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5000年前の中部高地の物語

湖に沈んだ村の言い伝え 第42話 7日目③

 

 

          森の入口のシロクンヌの作業場。 

 
シロクン  「どうだ? 上手い具合に焼き上がったか?」
ハニサ  「見て。あたしと、シロクンヌだよ。」

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神像筒型土器 長野県富士見町 藤内遺跡出土 井戸尻考古館
シロクン  「うん、これ見てると、背中がむずむずしてくるな(笑)。
        背中にハニサを感じるよ。」
ハニサ  「あたし、これはしばらく、いろり屋には出さない。
      あたしのムロヤに置いて、これで沸かした湯で、シロクンヌの体を拭くんだ。」
シロクン  「ハニサ見てろよ。
        水晒しの舟の両脇に机を一個ずつこう括り付けるだろう。
        机同士もこう縛れば落ちる事は無い。
        この真ん中に肩を入れて・・・
        そらっ! 
        こんな物くらいおれはこうやってかつげるんだ。
        温泉の道中、ハニサが疲れないように、いつでもおれが背負ってやるぞ!」
 
 
          村の入り口。
 
ヤッホ  「アニキ! こんなもの、一人でかついで来たのか!
      おれに言ってくれよ。いつだって手伝うよ。」
シロクン  「ヤッホ、いい所で会った。コノカミはどこにいるか知ってるか?」
 
 
          大屋根の下。
 
ササヒコ  「シロクンヌ。想像以上に立派な机だ! それも二つ。
       そして水晒し場。これは女衆が喜ぶぞ!
       ありがとう! これで祭りの準備も楽になる。」
シロクン  「そこでだ・・・
        コノカミ、先に言っておくが、中(あ)たらせるぞ(笑)。」
ササヒコ  「来おったな! ハニサ、おぬしら二人で、何かたくらんでおるだろう?」
ハニサ  「あたし、シロクンヌと温泉に行くの!」
ササヒコ  「温泉か! シロクンヌ、本当なのか?」
シロクン  「本当だ。おれはハニサが愛おしくてたまらんのだ。
        二人だけで、どこかに行ってみたいと思ったんだ。
        ハニサは以前、フジが映る湖が見たいと言ったことがある。
        しかしそこは、遠いだろう?
        そこでだ、おれもハニサも、温泉にはつかったことがない。
        コノカミ、どこか手頃な温泉を知らんか?」
ササヒコ  「ふむ・・・この辺り、温泉はたくさんある。
       しかし残念ながら、ウルシ村のそばでは見つかっておらん。
       一番近いのは岩の温泉だが、途中に難所があるか・・・
       女でも歩いて行ける温泉となると・・・
       スワだな。
       スワの湖の周りには温泉が多い。景色もいいぞ。
       シロクンヌの脚なら、半日の距離だ。
       ハニサを伴えば、向こうで一泊だな。
       いや待て、それでは移動だけになってしまうから、もう一泊か。
       祭りのこともあるから、できればそれくらいで帰って来てくれ。
       下の川に沿って行けばスワの湖だから、道にも迷わんはずだ。
       下の川というのは、飛び石の川ではなく、もう一つ下の川だ。
       そこにも飛び石があって、渡った左岸が道になっておる。
       途中に丸太橋があって右岸が道になったりもするが、
       ハニサでも問題無く行けるはずだ。」
シロクン  「二泊の旅か。
        ハニサ、スワの湖に行ってみるか?」
ハニサ  「行ってみたい! あたし、遠くからしか見たことないの。
      コノカミ、スワには、湖に沈んだ村があるんでしょう?」
ササヒコ  「不思議な言い伝えでな・・・
       昔、スワの湖のほとりに大きな村があった。
       弓人(ユミンド)の村だ。
       村の近くには矢柄(やがら)に最適なツノブト葦(あし)がたくさん生えておって、
       水鳥も多いから矢羽根にも事欠かん。
       鏃(やじり)には、黒切(黒曜石)や色石(チャート)が近くで取れる。
       千本征矢(そや)の村と呼ばれて、荒ぶる男たちが多く住まっておった。
       鹿や猪ばかりでなく、熊まで平気で射殺しておったということだ。
       しかし心根は優しくて、獲物は近隣に分け与えていたというから、感謝されておった。
       ところが何が理由かわからんが、村の中で争いが起きた。
       弓をヒトに向けて引いてしまった。
       多くの男達が死んだという。
       女達は逃げ出して、山に身をひそめた。
       何日かたって戻ってみると、村が見当たらない。
       村があったはずの場所が、湖に沈んでしまっていたという話だ。」
ハニサ  「本当にあった出来事なの?」
ササヒコ  「どうかなあ。作り話だと言う者が多いか・・・
       ただ、あの湖には不思議な話が他にもあって、寒い冬の日には一面が凍る。
       その氷の上を、神が走ると言うのだ。」
シロクン  「神が走る?」
ササヒコ  「うむ。何人もが見たらしい。」
シロクン  「神の姿をか?」
ササヒコ  「そうではない。神が走った跡だ。
       氷が盛り上がり砕けている。それが長く続いているのだ。
       バリと音がして見てみると、
       バリバリ音を立てて、盛り上がりがすごい速さで走って行くそうだ。」
シロクン  「神が棲む湖か・・・あっちに、村は?」
ササヒコ  「いくつかあるが、こことは塩の渡りが違うから、あまり付き合いは無いな。
       村に寄るのなら、土産を持たせようか?」
シロクン  「ありがたいが、それはいい。おれが持っている物から出すよ。」
ササヒコ  「そう言えば、おぬしはタビンドであったな(笑)。」
 
 
 
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登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている

      

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚