祈りの丘で 第68話 11日目①
朝の広場。
サチ 「おはよう!見て!」
ハニサ 「かわいい!どうしたの、その服?」
サチ 「昨日、ヤシムが作ってくれた。父さん、私、似合ってる?」
シロクンヌ 「ああ、すごく似合ってるぞ。
ヤシム、これ、昨日作ったのか?」
ヤシム 「そうだよ。見直した?」
シロクンヌ 「見直したよ。こんなかわいい娘、そうそういないぞ。」
ヤシム 「私、こういうの作るの大好きなの。
サチは何着せても似合うしね。」
ムマヂカリ 「おはよう。シロクンヌは今日は何かするのか?
おや、サチか! また随分かわいいな。」
シロクンヌ 「今日はのんびりと、サチと一緒に草むしりでもやるよ。祈りの丘の。」
ムマヂカリ 「それがいい。昨日は二人をかついで走って来たんだろう?
今日は体を休めていろよ。
鹿肉の残りがあるから、昼にサチと食べればいい。
おれは祭り用の鹿を狩ってくるよ。
アコのタレ目当てに来るやつも多いからな(笑)。」
シロクンヌ 「一人で行くのか?」
ムマヂカリ 「まさか。ハギやヤッホも一緒だ。
コノカミも。みんな先に出てるんだ。
ゆっくりしてろってのは、コノカミからの伝言でもある。じゃあな。」
シロクンヌ 「分かった。じゃあお言葉に甘えるよ。」
祈りの丘。
シロクンヌ 「ヤシムはやさしくしてくれたか?」
サチ 「はい。一緒に寝てくれた。あったかかったよ。
それに、いろんな服を作ってくれるって。」
シロクンヌ 「それは良かった。その服もかわいいぞ。
ところで今後のことだが、サチとは関係なく、
父さんはもともとこの村には、三月の滞在予定だった。
その間の宿が、ハニサのムロヤなんだ。
ハニサはおれの子を宿す。」
サチ 「父さん、この村に来て、どれくらい経つの?」
シロクンヌ 「十日余りだ。おれが村を出立する時は、サチも連れて行く。
ミヤコには、父さんが一緒に行ってやる。」
サチ 「父さん、ありがとう!
私、ミヤコへの報告、どうやろうかと悩んでいたの。」
シロクンヌ 「ただし、真っ直ぐには行けんぞ。
フジの山の向こうで、父さんの用事を済ませた後にだ。」
サチ 「はい。」
シロクンヌ 「アヤのイエでは、このところ、若死にが続いているのか?」
サチ 「はい。15歳までに亡くなる人が続いていて、今もう後を継げる人はいないの。
私が子を産まなければ、イエは無くなってしまう。」
シロクンヌ 「沈んだ村との関係は?」
サチ 「クニトコタチの八王子の一人、アヤには男の子ができずに、女の子が後を継いだの。
以来、アヤのイエは母系のイエになって、矢の根石の村は、アヤクンヌが治めていたの。
私は、その子孫。」
シロクンヌ 「サチは、自分も若死にすると、思っているのか?」
サチ 「私は・・・
矢の根石の村が沈む時に、たくさんの人死にが出たの。
その供養が悪いから、若死にが続くと言う人がいて、
イエの者が弔い方をいろいろ調べたの。
そして、矢の根石の村が沈んだ場所を見つけて、そこを弔えって、櫛を渡された。
その櫛に水切れの糸で錘(おもり)を結んで、村の上の湖面から沈めろって。
沈んだ後に糸が切れて、櫛が浮かび上がれば、若死にはなくなるって。」
シロクンヌ 「おまえの母親の櫛、探しても見つからなかったという櫛が、それだな?」
サチ 「はい。」
シロクンヌ 「おまえの母親はクンヌにならなかったのか?」
サチ 「母は・・・クンヌになる資格を失ったの。以前にも、」
シロクンヌ 「わかった。それはいい。
ムロヤは焼き払われた。
櫛はもう、見つかるまいな。
だがな、サチ。
おまえにそれを告げた者は、北のミヤコの者なのだろう?
その者は、スワの湖に詳しいのか?」
サチ 「それは・・・よくわかりません。」
おそらくその者は、スワの湖も深いと思い込んでいたのだろう。
湖の、深い所に村は沈んでいると。
だから、そんな回りくどい弔いのやり方を薦めたのだ。
そうは思わんか?」
サチ 「そうかも知れない・・・」
シロクンヌ 「アヤクンヌッ!
おまえは自ら泳ぎ、自ら潜って、
祖先の鏃(やじり)をその手で拾って来たではないか!
弔いは、成された!
おまえが若死にすることは、これで無くなった!」
サチ 「はいっ!」
シロクンヌ 「あとは近隣の村人が祭ってくれる。
彼らに任せておけばよい。
イエが口を挟むことではない。
そうであろうが!」
サチ 「はい! わかりました!」
シロクンヌ 「さて、気合いを入れて、草を抜くぞ!」
サチ 「はい!」
縄文GoGoでは絵を描いてくれる方を募集しています。詳しくは『縄文GoGoの開始にあたって』で。