「それはつまり、普段はおれ達の基地として使っていいが、
年に一度、スワの人達の休憩や宿泊の施設になるということだな?」
ヤッホ 「そうだが、塩渡りが違うから今まで付き合いが浅かったけど、
これからは深めて行きたいようだから、年に2~3度かも知れない。
サチ、これもアヤの村が取り持つ縁だよ。」
カタグラ 「ではおれ達も、頻繁に夜宴ができるな。」
ハニサ 「アハハ。それなら兄さん、段取りの取り決め、今日行っちゃえば?
お祭りの片付けは、今日は祈りの丘をやるだけだから、
兄さんがいなくても、問題ないと思うよ。」
ハギ 「じゃあそうするか。公認もらったし。
タカジョウも行けるだろう?」
タカジョウ 「もちろんだ。」
テイトンポ 「おはよう。タカジョウ、シップウを見せてくれ。」
タカジョウ 「おはよう。では、呼ぶか。」
タカジョウが指笛を吹くと、一頭のオオイヌワシが現れて、腕にとまった。
周りから、どよめきが起きた。
テイトンポ 「大きいなあ。飛ぶところを見せてくれんか?」
タカジョウが勢いよく腕を振ると、飛び立ったシップウは3度大きく羽ばたいた。
後は翼を広げたままの、低空飛行に移った。
サチ 「カッコいい!」
周りから歓声が上がった。再び羽ばたくと、大きく旋回して、タカジョウの腕に戻って来た。
テイトンポ 「見事なワシだ!タカクンヌのクマタカの倍はあるな。
翼を広げたら人の背丈より遥かにでかいが、見てみろこの爪を。
猿の頭蓋など、一握りで砕くだろう?」
タカジョウ 「鷲掴む力が異様に強いんだ。雄鹿を引き摺り倒す位は、簡単だな。」
シロクンヌ 「雄鹿に上から行くこともあるのか?」
タカジョウ 「基本はすべて上からだ。
やつらは上が見えないからな。
不意打ちを食らわす。
森の中のように、上に枝が張っていたり、邪魔な物が有る時は、低空で行く。」
テイトンポ 「シップウを見ていると、何と言うか、気持ちが高ぶるな。
シップウは、オオワシか?」
タカジョウ 「母親がオオワシだ。
テイトンポ 「掛け合わせか! おまえの師匠が手がけたのか?」
タカジョウ 「そうだよ。師匠は長年、そういう研究をしていたみたいだった。
掛け合わせのワシミミズクも手なずけていたし。
シップウが産まれた時は、大喜びしてたんだ。
今のシップウを見せてやりたいよ。」
シロクンヌ 「シップウが幼鳥の時に亡くなったのか?」
タカジョウ 「幼鳥ではないが、まだ狩りが未熟な頃だったな。」
テイトンポ 「それからは、タカジョウ自身が、シップウを仕込んだんだな。」
タカジョウ 「シップウは、師匠の形見だしな(笑)。」
ハニサ 「翼を広げた時って、どれ位の大きさなの?」
タカジョウ 「三回し半だな。」
親指の付け根でヒモを挟み、ヒジを支点にグルっと一周させる。
それが一回しだ。
一回しとは長さの単位で70cm。半は35cm。
ちなみに35mは、縄文尺とも呼ばれる。
三回し半とは、70cm×3.5=245cmとなる。
ハニサ 「おっきい!」