縄文GoGo

5000年前の中部高地の物語

大発見! 第57話 9日目③

 

 

          

          湖畔。続き。 

 
ハニサ  「すごい!あそこって、あの色が変わってた所?子宝の湯から見た時に。」
シロクン  「そうだ。湖底は、やはり砂利だった。」
ハニサ  「深いの?」
シロクン  「これくらいだ。」 真っ直ぐに立ち、片手を真上に伸ばした。
ハニサ  「サチが言った通りだったんだ・・・
      サチ! どうしたの?」
 
    サチは茫然としていたが、いきなり服を脱いで裸になり、
    止める間もなく湖に向かって走り出した。
 
シロクン  「サチ! 水は冷たいぞ!」
 
    サチは返事もせずバシャバシャと入って行き、やがて泳ぎだした。
    泳ぎは、見事だ。
 
ハニサ  「サチー! 戻って来てー!
      シロクンヌ! シロクンヌも行ってあげて!」
シロクン  「大丈夫とは思うが。」 走り出した。
 
 
 
ハニサ  「もう! 心配するでしょう! 震えてるじゃない!」
サチ  「ごめんなさい・・・」  両手に石の鏃(やじり)が握られている。
ハニサ  「焚火に行こう。体を拭いてあげるから。」
シロクン  「シジミどころでは、なくなってしまったな。」
 

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諏訪市

 

 

    焚火のそば。サチは真剣なまなざしで、話しかけてもあまりしゃべらない。
 
シロクン  「しばらく、そっとしておいてやれ。
        おれはもう少し潜ってみる。」
ハニサ  「うん。あたし、お昼の準備しておくね。」
 
 
          お昼。焚火を囲んでの食事。
 
シロクン  「ハニサ、ヌリホツマの貝は集まったのか?」
ハニサ  「うん! たくさんある。」
シロクン  「荷物が増えたから、帰りは二人に歩いてもらう。
        これを食べたら村に向かうぞ。」
ハニサ  「わかった。サチ、キジ団子、美味しいよ。」
サチ  「はい! いただきます!
     私、お手伝いしなかった。ごめんなさい。」
ハニサ  「気にしなくていいから、いっぱい食べてね。」
シロクンヌ  「二人とも食べながら聞いてくれ。
        あれからおれは何度も潜った。
        その結果、分かった事を伝えておく。
        色が変わっていた所、あそこがかつての村があった場所だ。
        そしてその村とは、千本征矢(そや)の村では有り得ない。
        間違いなく、矢の根石の村、石工(いしく)集団の村だ。
        そして村は、打ち捨てられる前に沈んでいる。
        村人が生活しているそのままで、沈んでしまったんだよ。」
ハニサ  「そんなことってあるの?」
シロクン  「原因はまったくわからない。
        おれだって不思議でしょうがないんだ。
        サチ、こうなった以上、聞いておかなければならない事がある。
        いいか?」
サチ  「はい!父さん!」
シロクン  「おまえ、もとの名前は何と言ったのだ?」
サチ  「アヤクンヌです。」
シロクン  「うん。しかしなぜ、12のおまえがクンヌなのだ?」
サチ  「私しか、いなくなってしまったの」 
 
    そう言うと、サチは声をあげて泣き出した。
 
シロクン  「アヤのイエのうわさは、少し聞いてはいたが・・・」
ハニサ  「クンヌというのは、そのイエの頭首って意味なんでしょう?」
シロクン  「それに近いな。正確に言えば違うんだが・・・
        たとえばおれは今、イエの者とはまったく接触していないだろう?
        普段、イエの者に指示を出すって意味での頭首はイエの中に別にいるんだ。」
ハニサ  「あたし、席をはずした方がいいのかな?」
シロクン  「いやこの話はもういい。
        サチがアヤのイエのクンヌだと分かったからな。
        ハニサ、サチはそれをおれに伝えたかったんだよ。
        サチ、そうであっても、おれはおまえの父さんだ。異存は無いな?」
サチ  「はい! 父さん!」
 
 
シロクン  「消し熾きもたくさん取れたな。
        ハニサ、これだけあれば、明日じゅうぶんか?」
ハニサ  「どうかな?もし足りなければ、少しだけ村で分けてもらう。
      それから帰り道に粘土があったら、取って行きたいの。
      砂はここのを持って行く。
      あと、来る途中に竹ってあった?」
シロクン  「あったぞ。」
ハニサ  「竹ヘラは3種類、灰すくい匙(さじ)は・・・6個くらいは要るかも知れない。」
シロクン  「なぜ、6個も要るんだ?」
ハニサ  「熱い灰を掬(すく)うから。
      燃えちゃう事もあるんだ。」
シロクン  「明日、仕上げてしまうのか?」
ハニサ  「そうだよ。早起きしてやる。」
サチ  「お姉ちゃん、何をやるの?」
ハニサ  「そっか! サチは昨日眠かったから、知らないかもしれないね。
      お姉ちゃんは明日、アユ村の人達にお礼がしたいから、器を作るの。」
サチ  「器って一日で仕上がるの?」
ハニサ  「一日じゃなくて、半日。
      お昼には村を出て、ウルシ村に帰るんだよ。
      もちろん、サチも一緒にだよ。」
 
 
          帰りの道中。崖のそば。
 
    ハニサは崖の半ばで粘土を掘っている。
 
サチ  「父さん、お姉ちゃんの背中が光ってない?」
シロクン  「明日はもっと驚くぞ。」
サチ  「どうなるの?」
シロクン  「それは明日のお楽しみだ(笑)。」

 

 

 

縄文GoGoでは絵を描いてくれる方を募集しています。詳しくは『縄文GoGoの開始にあたって』で。

 

登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている

      

追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる アヤクンヌ 

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚