縄文GoGo

5000年前の中部高地の物語

にぎやかな夕食 第81話 13日目⑤

 

 

 

          夕食の広場。

 
    クマジイとヤッホが、目出たい踊りを踊っている。
    シカ村の女達は、全員、眼木を掛けている。
 
ササヒコ  「みんな聞いてくれ。
       シカ村から応援の衆が駆け付けてくれた。
       夕食の後、明日の食事の下ごしらえを手伝ってくれる。
       馴染みの顔も多いことと思う。
       この席で、親交を深めてくれ。
       アユ村からも二人の来客があった。シロクンヌの話でみんな聞いておるな。
       マグラ、カタグラの兄弟だ。
       お二人からは、シジミグリッコをたくさん頂いた。」
テイトンポ  「旨いぞ! これ!」 笑いが起きた。
ササヒコ  「ハハハ。 それから、アマゴ村から、トツギがあった。
       サラ、ここに来てくれ。
       ハギにトツグ、サラだ。
       サラはスサラの妹で、ハギの妹のハニサと同い年だ。
       トツギは村を上げての喜びだ。
       これも縁だ。他の村の衆も、一緒に祝うてくれい。
       なお、夜更けには、飛び石の川で、イワナの夜突き大会を行う。
       我こそはと思う者は、どしどし参加してくれ。
       この澄み渡った空を見るがいい。
       先ほどは、御山が夕映えに赤く染まった。
       明日は必ず晴れる。
       栗実酒を振舞うぞ。
       祝いの宴を楽しんでくれ。」  大歓声が、起きた。
 
ハニサ  「兄さん、おめでとう。新しいムロヤに住むんだね。」
ハギ  「ああ、これで漸(ようや)く、男ムロヤから出られるよ。」
カタグラ  「ハギとは何度か顔を合してたよ。
       見晴らし岩の下の川で、仕掛けしてるよな。
       まさか女神の兄さんだったとはな。」
ハギ  「カタグラも夜突き大会、出るだろう? ヤスなら貸してやるから。」
カタグラ  「よし! では突きの腕前をご披露しようか(笑)。」
サチ  「父さん、見晴らし岩って、父さんがお姉ちゃんを泣かした所?」
シロクン  「そうだろうな。あの岩の上は見晴らしがいいんだ。」
エミヌ  「ハギ、おめでとう! サラもおめでとう!」
ハギ  「ありがとう、エミヌ。今日はナクモ(18歳・女)と一緒じゃないのか?」
エミヌ  「ナクモは恥ずかしがり屋なのよね。」
ヤッホ  「いいじゃないか。ナクモも呼んで来いよ。」
ハニサ  「ナクモー、こっちにおいでよー。
      ねえカタグラ、ソマユ達は明日来るの?」
カタグラ  「ソマユは来られないと思う。足がな。だからマユも来ないだろうな。」
ハニサ  「そう。会いたかったな。ナクモ、ちょっと狭いね。
     カタグラ、隣にナクモを座らせてあげて。」
カタグラ  「じゃあちょっとズレるか。
       ナクモって言うのか。おれはカタグラ。
       アユ村に住んでる。よろしくな。」
ナクモ  「私はナクモ。よろしくね。」
サラ  「ハニサはますます綺麗になったね。」
ムマヂカリ  「シロクンヌの宿になってから、日を追う毎に綺麗になっていってる。」
ヤッホ  「あの二人、こっちに来ないのか?」
カタグラ  「兄者には、さっき声を掛けたんだがなあ。」
ムマヂカリ  「ヤシムも、まんざらではなさそうだな。」
テイトンポ  「やっとるな。なんだサラ。座る場所はそこじゃあないぞ。」
サラ  「父さん、私、どこに座ればいいの?」
テイトンポ  「そんな事も分からんのか。(サラを抱え上げて、ハギの膝に座らせた)
        ここに決まっておるだろう。」
クズハ  「ハギ、寝具二組、ムロヤに運んでおきましたよ。」
テイトンポ  「どうせ一組しか、使やあせんぞ。」
クズハ  「あなたとは、違うんですよ。」
アコ  「ハギ、良かったな! おめでとう!」
 
 そこにヌリホツマが、いそいそとやって来た。
 
ヌリホツマ  「ハギ! サラをわしに、くれい。」
ハギ  「な、何だよ、いきなり。」
ヌリホツマ  「サラはわしが、永年探し求めておった娘じゃ。
        わしの後継者は、サラしかおらん。」
ハギ  「後継者って、何の後継者なんだよ。
     まさか巫女(みこ)はトツギはいかん、なんて言い出さないだろうな。」
ヌリホツマ  「そうか・・・年甲斐もなく興奮してしもうた。
        順序がおかしかったのう。
        ハギ、それからサラ、トツギ、おめでとう。
        このトツギは祝福されておる。
        サラの両親も、明日ここで二人を祝福する。」
サラ  「ほんと?」
ヌリホツマ  「本当じゃ。ハギ、巫女と男女のいたしとは何の関係もない。
        そんなことを言うたら、わしじゃとて以前クマジイと・・・
        とにかく、漆の事や、薬草、祈りや祓い、
        その他諸々のわしの知識を授けたい、そういう意味じゃ。」
ハギ  「そういう事か。びっくりするなあ。
     サラはそういうの、興味あるのか?」
サラ  「ある!」
テイトンポ  「なるほどサラには、向いておるかも知れんぞ。」
ヌリホツマ  「少しの期間、わしの所へ通わせてくれんか?
        その後、サラが嫌がるようなら、引き止めやせん。」
サラ  「ハギ、私、行くよ。」
ハギ  「そうだな。サラには向いてるかも知れないな。
     トカゲのしっぽを集めてたもんな・・・」
サラ  「あれは乾燥させて、粉にしたら、薬になるんだよ。」
ササヒコ  「大勢集まっておるな。酒は足りておるか?」
モリヒコ  「ハギ、サラ、おめでとう。
       シロクンヌ、シカ村のカミのモリヒコだ。
       テイトンポの弟子なんだってなあ。
       近付きの盃だ。受けてくれ。」
シロクン  「これはシカ村のカミ、よろしく。」
モリヒコ  「めずらしい貝もシロクンヌからだったな。
       曲げ木も我が村に伝えてくれるという。
       礼を言うぞ。」
クマジイ  「目出たい踊りも齢を食うと、腰にくるのう。」
マグラ  「シロクンヌ、ちょっといいか?」
シロクン  「どうした?」
マグラ  「ヤシムに最近のサチの様子を聞いておったのだが、夢で泣くこともないらしい。
      おれから見ても、元気で可愛らしい娘にしか見えん。
      だから言い出しにくいのだが・・・
      沈んだ村の、供養の祭りの件なんだ。
      いくつもの村が集まって、祭りをすることは決まった。
      ただ、どんな祭りをすればいいのかで悩んでおる。
      もしサチが何か詳しい事を知っておるのなら、教えてもらえないか?」
シロクン  「そうか。おれも詳しいことまでは聞いてはいない。   
        ちょうどみんな集まっているし良い機会だ。
        直接、サチの口から、語らせる。
        サチ、ちょっとここへ来い。」
サチ  「はい。」
 
 

 

登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている

      

追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる アヤクンヌ      エミヌ 18歳  オジヌ 16歳 エミヌの弟  カイヌ 14歳 オジヌの弟    モリヒコ シカ村のカミ  サラ 17歳 スサラの妹 ハギとトツギとなる ヌリホツマの弟子  ナクモ 18歳 エミヌの友人  

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚  眼木=めぎ 眼鏡フレーム 曲げ木工房で作っている  クンヌ=イエの頭領