イワナの夜突き② 第86話 13日目⑩
河原の基地~飛び石の川。
ハニサ 「ここに脱いだ履物を並べて、一杯になったビクは自分の履物の前に置く、でいいね?」
ムマヂカリ 「それがいいな。魚が飛び出ない様にフタも忘れるなよ。
準備はいいな? じゃあ行こうか。
ハニサ、30数えたら、小さく太鼓を打ってくれ。
魚が驚かん程度に。」
ハニサ 「分かった。みんな、頑張ってね! サチ、無理しちゃ駄目だよ。」
サチ 「はい! お姉ちゃん、行ってきます。」
エミヌ 「ヤッホ、どっち行く?」
ヤッホ 「こっちだ。付いて来な。」
テイトンポ 「アコ、上流に行くぞ。」
アコ 「よし!気合が入って来た。」
カタグラ 「ナクモは泳げるのか?」
ナクモ 「泳げるよ。深い所でもいいよ。服が濡れたら着替えるから。」
サチ 「父さん、こっちにたくさんいるよ。」
ヤシム 「水がつめたーい! ねえタイマツって、これくらいの高さでいいの?」
マグラ 「ああ、大体でいいよ。濡らさん事が大事だ。
おっと! ヤシム、大丈夫か?」
ヤシム 「危なかった! 転ぶところだった! ありがとうマグラ。」
マグラ 「歩く時は手を引いてやるよ。」
ハギ 「川面に顔を浸けて待つか。
獲ったら魚を差し出すから、ビクを手元に持って来てくれな。」
サラ 「魚を入れたら、丸めた草でビクにフタをすればいいんだね。
太鼓が鳴った! 凄い! ハギ、もう獲ったの?
ビクに入れた。また獲ってる!
・・・また!
顔を浸けっぱなしで歩いて行くんだね!」
シロクンヌ 「サチ、ビクをくれ。」
サチ 「父さん凄い! 2匹刺さってる!」
ヤシム 「マグラ、魚突き巧いんだ! 私達、上位にいくかもよ!」
マグラ 「おれ達も、夜突きはよくやるんだよ。それ、また獲れた。」
カタグラ 「よし、ビク一つは一杯だな。ナクモもやってみろよ。面白いぞ。」
ナクモ 「いいの?」
カタグラ 「いいぞ。ほら、これ持って。見ててやるから。そこにいるだろう?
そいつを・・・やった! なんだナクモは上手いんだな。」
ヤッホ 「ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ、鼻から水が入った!」
ヤッホ 「これが作戦なんだ。ほら、そこに一匹。」
エミヌ 「あ! ほんとだ! あっちにも一匹。
なるほど! そういう事なのね(笑)。」
テイトンポ 「アコ、もっと肩甲骨を使ってみろ。」
アコ 「こう? あ! しまった! ヤスが折れた!」
テイトンポ 「よし、ビクも一杯半だな。
ヤスを取り替えるついでに、ビクも新しいのに替えてしまうか。」
ムマヂカリ 「今、ビクにどれくらいたまってる?」
クマジイ 「しもうた! ビクが横倒しじゃった!」
ムマヂカリ 「おいおいクマジイ。しっかりしてくれよ。全然いないのか?」
サチ 「父さん凄い! 今度は3匹刺さってる! ビクが二つとも一杯になったよ。」
シロクンヌ 「サチ、この場所はいいぞ。
父さん、ビクを替えて来るから、サチはここを動いちゃ駄目だぞ。
転ぶといかんから、タイマツは持って行くがいいな?」
サチ 「はい! 父さん、ヤスを貸して。」
ハニサ 「シロクンヌと兄さんがほぼ同時。」
ハギ 「他はまだ来てないな。」
シロクンヌ 「あっちからテイトンポが来るぞ。」
サラ 「ハギ、頑張ろう! 優勝できるよ。」
ハギ 「よし! 急いで戻るぞ。」
エミヌ 「これ、おもしろーい! みんな下向いてるから、全然気付かないんだね。」
ヤッホ 「一人で突いてるやつが多いだろう?
一人だと、ビクに入れる時に逃がす事が多いんだ。」
エミヌ 「また流れて来た。ビク二つ、もう一杯になったよ。」
シロクンヌ 「サチ、待たせたな。」
サチ 「父さん、4匹突いた。父さんみたいに、鰓(エラ)刺しはできないけど。」
シロクンヌ 「何だって! サチ、よく見えたなあ。たいしたもんだ!
照らしてやるから、続けてやってみろ。」
ムマヂカリ 「やっと、ビク二つが一杯か。交換に行こう。」
クマジイ 「戻ったら、わしにも突かせてくれやせんか。」
ムマヂカリ 「いいが、クマジイ、足取りが危なっかしいぞ。ビクはおれが持つよ。」
アコ 「しまった! またヤスを折った! テイトンポ、ごめん!」
テイトンポ 「気にするな! 手掴みするぞ。
ここらのイワナは、オボコい! 見ていろ。」
アコ 「凄い!」
テイトンポ 「それ一匹。次はデコピン獲りだ、親指で、こう中指を弾くやつだ。」
アコ 「魚にデコピンするの?」
テイトンポ 「そうだ。身に当てると、身が崩れるから頭を狙うんだ。
たとえ巨大な鯉であろうが、デコピン一発で仕留める・・・
それくらいの事が出来んようでは、話にならんぞ。」
ヤシム 「ワッ!」
マグラ 「ヤシム! 大丈夫か?」
ヤシム 「ごめん! 転んで火が消えちゃった。
あ! ビクが!」
マグラ 「いいよ。まだそんなに入って無かったし。それより、怪我しなかったか?」
ヤシム 「怪我してないけど、服がびしょ濡れ。」
マグラ 「寒いだろう? 上がって火に当たろう。
毛布があったから、服を脱いで、毛布をまとえばいい。」
ヤシム 「ごめんね。せっかく調子良かったのに・・・」
マグラ 「そら、おれにつかまれ。気にしなくていいよ。
それにさっき見た時、ビクの残りも少なかったから、じきに太鼓がなるさ。
面白かったなあ。」
ヤシム 「うん!」
マグラ 「あはは、見てみろよ。向こうでも誰か転んでる。」
エミヌ 「わー! 大量に流れて来た!
どんどん来るみたい。ビクに入り切れないよ!
ヤッホ、どうする?」
ヤッホ 「こうなったら奥の手だ!
履き物(ズボン)を脱ぐぞ。」(縄文人はパンツを履いていない)
エミヌ 「えっ?」
ヤッホ 「エミヌ、髪を縛ってる、そのヒモをくれ。スソを縛る。」
エミヌ 「頭いい。そこに魚を入れるのね。早く早く。
あ! ヤッホの、かわいー。照らしてあげる(笑)。」
ヤッホ 「よさないか! 川に入って冷たいからだよ。
ちぢこまってるだけだ。」