ハニサが臭う? 第72話 12日目①
朝の広場
シロクンヌ 「成り行きで、気合いが入ってしまったんだ。
お祭りは、あさってだろう? 今日はカワウソ漁をやるだけか?」
ムマジカリ 「毎年、200人くらいは来るんだ。
毛皮などの寝具はそれぞれが持参するが、寝場所は村で用意せねばならん。
大ムロヤは解放するが、それだけでは足りん。
それで大屋根の下に、寝床を作るんだ。
通路を残して竹でワクを組み、そのワクの中に葦(あし)を敷き詰めて、
その上に葦と交差するように萱(かや)を敷く。」
シロクンヌ 「作業小屋に置いてある萱を使うんだな?」
ムマヂカリ 「そうだ。その上にムシロを敷けば完成なんだが、
その葦や萱は、祭りの後に一度干して、
今度はおれ達のムロヤに敷くんだよ。」
シロクンヌ 「冬備えだな?」
ムマヂカリ 「ああ。冬はムロヤの床は、これくらい(20センチ)嵩増し(かさまし)するぞ。
それで大屋根だが、臨時の風よけも作るんだ。
外周の柱の間に追加で柱を立てて、竹を何段か横に渡して、
それに葦簀(よしず)を縛り付けて臨時の壁にする。」
シロクンヌ 「柱は、一から立てるのか?」
ハギ 「そうじゃなくて、それは元々、雪備えの追加柱なんだよ。
雪の重みで大屋根が潰れないように、冬場は追加柱を入れるんだ。
今立ってる柱の間に一本ずつ。
重みに耐えるための柱だから埋め込む必要はない。
柱が立つ場所にツカ石が埋め込んであって、
その上にのせて、屋根の梁(はり)を受けるんだ。
柱ももう出来ていて、立てる場所も決まってる。
そこに立てれば、ピッタリ長さが合うんだよ。
今はその上の梁の上に渡してあるんだ。」
シロクンヌ 「なるほどなあ。いろんな工夫がされてる訳か・・・」
ヤッホ 「毎年の事だからね。おれ達慣れているし、寝床作りにはそれほど時間を食わないよ。」
ムマヂカリ 「祈りの丘の草抜きをしてから、それをやろうと思っていたくらいだからな(笑)。」
シロクンヌ 「食料は足りてるのか?」
ムマヂカリ 「まず魚だが、今日は下の川で獲って、
明日の夜に、飛び石の川で夜突きするだろう。
それから明日の夕方、シカ村からは食材を持った第一陣が来る。
料理の下ごしらえを、ここの女衆とするんだ。」
ヤッホ 「それに保存の効く食べ物を持ち寄ったりもするからね。
おれ達にしたら、その時にしか食えないような食い物も多い。
食料は余るくらいだよ。」
ハギ 「ハニサ、どうした? しょげ返って。」
ハニサ 「いろり屋に下ごしらえの手伝いに行ったら、臭いから手伝わなくていいって言われた。」
ヤッホ 「ブッ そうだろ。」
サチ 「おはよう。見て!」
ヤッホ 「サチ。今日は大人っほいな。髪型も昨日と違うじゃないか。」
ハギ 「ヤシムはほんっと、こういうの上手いな。」
ヤシム 「おはよう。ハニサがしょげてるけど、どうしたの?」
ヤシム 「アハハハハ。ハニサも見上げたものよね。
よくあの臭いの中でいたせたわね。
私はてっきり、シロクンヌはムロヤに入れてもらえないと思ってたから。
それならあんた達二人で、岩の温泉に行って来ればいいよ。」
ムマヂカリ 「そうか。その手があったな。」
ヤッホ 「それがいいよ。
アニキは川に浸かってりゃあいいだろうけど、ハニサには冷た過ぎて無理だ。」
ハギ 「あそこは匂いの強い濁り湯だから、きっとこの臭いはすぐ取れるだろうな。
それにカワウソ漁の場所から、それほど遠くない。
帰りにおれ達と合流すればいい。」
ヤシム 「途中に難所があるから、ハニサが歩いては無理だけど、
シロクンヌが背負えば簡単に越えられるよ。
昨日なんて私を背負って、ものすごかったんだから。」
シロクンヌ 「だけど、祭りの準備の手伝いはどうする?」
ムマヂカリ 「わからん男だな。
シロクンヌの手を借りんでも、おれ達だけで余裕でできる。
それにおぬしは昨日、丘の草を一人で抜いたであろうが。」
ヤシム 「まかないの手伝いなら、ハニサの代わりにサチがやるよ。
それにハニサは明り壺を作っているんだから、
ほんとなら祭りへの貢献は済んでるんだ。
今は臭いを落とすのが先決だよ。
それにね、岩の温泉は山奥だから、滅多に人はいないよ。」
ササヒコ 「今いろり屋で聞いて来たんだが、シロクンヌ、ハニサを連れて岩の温泉に・・・」
ヤッホ 「父さん、そのことなら、今、話がまとまったとこだよ。」
ササヒコ 「そうか。じゃあいいな。」
ムマヂカリ 「距離は少しあるが、シロクンヌの脚なら余裕だ。
初めての者には分かりづらい道だから、白樺の皮に地図を書いてやるから、
それを見ながら行けばいい。
カワウソ漁の場所も書いておく。」
ヤッホ 「そうだ。アニキ、行ったらついでに、イオウを掻き採って来てくれよ。」
シロクンヌ 「イオウ?」
ハギ 「湯の吹き出し口の近くの岩に付いてる黄色いやつだよ。
蜂の子獲りに使うんだ。」
シロクンヌ 「ハチノコ? 何だかよく分からんが、採ってくればいいんだな。」
ヤシム 「シロクンヌ、蜂の子を知らないの?」
ハニサ 「すごく美味しいんだよ。サチは知ってるでしょう?」
サチ 「私も知らない。」
ムマヂカリ 「地蜂の巣を掘り出すのだ。」
シロクンヌ 「そんな事をして、蜂に刺されないのか?」
ハギ 「煙でいぶして、蜂を酔わせるんだよ。
ここらじゃみんなやってるけど、よそじゃイオウが手に入らないのなら、
蜂追いもしないのかもな。」
シロクンヌ 「なんだかおれの知らん事が次々に出て来たな(笑)。」