松ぼっくり あげるよ 第71話 11日目④
夕食の広場。
ハニサ 「臭い! シロクンヌ、なんでこんなに臭いの?」
ヤッホ 「ハニサ、アニキを責めるなよ。
アニキは、見事な演技でオオカミの腰を抜かしたんだぞ。」
ハギ 「あれは人間業ではなかったな。
多くの物を学んだよ。」
ムマヂカリ 「あんな関節の使い方で、しかも素早く動く。
常人にはできるはずもない。」
ハニサ 「そうなの?」
ヤシム 「ハニサ、あの背負い帯に背負われて、スワまで行ったんでしょう?
あんた何ともなかったの?」
ハニサ 「走り出した時にはびっくりしたけど・・・何ともって、どういう事?」
ヤシム 「じれったいね、来なかったかって聞いてるの。」
ハニサ 「・・・少し、来た。」
ヤッホ 「何の話をしてるんだ? ハニサ、顔が真っ赤だぞ。」
シロクンヌ 「言ったろう? あれはハニサの体型に合わせて作ったんだ。」
ヤシム 「私が太ってるって言いたいの?」
シロクンヌ 「太ってなんかいないさ。魅力的な体型だ。
ただ、ハニサの方が少しだけ細い。」
ヤシム 「私、今日は、拷問に掛けられた気持ちだったんだからね!」
ハギ 「話が見えないな・・・どういう事なんだ?」
ムマヂカリ 「アハハハハ。そういう事か。
そりゃあシロクンヌが責任取らなきゃいかんな。」
ヤシム 「だろう? ところがこの男、やさしいだけで、ちっとも責任を取らないんだ。
ハギ、私ってそんなに魅力ないかな?」
ハギ 「やべえ、おれに振って来やがった。
おまえ、今日は飲んでないよな?」
ヤシム 「しょげてたら、さっきクマジイが飲ませてくれた。」
ハギ 「何杯だ?」
ヤシム 「駆け付け三杯。」
ハギ 「クマジイめ、あいかわらず後先考えてないな!」
ヤッホ 「ヤシムはまだアニキのことが好きなのか?」
ヤシム 「大好きだよ。いけない?
はい、これはシロクンヌにあげる。
ヤッホには、これをあげるよ。
今日、森で拾ったんだ。」
ヤッホ 「何だこれ、ただの松ぼっくりじゃないか。アニキのは?」
ところで鹿を二頭獲ったんだってな。」
ムマヂカリ 「おお、コノカミが張り切ってな・・・」
サチ 「見て! おじちゃん、今度こんなのくれた。」
シロクンヌ 「指輪だな。面白い形してるな。」
サチ 「いい? 指輪をはずして・・・どっちにあーるか?」
ムマヂカリ 「そりゃあこっちに決まってるさ。」
サチ 「残念でしたー。」
ムマヂカリ 「なんだと! サチ、どうやったんだ?」
サチ 「おじちゃんに教えてもらった。」
シロクンヌ 「しまった! 一杯食わされた!」
ヤッホ 「アニキ、どうした?」
ヤシム 「ははーん、シロクンヌ、あやかし(手品)に、引っ掛かったんだね。
実はさっき・・・」
ハギ 「アハハハハ、シロクンヌでも引っ掛かることがあるんだな。
そうだ、明日、夕方近くになると思うけど、下の川の上流でカワウソ漁をやるんだ。
シロクンヌも一緒にどうだ?」
シロクンヌ 「カッパ鍋にするんだな。いいぞ。」
ヤッホ 「もしかして、アニキは間違えてるんじゃないか?
獲るのは魚だよ。」
シロクンヌ 「魚?」
ヤッホ 「カワウソの毛皮で魚を脅しながら下流に追い込んで、網に入れるのさ。
一発勝負だけど、いっぺんに沢山獲れるんだよ。
お祭りの時の食材さ。」
シロクンヌ 「そんな獲り方があるのか!
サチは知ってたか?」
サチ 「知らない! 初めて聞いた。」
シロクンヌ 「面白そうだな。下の川と言うのは、スワに行く時の川だな。」
ハギ 「そう。あの上流のカワウソは、わざと狩ってないんだ。
だからあそこの魚は、カワウソを恐れ切ってる。
カワウソの姿を見ると、逃げ回るんだよ。」
シロクンヌ 「なるほどなあ・・・いろんな工夫があるんだな。
よし、明日は初体験だ。
サチも行くか?」
サチ 「はい!」
ハニサのムロヤ
シロクンヌ 「いいよハニサ、今日はおれ、外で寝るから。
慣れてるから心配するな。」
ハニサ 「だめ! 拭いてあげるから、服を脱いで。」
シロクンヌ 「拭いたくらいでは、臭いは取れんぞ。」
ハニサ 「いいの!」
シロクンヌ 「ハニサに臭いが移ってしまうぞ。」
ハニサ 「いいの!」
シロクンヌ 「臭いから、怒っているのか?」
ハニサ 「怒ってなんかいない。シロクンヌ、大好きっ!」 抱きついた。