縄文GoGo

5000年前の中部高地の物語

木曲げ工房用地選定 第41話 7日目②

 

 

          川の飛び石のそば。   

 
テイトンポ  「アコならどこに作業場を作る?」
アコ  「シロクンヌが言ってた4本の樹って、これと、これと、これと、これじゃないかな・・・」
テイトンポ  「おそらく、そんなところだろうな。」
アコ  「でもこの川は、結構な暴れ川なんだ。
     向こう岸は増水でよくやられてるから、作るならこっち側なんだけど、
     ここでも低いと思う。
     シロクンヌは知らないだろうけど、こないだの台風の時、
     この辺りも流木がすごかったんだ。
     その流木は、焚き物にしたから、今はこうなってるけど。
     ・・・ねえ、穴の上に、屋根っているの?」
テイトンポ  「ふむ・・・無くても良いかも知れん。」
アコ  「それなら屋根はもっと小さくてもいいよね?」
テイトンポ  「そうなるな。」
アコ  「じゃあもう一段上の、ここならどう?
     屋根はここまでで、穴はここ。
     焚き場はここ。ここなら、火事にならないでしょう?」
テイトンポ  「穴の場所が、狭くないか?」
アコ  「あたし思うんだけど、最初は穴は中(ちゅう)一つでいいんじゃない?
     それでいろいろやってみて、必要なら、焚き場の向こう側に、大きい穴が掘れるよ?」
テイトンポ  「ふむ、理にかなっておるな。
        ではここに作業場ができたとしよう。
        ここで木曲げをするにあたって、何が必要になる?」
アコ  「木を沈める道具、熱い木を持ち上げる道具、熱い木を曲げる道具、
     それから曲げた木を固定する道具。」
テイトンポ  「うん、ではアコなら曲げ木でまず何をつくりたい。」
アコ  「草取りカマ。柄が曲がってたらいいのにって何度も思ったよ。」
テイトンポ  「なら、木の長さはこれくらいだな。さっき言った道具だが何を使う?」
アコ  「持ち上げるのは、棒で挟めば簡単そうだし、曲げるのも皮で持って手で曲げる。
     木や石に押し当てて曲げてもいいね。
     沈めるのは、ヒモの両端を石のおもりに結んで、ヒモを木にかければいい。
     落し蓋(おとしぶた)でもいいかも知れない。
     難しいのは固定か・・・
     そうだ、乾いた分厚い粘土台に骨クギを打って、その骨クギで挟むのはどう?
     骨クギがたくさん必要だけど。竹クギか枝クギでもいいのかな?」
テイトンポ  「あの鹿の骨を使って、骨クギをたくさん作ろう。長さは長い方がいい。
        カマの柄なら、三段重ねで固定したいし、
        巾の広い木も曲げる事になるだろうしな。
        しかし、それにしても、蚊が多いな。
        アコ、蚊遣りトンボはどうした?」
アコ  「ムロヤに置いて来たけど?」
テイトンポ  「では、まずトンボ捕りから始めるぞ。二人分で2匹だ。」
アコ  「え? またあれ付けるの?」
テイトンポ  「そうだ。あれはいい修行になる。
        何をやるにおいても、トンボを落とさんようにやるんだ。
        蚊も寄って来んしな。
        これからは、アコは一日中、あれを付けていろ。」
アコ  「・・・・・」
 
 
テイトンポ  「よし、出来た。
        竹ひごを細くしたから、昨日のよりも良くしなるぞ。
        付けてやる。」
アコ  「え?おでこの方に付けるの?」
テイトンポ  「そうだ。後ろに付けては、落ちた時に気付かんだろう。
        これでいい。」
アコ  「あ!クズハだ! クズハー、こっちだよー。」
    アコは鉢巻きを締めていて、そのおでこから細い竹ひごが、上に伸びている。
    そしてその先端では、オニヤンマが揺らめいているのだった。
 
クズハ  「お弁当を持って来ましたよ。」
テイトンポ  「クズハ!」 ギュッと抱きしめて、放そうとしない。
クズハ  「苦しいわ、あなた。放してくださいな。」
テイトンポ  「すまない。いい匂いがして、つい・・・」
クズハ  「まだお昼ですよ。アコ、ここで一緒にたべましょう。
      またそれ、付けてるのね。」
アコ  「うん。修行みたい。」
クズハ  「そうそう、松茸グリッコ、もうなくなってましたよ。」
テイトンポ  「え?そうか・・・もう一回食いたかったな。」
クズハ  「アコ、お魚、ほぐしてあげましょうか?」
アコ  「うん!」
テイトンポ  「おれには?」
クズハ  「あなたは、骨ごと食べてたじゃない。代わりに、焼き栗を剥いてあげるから、待ってて。
      いけない、あなた、言い忘れてたわ。
      コノカミがね、場所だけ決めて、掘るのは明日からにしてくれって。
      明日の朝、ヌリホツマがお祓いするそうよ。」
テイトンポ  「その方がいいな。穴も掘るし、火も焚くから。」
 
    三人が昼食を食べ終わった頃、シロクンヌとハニサがやって来た。
 
ハニサ  「またトンボ付けてる。アコ、テイトンポとおそろいだね。」
アコ  「これも修行の一環なんだぞ。」
ハニサ  「母さんは、やつれているのかな?って心配してたけど、なんだか綺麗になってる!」
シロクン  「確かに。」
クズハ  「もうハニサったら・・・シロクンヌまで・・・」  赤くなった。
シロクン  「様子を見に、ちょっと寄ってみた。
        テイトンポ、松茸グリッコ最後の5個、食べるか?」
テイトンポ  「おお、さすがシロクンヌ!遠慮なく頂くぞ!」
 
 
アコ  「ねえ、4本の樹、当たってた?」
シロクン  「お見事だ。そうか・・・流木がなあ・・・そこまでは見通せなかった。
        それに昨日は偉そうに言ったが、おれに木曲げの実践は殆ど無い。
        今聞いて、アコの言うことはもっともだと思ってる。」
テイトンポ  「どうだシロクンヌ。おれは良い弟子を持ったろう?」
クズハ  「アコ・・・」 アコの肩に腕を回した。
ハニサ  「アコと母さん、仲が良さそうで、安心した!
      アコ、ここに穴を掘るんでしょう?」
アコ  「ハニサ、クズハはあたしに、とってもやさしいよ。
     うんそうだよ。穴はそこに掘る。」
ハニサ  「たぶんだけど、ここなら少し掘ればすぐ粘土だよ。
      あの崖の、粘土の層の続きだと思う。
      この下の段は、あの崖では普通の土でしょう?
シロクン  「あ!そうか!」
ハニサ  「シロクンヌは内側に粘土を塗って焼くって言ったみたいだけど、粘土は焼くと縮むんだ。
      だからおそらく割れると思ったの。
      もしここが粘土なら、石をぎっしり張り付ければ済むでしょう?」
シロクン  「うーん、おれはそこまで見てなかったな・・・」
ハニサ  「それから、クギを刺すっていう粘土台なんだけど、アコ、あそこを見て。
      白と赤の粘土が見えてるでしょう?」
アコ  「うん。白い粘土と、赤い粘土が、層になってる。」
ハニサ  「普段は両方を混ぜて、それに砂を加えて器を作るの。
      白だけで焼くと、割れやすいから砂をたくさん混ぜなきゃいけなくて、
      でもそうすると、水が漏れちゃうんだよ。
      でも焼く前の、乾いた時に割れにくいのは、白なの。
      乾いていても、粘りがあるの。
      だから粘土台は、砂を混ぜない白だけで作るといいよ。
      クギの所に力が加わっても、白だけなら、そこから割れることは、ほとんどないよ。」
 
 
 
縄文GoGoでは絵を描いてくれる方を募集しています。詳しくは『縄文GoGoの開始にあたって』で。

 

登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている

      

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚