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5000年前の中部高地の物語

オオカミの群れが 第69話 11日目②

 

 

 

          昼の広場。

 
ヤシム  「サチ、お帰り。手を洗っておいで。鹿肉があるよ。」
サチ  「ただいま。お腹すいた。
     どこで手を洗うの?」
ヤシム  「教えてなかったね。大屋根の向こうから下に降りて。
      湧き水があるから。
      溜まってる水で洗っちゃだめだよ。それは飲み水だから。
      こぼれ出ている水を使ってね。
      シロクンヌ、昨日、スワから戻ったと思ったら、
      早速湧き水に水受けをはめ込んでくれたでしょう。
      疲れてなかったの?」
シロクン  「思い立ってすぐに出た旅だっただろう。
        だから森の作業場でも、やり残しがあるにはあったんだ。
        片付けておかないと、気分がスッキリせんからな。
        そこの水場も、これで便利になっただろう?」
ヤシム  「いろり屋は大助かりしてるよ。すぐに水が汲めるようになったって。
      その先に、晒し場も埋け込んでくれたから、アク抜きが断然楽になったもん。
      鳥除けとかも教えてくれたし、シロクンヌが来てくれたお陰で、村は大助かりしてるよ。」
シロクン  「それは良かった。旅をしていると、方々で知恵を授かるからな。
        それよりヤシム、いろいろありがとうな。
        サチに良くしてくれて。」
ヤシム  「どうしたの、あらたまって。
      私は、好きでやってるだけだよ。
      私はもともと、女の子が欲しかったの。女の子ってやっぱり可愛いわよ。
      それに、タホの一件で、シロクンヌにはお礼をしたかったし。
      本当は、別の形のお礼がしたかったんだけど、ちっとも受け取ってくれないから(笑)。」
シロクン  「受け取りたい気持ちもあったんだがな(笑)。」
ヤシム  「こう見えて、私、さっぱりしているからね。
      踏ん切りがついたら受け取ってみたらいいよ。」
サチ  「お腹へった。お姉ちゃんは来ないの?」
ヤシム  「あ、そうそうハニサはヌリホツマと明り壺の打ち合わせをするから、
      来られなくなったよ。」
シロクン  「お祭りって三日後だろう?
        どんな風なお祭りなんだ?」
ヤシム  「その前に、シロクンヌも手を洗っておいでよ。
      私、食べる物、持ってくるから。」
 
シロクン  「そりゃあ綺麗だろうなあ・・・
        だから草むしりが必要なんだな。
        サチ、安心したら腹が減ったろう。
        もっとたくさん食べていいぞ。」
サチ  「これも食べていい?」
シロクン  「食べろ食べろ。こっちもいいぞ。」
ヤシム  「明日はみんなで草むしりだよ。」
シロクン  「どこの?」
ヤシム  「だから、祈りの丘に決まってるでしょう?」
シロクン  「祈りの丘には、草は生えておらんぞ。」
サチ  「父さんが全部抜いたよ。」
ヤシム  「・・・・・」
シロクン  「タホはどんぐり拾いか?」
ヤシム  「そう。近場は拾っちゃったから、川向こうに行くってお弁当持ってみんなで出かけた。
      お弁当と言ってもグリッコだけどね(笑)。」
シロクン  「大人は誰がついてるんだ?」
ヤシム  「スサラ。でもホムラが一緒だから心配いらないよ。
      ホムラはスサラの言う事は良く聞くんだ。」
シロクン  「そうか、鹿狩りは鹿笛だから、ホムラは留守番だったんだな。
        でも川向こうと言ったな・・・
        飛び石の向こうだろう?
        わずかだが、昨日臭ったんだ。
        それまでは、臭わなかった。」
ヤシム  「何かあるの?」
シロクン  「オオカミだ。気になるな・・・
        ヤシム、急いで食べてくれ。
        子供達の所に行ってみよう。」
ヤシム  「オオカミ! でもこの辺りのオオカミは、狩りつくしているはずだよ。
      鹿とかがいなくなっちゃうから。」
シロクン  「おれは一度ムロヤに戻って必要な物を取って来る。
        戻ったらすぐに出るぞ。」
 
          曲げ木工房。
 
テイトンポ  「それは気になるな。」
シロクン  「弓矢を貸してくれんかな。あとヒョウタン矢も。」
テイトンポ  「持って行け。
        弓は二張りある。
        ひとつはヤシムが持て。ヒョウタン矢もな。
        ヤシム、何かあったらこっちの空に向けて、ちから一杯ヒョウタン矢を放て。
        それから、サチはおじちゃんと一緒にいろ。
        アコ、念のために、弓を二張り、今すぐ作れ。
        急場しのぎの物でいい。」
アコ  「わかったよ。」
 
    ヒョウタン矢とは、放つと「ヒョー」と音の出る矢で、
    矢じりの代わりに小さなヒョウタンが付いている矢だ。
    いわゆる鏑矢(かぶらや)に似た物だと思ってもらっていい。
    ちなみに、当時のヒョウタンは、クビレの無い電球形。    
 
 
          川向こうの森。
 
シロクン  「見てみろ、フンがある。
        この時期、オオカミは新しい縄張りを求めて移動するんだ。
        やつらはここに、他のオオカミが居ない事に気付いてるはずだ。
        まだ遠いのか?」
ヤシム  「私も、はっきりとした場所は知らないの。どうしよう。」
シロクン  「ヤシム、落ち付け。
        今はまだ、何も起きてはいない。
        ホムラが吠えていないし、血の臭いがしない。
        いいか? ヤシムはおれが、背負う。
        この背負い帯はハニサ用に作ってあるから、少しきついぞ。
        つらいかも知れんが、我慢してくれ。
        いいか?走るからな!」
 
シロクン  「これだけ探しても見当たらない。
        おそらくこっちには来てはいないぞ。」
ヤシム  「・・・・・」
シロクン  「ヤシム、どうした? 今降ろすからな。」
アコ  「シロクンヌーーー」
シロクン  「何があった?」
 
 

 

登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている

      

追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる アヤクンヌ 

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚  眼木=めぎ 眼鏡フレーム 曲げ木工房で作っている  クンヌ=イエの頭領