縄文GoGo

5000年前の中部高地の物語

夜宴は続く 第51話 8日目⑧

 

 

 

          見晴らし広場。夜宴の続き。

 
アシヒコ  「ところでシロクンヌや、今後の予定は決まっておるのか?」
シロクン  「子宝の湯とやらがあると聞いたのだが・・・」
アシヒコ  「ここからさほど遠くはないぞい。
       人気の湯じゃから道もしっかりしておる。」
マユ(25歳・女)  「何のお話、してるの?」
ソマユ(19歳・女)  「あたし達も仲間に入れてよ。」
カタグラ  「おお、来たか。紹介するよ。
       こっちが姉ちゃんのマユで、こっちが妹のソマユ。」
マグラ  「おれ達の親父の妹の娘達だよ。お転婆姉妹だ。」
ソマユ  「お転婆なんかじゃないよ。
      ハニサ達はどこから来たの?」
ハニサ  「ウルシ村。今朝村を出たの。」
アシヒコ  「何じゃと! 昨日の間違いじゃろう?」
マユ  「ウルシ村って、東の川の上流を北に登った村でしょう?」
ソマユ  「ハニサって、そんなに足が速いの?」
ハニサ  「あたしじゃないの。シロクンヌがあたしをおんぶして走ってくれたの。
      シロクンヌの背中、全然揺れないんだよ。
      今朝出て、途中でいっぷくして、見晴らしのいい高い岩に登ったり、
      そういう寄り道しなければ、もっと早く着いたよね? シロクンヌ。」
 
    場が、静まりかえった。
 
シロクン  「そうそう、頼みがあるんだが、なめし革を分けては貰えんか?
        だっこ帯を作らねばならん。
        ハニサを背負って、サチはだっこして帰らねばならんからな。」
 
    場が、固まった。
 
シロクン  「すまん。無理な頼み事をしてしまったな。忘れてくれ。」
マグラ  「そ、そうじゃない。
      なめし革なら、好きなだけやる。
      おぬしら、本当に天からの使いではないか?」
シロクン  「何のことだ? あ! 聞き忘れていた。
        子宝の湯への道順だが、分かりいいのかな?」
カタグラ  「簡単だ。下の道を湖を左手にして湖畔に沿って行くだろう。
       すると道端に神坐がある。
       大きな神坐だから、嫌でも分かる。
       そこを右に入ればあとは一本道だ。上り坂だがな。
       人目が気になるなら、なるべく早い時間がお奨めだ(笑)。」
ハニサ  「シロクンヌ、朝早く出よう。」
カタグラ  「ハッハッハ。しかしその後の予定は?」
シロクン  「これといって決めてはおらんが、散策でもして、あさってウルシ村に帰る予定だ。」
マグラ  「あすの泊先は?」
シロクン  「まだ決めておらん。」
アシヒコ  「おそらく明日も、夕日がきれいじゃぞ。」
シロクン  「世話になってもいいのか?
        実は毛皮を服にしてしまってな、少し困っておった。」
アシヒコ  「村の恩人じゃぞ。何泊でもしていってくれい。」
シロクン  「コノカミ、ありがとう。助かるよ。
        そうだ、我ままついでにもう一つ。
        明日、椀を三つとシャクシを一つ貸してもらえんか?
        昼にはシジミ鍋でも作ろうかと。」
アシヒコ  「お安いご用じゃ。器でも何でも貸すように言うておく。
       しかしシジミ鍋などをよく知っておるのう。」
シロクン  「おれの生まれはヲウミなんだ。
        ヒワの湖のほとりだ。
        そうだ、よそ者が水辺を掘るとまずいか?」
マグラ  「そんなことは無いが、この時期は少し深場に行かんと採れんかもしれんぞ。」
シロクン  「やってみて無理なら諦めるさ(笑)。
        もし沢山採れたらみやげに持ってくるよ。」
ハニサ  「シロクンヌ、あさってはお昼に出たら、夕方には着くの?」
シロクン  「問題なく着く。
        一度通ったから、自信を持って言える。
        雨でも問題ない。」
ハニサ  「だったらあたし、お礼に器を一つ作っていく。あさっての朝から。」
シロクン  「ああ、それがいいな。
        ハニサの器はすごいんだ。
        サチ、眠そうだな。
        膝に来い。眠かったら寝ていいんだぞ。」
ハニサ  「あたし、なにか掛ける物、取って来る。」
マグラ  「シロクンヌ、また遊びに来いよ。」
シロクン  「そうしたいのはやまやまなんだが、おれは旅人(タビンド)なんだ。
        ウルシ村にもあと三月もおらん。」
マユ  「ハニサはどうするの?」
シロクン  「置いて行く。ハニサはおれの宿なんだよ。」
マグラ  「そうか・・・ハニサは悲しむだろうな。
      だがおぬしにも事情があるのだろうし、この話はここまでだ。
      サチは眠ったぞ。
      愛らしい寝顔だ。」
ハニサ  「寝ちゃったね。これ掛けてあげて。」
カタグラ  「そうだ、ハニサ。友蒸しを作ってはくれんか。」
ハニサ  「いいよ!ここで作る?」
カタグラ  「ここがいい。焼き石と熾きを用意すればいいか?」
ハニサ  「うん。あと、千本征矢(そや)の村って本当にあったの? 湖に沈んだ村。」
 
 
          ━━━ 幕間 ━━━
 
諏訪湖シジミは江戸期に放流されたもので、5000年前にはおそらく棲息していません。
琵琶湖の周囲には多数の貝塚が発見されていて、おびただしい数のシジミの貝殻が出土しています。
しかし諏訪湖の周囲では、貝塚と呼べるものがほとんど出ていません。
非常に小規模のものはあるようですが、オオタニシの貝殻ばかりで、シジミは見つかっていません。
そうではありますが、この物語のスワの湖は、美味しいシジミがたくさん獲れる湖となっています。

 

 

 

 
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登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている

      

追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる 

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚