5年ぶりの里帰り 第91話 14日目④
いろり屋
ヤッホ 「すげえスッポンだな。
カワエビとサワガニ、結構いたよ。」
タマ 「ほんとだねえ! それだけいればカリカリ焼きができるね。」
ヤッホ 「じゃあおれは、祈りの丘に行くからね。」
シオラム(41歳・男) 「ヤッホか!立派な若者になりおったな!」
ヤッホ 「シオラム叔父さんか! 遅かったじゃないか。父さんには会ったの?」
シオラム 「たった今着いたところだ。ナジオと二人、夜通し歩いたんだぞ。」
タマ 「ナジオかい? 大きくなったねえ! また、大荷物をしょってるね。」
ナジオ(20歳・男) 「腐るといけないからね。歩きに歩いたんだ。
袋の中身は、魚の日干しだよ。」
シオラム 「こっちは桜エビの日干しだ。
今年は大量だったんだ。夜に獲るんだぞ。」
サルスベリの樹。
マグラ 「すまんな、遅くなった。
村の入り口で、アユ村のカミのアシヒコ達にばったり出会ってな。」
ハニサ 「来てくれたんだね。」
シロクンヌ 「早い到着だな。夜中に出たのか?」
マグラ 「どうやらそうらしい。
近隣の村のカミ達も一緒で、彼らに急かされたみたいだ。
明り壺の祭りの前に、沈んだ村について聞いておきたかったと言っていた。
だから大ムロヤに案内して、コノカミがいたから引き合わせたんだ。
サチ、大ムロヤに行って、昨日の話を聞かせてやってくれ。」
サチ 「父さん、行って来ていい?」
シロクンヌ 「ああ。父さんとハニサは、こっちがあるから今は手を離せない。
あとで挨拶するから、その辺もよろしく伝えてくれ。」
サチ 「はい。」
テイトンポ 「はかどっておるか? 脚立と火付け棒、こんなもんでいいな?」
カタグラ 「兄者、これを持ってみろ」 火付け棒を手渡した。
マグラ 「恐ろしく軽いな。
なるほどこれなら脚立の上でも、片手で自由に扱(あつか)えそうだ。」
ハニサ 「上の方は、大体できたね。」
クマジイ 「最初に100個あったフタは、今いくつ残っておるかの?」
ヤシム 「20個だね。」
クマジイ 「という事は、今、80付いておるんじゃな。」
ハニサ 「うん、そうだね。一度降りて、地面から見てみようか。」
ナジオ 「おいヤッホ、これがハニサか?」
ヤッホ 「な? 驚いただろう? 5年ぶりだから、無理もないけど。」
ナジオ 「ハニサ、おれが分かるか?」
ハニサ 「えっとー、ナジオでしょう? シオ村の。
マツタケ山からあたしをおんぶして村まで連れ帰ってくれたんだよね。」
ナジオ 「よく覚えてたな。足を挫(くじ)いて泣いたんだよ。
ひ弱だったのに、こんな日焼け美人になって、・・・何で光ってるんだ?」
ハニサ 「何で光るのか、あたしにも分からないの。」
ムマジカリ 「すごい物が出来そうだな。」
ハギ 「丘のはずれからも、よく見えるよ。」
サラ 「私、夜が楽しみになって来た。」
ヤッホ 「去年までのと全然違うな.なんて言うか、躍動感がある。」
ヤシム 「ヤッホにしては、気の利いた表現じゃない。ナジオ、久しぶりね。
二十歳になったの?」
ナジオ 「そうだよ。ヤシムはお腹が大きかったよな。」
エミヌ 「凄いね! 近くで見ると、大迫力!
あ! ナジオだ!」
ナジオ 「エミヌか! みんな綺麗になるもんだなあ。」
エミヌ 「ナジオだって、大人になってるじゃない。
日焼けしててカッコいいよ。
そうだ、差し入れ持って来たよ。」
シロクンヌ 「そうか。普段は飲食禁止だって言ってたな。」
ナクモ 「試食品だから、感想を聞きたいって。」
カタグラ 「いっぱいあるな。アケビの実が器の代わりか。
いろいろ混ぜてあるんだな。」
ヤシム 「うわー! もうこれだけで綺麗じゃない。」
ハギ 「これは、何だ?」
ナクモ 「クルミをすり下ろして、山ブドウにかけてあるの。」
ハニサ 「あ! これキッコが掛かってる。」
カタグラ 「これは?」
ナクモ 「桑の実を山ブドウの女酒に漬け込んでおいたもの。」
カタグラ 「美味い! アケビと合うな。」
ナクモ 「これは栗の友漬けがのってるの。栗実酒に一年漬けておいた栗。
こっちも食べてみて。」
ヤッホ 「カタグラばっかに食わすなよ。」
笑いが起き、ナクモとカタグラは顔を赤らめ、皆それぞれが思い思いに頬張った。
結局どれもが美味しいということになり、エミヌとナクモは、いろり場に戻って行った。
シロクンヌ 「ハニサ、おれ達も、色んな場所から見た方が良くないか?」
ハニサ 「そうだね。シロクンヌ、一緒に行こう。」
テイトンポ 「遠くからも見た方がいいぞ。
丘の周りを一周して来い。」
カタグラ 「アコって、彼女だろう?」
アコ 「なに? どうしたの?」
カタグラ 「こんな華奢(きゃしゃ)な娘に、到底負けるはずはない。」
アコ 「何の事?」
テイトンポ 「背中合わせと、背中取りだ。」
クマジイ 「なんじゃい、そりゃあ?」