縄文GoGo

5000年前の中部高地の物語

祭りの朝 第88話 14日目①

 

 

 

           明り壺の祭り当日。朝の広場。

 

テイトンポ  「シロクンヌ、見てみろ!」

シロクン  「ああ、テイトンポ、おはよう。お! オシャレしてるな(笑)。」

テイトンポ  「服もそうだが、これこれ。」

シロクン  「草履か!」

ハニサ  「母さんが編んだんだね。」

テイトンポ  「どうだ? いいだろう。

        ハレの日の草履だ。祭りにピッタリだろう?」

シロクン  「ほんとだな。よく似合ってるぞ(笑)。」

ハニサ  「なんか、服も草履もオシャレだね(笑)。」

テイトンポ  「クズハが用意してくれたんだ。コノカミとシカ村のカミにも見せて来るか。」

シロクン  「ハハハ。テイトンポはご機嫌だな。
        おお、カタグラ。」
ハニサ  「おはよう。ゆっくり寝られた?」
カタグラ  「おれはぐっすりだった。」
ハニサ  「マグラはお疲れ気味ね。寝られなかったの?」
マグラ  「いや、そんなことは無い。おれもぐっすり寝たよ。」
カタグラ  「いい天気で良かったなあ。
       クニト山が、すぐそばに見える。」
シロクン  「今日、二人はどうせ暇なんだろう? 手伝ってくれよ。」
カタグラ  「どうせ暇だ。何を手伝う?」
シロクン  「おととい、地震があったろう。あれで明り壺が、全部壊れた。」
マグラ  「ほんとか! どうするんだ?」
ハニサ  「あたしとクマジイで、即興で作っちゃうの。くっ付きのいい粘土で。」
マグラ  「即興か! 面白そうだな。」
カタグラ  「何だか知らんが、女神、何でも言ってくれ。」
サチ  「おはよう。今日は私、お姉ちゃんのお手伝いするんだって。」
カタグラ  「何だサチ、昨日と全然感じが違うな。」
ハニサ  「ヤシムが、こういうの、すごく上手いの。」
クマジイ  「おはようさん。のんびりはしておれんぞ。粘土は?」
シロクン  「粘土と道具一式、さっき丘に上げておいた。」
カタグラ  「それは流木だな。不思議な形の物が多いが。」
クマジイ  「そうじゃろう。40年かけて集めたものじゃぞ。」
ヤシム  「私も手伝うよ。」
クマジイ  「ヤシムや、妙に嬉しげじゃな。
       こないだは泣いておったが。
       良い事でもあったのか?」
ヤシム  「あったよ。」
 
 
          祈りの丘。
 
ヤシム  「光ってるハニサって、ほんっと、綺麗だね。」
クマジイ  「見惚れてしまってやりづらいのう。」
カタグラ  「女神だ・・・」
シロクン  「ハニサ、肩車するぞ。」
ハニサ  「お願い!」
サチ  「お姉ちゃん、お尻が見えてる。」

    マグラとカタグラが、卒倒した。 貫頭衣の肩車は、なかなか難しい。

ヤシム
  「待ってよ。裾同士を結ぶから。
      もう! マグラ! しっかりしてよ!」
サラ  「ハニサが光ってる!」
シロクン  「ちょうど良かった。
        サラ、テイトンポの所に行って、眼木を5~6個、もらって来てくれ。
        作業が、はかどらんのだ。」
 
 
          作業小屋
 
ムマヂカリ  「慎重に運ぶぞ。焼いてないから割れやすい。」 

    囲い筒の運び出しだ。
    囲い筒とは、15㎝四方の薄い粘土版に小さな穴をたくさん空け、
    クルっと巻いて筒型にしたものだ。
    ウルシの実から作ったロウソクを地面に置き、
    囲い筒で風除けのカバーをする。
    水に浸ける訳ではないから、粘土は焼く必要が無い。
    祭りが終わればくずしてしまって、粘土として再利用することになる。

ハギ  「これが地震で無傷だったなんて・・・良かったよなあ。」
ムマジカリ  「ところで、新品のムロヤの居心地はどうだ?」
ハギ  「草のいい匂いがして、いいもんだな。寝具以外、なんにも無いが。」
ムマジカリ  「そうそう、スサラが気にしておったが、
        サラは生き物を持ちこんではいなかったか?」
ハギ  「持ってきてた。石亀だ。3歳の時に、つかまえたらしい。」
ムマヂカラ  「それから?」
ハギ  「いや、それだけだぞ。」
ムマヂカリ  「5歳の時につかまえたものを、持って来てはいないか?」
ハギ  「だから、それだけだって。
     ・・・5歳の時に、何をつかまえたんだ?」
ムマヂカリ  「ならいい。忘れてくれ。」
ハギ  「忘れられないだろう。
     何をつかまえたんだよ。持ってきてるかも知れないんだぞ。」
 
 
          いろり屋
 
タマ  「昨日持ってきてくれたイノシシは、鍋でいいのかい?」
シカ村の女  「そうだね。あと、腸詰めを燻(いぶ)して・・・
        アマゴ村から、おそらくワサビが届くから、刻んで添えよう。」
タマ  「骨髄を炒(い)って、ふりかけを作ろうか。」
シカ村の女  「キモは焼いて、アコのタレでいこう。
        心臓はタレにづけておいて、串焼きがいいね。」
タマ  「一本皿料理は、10種類以上欲しいから、いい案があったら、教えとくれな。」
 
    一本皿料理とは・・・
    縄文バイキングの一種。
    10メートルほどの丸太を半分に割き、断面を少し窪ませる。
    そこに大きめのササの葉を敷き詰める。
    それが、一本皿だ。
 
    それを交差させた木の脚で受け、長いテーブルにする。
    テーブルの高さは腰くらいにすれば、料理も取りやすい。
    そこに様々な料理を載せるのだ。
    一本の木から、二本作れるのだが、一本皿料理と呼ばれている。
 
ヤッホ  「ササの葉、これだけあれば足りるかい?
      ついでにウサギも狩って来た。」
タマ  「御苦労さま。それから、サワガニかカワエビかいないかね。
     だしを取りたいんだよ。」
ヤッホ  「じゃあ川を見て来るよ。」
タマ  「悪いね。なるべく早くにお願いするよ。」
 
シカ村の男  「遅くなった。昨日、うちに届いたんだ。
        途中の村が、一日間違えたんだろうな。
        本当は、一昨日届くはずだったんだが。
        塩の渡りを持ってきた。」
タマ  「御苦労だったねえ。星明りだけで駆けて来てくれたのかい。」
シカ村の男  「祭りに間に合わなかったら元も子もないからな。
        まず塩。そして乾燥ワカメ。
        ここからは、御祝儀だそうだ。
        コンブ。スルメが20枚。海苔。フカヒレ
        それからツルマメ村が、アナグマをくれたようだから持って来たよ。」
タマ  「ありがとうよ。重かったろう? 助かったよ。
     これだけあれば、いろんな物ができそうだねえ。」
シカ村の男  「間に合ったみたいで、よかったよ。
        さて、祭りの前に静かな所で吊り寝(ハンモック)しておくか。
        そうそう、昨日、アマゴ村の衆が栗実酒をヒョウタンで30も持って来てたぜ。
        なんでも、ここでトツギがあるとか言ってたな。」
 
 
登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている

      

追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる アヤクンヌ      エミヌ 18歳  オジヌ 16歳 エミヌの弟  カイヌ 14歳 オジヌの弟    モリヒコ シカ村のカミ  サラ 17歳 スサラの妹 ハギとトツギとなる ヌリホツマの弟子  ナクモ 18歳 エミヌの友人  

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚  眼木=めぎ 眼鏡フレーム 曲げ木工房で作っている  クンヌ=イエの頭領  吊り寝=ハンモック