サルスベリの移植 78話 13日目②
飛び石のそばの川。
アコ 「あ! 先客がいた!」
シロクンヌ 「なんだ、アコも行水か?」
アコ 「汗かいたからね。入っていいかい?」
シロクンヌ 「ああ、気持ちいいぞ。
おれは粘土を掘ってきてな。
結構、難儀だったよ。」
アコ 「肩を揉んでやろうか?」
シロクンヌ 「いいな、頼むよ。
いやちょっと待て。
昨日の川でも気になったんだ。
脱ぎっぷりがいいから、ついでに色々見せてくれ。
そこで一回りしてくれ。」
アコ 「けっこう凝ってるね。」
シロクンヌ 「テイトンポとはどこで組み合っているんだ?」
アコ 「ムロヤだよ。」
シロクンヌ 「一度、見てみたいな。」
アコ 「それは見せられない。単なる裸とは違うからね。」
シロクンヌ 「なんだと。いたしながら組み合っているのか?」
アコ 「ムロヤだからね。それくらいのことはするさ。」
シロクンヌ 「おれはそれを教わっていないぞ。」
アコ 「当たり前だろ。教わりたかったのかい?」
シロクンヌ 「いや、想像もしたく無い。
それにしても、アコは仕上がって来ている。
信じられんな。
早すぎないか?
いたしながらが、キモなんだろうな。」
いろり屋。
シロクンヌ 「ハニサ、遅くなったな。」
クズハ 「ハニサはどんぐり小屋に行ったけど、すぐに戻って来ますよ。
こんなに重たい粘土を持って、疲れたでしょう?」
クズハ 「欲しいのよ!
あんなにたくさんの実が採れるのなら、
長くてきれいな蔓も、たくさん採れると思うわ。
山ブドウもあるんでしょう?
私、一度そこを見てみたいのだけど、遠いのかしら?」
シロクンヌ 「距離はそれほどでもないが、分かりづらい谷なんだ。
祭りが終われば、一緒に行ってやるよ。」
クズハ 「悪いわね。
それから採ったばかりの蔓は、そこそこ重いのだけど、
運ぶのも、手伝ってもらっていい?」
シロクンヌ 「おれの体に巻き付けてくれればいい。
巻き付け方にコツがあるから、それはそこで教えるよ。
その方が、手で持つよりも、断然多く運べるぞ。」
サチ 「父さん、お帰りー。
お姉ちゃんも、もうすぐ来るよ。」
シロクンヌ 「サチ、今日の眼木(めぎ)は、情熱的だな。」
サチ 「燃える瞳って言われた。」
シロクンヌ 「こんな真っ赤な葉っぱ、どこで見つけた?」
サチ 「おじちゃんがくれた。漆林の帰りに、6枚だけ真っ赤なのがあったんだって。」
シロクンヌ 「さては、クズハも2枚もらったな?」
クズハ 「あの人、こういうの好きなのよ。」 赤くなった。
シロクンヌ 「そうだ! 今日は履いていないが、クズハからもらった草履、
最高に履き心地がいいよ。」
クズハ 「それならよかったわ。足に合うか、少し心配だったの。」
シロクンヌ 「テイトンポには、もう作ってやったのか? 草履。」
クズハ 「ナイショよ。出来てるんだけど、まだ渡してないの。
おれにはまだか? もう出来たか? って毎日うるさいのよ。
だから意地悪して、少しじらしてるの。」
シロクンヌ 「ハハハ。そうなんだな。」
クズハ 「そろそろあげようかしら(笑)。
そうだわ、お祭りが終わったら、サチにも草履を作ってあげるわね。
3足くらい、あった方がいいでしょう?」
サチ 「ホント? ありがとう!」
シロクンヌ 「良かったな、サチ。
今度、粘土版で足型を取るぞ。
お、ハニサが来たな。」
ハニサ 「お帰りー。重かったでしょう?」
シロクンヌ 「どこに持って行けばいい?」
ハニサ 「作業小屋。そこで搗くから。」
シロクンヌ 「よし! じゃあおれが搗いてやるよ。」
ハニサ 「疲れてないの?」
シロクンヌ 「平気だ。さっき、肩を揉んでもらってるし。」
ハニサ 「誰に?」
シロクンヌ 「アコにだ。」
祈りの丘。
クマジイ 「なんとか、活(い)かったのう。」
ハギ 「しかしこの丘の上に、一本だけ厳(いか)つい樹があるというのも、
なかなか不思議な風景ではあるな(笑)。」
クマジイ 「この樹は、いわく付きの樹なんじゃぞ。」
ムマヂカリ 「いわく? 何だそれ?」
ヤッホ 「そう言えば、父さんから聞いたことがあるな。
サルスベリの樹って、トコヨクニでも、ここにしか生えてないって。」
ハギ 「へー! そうなのか?」
クマジイ 「ふむ、まあ、そうじゃな。
わしも、よう知らんが・・・
ところで、ハニサは、随分と張り切っておったのう。」
ハギ 「うん、良かったよ。
せっかく作った明り壺が壊れて、しょげ返ってるかと思ったんだけど・・・」
アコ 「だね。以前のハニサなら、そうなってたろうね。」
ヤッホ 「アニキの影響が大きいんだろうな。」
ムマヂカリ 「だな。アコ、おまえが締めてくれた腰縄。
これをやった途端に、サルスベリが軽くなった。」
ハギ 「そうなんだよ。たった一本の縄で腰を縛っただけなのに、どこがどう違うんだ?」
ヤッホ 「これも、テイトンポの技なのか?」
アコ 「不思議だろう?
蔓運びをする時に、あれこれ試していて、偶然気付いたらしい。
理由はよく分からないんだけど、
体の一部を縛ると、意外な所で効果を発揮するってのはあるらしいんだ。
あたしも実験台になって、いろいろ縛られてる最中だよ。」
ヤッホ 「な、なんか、おまえ達って、すごいことになってるな。」