温泉に行こう! 第40話 7日目①
早朝の広場。
シロクンヌとハニサは、並んで朝食をとっている。
シロクンヌ 「今日もいい天気だな。コタチ山が、ハッキリ見える。」
ハニサ 「今日はずっとシロクンヌと一緒にいられるね! なんだかうれしい!
お弁当持って行こうね。」
シロクンヌ 「あれ作ってくれ、友蒸し。」
ハニサ 「いいよ。だったら、具材を持って行って、全部向こうで作ろうか?」
シロクンヌ 「ああ、それがいい。ハニサと二人で作るか!
ところで、ハニサは朝の当番、無いのか? いろり屋の。」
ハニサ 「あたしは今は、シロクンヌの子を宿すことを優先されてるから、朝当番は無いよ。」
シロクンヌ 「朝当番はたいへんそうだな。冬なんかは特につらそうだ。あ、テイトンポだ。」
テイトンポ 「おはよう。おれも一緒にいいか?」
ハニサ 「おはよう。いいよ! 母さん達は?」
テイトンポ 「まだ寝ておるようだな。
しまった! 松茸グリッコを忘れた! 取ってくるか。」
ハニサ 「ねえ、テイトンポって、やっぱりすごく激しいのかな?」
シロクンヌ 「アコから聞き出して、おれにも教えてくれ(笑)。」
テイトンポ 「松茸グリッコ、残りわずからしいぞ。
シロクンヌよ、おまえ木曲げをどこで知った?」
シロクンヌ 「あれは、おれのイエに伝わってることなんだ。
おれも18になってから初めて聞いたんだよ。
ああ、イエのことならハニサにだけは話してる。」
テイトンポ 「おお。ハニサには話すべきだろうな。
おまえの子を宿すのだし、ハニサは特別な娘だ。
木曲げのことは、シカ村の連中も知らんぞ。」
シロクンヌ 「テイトンポから教えてやったらいい。」
テイトンポ 「いいのか? 恩にきる。これで半年世話になった礼ができる。」
シロクンヌ 「いいさ。テイトンポから教わった事に比べれば、わずかな事だ。
今日からアコと一緒に穴掘りするんだろう?」
テイトンポ 「そうだ。おれの弟子だからな。アコはモノになるはずだ。
アコはおれが、手塩にかける。
それで場所なんだが、おれが決めていいのか?」
シロクンヌ 「もちろんだよ。おれなんかよりもその辺の判断は上だろうし、
それにこの先、テイトンポとアコの作業場になるんだから。」
ハニサ 「あ、アコだ。アコ、おはよう!」
アコ 「おはよう。もうテイトンポ、起こしてくれよ。一人でいなくなって。」
テイトンポ 「起こしても良かったのか? では次からそうする。クズハは?」
アコ 「まだ寝てる。
そりゃあ、あれだけされれば、そう簡単には起きないよ。
あたしだって、何度も死ぬかと思ったんだから。
激しいにもほどがあるよ!」
シロクンヌとハニサは、顔を見合わせた。
森の入口の作業場。
火が焚かれ、鍋がかけられ、鹿皮が煮られている。ニカワ作りだ。
焚き火の反対側では、作業衣姿のハニサが器の本焼き作業をしている。
ハニサは光輝くハニサになっていて、しかも今度は一ヶ所に座ってはいない。
器挟みを手に持って、立って動いている。
熾き挟みに持ち替えたりして、せわしなく動いているのだ。
シロクンヌは見とれていた。
美しいと思う。
ハニサを見ていると、不思議な幸福感に包まれる、
そのことにシロクンヌは気付いたのだった。
ずっとこうして見ていたいと思う。
今の自分は、間違いなく幸せなのだとシロクンヌは思った。
その時、ハニサと目が合った。
光輝くハニサが、初めて自分の存在を認めた事に、シロクンヌは激しく動揺した。
そしてハニサが、にっこりとほほ笑んだ。
自分と目が合い、ほほ笑んだのだ。
シロクンヌは体から、幸福感が溢れ出すのを実感した。
ハニサ 「それが冷めると、硬くなるの?」
シロクンヌ 「板に四つの窪みがあるだろう? これが机の裏面になる。
窪みに脚を差し込むんだが、隙間があるからグラグラする。
槙肌(まいはだ、コウヤマキの樹皮)をちぎってニカワを沁み込ませて、
それをこの隙間に詰め込むんだよ。
これでもかって位に、押し込むんだ。」
ハニサ 「そこが、取れたりしないの?」
シロクンヌ 「ニカワは固まれば、木よりも丈夫だ。
だが熱い湯を掛ければ、取れてしまうがな。」
シロクンヌ 「ハフハフ・・・うまい!
ハニサの友蒸しは絶品だ!
出来たては最高にうまいな。」
ハニサ 「鴨も3切れくれたから、焼くね。シロクンヌが2切れだよ。」
シロクンヌ 「ハニサは鴨が好きだろう? おれは一切れでいいよ。
松茸グリッコを食うから。」
ハニサ 「それ、最後だったんだよ。テイトンポ、残念がるかな(笑)。」
シロクンヌ 「かもな(笑)。なあ、おれは机を二つ作ったし、水晒しの舟も大方出来た。
後は現場で加工だ。
ハニサの器も今日で一段落だろう?」
ハニサ 「うん。」
シロクンヌ 「明日、二人だけで、どっかに行かないか?」
ハニサ 「行く! 行きたい!」
シロクンヌ 「温泉というのがあるんだろう? 入ったことあるか?」
ハニサ 「ない! 連れてってくれるの?」
シロクンヌ 「おれも無いんだ。行ってみるか?」
ハニサ 「行く!絶対だよ! シロクンヌ、大好き!」
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