アコとタカジョウ 第95話 14日目⑧
サルスベリの樹。続き。
アコ 「知らない人もいるよね。
紹介するよ。この人は、タカジョウ。
あたしが産んだ子の、お父さん。」
カタグラ 「アコには子供がいるのか?」
アコ 「いたんだけど、病で死なせちゃったの。」
カタグラ 「そうだったのか。」
アコ 「うん。タカジョウは、山奥にオオイヌワシのシップウと暮らしてるの。
シップウは元気?」
タカジョウ 「今、呼ぶよ。」
タカジョウが指笛を吹くと、一頭の巨大なワシが森の方から飛んできて、
タカジョウの腕にとまった。
シロクンヌ 「すごいな! ワシ使いなのか。
それにしても、立派なオオワシだ。
オオカミだってイチコロじゃないか?」
タカジョウ 「キツネは楽々だな。
オオカミも、いけると思うぞ。
マグラ 「タカジョウか。噂は聞いていたが、会うのは初めてだ。
おれはアユ村のマグラ、こいつが弟のカタグラだ。」
タカジョウ 「アユ村か。見晴らし広場から見る夕日が美しいと聞いた。」
アコ 「この人はシロクンヌ。
タビンドで今この村に逗留してるの。
ハニサが宿なんだよ。」
タカジョウ 「シロクンヌ?
・・・聞き覚えのある名だが。」
アコ 「会ったこと有るの?」
シロクンヌ 「おれは、初めてだ。」
タカジョウ 「まあ、人違いだ。こんなに若くはないはずだ。」
クマジイ 「タカジョウや、もちっと村に顔を出せい。
みんな会いたがっておるぞ。」
タカジョウ 「クマジイも元気そうで何よりだ。
そうしたい気もあるんだが、こいつがいるしな。
・・・ちょっと待てよ。
シロクンヌ 「そうだが。」
タカジョウ 「おそらく・・・
おぬしの父親は、おれの命の恩人だぞ。」
その時にわかに、周りが騒がしくなった。
丘を駆け上がって来るハニサがギャラリーを引き連れていたのだ。
ハニサ 「クマジイー、早く完成させましょーー。」
タカジョウ 「ハニサが、光っている・・・」
供宴の場(夏は麻の栽培地だった場所)。
いよいよ明り壺の祭りが始まる。
各村々の、カミの顔が見える。
ササヒコ 「今はまだ見えぬが、あの太陽の左手に、月はすでに生まれておる。
今はまだ、針のように細いはずだ。
月はやがて満ち、そしておとろえ、消える。
そして再び蘇(よみがえ)る。
月こそは、とこしえなのだ。
これより、明り壺の祭り、とこしえの祭りの祭事を執り行う。」
ヌリホツマ 「あの太陽の少し左。
生まれたての月のおわす方角に向かって、跪(ひざまず)け。
よろしいか。わ-れーらーがーこーのーちーにーたーちーてーすーでーにー・・・」
いろり屋。
タマ 「みんな、祭事が済んだら、供宴の場で準備に入るよ。
今年は賑わってるから、囲炉裏は3ヶ所。
丘を囲むように10歩の間隔を開けること。
真ん中の囲炉裏の村側に、シロクンヌの机を置いて、そこが本調理場だけど、
出来る限り、ここで下ごしらえを済ませて行くからね。
祭事が終わり次第、火を熾し、石を焼き始めておくれ。」
ムマヂカリ 「おれ達は長い方の一本皿を二本、途中まで運んでおこう。
(一本皿は、長短、2本ずつある。)
テイトンポ、あの、腰縄のやり方を教えてくれないかな。」
テイトンポ 「あれは簡単だ。親指くらいの太さの縄があればいい。」
ハギ 「作業小屋から取って来るよ。」
サルスベリの樹。
ハニサとクマジイが作業をしている。
マグラとカタグラは遮光器式の眼木を掛けて、助手をしている。
あとはそれを遠巻きに取り囲むギャラリーだ。
ハニサは全身から強い光りを放ち、輝いている。
タカジョウ 「どうなっておるのだ・・・」
アコ 「ハニサは綺麗だろう?
シロクンヌの宿になってから、ハニサは変わっていってるんだ。
あたしはタレの準備があるから。
シップウはそろそろ放った方がいいよ。」
タカジョウ 「そうだな。夜また話ができるだろう?」
アコ 「うん。でも去年みたいなことはできないんだ。」
タカジョウ 「そうか。アコが幸せなら、それでいいさ。
おれは話ができればいい。」
アコ 「相変わらず、かっこいいね。」 抱きつきたかったが、シップウが邪魔で出来なかった。
供宴の場
ヌリホツマ 「たーびーわーれーらーをーみーちーびーきーたーまーえー。」
ササヒコ 「これにて、祭事を終える。ご参加頂き、ありがとう。
皆さんにおかれては、夕刻まで・・・ん? 丘の上が光っておるな。」
アシヒコ 「女神じゃろう。あの光りは、女神の光りじゃ。」
マスヒコ 「ハニサか!」
シロクンヌ 「アシヒコ、あの時は世話になった。礼も言わずに帰ってしまって、すまんかった。」
アシヒコ 「シロクンヌ、あの光りは女神じゃろう?」
シロクンヌ 「ハニサだ。あの時よりも輝きが増してきているな。
マグラとカタグラも、力を貸してくれている。
もうすぐあの丘の上に、灯りの花を咲かせる大きな樹が完成するぞ。」