沈んだ村談義、再び 第82話 13日目⑥
夕食の広場。続き。
シロクンヌ 「サチ、アユ村の働きかけで、周りの村が合同で、沈んだ村の祭りをしてくれる。
ただ、今のままでは、どんな祭りをすればいいのか、分からないらしい。
これは、おまえにとっても大事なことだ。
地元の村の祭りが、一番の供養になる。
沈んだ村について知っている事を、おまえの口から、みんなの前で話せるか?」
サチ 「はい!」
シロクンヌ 「みんなちょっと聞いてくれ。
スワの湖に沈んだ村がある。
その件だが・・・」
マグラ 「シロクンヌ、先におれが、その後の事を報告する。それでいいか?」
シロクンヌ 「そうだな、そうしてくれ。」
マグラ 「先日、シロクンヌがひょんな事から、沈んだ村の位置を突き止めた。
その後おれ達も、何度もそこに潜って、いろいろな事を調べたんだ。
周りの村が、総出でおこなった。
その結果見つかった物は・・・
湖底に根を張った木の残骸は、2本はある。
炉であったと思われるものが1ヶ所。焦げの付いた石が少数。
人の手で削られたと思われる柱状の木が多数。
石皿が3個。石包丁が大小あわせて8。
動物の骨が小数。器の破片は無数・・・
間違いなくそこは、かつて地上にあって、人が暮らした村であったはずだ。」
クマジイ 「浅いと言っておったのう。陸からはどれほどの距離なんじゃ?」
マグラ 「距離は、歩けば1000歩といったところだ。
深さは人、二人分。
シロクンヌは泳いで何往復もしたらしいが、おれ達は舟を使った。」
ハニサ 「あの時、舟は見当たらなかったもんね。」
シロクンヌ 「舟は普通、葦原の舟隠しなんかに、隠しておくんだよ。」
マグラ 「続けるぞ。以上が村があった証拠の痕跡だ。
それとは別に、おびただしい数の、石の矢じりが出た。」
カタグラ 「一部だけ持ってきたから配るな。
手を切るなよ。」
モリヒコ 「何だ、これは! こんな矢じり、見たことないぞ!」
ササヒコ 「みんな気を付けろよ。
変な持ち方すると、すぐ手が切れるからな。」
シロクンヌ 「簡単に、ヒゲが剃れるんだ(笑)。」
モリヒコ 「どうやって作ったんだ、これを。」
クマジイ 「こっちの石は、見たこと無いのう。」
ヤッホ 「こんなにいろんな形があるのか。」
ムマジカリ 「黒切りは、透き通ってるものが多いな。」
マグラ 「シロクンヌが300は見付けて、おれ達はそれとは別に2500ほどは見付けた。
その中で、製作途中だと思われる、荒削りの物が1000だ。
そしてなんと言っても多いのが、矢じりの大きさまで加工された、
この大きさの原石だ。
これが3カ所で固まって見つかっていて、数え切れてはおらん。
それに比べると、大きな原石がわずかしか見つかっておらん。
あとは様ざまな石があるのだが、湖底のここだけが砂利なんだ。
道具石みたいな物が有りはしないかと探したのだが、
砂利に紛れて見つけられてはいない。
砂利の所に村があり、その周りは泥や砂だ。
そこはざっと掘っただけだが、篩(ふる)いに掛けると、黒切りの細かい石片が出た。
砂利の所で他には槍の穂先なども50ほどは出ているが、
圧倒されるのは矢じりの数と、その加工技術の高さだ。
以上が周りの村との協力で、調べたことの要点だ。」
テイトンポ 「人の骨は出たのか?」
マグラ 「断定できる物は、出ていない。
が、おそらく人の骨は、無いのじゃないかな。
太い骨は、ほとんど無かった。」
サラ 「不思議な話だね。」
マグラ 「とにかく、それだけの村が沈んだことは間違いない。
おれ達地元の村々は供養のための祭りをすることで同意した。
では、さて、どんな祭りにしたらいいのか?
それをサチから教えてもらいたいのだよ。」
ヤッホ 「何で、サチなんだ?」
シロクンヌ 「そこから先は、おれが説明する。
スワの湖に沈んだ村があるという話は、おれはこの村で初めて聞いた。
千本征矢(せんぼんそや)の村と呼ばれ、勇猛な狩人の村が沈んだと。
ところがアユ村に行ってみると、
千本征矢の村は狩人村ではなく矢作りの村だと言う。
真っ直ぐに飛ぶ、優れた矢をたくさん作っていた村だと。
しかし、いずれにしろ、千本征矢の村が沈んだことには変わりは無い。
この付近の伝承では、そうなっていたはずだ。
ところがそこで、サチが言ったのだ。
千本征矢の村は、沈んではいない。
沈んだのは、トコヨクニ一の美しい矢じりを作る、石工(いしく)集団の村で、
千本征矢の村はその対岸にあったのだと。
はるか昔に、トコヨクニ一の技術を誇る矢の根石の村が、
スワの湖のほとりにあったのだと。
もちろんこれは、おれが沈んだ村を見つけるよりも前の話だ。
サチはその村の場所を探す為に、北のミヤコからスワに来ていた。
そこで災難に遭ったのだが、おれとは、アユ村の前で出会ったんだ。
サチは、その沈んだ村のカミの、子孫なんだよ。」
スワの湖に沈んだ村のお話は、第42話、第52話~第60話で描いてあります。