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5000年前の中部高地の物語

アユ村の裏は温泉 第54話 8日目⑪

 

 

 

          裏の温泉。

 
    シロクンヌ達は、それぞれが手火をかざして来ていてた。
    手火立てを地面に挿し、その手火立てに手火を挟ませて、かがり火にしていた。
    はかなげではあったが、目が慣れてしまえば、
    その三ヶ所の手火の明りと星明りだけで、周りの様子は分かるのだ。
 

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紅葉山49号遺跡出土 石狩市  4千年前 挟む部分は焦げている
 
シロクン  「気持ちいいなー。
        サチ、もっと肩まで入れ。
        空を見てみろ。星が綺麗だぞ。」
サチ  「綺麗。星が大きいよ。いっぱい見えるね。」
シロクン  「父さんな、こうやってサチをだっこしててもなんともならんが、
        ハニサには反応してしまうんだ。
        それは、分かっておいてくれよ。」
サチ  「はい。父さん。」
ハニサ  「もう、シロクンヌ、わざわざそんなこと言わなくたって・・・」
シロクン  「だからもう少したつと、サチは父さんから降りなきゃいけないぞ。」
サチ  「アハハ、反応しちゃうの父さん。」
シロクン  「ハニサは魅力的だからな。」
サチ  「うん。お姉ちゃん、すごくきれいだもん。」
ハニサ  「もう、サチったら。でも村のすぐそばに、こんな温泉があるっていいよね。
      毎日入れるんだよ。」
シロクン  「夜の温泉ってのもいいもんだな。
        手火の明りに、湯気が立ってるのがよく分かる。」
ハニサ  「虫の声がしてる・・・
      あ、手火立てが倒れちゃったね。挿し直すね。もっとこっちに挿そうか。」
シロクン  「いかん! サチ、降りてくれ!」
サチ  「ああっ!・・・父さん、面白い、アハハハ。」
シロクン  「サチ、早くどけっ。」
ハニサ  「もう! シロクンヌったら!」 
 
    ハニサはサチを抱きあげた。
    シロクンヌは激しく反応していた。
 
ハニサ  「もう! シロクンヌったら、サチの前で!」
シロクン  「す、すまんっ。」
 
    ハニサとサチは顔を見合わせた。
    「ウッフッフ アッハッハッハ」
    どちらからともなく笑いが出た。
 
 
          寝所のムロヤ
 
    シロクンヌはだっこ帯を作っている。
 
サチ  「・・・父さんとお姉ちゃんは、二人だけで旅をしたかったんでしょう?」
シロクン  「そうだ。最初はそのつもりだった。」
ハニサ  「あたしね、サチくらいの頃、とっても体が弱かったんだ。
      だからムロヤで過ごすことが多かったし、どんぐり拾いもあんまりやってないの。
      ムロヤの中で、粘土いじりばかりしてたなあ。
      ついこないだなんだよ、あたしとシロクンヌが知り合ったの。」
サチ  「お姉ちゃんはウルシ村の人なんでしょう? 
     父さんはヲウミの生まれの人。」
ハニサ  「そう。そこにシロクンヌがタビンドでやってきて、その時に出会ったの。
      そしてあたしのムロヤが、シロクンヌの宿になった。
      あたしはシロクンヌの子供を宿す事になったの。
      シロクンヌはとっても強い人だから、あたしを旅に連れ出してくれた。
      初めての旅。
      今日一日、いろんな事があったなあ。
      出会って間も無いんだけど、シロクンヌはかっこいい事、いっぱいしてくれたの。
      その中で、一番かこいいなってあたしが思ったのは、
      この子の面倒はおれが見る、って言った時。
      あたしの大好きな人は、こんなにかっこいい人なんだって思ったよ。
 
 
 
シロクン  「眠ったか?」
ハニサ  「うん。サチはどこかのイエの生まれなの?」
シロクン  「おそらくな。
        可哀そうに、母親が嬲(なぶ)られるのを目の当たりにしておったのだ。」
ハニサ  「お父さんも、目の前で殺されたんでしょう?
      あいつら本当にひどい奴らだよ。
      玉を潰されて当然だよ。
      あんな奴らって、世の中には多いの?」
シロクン  「ああいう奴らをハタレと言ってな、多くはないが、昔よりは増えている。」
ハニサ  「ハタレって聞いたことある。
      凄く卑怯な奴らでしょう?」
シロクン  「おれ達が、そんな事はしたくないと思う事を、平気でやる奴らだよ。
        ハニサに教えておくが、シロのイエの役割は、ハタレを野放しにしない事なんだ。
        ハタレがやりたい放題するのを懲らしめるのがおれの役割だ。」
ハニサ  「あたし、応援する!
      旅も、その為にしてるんでしょう?
      ハタレを野放しにすると、サチみたいな目に遭う子供が増えるんだよね?
      シロクンヌなら、絶対に出来るよ!
      あたし、子供に教えるもん。
      あなたのお父さんは、正義の戦士だよって!」
シロクン  「ハニサ・・・
        ハニサ、おれはあの時、この子の面倒を見ると言わずにおれなかった。
        たとえハニサから、どう思われようともだ。
        それをハニサは、ああいう風に思ってくれたんだな。」
 
    シロクンヌは、ハニサを強く抱きしめた。

 

 

 

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登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている

      

追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる 

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚