縄文GoGo

5000年前の中部高地の物語

ハタレの襲撃 第46話 8日目③

 

 

          スワに向かう道。少しだけ、拓(ひら)けてきた。 

 
ハニサ  「少し、拓けてきたね。もう近いのかな?
      ここならあたし、歩けるよ。」
シロクン  「そうだな、じゃあここからは歩くか。」
ハニサ  「遠くに、旗が見えるね。
      あ! あの丘に、ムロヤが一つあるよ。」
シロクン  「旗は無いな・・・
        ハグレか・・・
        屋根は葺(ふ)きたてだ。まだ青い。
        新参者だな。」
ハニサ  「あそこを見て! 川で何かやってる。」
シロクン  「猪をバラしてるんだ。
        男が二人か。」
ハニサ  「あ!一人、こっちに来る。」
 
    ガッシリとした体つきの男が、道をふさいだ。 
    ハニサを舐める様に見ている。
    手には大黒切りを持っている。
    その手は、猪の血と脂にまみれていた。
 
ガッシリ男  「めずらしいな。 どっから来たんだ?」
シロクン  「それがお前の挨拶か。 そこをどけ。」
ガッシリ男  「なんだと・・・ 勘違いしてないか?
        猪を狩った。だけどおれ達二人じゃあ食いきれない。
        一緒にどうだ?と誘ったんだよ。
        ねえちゃん、こっちに来・・・」 ハニサの腕をつかもうとした。
シロクン  「やめておけ。」 ガッシリの腕をつかんだ。
ノッポ男  「こら!何やってんだ!」 背の高い男が走ってきて、ガッシリをぶん殴った。
ガッシリ男  「いてててて、アニキ悪かったよ。」
ノッポ男  「旅のお方、いやな思いをさせてしまった。
       弟は世間知らずでな。いつもこんな調子だ。
       お詫びに猪の肉を御馳走したいが・・・」
シロクン  「それには及ばん。道を開けてくれ。」
 
 
ハニサ  「なんか変な人達だったね。あたしのこと、いやらしい目で見てた。
      髪もヒゲも、伸び放題だった。
      ああいう人って、村にはいない・・・」
シロクン  「邪悪だったな・・・」
 
 
    「おーい!」ガッシリとノッポが、追いかけて来た。
    「お詫びのしるしだ、受け取ってくれー」
 
ノッポ男  「さっきは悪かったな。これ、猪の肉だ。持ってってくれ。」
シロクン  「あの樹に走れ!」
 
    シロクンヌはハニサを突き飛ばした。
    そして自身も身をかわし、背負い袋を外した。
    横の崖の、張り出した岩の上から、いきなり男が襲いかかって来たのだ。
    3人目がいた!
    男は石斧を振りかざし向かって来る。
    シロクンヌも男に突進し、素早く身をかわした。
    石斧が、空を切った。
    そして男の背後を取って、後頭部に頭突きを放つと同時に男の股間をまさぐった。
    その刹那、男が獣の様な咆哮をあげた。
    そしてすぐに白目をむいて、悶絶した。
    男の玉は、二つとも、握り潰されていた。
 
    シロクンヌは即座に石斧を奪い取ると、ガッシリに投げつけた。
    そしてノッポに向かって突進した。
    男共は石斧を隠し持っていた。
    ノッポは身構えた。
    シロクンヌは瞬時に向きを変え、ガッシリに肩から体当たりした。
    ガッシリが、弾き飛んた。
    シロクンヌはガッシリのヒゲをつかみ引き起こすと、頭上高くに掲げ上げ、
    そのまま助走をつけ、猛烈な勢いでノッポに投げつけた。
 
    あっと言う間の出来事だった。
    玉を握り潰された男が三人、悶絶してころがっている。
    ハニサは何が起きたのか、よくわからなかった。
 
シロクン  「怪我しなかったか?」
ハニサ  「うん。」
シロクン  「行こうか。おれは、手を洗いたい。」
 
 
          川のほとり。
 
    シロクンヌは手を洗っている。
 
ハニサ  「シロクンヌは、怪我しなかったの?」
シロクン  「なんでおれが、怪我をするんだ?」
ハニサ  「だって、いきなり襲われたんでしょう?」
シロクン  「3人目か? 気配はプンプンあったんだ。」
ハニサ  「ああいうのも、テイトンポに教わったの?」
シロクン  「テイトンポの後に、18まで就いた師匠がいて、その両方からだな。」
ハニサ  「あたし・・・今になって、震えてきた。
      あの人達、今までに、何度もあんな事してきたんだよ。
      平気で人を殺める人達だよ。
      本当ならあたし、今頃ひどい目に遭ってるんだ・・・
      シロクンヌがとっても強い人だったから・・・
      あたし、シロクンヌに護られてるんだね!」
シロクン  「だから言ったろう?
        何があっても護って見せるって(笑)。」
 
 
 
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登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている

      

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚