光の丘③ 第101話 14日目⑭
祈りの丘。続き。
テイトンポ 「どうする? まだ聞きたいか?」
クマジイ 「当然じゃ!」
ヤッホ 「まだ食い足りないから、供宴の場に行かないか?」
ハギ 「そうしよう。ここまで聞いて、これで終わりってのは無いな。」
ヌリホツマ 「ハタレの事も、聞きたいしのう。」
テイトンポ 「よし、じゃあ、みんなで引越しするぞ。」
サチ 「父さん、なんか凄い話だね。」 (ないしょ話)
シロクンヌ 「サチは知ってたか? タカクンヌって。」 (ないしょ話)
サチ 「はい。ミヤコでは後継者が行方知れずってなってる。」 (ないしょ話)
ハニサ 「ってことは、タカジョウが後継者なの?」 (ないしょ話)
シロクンヌ 「そうなんだろうなあ。
とにかくおれは、知らない事ばっかりで・・・」(ないしょ話)
アコ 「アマカミの信頼が厚いって、すごい事じゃない?
テイトンポも、アマカミに会ったことあるの?」
テイトンポ 「おそらく、無い。
お忍びで御出ましになっておれば、見分けが付かんが。」
アコ 「テイトンポが村に来た最初の日、シロクンヌを見て、
シロサッチとかなんとか、別の名で呼んだでしょう?
そのあと確か、クンヌになったのか、とも言ったと思う。
クンヌって何?」
テイトンポ 「畳み掛けて来おったな(笑)。
シロクンヌ、説明してやれ。」
シロクンヌ 「しかし・・・」
テイトンポ 「おまえらイエの者は、すぐそうやって素性を隠そうとする。
だがな、もうそんな時代ではないぞ。
次にハタレの乱が起こった時、イエの者だけで鎮圧できるとでも思っておるのか?
スワでおまえが倒した三人組。やつらもハタレだ。
今このトコヨクニに、ハタレがどれだけ入り込んでいると思ってる?」
シロクンヌ 「確かにそうだ。父の時代とは違う。
それはおれも、旅をしていてヒシヒシと感じる。
タカジョウは、タカクンヌの意味を知らないんだろう?」
タカジョウ 「知らん。がしかし、おれにとって、すごく重要な何かだと感じている。」
ヤッホ 「よし着いた。
あそこの焚き火がいいな。
誰もいないし。
スッポン鍋を掛けたらいい。
そしてまず食い物を取って来よう。
それからゆっくりと話そうじゃないか。」
アコ 「ヤッホの癖に、なんだか仕切ってるね。」
鹿太鼓の音が響き渡り、灯りの樹の周りでは、多くの人々が太鼓踊りに興じている。
明り壺の光りはまったく衰えていない。
灯りの樹を中心に人の輪が取り囲み、その周りを囲い筒の灯りが取り囲む。
幻想的な中にも、大活況を呈していた。
その分、供宴の場は、閑散としている。
その片隅に、シロクンヌ達の御座がある。
祈りの丘にあって、そこだけが異空間であった。
シロクンヌ 「クンヌの意味だったな。
クンヌとは、頭首というような意味だ。
おれの場合なら、シロのイエの頭首だ。
当然、イエの中に、クンヌは一人だ。」
アコ 「イエというのは、クニトコタチが始まりなんだろう?」
クニトコタチの八王子と呼ばれている。」
ムマヂカリ 「ん? クニトコタチ・・・」
アコ 「どうしたの?」
ムマヂカリ 「なんか引っ掛かったのだが・・・
何でもない。すまん。続けてくれ。」
ムロヤを作って人らしい暮らしをすることや、
自然にある栗だけに頼るのではなく、栽培して育てる方法、
村を作って協力し合うことなど、枚挙にいとまがない。
そこには、人と人が争わない為の知恵がたくさんあった。
それを八王子に託し、トコヨクニの人々に伝えよと命じた。
八王子は知識の伝道師となって、各地に散らばって行ったのだ。
それがイエの始まりだから、トコヨクニにイエは八つある。」
ヌリホツマ 「サチも、そうじゃな。」
シロクンヌ 「そうだ。サチはアヤのイエのクンヌ、アヤクンヌだ。
本来12歳でクンヌというのはおかしいのだが、
アヤのイエでは若死にが続いたからな。」
ハニサ 「もしこれで、タカジョウがタカクンヌなら、
今ここに、三人のクンヌが居るって事だね。」
ヤッホ 「すげー話だ!」
サラ 「私、今、すごい人達と同席してるんだ!」
エミヌ 「素敵、素敵!」
ナジオ 「着いてみたら、驚きの連続だ。
まったく、どうなってるんだ・・・」
ハギ 「さっき5年ぶりに来たんだから、そりゃあ戸惑うよな(笑)。
イエというのは、具体的に何かをやる所なのか?」
クニトコタチは初代アマカミとして人々から崇(あが)められ、
今に名を残しているが、武力を以(もっ)て世を切り取った訳ではない。
文化を広めて、世を治めたのだ。
ところが世が変われば、暴力に走る者も現れる。
ハタレのようにな。
それにトコヨクニの自然は、時に荒ぶり、人々に災いをもたらす。
そういう時こそ助け合わねばならんのだが、
心を荒(すさ)ばせ、掠(かす)める者も現れる。
暴力に走る者、掠め取り憚(はばか)らぬ者。
歯止めが無ければ世が変わってしまう。
シロのイエの役割は、その時の歯止めとなることだ。
他のイエについては、おれもほとんど知識が無い。
むしろサチの方が、ミヤコ育ちなこともあって、おれより詳しいかも知れん。」
タカジョウ 「おれもイエに関係があるということか?」
シロクンヌ 「おぬしの中に流れる血、それがおぬしに自覚を促しているはずだ。
逆に問おう。
山奥に孤独に暮らしていて、それで良しとしているのか?」
テイトンポ 「タカジョウとは、役職の名だ。
おまえの父は、鷹匠としてアマカミに仕えた。
そして、タカクンヌとして勇敢に戦ったのだ。
ハタレどもは、タカクンヌの名を聞けば、みな逃げ惑ったのだぞ。」
サチ 「ミヤコでは、タカのイエの後継者が行方知れず、ということになっています。」