縄文GoGo

5000年前の中部高地の物語

中継地点・見晴らし岩 第45話 8日目②

 

 

          下の川沿いの、荒れた道。道幅は一人分だ。
 
    ハニサはシロクンヌにおぶわれている。
    特製の革製おんぶ帯を使っているから、ハニサは疲れないし、二人とも両手が空いている。
    シロクンヌの大きな背負い袋は、腹側に掛けてある。
 
シロクン  「痛くはないか?」
ハニサ  「うん、痛くない。
      でもあたし、まだ疲れて無いよ?」
シロクン  「疲れてしまってからでは、遅いだろう?
        急ぎ足で歩くが、痛かったりしたら、すぐ言ってくれよ。」
ハニサ  「ねえ・・・なんか、あの器みたいだね(笑)。」
シロクン  「おれも今、そう思ったんだよ(笑)。
        ・・・ハギはやさしい男だな。
        あんな良い男なのに、一人者なのか?」
ハニサ  「うん・・・
      兄さんね、アマゴ村に、好きな人がいるんだよ。
      あたしと同い年の。」
シロクン  「シカ村の、もう一個向こうだな。祭りで知り合ったのか?」
ハニサ  「そうじゃなくて、スサラの妹なの。
      スサラのトツギの時に出会ったみたい。」
シロクン  「スサラは確か、アマゴ村の出だと言っていたな。
        そう言えばあの時話に出た、ネバネバって言う食べ物、
        ハニサは食べたことあるのか?」
ハニサ  「ああ、兄さんが、クセになるって言ってたあれね?
      あたしも何か知らないの。」
シロクン  「そうか・・・それで相手はどう思ってるんだ、ハギのことを。」
ハニサ  「内緒だよ? もしかすると、トツギになるかも知れないの。」
シロクン  「そりゃあ良かったな!」
ハニサ  「お祭りには来るから、どうなるかはそこで決まるみたい。」
シロクン  「上手く行くといいな。ハニサ、痛くはないか?」
ハニサ  「あたしは平気。」
シロクン  「少し本気で走ってみるぞ。
        痛かったらすぐに言ってくれよ。」
 
 
          ハギの仕掛けのそば。
 
シロクン  「5匹入ってるぞ。串焼きにするか。」
ハニサ  「あたし、1匹でいい。
      おなか、そんなに減ってないもん。」
シロクン  「おれも2匹でいいから、あとは逃がすぞ。」
ハニサ  「だって、あっと言う間にここまで来ちゃったんだよ?
      あたしびっくりした。
      シロクンヌが走っても、あたし全然揺れないんだもん。
      岩から岩に飛び移ってるのに、何であたし、揺れないの?」
シロクン  「《流し》ってのがあって、そもそもおれ自身が衝撃を受けないように・・・
        説明すると明日までかかるが?」
ハニサ  「・・・いい。
      お湯も沸いてるし、ヌリホツマのお茶、飲もうか?」
シロクン  「ああ、いいな。そこに、椀まで二つ用意してあるぞ。
        ハギはえらいな。あの仕掛けは、5匹までしか入らないように作ってあった。
        おれが3匹でハニサが2匹。
        昼過ぎにここに来れば、そんな食欲だろう?」
ハニサ  「そっか、兄さん、お昼ご飯のつもりだったんだね。
      そして余分な殺生はしないんだ。」
シロクン  「ハニサ、あそこに大きな岩が見えるだろう?
        お茶を飲んだら、先にあそこに行ってみないか? あそこまで登ってみよう。
        戻った頃に、魚が焼けてるよ。」
ハニサ  「ええっ? あんな高い所に?」
シロクン  「向こう側が、見えるんじゃないかな。」
 
 
          広い岩の上
 
シロクン  「まだだぞ、まだ目を開けるんじゃないぞ。
        しっかり目を瞑ってろ・・・
        もう少し前に出るからな・・・
        よし!ここがいい。
        いいよ、目を開けて。」
ハニサ  「すごい!
      こんな景色、初めて見た!
      こんなに高い所から・・・」
シロクン  「思ったとおりだ。見晴らしがいいだろう?
        待ってろよ。いま背中から降ろしてやるから。」
ハニサ  「湖が見える! 
      旗もいくつか見える! 
      村も見えるね! シロクンヌ!」
シロクン  「来て良かったな!」
ハニサ  「大好きっ! シロクンヌがいなかったら、絶対来られなかった!」
シロクン  「良い天気だ。じいさんが言ってた子宝の湯、あの辺じゃないか?」
ハニサ  「そうだね。今日中に入れる?」
シロクン  「急げば間に合うが、明日は一日スワだろう? 
        明日の朝でもいいよな?
        まあ、行った具合だな(笑)。」
ハニサ  「わー! あたし、景色にばっかり見とれてたけど、この岩も凄いんだね。
      何十人も載れそうなほど大きいよ。」
シロクン  「うん。下から見た時には、ここまで広いとは思わなかったよな。
        そうだハニサ、登って来る途中に旨い湧き水があったんだ。
        後でハニサも飲んでみろよ。
        岩から出てるんだけど、ものすごく冷たいぞ。」
ハニサ  「そうなんだ。あたし、ヒョウタンに入れていこうかな?
      あ!でもそうすると、シロクンヌが重くなっちゃうのか。」
シロクン  「ハハハ、それくらい、何ともないさ。
        それよりハニサ、あそこを見てみろ。猿の群れだ。」
ハニサ  「ああ、本当だ! たくさんいるね。こっちを見てるよ。」
シリクンヌ  「あれで奴ら、結構狂暴だからな。」
ハニサ  「襲って来たりしないよね?
     ・・・ねえシロクンヌ?
     あれ?どこ行ったの?
     ・・・シロクンヌ!どこ?
     シロクンヌー!」
シロクン  「キーキーキー」
ハニサ  「キャー! シロクンヌ、助けてー!」
シロクン  「ハッハッハ。木霊が聞こえたぞ。」
ハニサ  「もう! シロクンヌのバカー!」
 
    ⦅バカーバカーバカー⦆確かに木霊は響いていた。
 
 
 
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登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている

      

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚