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5000年前の中部高地の物語

アコ、おそるべし。 第92話 14日目⑤

 

 

 

          サルスベリの樹。続き。

 
テイトンポ  「両方、一対一の勝負だ。
        背中合わせとは、背中合わせになって、地面に尻をついて座る。
        そして足を伸ばす。
        その体勢から始める。
        合図で動き出し、先に相手の両肩を地面に付けた方が勝ちだ。
        背中取りは、向かい合って、立って始める。
        相手の背中に密着できれば勝ちだ。」
カタグタ  「テイトンポは、その勝負で、おれがアコに負けると言い張っておる。」
クマジイ  「いくら何でも、それはなかろう。」
ヤッホ  「アコは腕相撲で、ハニサに負けるだろう?」
アコ  「ヤッホだって負けてただろう。」
ナジオ  「ヤッホ、なんでアコが男と勝負するんだ?」
ヤッホ  「アコはそこにいるテイトンポに弟子入りしてて、鍛えられているんだよ。」
ムマヂカリ  「眼を突いたりするのは無しなんだろう?」
テイトンポ  「どちらでもよいが、アコはそれはせん。」
ハギ  「最近のアコはあなどれないが、カタグラだって剛の者だよ。
     おれはカタグラが勝つと思う。」
テイトンポ  「今夜あたり、シジミグリッコの配給があるはずだ。
        ハギ、シジミグリッコ5個でどうだ?」
ハギ  「よし! おれはカタグラに、シジミグリッコ5個。」
ヤッホ  「おれも、同じで。」
マグラ  「おれはカタグラに、20個。」
ヤッホ  「だけどこうやって、もし全員がカタグラに賭けて、カタグラが勝ったら、
      テイトンポは払えないだろう?」
テイトンポ  「その時は、おれに配給された鹿肉などの別の食いもので払うし、眼木もつける。」
ヤシム  「じゃあ私もカタグラに5個。」
クマジイ  「わしもカタグラじゃ。自分に配給された分を全部いっとくか。」
サラ  「私は父さんを信じる。アコに1個。」
ムマヂカリ  「1個か(笑)。
        ・・・悩むなあ。おれも全部いくが、やっぱどう考えてもカタグラだな。」
カタグラ  「おれも自分に賭けてもいいか。20個だ。」
テイトンポ  「よし、いいな? おれはアコ乗りで、全員を受ける。
        では背中取りから行くか。
        カタグラとアコ、そこに5歩の距離に向かい合って立て。」
 
 
          祈りの丘。外周。
 
シロクン  「この囲い筒も、ハニサが全部作ったのか?」
ハニサ  「そうだよ。でも簡単なんだよ。型があって、粘土版にそれを押し付けるの。
      あとは型から外して、クルッと筒にするだけ。」
シロクン  「型にくっついて、取れなかったりしないのか?」
ハニサ  「粘土に灰をまぶして押すの。焼かないから、気を遣う事が少ないしね。」
シロクン  「そうなんだな。肩車されていて、疲れなかったか?」
ハニサ  「やってる最中は夢中だったから何とも無かったけど、少し疲れてるかな。
      でもここからは、自分の足で立ってできる高さだから・・・
      シロクンヌこそ、疲れなかった? あたし、重いでしょう?」
シロクン  「ハニサは重くないさ。
        それにおれも、ハニサが作業し易い位置取りを考えたり、結構夢中だったよ。」
ハニサ  「あたし、シロクンヌが居てくれて、いろんな事が出来た。
      温泉に、二回も行ったり、粘土を掘ってくれたり、これだってそうだよ。
      来年は出来ないと思う。
      あたし、シロクンヌ以外の人に、肩車されたくない!
      シロクンヌ!」 抱きついた。
シロクン  「ハニサ・・・まだ完成していないぞ。
        ハニサの灯りの樹。おれは目に焼き付けるよ。」
ハニサ  「うん。もう少しだ。頑張る!」
 
 
          サルスベリの樹。
 
シロクン  「いろんな場所から見てきたよ。
        このまま完成させれば、すごい物になりそうだ。」
ハニサ  「さあ、追い込みを掛けて、がんば・・・なんか、どんよりしてない?
      カタグラ、なんで泣いてるの?
      マグラも青い顔して。
      ナジオまで青ざめて、どうしたの?」
クマジイ  「シロクンヌや、おぬしに訊ねたいが、よいかの。」
シロクン  「クマジイ、どうした? なんか変だぞ。何が聞きたいんだ?」
クマジイ  「背中合わせやら背中取りやらの競技を、
       カタグラとアコが競ったらどっちが勝つかの?」
シロクン  「そんなのアコに決まってるよ。
        二つとも、あっという間に、アコが勝つさ。」
クマジイ  「やはりな。
       テイトンポのやつ、シロクンヌをわざと遠ざけて、
       わしらのグリッコをむしり取って行きおった。」
ハニサ  「テイトンポは?」
アコ  「使いが来て、大ムロヤに行った。
     他の村のカミ達が、眼木のことを聞きたいらしい。」
ヤッホ  「でも何でアニキはアコが勝つって知ってたんだ?
      一緒に修行したのかい?」
シロクン  「ははあ、グリッコを賭けて、二人に勝負させたんだな。
        相変わらずの食い意地だ。
        ヤッホ、昨日、アコと一緒に川に入ったんだ。
        夜ではなく昼間にな。
        その時におれは、アコの全身を見ている。
        観察する様に見た。裸足で川を歩く時の、身のこなし方や・・・」
ハニサ  「シロクンヌ! 二人だけで、裸になって、川に入ったってこと?」
シロクン  「そ、そうだが変なことは何もしてないぞ。汗を流しただけだ。」
アコ  「背中をこすってやったし、肩も揉んでやったぞ。」 ニヤニヤしている。
シロクン  「アコ、変な言い回しは、よせ。」
アコ  「アハハハ。」
ハニサ  「もういい! あたし、作業を始める。」
 
 
 
登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている

      

追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる アヤクンヌ      エミヌ 18歳  オジヌ 16歳 エミヌの弟  カイヌ 14歳 オジヌの弟    モリヒコ シカ村のカミ  サラ 17歳 スサラの妹 ハギとトツギとなる ヌリホツマの弟子  ナクモ 18歳 エミヌの友人  シオラム 41歳 ササヒコのすぐ下の弟 塩作りの加勢のためシオ村で暮らす 5年に一度、里帰りする  ナジオ 20歳 シオラムの息子 シオ村生まれ  

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚  眼木=めぎ 眼鏡フレーム 曲げ木工房で作っている  クンヌ=イエの頭領  吊り寝=ハンモック