イワナの夜突き③~それぞれの夜 第87話 13日目⑪
河原の基地
マグラ 「みんな戻ったのか?」
ハギ 「ヤッホ、エミヌ組がまだだな。」
カタグラ 「女神、ヤッホのビクってどれかな?」
ハニサ 「これ。この二つ。」
カタグラ 「ビクは全部で30で、今ヤッホが一個持ってるんだな。
って事は、ヤッホは3個。数は合うよな。」
ハニサ 「5個が、シロクンヌ、テイトンポ、兄さん。
4個が、ムマヂカリ、マグラ、カタグラ。
ヤッホは3個ね。」
マグラ 「うちは、実質3個だ。」
ヤシム 「私が転んじゃったの。」毛皮の毛布をまとっている。
ムマヂカリ 「おれ達も、実質3個だ。いや、3は無いな。最初の三つは隙間が多い。
満杯の4個目をここに運ぶ途中に・・・おれが転んでしまった。
クマジイ、すまん!」
クマジイ 「なんの、お互い様じゃ。」
ハニサ 「カタグラ達は、実質4だよね。
テイトンポが最後の一個を取りに来て、
その後に来たのがカタグラだったから。
そこで太鼓を打ったの。」
テイトンポ 「おれ達も結構スカスカだぞ。だから、実質4だな。」
アコ 「あたしが、ヤスを二本、折っちゃったんだ。
それからは手掴み。」
マグラ 「それもまた凄いな(笑)。」
ヤシム 「となると、シロクンヌとハギの勝負だね。」
カタグラ 「フタを開けて見てみるか。」
ムマヂカリ 「両方、5個が満杯だ。数えてみなきゃ分からんな。」
クマジイ 「それにしても、ヤッホは遅いのう。
怪我をしておらにゃいいが。」
カタグラ 「探しに行くか。」
サチ 「あ!ヤッホ達が帰って来る。何か持ってるよ。」
ヤシム 「どこ? あ、下流から来るあれね。」
ヤッホ 「アニキー、川から上がれないんだー。助けてくれよー。」
シロクンヌ 「どうした?」
カタグラ 「大丈夫か?」
全員、ヤッホに駆け寄った。エミヌがすかさず、照らした。
曲げ木工房
テイトンポ 「女衆はここで湯に入って、湯浴びしろ。体を温めるんだ。
アコ、ぬるくなったら焼き石をくべろよ。
男どもは向こうに行くぞ。
ハニサ、終わったら呼びに来てくれ。
その後、みんなで串を打つぞ。」
焚き火を囲んで、みんなで魚に串を打っている。
サラ 「父さんのビクの魚、刺し傷が無いのが一杯いる。」
アコ 「頭が潰れてるのもいるだろう(笑)。」
ムマヂカリ 「しかし、シロクンヌとハギが、一匹差でハギの勝ちだったなあ。」
ハニサ 「兄さんって凄いんだね。」
ハギ 「でもシロクンヌは、サチに突かせたりもしたんだろう?」
シロクンヌ 「そうだが、サチは相当な腕前だぞ。おれは驚いたんだ。」
ハギ 「これがシロクンヌのビクだな・・・
何だ? エラ刺しがやたらに多いな。エラを狙ってたのか?」
サチ 「父さんは全部エラ刺しだった。
身が突かれているのは、私がやったの。」
カタグラ 「どれ、見せてくれ・・・
ふむ・・・横から突いたのか?」
シロクンヌ 「身が傷んでいない方が、魚は美味いからな。
ハギも普段はエラ刺しだろう?
森の作業場で、ハニサと食べたアユはエラ刺しだった。」
ハギ 「昼間に、岩の隙間に逃げ込んだ魚を突く時は、おれもエラを狙うが・・・」
カタグラ 「おれは、所かまわず刺すぞ。」
ムマヂカリ 「おれもそうだな。」
マグラ 「普通はそうだと思うぞ。」
アコ 「それにしても、ヤッホには驚いたよ。」
カタグラ 「まったくだ。」
マグラ 「たいしたもんだよ。」
アコ 「なんせ、フルチンだったからな!」
ヤッホ 「そっちじゃ無いだろ!」
サラ 「アハハハハ。」
クマジイ 「エミヌも、わざわざ照らす事もなかろうが。」
エミヌ 「でも、クマジイだって大笑いしてたじゃない。」
クマジイ 「おお、あれは面白かったのう。
でも数で言えば、ヤッホ、エミヌ組が3匹差で一番じゃったな。」
テイトンポ 「作戦勝ちだな(笑)。」
ムマヂカリ 「おれらが随分貢献した訳か。」
ハニサのムロヤ。
シロクンヌ 「確かにハニサの方が、力があるな。」 肩をもんでもらっている。
ハニサ 「でしょ? あたし、腕相撲、強いんだよ! ヤッホに勝ったことある。」
シロクンヌ 「そりゃすごいな。
なら注文出すが、もう少し、肩を摘み上げるように揉んでくれんか。」
ハニサ 「こう?」
シロクンヌ 「そう! それ!
ハニサは明日は腕の見せ所だな。」
ハニサ 「うん。頑張るよ。」
ヤシムのムロヤ。
サチ 「タホは寝たよ。ヤシム、行って来ていいよ。私も眠くなったら寝てる。」
ヤシム 「みんなには、内緒ね。」
サチ 「はい。」
ハギのムロヤ。ここは、新婚初夜である。
ハギ 「新しいムロヤって、気持ちいいな。」
サラ 「草の良い匂いがするね。」
ハギ 「急な事だったから家財道具が何も無いけど、おいおい揃えていかなきゃな。」
サラ 「私、ここで、石亀飼ってもいい?」
ハギ 「まあ、カメくらいならな。」
サラ 「よかった。かわいいでしょ? ハエタベルって名前なの。」
ハギ 「持って来てたのか!」
大屋根の下。
カタグラ 「兄者、来たみたいだぜ。」
マグラ 「じゃあ、ちょっと行って来る。」
カタグラ 「おれは寝てるからな。」
ハニサのムロヤ。
ハニサ 「エミヌがね、シロクンヌの背中、気持ちよかったって。」
シロクンヌ 「はしゃぎまくっていたからな。
腿(もも)をカカトで、随分蹴られたんだぞ。」
ハニサ 「アハハ。そうだったんだ。
多分、本人は気付いてないよ。
今度、ナクモも背負ってあげてよ。」
シロクンヌ 「ナクモってカタグラの横で泣いていた娘だな。
・・・サチの話、心に沁みたな。」
ハニサ 「・・・そうだね。」
ハギのムロヤ。
ハギ 「随分、でかいな。」
サラ 「私が3歳の時に、つかまえたの。ずっと一緒に暮らしてるんだよ。」
ハギ 「そうか・・・
言いにくいんだが、ハエタベルという名前を、変える訳にはいかないかな?」
サラ 「これよりも可愛い名前ってあるの?」
ハギ 「いくつもあると、思うんだが・・・」
サラ 「じゃあ、・・・
ハギのギと、サラのラで、ギラ! ハサって、言いにくいでしょう?」
ハギ 「おれの名から取る必要は無いと思うが・・・まあ、いいか。」
サラ 「ハエタベル、おいで。」
ハギ 「いや、ギラだろ!」