光の丘② 第100話 14日目⑬
祈りの丘。続き。
アコ 「ねえ、タカジョウ、命の恩人って、どういう事なの?」
シロクンヌ 「それはおれも、気になっていた。
クマジイ 「ほう、どこにどんな縁があるか、分からんもんじゃのう。」
タカジョウ 「命を助けられたのは、おれの母親だ。
母はその時、おれを身籠っていた。」
シロクンヌ 「待ってくれ、タカジョウは何歳だ?」
タカジョウ 「23だ。」
シロクンヌ 「という事は、おれが4歳の頃の話だな。父は23歳。」
テイトンポ 「おれは16で、シロクンヌ、おまえの父と一緒にいた。
ハタレの乱か?」
タカジョウ 「そう聞いている。」
テイトンポ 「あの時のタカ使いが、おまえの父親なんだな?」
タカジョウ 「そうだ。」
サチ 「父さんの父さんも強かったの?」
テイトンポ 「オニの様にな。
おじちゃんの兄弟子に当たる人だよ。」
クマジイ 「ハタレの乱といえば、西で起こった騒動じゃろう?
アマカミが鎮圧したという。」
テイトンポ 「その鎮圧に、シロクンヌの父親とタカジョウの父親、
そしておれも加わっていたんだ。
タカジョウ、おまえの父親の名は何だったかな。」
タカジョウ 「おれと同じ、タカジョウだ。」
ハニサ 「シロクンヌはその話は知ってるの?」
シロクンヌ 「いや、正直、驚いている。
ハタレの乱のいきさつや、父が鎮圧に参加したのは聞いている。
が、そこまでだ。
テイトンポがそのころから父に同行していて、しかも弟弟子だったとはな。
タカジョウの母親の件も、初耳だ。」
タカジョウ 「おれが聞いている事を話す。
おれの母親は、その乱が起こった、遥か西の地で生まれ育った。
そこに父親が、鎮圧部隊としてやってきて、母と知り合った。
ハタレのやつらは、父が操るクマタカを怖れた。
ハタレは卑怯なやつらで、母を人質に取って、クマタカと交換しようと目論んだ。
母は、何人もの男達に囲まれて、連れ去られようとしていた。
その時の母を救った者の名が、シロクンヌだ。」
ハニサ 「やっぱりハタレって卑怯なんだ。」
アコ 「タカジョウは、そのお父さんから、ワシ使いを教わったんだね。」
タカジョウ 「それが違うんだ。
おれは、父親の顔を知らない。
もっと言えば、父の事は、ほとんど知らない。
西の地が平定されると、父は地元に帰ったんだ。
その地元も知らない。
おれが知らないばかりでなく、母も知らないんだと思う。
その後に、おれが産まれた。」
ムマヂカリ 「じゃあ、師匠もなく、独学なのか?」
タカジョウ 「まさか。おれはその後、母のもとで暮らしていた。
だが、おれが8歳の時に、病で母は亡くなった。
亡くなる前に、おれが10歳になると誰かがおれを迎えにくるから、
それまでこの地を動くなと母から言われたんだ。
すると本当に、10歳になったら一人の男がやって来た。
その男とおれは旅に出たんだが、その男が、おれの師匠だよ。」
テイトンポ 「なるほどな。その師匠から、おまえは何も聞いておらんのか?
父親の事とかは。」
タカジョウ 「何度も尋ねたのだが、まだ早いとか時期じゃないとか、そんな返答しかなかったな。
テイトンポは、何か知ってるんだろう?
教えてくれ!
師匠は、突然の事故で死んでしまったんだ。」
テイトンポ 「そういう事か。
まず、おまえの父親は、一廉(ひとかど)の人物であった。
アマカミからの信頼も厚かったのだ。
タカ使いの腕は、抜群だった。
おまえの父が操るクマタカに、ハタレの矢は、かすりもしなかった。
そして、ハタレが手なずけたヤマイヌを、次々に倒して行ったんだ。
おまえの父親と母親の馴れ初めは、知らん。
ただおれが聞いたのは、母親が宿であったらしい。
その母親のムロヤが、ある日ハタレどもに囲まれた。
おまえの父親が、離れた所にいる時を狙ったんだ。
村の人間の多くが殺された。
こいつの父親とおれは、ちょうどその地に転戦してきたばかりだった。
そこに知らせが入ったんだ。
タカクンヌの宿が襲われていると。」
タカジョウ 「何だって!」
ハニサ 「タカクンヌ・・・」
アコ 「タカジョウは、何かの血筋の人なんだね。」
ササヒコ 「突然ですまんな。
歓談中に申し訳ないが、灯りの樹の周りは、太鼓踊りの場になるんだ。
ここは一つ、移動をお願いできんだろうか。」
クマジイ 「せっかく、いいところじゃったのにのう。」