縄文GoGo

5000年前の中部高地の物語

三日ぶりのムロヤ 第67話 10日目⑥

 

 

 

          ハニサのムロヤ。

 
ハニサ  「疲れたでしょう? お湯が沸いたら、体を拭いてあげるね。」
シロクン  「いやあ、なんだか久しぶりに帰って来たような気がする。」
ハニサ  「あたしも! ふつか空けただけなんだよね。」
シロクン  「ここは落ち着くな。いいムロヤだ。」
ハニサ  「体を拭いたら、毛皮に寝転んでもいいよ。」
シロクン  「早く拭いてくれ(笑)。サチはどうしているかな・・・」
ハニサ  「だからここで一緒に暮らせば良かったのに。」
シロクン  「ヤシムとは、うまくやってるよな?」
ハニサ  「サチはヤシムになついてたよ。あたしちょっと妬けちゃったもの。」
 
 
          ヤシムのムロヤ。
 
サチ  「・・・遠くの海からでも良く見えます。
     ミヤコに向かって船出して、夜になってしまっても安心です。
     大灯台の灯りを目指して漕げばいいからです。
     大灯台の柱の数は、6本です。
     付近の人達は、大灯台と呼ばずに、六本柱と呼んでいます。
     ねえタホ、ロッポンバシラって言うより、
     ダイトウダイって言う方が、言いやすいよね?
     ・・・タホ?
     ミヤコのお話してたら、タホが寝ちゃった。」
ヤシム  「ミヤコって、不思議な所がいっぱいあるのね。
      さっき、サチはみんなの人気者だったね。」
サチ  「うん!葉っぱのおかげ。」
ヤシム  「アハハ。サチの服は毛皮が二つあるだけでしょう?
      私がいろいろ作ってあげるね。
      これは、とりあえずの部屋着。
      体を拭いてあげるから、これに着替えましょうね。」
 
 
          ハニサのムロヤ。
 
シロクン  「そうだな。タホもサチになついてたし、心配はいらんか。
        サチとも出会ったし、面白い旅だったな・・・」
ハニサ  「あたしねえ、生まれて初めての大冒険だった。」
シロクン  「面白かったか?」
ハニサ  「最高に面白かった!」
シロクン  「おれもだよ!」
ハニサ  「旅って楽しいんだね!
      でもシロクンヌがあたしを護ってくれたから、楽しい旅になったんだよ。
      旅すると、色んな人と出会うんだね!」
シロクン  「アユ村の連中、いい奴らだったな。」
ハニサ  「でもあたし、あのハタレの三人だけは、絶対に許せない。
      昨日の夜にあの姉妹と温泉に入ったでしょう?
      そこで聞いたんだけど、妹のソマユなんかひどい目にあってるんだよ。
      足に大きな傷跡があるの。
      温泉でさらわれそうになって、逃げる時に切ったんだって。」
シロクン  「ハニサはその話を聞いたから、昨日、元気がなかったんだな?
        おれもマグラから聞いたよ。ひどい話だ。奴ら服を隠したらしいな。」
ハニサ  「うん。村中に裸を見られたって言ってた。
      それから、あたし達が訪ねた日の前の晩、夜中にあの姉妹のムロヤが襲われたんだって。
      あいつらのうちの二人に。その話は聞いた?」
シロクン  「ああ。怪我人も出たらしいな。
        奴らソマユを犯したって言い回ったそうだぞ。」
ハニサ  「抵抗してるうちに犬が吠えて、村の人が起きてきて助かったみたい。
      でも、いやな所をいっぱい触られて、足もひねられたって。
      その時助けに入った男の人が、三人も怪我したんだって。
      犯したって言い触らされたから、多分みんなからそう思われてるだろうって言ってた。」
シロクン  「マグラ達は、ソマユから聞いて、真相を知っていたが・・・」
ハニサ  「ソマユがそんな目に遭ってたなんて、あたし、全然気付かなかった!」

    ハニサは、堰を切ったように泣き出した。

ハニサ
  「だってソマユは、あたしに明るく話しかけて来たんだよ!
      二人でいっぱいお話、したんだもん。
      もし、あたしだったらって思うと・・・
      シロクンヌ、ソマユは何か悪い事したの?
      何もしてないでしょう?
      なんでそんな目に遭わなきゃいけないの?
      アーンアンアンアン、アーンアンアンアン」
シロクン  「ハニサ・・・」
ハニサ  「ソマユだけじゃないんだ。
      サチだって、何も悪い事してないよ。
      サチの両親だって。
      あたし達だって、ただ通っただけなのに、いきなり襲われたじゃない。
      なんであんな奴らがいるの?
      あんな奴ら、死んじゃえばいいんだ!」
シロクン  「喰われていた。」
ハニサ  「・・・え?」
シロクン  「報(むく)いだ。」
ハニサ  「見たの?」
シロクン  「ハニサが器を作っている時に見に行った。そして確認した。
        カラスが騒がしいからすぐに場所は分かった。
        あんな奴らでも殺めるとケガレるからな。あれで正解だ。」
ハニサ  「そう・・・」
シロクンヌ  「おれ達は、他人に何かをやってやったり、それで感謝されたり、
        そういうのが嬉しいじゃないか。」
ハニサ  「うん。代償なんかいらない。ありがとうって言ってくれればそれでいいよね。
      村に居る人達って、みんなそうだよ。」
シロクン  「やつらにはそんな心はまったく無い。
        人に何かをしてやることなどあり得ない。
        やつらが他者に何かができるとしたら、獣の餌になる、それだけだ。
        自らの肉体を、腹を空かせた獣に喰わせる、それ以外に、何も無い。」
ハニサ  「そうだね・・・」
 
 
          ヤシムのムロヤ。
 
ヤシム  「これはこれで、かわいいね。サチは何着せても似合うよ。
      私、サチみたいな女の子が欲しかったの。
      タホじゃあ、着せ替えさせても、つまらないでしょう?
      髪の毛、ここをもっとふっくらとさせると・・・
      ちょっと向こう向いて立ってみて・・・
      れを組み合わせてみようか・・・
      とりあえず、明日着る服を作るから・・・」
 
          ハニサのムロヤ。
 
シロクン  「ヌリホツマとサチが、言葉を交わしたのは間違い無いんだな?」
ハニサ  「そうだけど、サチは葉っぱのあれ付けてたから、素顔は見せてないよ。」
シロクン  「ヌリホツマは何か言ってなかったか? 予言めいた事とか。」
ハニサ  「葉っぱのをどこで手に入れたって聞いてただけだったと思う。
      何かあるの?」
シロクン  「だったらいいんだ。
        ハニサ、また背中に来いよ。その器みたいに。
        そして、旅の楽しかった話をしようじゃないか。」
ハニサ  「うん!」

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神像筒型土器 長野県富士見町 藤内遺跡出土 井戸尻考古館

 

 

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登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている

      

追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる アヤクンヌ 

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚  眼木=めぎ 眼鏡フレーム 曲げ木工房で作っている