縄文GoGo

5000年前の中部高地の物語

出発前夜 第43話 7日目④

 

 

          ハニサのムロヤ

 
ハニサ  「シロクンヌ、お湯が沸いた。
      あたしたちの器で、初めて沸かしたお湯だよ。
      体を拭いてあげるね。」
シロクン  「なんだかいつもより、さっぱりする気がするぞ。
        さっきアコは、チビ共に大人気だったな(笑)。」
       (アコは頭上に蚊遣りトンボを付けていた。)
ハニサ  「夕食の間中、子供達に囲まれてたね。」
シロクン  「ヤッホがからかったら、アコから殴られていたな(笑)。」
ハニサ  「アハハハハ。でもその後に、アコがいろり屋に向かって歩いてた時、」
シロクン  「あれな! あれには驚いたな!
        いきなりだったよな? コウモリが襲って来たの。」
ハニサ  「アコ、必死に逃げ回ってたもん。」
シロクン  「アハハハハ。逃げれば逃げるほど、生きてるトンボに見えるから、
        どんどんコウモリが集まって来てたろう?」
ハニサ  「アコの頭に群がってた!
      テイトンポからは、絶対にトンボを落とすな!って大声でハッパ掛けられてたし。
      テイトンポの修行って、やっぱり厳しいんだね(笑)。」
シロクン  「まったく、相変わらずの鬼っぷりだったぞ(笑)。
        あと、温泉に行くと言ったら、みんな、うらやましがっていたよな。」
ハニサ  「ヤッホが付いて行くと言ってきかなかったね。
      あれはね、絶対あたしの裸が見たいんだよ。」
シロクン  「間違いないな(笑)。」

ハニサ  「そうだ! クマジイが、子宝の湯があるって言ってたよ。

      湖に着いたら、右手の山の中腹だって。

      あたし、そこに行ってみたい!」
シロクン  「じいさん嘘つきだから当てにはならんが、土地の者に聞いて探してみるか。
        それから、沈んだ村の話題で盛り上がったな。」
ハニサ  「ヤッホとヤシムが言い合いしてたね。作り話かどうかで。」
シロクン  「あの二人は、あれで結構仲が良いのかも知れんぞ(笑)。」
ハニサ  「そうなのかな(笑)。シロクンヌは、子供達から土産話をねだられてたね。」
シロクン  「タホには工ッチな土産話をしてやるか。」
ハニサ  「アハハハ! 後で持ち物の準備しなくちゃ。
      あたし何を持って行けばいい?」
シロクン  「雨に濡れるといけないから着替えくらいか。
        必要なものは、おれが持って行くから。」
ハニサ  「ヌリホツマのお薬も持って行こう。
      すごく効くんだよ。イノシシの脂に薬草が混ぜてあるの。
      灰を触ると手が荒れるでしょう。それを塗ると、すぐに治るんだよ。
      そっか! シロクンヌにも塗ってあげた事あったね。」
シロクン  「あれか。ササヤブを突っ切った時の傷がすぐ直ったな。
        みんなの話の感じだと、朝早く出れば、昼過ぎには着きそうだな。」
ハニサ  「え? あたしが一緒なら、夜になるって言ってたよ。」
シロクン  「ハニサは、ほとんどおれが背負うんだよ。
        ハニサは少しの荷物を背負ってくれ。
        大半の荷物はおれが抱えるから。」
ハニサ  「そんなことしたら、シロクンヌが疲れちゃうよ!」
シロクン  「疲れないさ。今日だって見ただろう?
        あれに比べれば、ハニサなんて軽いもんだ。
        みんなの前で黙っていたのは、
        だったら一泊で帰って来いって言われては適わんなと、そう思ったからだよ。
        今から、ムマヂカリに分けてもらったなめし革で、背負い帯を作る。
        それを使って背負えば、おれもハニサも両手が自由に使えるんだ。
        ハニサも背負われていて、疲れない。
        本当は背負子(しょいこ)の方がいいんだろうけど、それを作る時間がないな。」
ハニサ  「ああでも嬉しい! あたし本当に行けるんだね!
      シロクンヌのお陰だ。
      シロクンヌと出会わなければ、あたし、旅なんて絶対行けなかったと思う。
      あたし、他の村にだって行ったこと無いんだよ。
      あたし、この村の外で泊まったことって無いんだから。
      楽しみだなあ。あたし、今晩、眠れないかも知れない。」
シロクン  「ハハハ。いいさ。明日眠くなったら、おれの背中で寝ていればいい。
        おれもスワの湖も温泉も初めてだから、凄く楽しみなんだ。
        楽しい旅になるといいよな。」
 
 
 
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登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている

      

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚