スッポン鍋 第103話 14日目⑯
供宴の場。続き。
ササヒコ 「こんな隅っこにおったのか。探しておったのだぞ。今年の祭りは大成功だ。
クマジイ、ハニサ、シロクンヌ、テイトンポ、褒美は何がいい?
タカジョウも一緒か。たくさん差し入れしてくれて、有難うな。」
タマ 「コノカミ、随分遅くなって悪かったね。アコのタレで焼肉をやるよ。」
ササヒコ 「丁度いい。踊りの第一部が終わって、これから休憩だ。皆を呼ばわって来るか。」
ヌリホツマ 「珍しくササヒコも出来上がっておったの。
ハニサ、急(せ)いても始まらん。ばばに、シロクンヌとの子を見せておくれ。」
ハニサ 「そうだね。あたし、自分が何もできないから・・・そんな自分がもどかしかったの。」
ヌリホツマ 「何も出来ぬなどとはとんでもない。おまえにしか出来ぬことがあるのじゃぞ。
おや、鍋が炊き上がったようじゃな。」
テイトンポ 「サラ、まずハギによそってやれ。」
ヤッホ 「美味そうな匂いしてるなー。」
シロクンヌ 「そこなんだ。おれが知ってるスッポン鍋よりも、うんといい匂いなんだよ。」
サラ 「ハギ、はい、どうぞ。」
ハギ 「ああ、ありがとう。
・・・何だよみんな、そんなにじっと注目するなよ。」
クマジイ 「いいからズズッと汁から行ってみい。」
ハギ 「もう、やりにくいなあ、いくぞ。(ズズッと行った) 旨い!
この汁、最高に旨いぞ! みんなも食べてみろよ。」
サラ 「はい。ハニサも食べてみて。みんなにもよそってあげるね。」
ハニサ 「ありがとう。アツアツだね・・・美味しい!
スッポンってこんなに美味しいの?」
エミヌ 「私、こんなに美味しい汁って初めて。」
クマジイ 「これは、たまらんのう。」
テイトンポ 「ハギ、おまえはいいトツギをした。このスッポンは、旨い!」
ハギ 「これ、首の骨の周りだな・・・
ん! トロットロだ!」
タカジョウ 「おれもこんなに旨いスッポンは初めてだ。このスッポン、誰が獲ったのだ?」
サラ 「私が育てたの。5歳の時に獲って、12年間。」
ナジオ 「何だって! それは、食べるために育てたの?」
サラ 「うん。旦那さんになる人に、食べてもらいたかったから。」
ナジオ 「そういう考え方、したこと無かったな・・・」
ヌリホツマ 「臭みが無いんじゃ。スッポンは、育てた物の方が味わいがよいのかも知れぬぞよ。」
ムマヂカリ 「うん、今まで食ったスッポンとは全然ちがう。」
サチ 「美味しかったー!」
テイトンポ 「確かに育てたスッポンの方が旨いのかも知れんな・・・
シロクンヌ、おれはやるぞ! やってみせる!
聞いておるか、シロクンヌ!」
シロクンヌ 「聞こえてるよ。静かに味わっていたんだぞ。で、何をやるんだ?」
テイトンポ 「最高に旨い、スッポングリッコを作るのだ!」
アコ 「言うと思った。」
マグラ 「こんな隅っこで何やってるんだ。踊らなかったのか。」
ヤシム 「楽しかったんだよー。カタグラの踊りが大ウケだったんだから。」
ナクモ 「可笑しくて、お腹がよじれちゃった。」
カタグラ 「女神、ソマユに会いたがっていただろう?
おれ達、さっき相談したんだが、今度見晴らし岩で、夜宴をしないか?」
シロクンヌ 「なるほど! いいな!」
ハニサ 「え? どういうこと?」
カタグラ 「あそこまでなら、おれ達でソマユを連れていける。」
ハギ 「見晴らし岩なら、丁度こことアユ村との中間だな。」
サラ 「そこは遠いの?」
ハギ 「サラの足なら、朝出て昼前に着くくらいだな。」
ムマヂカリ 「面白そうだな。タカジョウも分かるだろう?」
タカジョウ 「スワの湖が見える大岩だろう?
あそこはシップウの天下だぞ。羽ばたかなくても浮いている。
下の川で、シップウの魚狩りを見せてやろうか?」
エミヌ 「シップウの狩り、見てみたい!」
テイトンポ 「おれも行くぞ。そこは広いのか?」
ハギ 「広い場所があるんだ。川から見晴らし岩まで登る途中に。
たいらになっていて、いい感じに樹も生えている。斜面の南側で日当たりもいい。
カタグラ、そこにおれ達共同の基地があれば便利じゃないか?」
カタグラ 「おおいいな! あそこに拠点があれば、狩り場が格段に広がる。
あそこに、小屋をつくるか!」
ヤッホ 「ところでハニサ、ソマユって誰なんだ?」
ハニサ 「アユ村で知り合ったお友達。足を怪我しちゃってるの。すごく可愛いんだよ。
マユっていうお姉さんがいて、三人で温泉に入ったの。ソマユに会えるんだ!」
ナジオ 「おれも行く。いつやるんだ?」
ヤシム 「可愛いに反応したね(笑)。あんた、帰らなくていいの?
お祭りの片付けと、ウルシ林の手入れがあるでしょう。
だから、一か月くらい先かなーって言ってたの。ウルシの実の収穫が始まる前。」
クマジイ 「寒くならん内にやってはどうじゃ。わしはいつでもいいぞ。」
アコ 「なんだって! クマジイも行くのか?」
クマジイ 「当たり前じゃ。ウルシ林の手入れは、わしが手伝うてやる。
もともと、わしが植えた樹が多いんじゃ。」
テイトンポ 「クマジイは若返ったな。安心しろ。歩き疲れる前に、おれが背負ってやる。」
クマジイ 「それはすまんな! そら見ろアコ。師匠を見習わんかい。」
サチ 「父さん、私も行ける?」
シロクンヌ 「もちろんだ。」
ヤシム 「タホも連れて行くんだよ。ムマヂカリもタヂカリを連れて行けば?」
ムマヂカリ 「おお! いいな!」
カタグラ 「小屋があれば、子供も安心だろう? さっそくおれは作ろうと思う。
村の仕事は、兄者がやるさ。」
マグラ 「こら勝手に決めるな。おれは、アヤの村の祭りの世話役なんだぞ。」
ヤッホ 「なんだか凄いことになったな。」
ヤシム 「ヤッホ、コノカミに話を通しておいてね。」
スサラ 「こんな隅っこで何の相談? 焼肉が始まってるわよ。」
シロクンヌ 「よし、ひとまずアコのタレを味わうとするか。」
アコ 「こればっかりは、見晴らし岩では味わえないからね。」
タカジョウ 「じゃあシロクンヌの親父さんは、ヲウミで元気にしているんだな?」
シロクンヌ 「そうだ。おれも親父とは疎遠だがな(笑)。」
タカジョウ 「是非、一度会ってみたい。」
シロクンヌ 「おれの息子三人は、今度10歳になるんだ。
そうなれば、おれも、ヲウミに帰ることができる。
その時、一緒に行こうか。サチも連れて行ってやるからな。」
サチ 「はい!」
カタグラ 「シロクンヌ。アコのタレはウルシ村から出ると、死んでしまうというのは本当か?」
シロクンヌ 「旨いだろう? 本当らしいぞ。」
タカジョウ 「本当だよ。それがあるから、おれ達は一緒に暮らせなかったんだ。」
カタグラ 「あ! そうか。タカジョウは、・・・そうだったな。
じゃあ、株分けしてもらう訳にはいかんのか。」
シロクンヌ 「作り方も教えてはくれんぞ。
テイトンポが聞き出そうとした時は、けんもほろろに断られていたからな。」
カタグラ 「テイトンポでさえか。」
子供達 「あ! カタグラがいた!」 「第二部が始まるよ。踊りに行こう。」