縄文GoGo

5000年前の中部高地の物語

さあ準備が整った 第96話 14日目⑨

 

 

 

          供宴の場。

 
ムマヂカリ  「囲炉裏は三ヶ所。一列に丘を囲むように、10歩の距離をあける。
        真ん中の囲炉裏の村側にシロクンヌの机だ。
        種熾きはあそこにある。すぐに火を熾して、石を焼くぞ。」
シロクン  「サルスベリの作業も、もう終わる。
        そのあと希望者50人に、囲い筒を作ってもらえば、あっちの机も空く。」
ヤッホ  「長い一本皿は運んだから、いろり屋の机の上の物をここに運んで一本皿に載せよう。」
ハギ  「そうだな。いろり屋の机を空けて、次に机を運ぶか。
     その後に短い一本皿2本を運ぶ。」
シロクン  「サチも一緒に行くぞ。ハニサの器を運んでくれ。
        ムロヤに祭り用のがいくつかあるんだ。」
サチ  「はい。父さん、私、お姉ちゃんのムロヤの中が見てみたい。」
シロクン  「サチはまだ、見たこと無かったか。妖しい雰囲気が漂ってるぞ(笑)。」
テイトンポ  「水がめだ。どこに置く?」
クズハ  「ここに置いて。そんなにたくさん、よく持って来られましたね。
      そういう所が素敵なの。」
シロクン  「テイトンポ、真っ赤だぞ(笑)。」
 
 
          サルスベリの樹。
 
ヌリホツマ  「これが漆ロウじゃ。ウルシの実から、わしが取ったロウじゃ。
        これの作り方も、すぐに教えてやるぞよ。」
サラ  「先生、こんなにたくさんのロウを、先生が一人で取ったの?」
ヌリホツマ  「いやいや。祭りが終わり、ひと月も経てば実の収穫が始まる。
        梯子を掛けて、よじ登ったりもせねばならん。
        その後に、実を搗くのも力仕事じゃ。それらは男衆にやってもらう。
        殻を吹き飛ばした後の、ロウの素を蒸すところからは、わしがやる。
        そのやり方や、わしの知識のすべてをそなたに伝えるぞよ。」
サラ  「ありがとうございます。私、知りたい事、いっぱいある。」
ホコラ  「ヌリホツマ、持ってきたぞ。干しコウモリだ。その娘は、弟子か?」
ヌリホツマ  「おお、ホコラ。たくさんあるの。礼を言うぞ。この娘は弟子のサラじゃ。
        さっき、トツギの儀を挙げたばかりじゃ。
        サラ、こちらはホコラとゆうて、山奥の洞窟に暮らし、ミツバチを飼うておる。」
サラ  「ミツバチの巣って何で作るの?」
ホコラ  「桜の樹の皮だよ。夏前の時期に、桜の皮を剥ぐ。
      そいつで筒を作って底を付けてフタを載せる。」
サラ  「それが、樹のウロ(穴のこと)みたいな役目を果たすんだね。」
ホコラ  「そういう事だ。本物の樹のウロは、持ち運ぶのが大変だからな(笑)。」
サラ  「私、今度それを作ってみよう!
     そうだ! 来年の春、それを持ってウルシ林に来るんでしょう?」
ホコラ  「ああ来るよ。その時実物を見たらいい。」
サラ  「はい。その時また、いろいろ教えてください。」
ヌリホツマ  「ホコラよ、おぬし心の眼はいくつ開いた?」
ホコラ  「六つだ。ハニサを見たら、六つ目が開いた。今、はるか遠くに、七つ目が見える。」
 
クマジイ  「こんなもんで、どうじゃ?」
ハニサ  「うん。なかなかの出来だよね。完成ー!」
クマジイ  「完成じゃー!」 大きな拍手が起きた。
ハニサ  「カタグラ、ありがとう!」 抱きついてしまった。当然、卒倒した。
ヤシム  「マグラ、早くこっちに来て!」
ハニサ  「カタグラ、大丈夫?」 抱き上げたが、さらに悪化させた。
フクホ  「カタグラの介抱はあたしがやるよ。ハニサは少し、休憩おし。」
ハニサ  「じゃあ囲い筒の粘土を、練って小分けにしてくるね。
      コノカミ、50個分でいいんでしょう?」
ササヒコ  「そ、そうだ。
       ・・・今日のハニサは、何と言うか・・・一段と神々しいわい。」
 
    ハニサが練って小分けした粘土50個で、囲い筒作りをしたい者を募集したところ、
    希望者が殺到して、収集がつかなくなってしまった。
    やむを得ず新たに粘土を搗き、ヌリホツマは予備のロウソクを放出し、
    希望者全員が作れるようにした。
    そうしたところ希望者はハニサが練って小分けした粘土をねだったので、
    結局、ハニサに休憩する暇(いとま)はなかった。
    こうして、この年の明り壺の祭りは、混沌の中にも大盛況の様相を呈し、
    夕刻を迎えることとなる。
 
 
          供宴の場。
 
ヤッホ  「短い一本皿はどこに置けばいい?」
タマ  「一本はそこで、もう一本はこっちだね。
     ヌリホツマの酒器は、そっちのに並べておくれ。
     サカキの葉を一枚敷いて、その上に置くんだよ。
     こっちのには食器類を置く。」
 
    ヒョウタンを切って漆塗りしたヌリホツマの酒器は、来客者から人気が高く、
    そのまま持ち帰ってもよいという土産にもなっていて、大好評をはくしていた。
    毎年デザインが変わり、大切に蒐集(しゅうしゅう)している者も多い。
    この年は70点が用意されていた。
    食器類とは、ヒョウタンを切った椀、竹皿、樹皮皿、
    竹皮、蕗(フキ)の葉、朴葉、竹箸などである。
 
タマ  「さっき届いた丘の机に、一本皿料理の追加分を載せておこうか。」
ササヒコ  「確認するぞ。長い一本皿が二本。しかしそこに載せる料理は、計六本分ある。」
タマ  「そうだね。減ってきたり無くなったりしたら、この机の物で追加したり変更したりする。
     一本皿用は、17種類の料理があるよ。」
ササヒコ  「そんなにあるのか! それとは別に、焼き肉だな。シカ2頭とイノシシか。」
タマ  「それなんだけど、どうも焼き石が足りないね。
     囲炉裏は三つでいいが、焚火でも焼き石を作った方がいいね。」
ササヒコ  「そうだな。この辺りの焚火では、全部焼き石を作るか。ヤッホ・・・」
ヤッホ  「分かった、石を取って来るよ。みんな、行こうぜ。」
ササヒコ  「すまんな。川魚の串はいくつ残っている?」
タマ  「700だね。昨日から遠焼きにしてあるから、水気が抜けて旨味が濃いはずだよ。」
ササヒコ  「あと鍋だが、ツルマメ村からアナグマが届いたそうだな。」
タマ  「ムジナ汁は人気だろうね。
     鍋は8種類、器40杯はできるよ。 囲炉裏一つに鍋は三つを同時に炊こうと思ってる。
     隙間で串を焼こうかと思ったけど、一本皿の一角にナマの素材と竹串を並べるから、
     各々が食べたい物を竹串に刺して、好きな焚火で焼いてもらう事にしたよ。」
ササヒコ  「なるほど、面白い趣向だな。」
タマ  「それからシオラムの日干しなんだけど、
     囲炉裏の横に熾き場を作るから、そこで炙(あぶ)るよ。
     匂いが出るから、太鼓の後から始めた方がいいね。
     鍋は、温まったものから鍋台に移動させるやり方でいいね。」
ササヒコ  「それでいい。グリッコ、団子のたぐいは、張り机なんだな?」
タマ  「アケビの一部と団子はカゴ吊り。乾いていて軽いものだけが、張り机。
     はちみつグリッコは子供を優先に手渡し。余れば張り机だね。」
ササヒコ  「カゴ吊り用の、竿と杭が見当たらんが。」
タマ  「テイトンポが脚立を利用して、可動式なのを直前に作るそうだよ。」
ササヒコ  「なるほど! サルスベリの所の脚立だな。飲み物は?」
タマ  「栗実酒はたんまりある。アマゴ村からの差し入れもあったしね。
     山ブドウの女酒が、一年物がヒョウタン5個、二年物がヒョウタン3個。
     ヒョウタン仕込みだから、ヒョウタンごとに強さも味も違うだろうね。
     子供達には山ブドウの蜂蜜薄め汁がたくさん作ってあるよ。
     あとね、この場での解体が一つ。サラのスッポン。
     スッポンは捨てるところがないし、
     活き血が飲みたい人もいるから、ここでやることになったんだよ。」
ササヒコ  「それだけの料理、仕込みも大変だったであろう。ご苦労だったな。
       ハニサの器も、これだけ並ぶと圧倒される。」
タマ  「さっき丘の上を見て来たよ。今年のお祭りは凄い事になりそうだね!」
ヤッホ  「石はそれぞれの焚き火で焼けばいいね?」
ササヒコ  「ご苦労さん。そうしてくれ。」
ムマヂカリ  「しかし天気に恵まれてよかったよ。見てみろ。御山が真っ赤だ。」
マグラ  「綺麗だなー! ここからはクニト山が大きく見えるんだな。」
ムマヂカリ  「そうだった。スワではクニト山って呼ぶんだよな?
        御山で一番高い峰のことを。」

 

 
 
登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている

      

追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる アヤクンヌ      エミヌ 18歳  オジヌ 16歳 エミヌの弟  カイヌ 14歳 オジヌの弟    モリヒコ シカ村のカミ  サラ 17歳 スサラの妹 ハギとトツギとなる ヌリホツマの弟子  ナクモ 18歳 エミヌの友人  シオラム 41歳 ササヒコのすぐ下の弟 塩作りの加勢のためシオ村で暮らす 5年に一度、里帰りする  ナジオ 20歳 シオラムの息子 シオ村生まれ  タカジョウ 23歳 ワシ使い  ホコラ 洞窟暮らし 哲人  シップ オオイヌワシ タカジョウが飼っている  

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚  眼木=めぎ 眼鏡フレーム 曲げ木工房で作っている  クンヌ=イエの頭領  吊り寝=ハンモック  一本皿=長い丸太を半分に割いて作ったテーブル。一本の木から2本取れるが、一本皿と呼ばれている。