縄文GoGo

5000年前の中部高地の物語

沈んだ村、談義 第52話 8日目⑨

 

 

 

          見晴らし広場。夜宴の続き。

 
カタグラ  「お!その話題が出たな。
       その話を始めるのは、おれが友蒸しの用意を終えてからにしてくれよ(笑)。」
ハニサ  「何かあるの?」
ソマユ  「その話題は、みんな熱くなるのよ。」
ハニサ  「そうなんだ。じゃあ待ってるね。
      あ! あたし忘れてた。ヌリホツマに頼まれてたの。
      二枚貝の大きな貝って湖にいる?」
マグラ  「いるけど、あまり美味くはないぞ。」
ハニサ  「食べるんじゃなくて、貝殻が欲しいの。」
マグラ  「なら湖のほとりで見つかると思うぞ。
      何かに使うのか?」
ハニサ  「漆塗りの時の色台(パレットのこと)みたい。」
シロクン  「ハニサ、明日だが、未明に出て、温泉で朝を迎えてみないか?」
ハニサ  「うん、そうしよう! 朝の温泉って気持ちよさそう。
      人もいないしね。」
マグラ  「子宝の湯からは湖が見える。
      朝もやの湖もいいもんだぞ。」
シロクン  「じゃあ決まりだな。
        コノカミ、明日おれたち三人は暗いうちに出るよ。
        朝食は途中でなんとかするから、戻りは夕刻前になると思う。」
アシヒコ  「ふむ。スワを楽しんでおくれ。」
カタグラ  「お待たせ。ハニサ、これでいいか?」
ハニサ  「食材でちょっと足したい物がるから、あたし聞いて来るね。」
 
 
マグラ  「まず、ハニサは千本征矢の村の話、どんなふうに聞いてる?」
ハニサ  「あのね、昔、湖のほとりに弓人(ゆみんど)の村があって、矢をたくさん持ってて、
      勇猛な猟師で、猪や鹿や熊まで射殺すくらい強かったの。
      それで獲物は近隣に分けてあげていたから、みんなに感謝されてたんだけど、
      あるとき村で男同士が弓矢で殺し合いしちゃったの。
      女の人は山に逃げて隠れてて、何日か経って帰ってみたら、
      村のあった場所に村は無くて、そこが湖になってたって話。」
マグラ  「やっぱりな。
      おれ達の所とは違う話になってる。」
ハニサ  「え? そうなの?」
マグラ  「まず、千本征矢の村は猟師村ではなくて、矢作りの村なんだ。
      村でたくさんの矢を作ってたんだよ。
      何人もの、矢作り名人が住む村ってことだ。
      だから獲物は近隣から貰ってたんだよ。
      矢と交換に。
      矢を分けてくれる事に、周りは感謝していたんだ。
      それくらい真っ直ぐ飛ぶ、良い矢だったんだと思う。
      それから、村で殺し合いなど起きてはいない。
      起きたのは、流行り病だよ。
      流行り病で多くの村人が亡くなって、最低限の看病する人を残して、あとは避難した。
      近隣の村からは受け入れてもらえないだろう?
      だから山に避難したんだ。
      避難は三月におよんだらしい。
      そして帰ってみたら・・・ あとはハニサと同じだ。
      アユ村だけではなく、湖に近い村に伝わる言い伝えではこうなってる。
      ハニサ、殺し合いなんて不名誉だろう?
      ウルシ村に戻ったら、みんなにこの話を伝えてくれよ。」
ハニサ  「わかった! 必ず伝えるね!
      あたしも殺し合いなんか無かったと思うもん!」
カタグラ  「お! 匂いがしてきた! ハニサ、まだか?」
ハニサ  「もう少し。
      それでその言い伝えって、本当にあった事なの?」
マユ  「そこのところで、熱い言い合いになるのよ。」
マグラ  「おれは作り話だと思ってる。
      村が沈んだって部分だが。」
カタグラ  「そこでおれは、兄者と意見が食い違うんだ。
       おれは沈んだと思ってる。」
ハニサ  「マユ達は?」
マユ  「私は作り話。
     だって沈むなんて信じられないもの。」
ソマユ  「あたしはお姉ちゃんと違って、絶対沈んでると思うよ。」
マグラ  「沈んだのなら、湖のどこかにあるんだろう?
      どこにあるんだ?」
カタグラ  「湖の底の、砂地の下だ。」
マグラ  「またそれか。
      湖は浅くて、冬場にはかなりの部分で底まで見えるんだよ。
      見える範囲に村の痕跡なんか無い。」
ハニサ  「じゃあもっと、真ん中の方なんじゃない?」
マグラ  「いいかい? 湖の⦅ほとり⦆に、村はあったんだよ?」
ハニサ  「ああ、そっか。
      あ! そろそろいいよ。食べる?」
ソマユ  「美味しそうな匂いがしてる。」
 
 
          ━━━ 幕間 ━━━
 
諏訪湖の現在。
長野県の中央部に位置する湖。
水面の標高は759メートル。
最大水深7.2メートル。平均水深4.7メートルの非常に浅い湖である。
外周は約16キロメートルで、四角い形をしている。
31本の河川が流れ込み、流れ出るのは天竜川のみ。

 

 

 
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登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている

      

追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる 

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚