アユ村の裏は温泉 第54話 8日目⑪
裏の温泉。
シロクンヌ達は、それぞれが手火をかざして来ていてた。
手火立てを地面に挿し、その手火立てに手火を挟ませて、かがり火にしていた。
はかなげではあったが、目が慣れてしまえば、
その三ヶ所の手火の明りと星明りだけで、周りの様子は分かるのだ。
シロクンヌ 「気持ちいいなー。
サチ、もっと肩まで入れ。
空を見てみろ。星が綺麗だぞ。」
サチ 「綺麗。星が大きいよ。いっぱい見えるね。」
シロクンヌ 「父さんな、こうやってサチをだっこしててもなんともならんが、
ハニサには反応してしまうんだ。
それは、分かっておいてくれよ。」
サチ 「はい。父さん。」
ハニサ 「もう、シロクンヌ、わざわざそんなこと言わなくたって・・・」
シロクンヌ 「だからもう少したつと、サチは父さんから降りなきゃいけないぞ。」
サチ 「アハハ、反応しちゃうの父さん。」
シロクンヌ 「ハニサは魅力的だからな。」
サチ 「うん。お姉ちゃん、すごくきれいだもん。」
ハニサ 「もう、サチったら。でも村のすぐそばに、こんな温泉があるっていいよね。
毎日入れるんだよ。」
シロクンヌ 「夜の温泉ってのもいいもんだな。
手火の明りに、湯気が立ってるのがよく分かる。」
ハニサ 「虫の声がしてる・・・
あ、手火立てが倒れちゃったね。挿し直すね。もっとこっちに挿そうか。」
シロクンヌ 「いかん! サチ、降りてくれ!」
サチ 「ああっ!・・・父さん、面白い、アハハハ。」
シロクンヌ 「サチ、早くどけっ。」
ハニサ 「もう! シロクンヌったら!」
ハニサはサチを抱きあげた。
シロクンヌは激しく反応していた。
ハニサ 「もう! シロクンヌったら、サチの前で!」
シロクンヌ 「す、すまんっ。」
ハニサとサチは顔を見合わせた。
「ウッフッフ アッハッハッハ」
どちらからともなく笑いが出た。
寝所のムロヤ
シロクンヌはだっこ帯を作っている。
サチ 「・・・父さんとお姉ちゃんは、二人だけで旅をしたかったんでしょう?」
シロクンヌ 「そうだ。最初はそのつもりだった。」
ハニサ 「あたしね、サチくらいの頃、とっても体が弱かったんだ。
だからムロヤで過ごすことが多かったし、どんぐり拾いもあんまりやってないの。
ムロヤの中で、粘土いじりばかりしてたなあ。
ついこないだなんだよ、あたしとシロクンヌが知り合ったの。」
サチ 「お姉ちゃんはウルシ村の人なんでしょう?
父さんはヲウミの生まれの人。」
ハニサ 「そう。そこにシロクンヌがタビンドでやってきて、その時に出会ったの。
そしてあたしのムロヤが、シロクンヌの宿になった。
あたしはシロクンヌの子供を宿す事になったの。
シロクンヌはとっても強い人だから、あたしを旅に連れ出してくれた。
初めての旅。
今日一日、いろんな事があったなあ。
出会って間も無いんだけど、シロクンヌはかっこいい事、いっぱいしてくれたの。
その中で、一番かこいいなってあたしが思ったのは、
この子の面倒はおれが見る、って言った時。
あたしの大好きな人は、こんなにかっこいい人なんだって思ったよ。
シロクンヌ 「眠ったか?」
ハニサ 「うん。サチはどこかのイエの生まれなの?」
シロクンヌ 「おそらくな。
可哀そうに、母親が嬲(なぶ)られるのを目の当たりにしておったのだ。」
ハニサ 「お父さんも、目の前で殺されたんでしょう?
あいつら本当にひどい奴らだよ。
玉を潰されて当然だよ。
あんな奴らって、世の中には多いの?」
シロクンヌ 「ああいう奴らをハタレと言ってな、多くはないが、昔よりは増えている。」
ハニサ 「ハタレって聞いたことある。
凄く卑怯な奴らでしょう?」
シロクンヌ 「おれ達が、そんな事はしたくないと思う事を、平気でやる奴らだよ。
ハニサに教えておくが、シロのイエの役割は、ハタレを野放しにしない事なんだ。
ハタレがやりたい放題するのを懲らしめるのがおれの役割だ。」
ハニサ 「あたし、応援する!
旅も、その為にしてるんでしょう?
ハタレを野放しにすると、サチみたいな目に遭う子供が増えるんだよね?
シロクンヌなら、絶対に出来るよ!
あたし、子供に教えるもん。
あなたのお父さんは、正義の戦士だよって!」
シロクンヌ 「ハニサ・・・
ハニサ、おれはあの時、この子の面倒を見ると言わずにおれなかった。
たとえハニサから、どう思われようともだ。
それをハニサは、ああいう風に思ってくれたんだな。」
シロクンヌは、ハニサを強く抱きしめた。
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