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5000年前の中部高地の物語

光の丘① 第99話 14日目⑫

 

 

 

          祈りの丘。

 
ヤッホ  「アニキー、場所取りしたぜー。」
シロクン  「ここで食うってことか?」
ヤッホ  「アニキは知らないだろうな。太鼓が鳴ったら、囲い筒は移動させてもいいんだ。
      ただ、丘で食べる時は、一人御座半分、
      二人で御座一枚の広さっていうことになってる。
      ここなら、ハニサの灯りの樹だってよく見えるだろう?」
クマジイ  「ハニサとわしの灯りの樹じゃ。」
ハニサ  「ヌリホツマ、顔が真っ赤だよ。」
ヌリホツマ  「ジイが勧め上手でな。気分が良いわ。」
サラ  「先生、横に座ってもいい?」
ヌリホツマ  「あーよいぞ。ハギや、サラに細い縫い針の作り方を教えてやっておくれ。」
ハギ  「シカの骨でいいなら教えてやるよ。砥石のいいのを持ってるから。
     何かやるのか?」
ヌリホツマ  「シカの腱(けん。アキレス腱)を使って試してみたい事があっての。
        サラが来てくれたお陰で、思い描いておったものが実行に移していけそうじゃ。」
ハギ  「ふーん。サラ、何をやるんだ?」
サラ  「私も、まだ聞いてない。シカの腱をどうするんだろう?」
テイトンポ  「サラ、探したぞ、スッポンはどうなった?」
サラ  「もうじき、アマゴ村の父さんが、解体してくれる。活き血のことは、言ってあるよ。」
テイトンポ  「じゃあ料理を取りに行くついでに覗いてみるか。サチ、行くぞ。」
サチ  「おじちゃん、イキチってなあに?」
テイトンポ  「命のみなもとだ。」
ヤッホ  「アニキ達も、料理を取って来いよ。おれがここにいるから。
      エミヌ、おれの分を何か持って来てくれ。」
エミヌ  「分かった。あの二人、上手く行くと思う?」
ヤッホ  「どこにいる? あれか。
      物凄く離れて座ってるな(笑)。」
ナジオ  「ここにいたのか。いい場所だな。」
エミヌ  「探したんだよ。どこ行ってたの?」
ナジオ  「いろり屋でひものを炙ってた。匂いが出るからさ。
      いっぱいあるぞ。欲しいの取れよ。」
 
シロクン  「供宴の場は、凄い賑わいだった。
        大勢群がっていたから何かと思えば、ヌリホツマの酒器だってな。」
クマジイ  「婆の酒器は持ち帰っていいからの。記念品じゃな。」
シロクン  「だからだな。ナジオ、それ、引っ張りだこじゃないか。一つくれんか?」
ナジオ  「タビンドだけあって良く知ってるな。好きなのを取ってくれ。」
シロクン  「ハニサ、前に話したことがあっただろう。これがタコだぞ。干物になっているが。」
ハニサ  「えー! これのもっと大きいのが海にはいるの? 
      あ! 美味しいね!」
シロクン  「こんなのちっちゃい方だ。テイトンポ、サチは?」
テイトンポ  「スワの連中に捕まった。サチは連中から大人気だからな。」
クマジイ  「孫みたいに、可愛いしのう。干物をもらうぞ。」
テイトンポ  「ほれ、スッポン鍋だ。
        ダシを張ったのを鍋ごともらって来たぞ。
        ハギ、見てみろ。旨そうなブツ切りが入っておる。
        後でどこかの焚き火で炊き上げよう。」
ハギ  「うん。甲羅も分厚いな。」
アコ  「テイトンポ、紹介するよ。こちら、タカジョウ。
     山奥にオオイヌワシのシップウと暮らしてるの。
     あたしの死んじゃった子の、お父さん。」
テイトンポ  「ワシ使いか! シップウをここに呼んでみてくれ!」
タカジョウ  「シップウはトリ目だからな。今は寝かせておくよ。」
ムマヂカリ  「一緒に狩りをしたことがあるんだが、シップウはすごいぞ。
        並みのワシじゃない。」
クマジイ  「どうすごいんじゃ?」
ムマヂカリ  「おれが驚いたのは、獲物の遥か手前で地上スレスレまで下りて、
        そのまま一直線に獲物に向かうんだ。そして爪で襲いかかる。
        その時は、若い雄のイノシシだったが、最初の一撃で、失神したんじゃないかな。」
タカジョウ  「頭や首を、わしづかむからな。爪の一つでも急所に入ればそうなる。」
アコ  「タカジョウ、あたし達も食べ物を取りに行こう。それからまた話せばいいよ。」
タカジョウ  「そうだな。ついでに何か持って来るが?」
クマジイ  「酒じゃな。」
ハニサ  「あたし、カモのサクラ燻し。去年食べたの、美味しかったから。」
サラ  「私は、ムジナ汁。」
ヤッホ  「おれは甘露煮、アユの。」
アコ  「ヤッホも一緒に来な!」
ヤッホ  「分かったよ。他にも適当に、持てるだけ持って来るぞ。」
テイトンポ  「さて、サラよ。スッポンの育て方だが、温泉と何の関係があるんだ?」
サラ  「池の水が冷たいと、すぐ眠っちゃうの。
     そしたら餌を食べないから大きくならないよ。」
テイトンポ  「温泉の湯を、池に引き入れるって意味か?」
サラ  「そう。この辺りのスッポンは、もう少しで冬眠に入ると思う。
     でも飼っていて、冬眠されると詰まらないでしょう?
     だから私、いろいろ試したの。」
テイトンポ  「池の広さは?」
サラ  「ムロヤの半分くらい。そんなに深くなくていいけど、底に身を隠す為の砂が要るよ。」
テイトンポ  「砂にもぐると言うんだな。エサは?」
サラ  「人の食べ残りとかでいいんだけど、池の水を汚しにくい物。」
アコ  「サクラ燻し、大人気で、これが最後だったよ。」
タカジョウ  「それクマジイ、酒だ。
        ハギの席だと言ったら、ヒョウタン二つくれたぞ。」
クマジイ  「でかした! 流石はタカジョウじゃ。」
テイトンポ  「そうだ。忘れぬうちに・・・
        シカダマシ、マ印(まむし酒)の特級だ。飲み方を言うぞ。
        まず、マ印だけを飲み干せ。
        口に合わんだろうが、10数えるまではこらえろ。
        その後に、栗実酒で口直ししろ。
        それから、アコ、明日、おれと一緒に、シカ村に行くぞ。
        アコはシカ村で、工房作りをしていろ。
        おれはあの辺の川筋を歩き回ってスッポンを探す。
        そしてここに戻ったら、工房の横にスッポン池を作るぞ。
        工房には湯があるからな。
        そうだ、おれはしばらくクズハに会えん。今夜は二人だけにしろ。」
アコ  「分かったよ。」
ムマヂカリ  「ウエ! これはきついな!」
ヤッホ  「ほいこれ、ムジナ汁。
      調理場じゃあ、タマが居なくなったって大騒ぎになってたぜ。」
タカジョウ  「ホコラと一緒に居るんだろう。」
ヌリホツマ  「この祭りで一番働いたのは、タマじゃからな。
        休憩させてやればよい。」
エミヌ  「タマは昨日もほとんど寝ていないと思うよ。」
サチ  「父さん、スワの人達が、これを父さんにって。私はこれをもらった。」
シロクン  「どれ、サチのは・・・黒切りの磨きだ。首飾り用だな。」
ヤッホ  「白斑点じゃないか!」
クマジイ  「なんじゃと、どれ、見事じゃな!」
シロクン  「こっちは、白縞だ。二つある。文様揃いだ。
        もともと一個の石だったんだな。こうくっつけると、文様がぴったり合う。
        ハニサ、どっちがいい?」
ハニサ  「あたしがもらっていいの?」
シロクン  「当然だ。おれたち三人で、沈んだ村を見つけたんだから。」
ハニサ  「あたし、何にもやってないよ。」
シロクン  「ハニサがいなければ、シジミを取りに行かなかった。いいから、選べばいい。」
ハニサ  「・・・じゃあ、こっち。」
ヤッホ  「どうした、ハニサ。泣いてるのか?」
ハニサ  「 あたし、兄さんのトツギの儀に出て、ちょっと羨ましかったんだ。
      でもこれで、初めてシロクンヌとお揃いの物が出来て、すごくうれしいの。
      これ、あたしの宝物。」
シロクン  「ハニサ・・・」
 
 
登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている

      

追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる アヤクンヌ      エミヌ 18歳  オジヌ 16歳 エミヌの弟  カイヌ 14歳 オジヌの弟    モリヒコ シカ村のカミ  サラ 17歳 スサラの妹 ハギとトツギとなる ヌリホツマの弟子  ナクモ 18歳 エミヌの友人  シオラム 41歳 ササヒコのすぐ下の弟 塩作りの加勢のためシオ村で暮らす 5年に一度、里帰りする  ナジオ 20歳 シオラムの息子 シオ村生まれ  タカジョウ 23歳 ワシ使い  ホコラ 洞窟暮らし 哲人  シップ オオイヌワシ タカジョウが飼っている  

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚  眼木=めぎ 眼鏡フレーム 曲げ木工房で作っている  クンヌ=イエの頭領  吊り寝=ハンモック  一本皿=長い丸太を半分に割いて作ったテーブル。一本の木から2本取れるが、一本皿と呼ばれている。