縄文GoGo

5000年前の中部高地の物語

曽根論争 第58話 9日目④

 

 

 

          アユ村。

 
マグラ  「また随分な大荷物だな。
      シジミがそんなに獲れたのか!」
シロクン  「向こうじゃ鍋にできなかった。
        これだけは、向こうで砂抜きしたから、
        この水草といっしょにハニサに食べさせてやりたいんだ。
        あとはみんなで食べてくれ。」
マグラ  「有り難く頂くぞ。これだけ夕食の鍋にするように、調理場でたのんでくる。
      ああそれから、裏の温泉に浸かって来いよ。
      夕刻前は入るなって、今朝コノカミが達しを出したから、今はだれも居ないはずだぞ。」
シロクン  「気づかい、すまんな。じゃあ汗を流して来るか。
        そうだ、後で重大発表があるぞ。」
マグラ  「重大発表? おぬしのことだ、また何か仕出かしたな(笑)。
      後でゆっくり聞くよ。」
 
 
          裏の温泉。
 
ハニサ  「昨日は暗くて気付かなかったけど、あんな所に神坐があるんだ。
      シロクンヌ、お参りしよう。」
シロクン  「栗の木の神坐だな。よく磨かれて、光っている。」
ハニサ  「元気な子が授かりますように。」
シロクン  「ハニサが無事に、子を産めますように。」
サチ  「お姉ちゃんが、無事に元気な子を産めますように。」
 
ハニサ  「さっきの事、みんなに話しちゃってもいいの?」
シロクン  「もちろん話すよ。おれが見た事実をな。なぜだ?」
ハニサ  「火の山の話は内緒なのになぜかなって思ったの。」
シロクン  「あの出来事は、なんの手立てもない。備えようがない。
        起きてしまえばそれまでだ。
        運よく助かった者もいたが、極わずかだ。
        事実を伝えたところで、いたずらに不安を煽るだけだろう?」
ハニサ  「そうだね・・・」
シロクン  「だが今度のは違う。水辺に住む者への教訓にもなる。
        実際おれは、ヲウミの村が心配になった。
        こういうこともあるのだぞと、伝えてやりたい気分だ。」
ハニサ  「うん。」
シロクン  「それに、伝承には尾ひれが付きやすい。
        今度の場合、背びれや胸びれまでついている。
        だからまず事実を伝え、そこから事を始めるべきだと思った。」
ハニサ  「ほんとにそうだね。
      胸びれ、付いてたね。ウルシ村では。
      ・・・この村の人達って温かいね。
      旅をするといろんな人と出会うんだ・・・
      シロクンヌもいろんな人と出会ったんでしょう?
      好きになった人、いたの?」
シロクン  「前にも言ったはずだ。ハニサが初めてだよ。」
ハニサ  「・・・」
サチ  「父さん、お姉ちゃんが真っ赤になったよ。」
ハニサ  「もう、サチ、そういうこと言わないの。」
サチ  「だってお姉ちゃん、綺麗だもん。
     父さん、お姉ちゃんよりきれいな人って見たことある?」
シロクン  「ないな。そもそも居ないだろうな。トコヨクニの中には。」
ハニサ  「・・・熱くてあたし、死にそう。
      もう出るね。」
 
 
          見晴らし広場。
 
ハニサ  「なんか様子が昨日とは違うなと思ったら、女の子達が髪の毛、切ってるよ。
      そして毛皮の貫頭衣と毛皮の靴だ。
      サチみたいになってる。」
少女  「あー! 羽根が付いてる!」
ハニサ  「キジの羽根だよ。あげようか?」
少女  「欲しい!わたしも付けたい!」
ハニサ  「はい。」
少女  「お姉ちゃん! ありがとう!」 走り去った。
ハニサ  「あたし達、さっきまであそこにいたんだね。
      あっちに竿がいっぱい並んで立っているでしょう。あれは何?」
シロクンヌ  「サチは知ってるか?」
サチ  「はい。あれは魞(えり)って言って、魚を獲るための仕掛け。
     お姉ちゃん、こうやって竿が並んでるでしょう。
     こうやって全部網が張ってあるの。
     ここが入り口で、入った魚はここまで来たら出口が分からなくなって、
     ここでぐるぐるまわってる。
     あとはみんなでここの網を狭めていけば、一度にいっぱい獲れるでしょう?」
ハニサ  「よく知ってるんだねー! それに、絵が上手!」
サチ  「空が赤くなってきたよ。」 照れている。
シロクン  「今日の夕焼けもきれいだぞ。
        おれ達三人、水入らずで眺められるよう計らってくれているんだな。」
ハニサ  「うん。昨日もそうだった。
      周りに人がいないもん。」
 
 
          ━━━ 幕間 ━━━
 
曽根論争。
湖底遺跡をめぐっては、明治の終わりから様々な説が出ました。
その中でも一見奇抜ではあっても話題を呼んだのは、杭上住居(こうじょうじゅうきょ)説。
杭上住居とはヨーロッパのアルプス山系の湖や河川、湿地帯のほとりに建てられた集落で、
1853年、チューリヒ湖の水位低下により初めて発見されました。
そしてその後、次々に各地で発見されることになります。
7000年前~2500年前に建てられた物が多いようです。
2011年には111件が世界文化遺産に登録されています。
 
明治後期において、どれほどの数が発見されていたかは知りませんが、
当時は湖上住居の跡だと思われていました。(現在は、湖畔住居だったとされています。)
そういった杭上住居が日本でも見つかったとして、新聞紙上で話題になりました。
 
しかしこれに異を唱える学者もいました。凍結する湖面で、杭は無事には済まないと言うのです。
湖面凍結時に杭は押されて動いたり、場合によっては折れたりもするはずだと言う訳です。
杭上住居説以外には、地すべり説や陥没説があり、皆それぞれが証拠を見つけようと躍起になっていました。
 

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現代の杭上住居

 

 

縄文GoGoでは絵を描いてくれる方を募集しています。詳しくは『縄文GoGoの開始にあたって』で。

 

登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている

      

追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる アヤクンヌ 

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚