葉っぱを付ける 第66話 10日目⑤
夕食の広場。続き。
タマ 「鹿肉やるよー! 例によって、ナマからだ。」 歓声が起きた。
ヤシム 「サチ、こっちにおいで。一緒に食べるよ。」
サチ 「はい!」
ヤッホ 「サチとハニサの毛皮の服、かっこいいけど、それどうしたんだ?」
サチ 「アユ村のカミの奥さんのフクホが作ってくれたの。」
ヤシム 「サチ、鹿肉が来たよ。
このタレを付けて食べてごらん。」
サチ 「美味しい! こんなに美味しい鹿肉、初めて!
ミヤコでは、あんまり鹿肉って食べなかったの。」
ヤッホ 「へー、そうなのか。ミヤコって、北のミヤコの事だろう?」
サチ 「そう。あんまり鹿がいないの。」
ヤッホ 「へー。
あの犬の横に大男がいるだろう。
ムマヂカリって言うんだが、あいつは血抜きがうまいんだ。
鹿笛もうまい。
この鹿は、ムマジカリが鹿笛を吹いて、釣られて出てきた雄鹿に、
作業場で見たおじちゃんが、樹の上から飛び掛かって生け捕りにしたんだぞ。」
サチ 「おじちゃん、すごい。
さすが父さんの師匠だ。」
ヤッホ 「おじちゃんの横に、アコって言って、威張ってる女がいただろう?
このタレは、そのアコが作ったんだ。
どんぐり小屋でこっそり作ってて、誰にも作り方を教えないんだぞ。」
アコ 「聞こえてるよ。
あたしは威張ってるかも知れないけど、こっそりとは作ってないよ。
サチに変な事教えてると、タレを取り上げるからね。」
ヤッホ 「ヤベ、このグリッコ、旨えな! 何が入ってるんだこれ?」
サチ 「シジミ。
甘辛く煮たって言ってた。」
ヤシム 「作り方、教わった?」
サチ 「帰り際に、お土産で持たせてくれたの。
だから教わってないけど、お祭りの時、持ってきてくれるって言ってたよ。」
ヤッホ 「サチ、さっきの眼木、掛けてみろよ。」
サチ 「うん!待ってね。」
(眼木=眼鏡フレーム オニヤンマ 姿を消す! 第65話 10日目④ - 縄文GoGo)
ヤシム 「何これ! サチ、大人っぽく見えるよ。
あ! いい事思いついた。
そこの落ち葉、使えそうね。
この葉っぱを二枚、こうして穴を開けて、少し濡らして眼木に貼ると・・・
どお?」
ヤッホ 「すっげー! 魔力を備えたサチだ!
父さんに見せて来いよ。」
サチ 「うん!」 走って行った。
アコ 「そんで次はどこに耳を付けるの?」
テイトンポ 「いろいろ付けていいんだが・・・
アコよ。八方耳の真骨頂は足の裏に耳が付くことだ。
これができれば、わずかな振動でも感知できる。
しかしこれは、至難の技だ。」
アコ 「どうして?」
テイトンポ 「足の裏に耳が付いていると思い込むとな、歩くたびに痛いんだ。」
ハニサ 「貝殻、これだけでよかった?」
ヌリホツマ 「これだけあれば十分じゃ。
旅は楽しかったかえ?」
ハニサ 「うん! あのお薬、すごく役に立ったよ。
漆櫛も、すごく喜んでもらえた。」
ヌリホツマ 「それはよかったの。」
サチ 「お姉ちゃん。見て!」
ハニサ 「なあにそれ!」
ヌリホツマ 「なんと! むすめ、それはどこで手に入れた?」
サチ 「テイトンポのおじちゃんとアコが作った眼木に、ヤシムが葉っぱを貼ってくれたの。」
ヌリホツマ 「眼木と言うのか・・・
わしにもこしらえてもらうよう、頼んでみるかの。」
ササヒコ 「伝承とは、時に当てにならんこともあるのだな。」
ムマヂカリ 「女だけの石工(いしく)集団の村か・・・
それを屈強な男達が造った。」
スサラ 「そこにも何やら謎めいた云われが潜んでいそうね。」
サチ 「父さん、見て!」
シロクンヌ 「これは・・・謎めいた娘が現れたぞ(笑)。」
スサラ 「ねえ、あなた、あれ素敵じゃない? 夜のムロヤで私がして・・・」
ムマジカリ 「いいな・・・近頃少し御無沙汰だったからな。
さっそく、テイトンポに頼んで来るよ。」
テイトンポ 「アコのタレは鹿肉に最適だな。」
クズハ 「あなた、こぼしてますよ。
いつも慌てて食べるんだから。」
テイトンポ 「鹿肉も旨いが、このグリッコも旨いぞ。」
アコ 「アユ村のお土産だって。
荷物になるから、あまり持って来られなかったみたいだよ。」
テイトンポ 「なんだとっ!
シロクンヌー! このグリッコは美味い。
明日行って、もっと貰って来い!」
シロクンヌ 「無茶言うなよー。お祭りの時にたくさん持って来るって言ってたぞー。」
テイトンポ 「ふん、シロクンヌめ、腑抜けになりおって。」
サチ 「おじちゃん、見て!」
テイトンポ 「!」
アコ 「葉っぱ! これいいね!」
サチ 「ヤシムが付けてくれた。」
テイトンポ 「アコ! 明日の朝一番で、クズハとおまえの分を作るぞ。
振動しても葉っぱが落ちんように改良してな。」
翌日からテイトンポとアコの曲げ木工房は、フル稼働の大忙しとなるのだった。
縄文GoGoでは絵を描いてくれる方を募集しています。詳しくは『縄文GoGoの開始にあたって』で。