木を曲げる? 第39話 6日目⑥
夕食後。大ムロヤ
ササヒコ 「疲れているところを、集まってもらってすまない。
祭りが近付いた。
手の空いている時は、祈りの丘の草むしりをよろしく頼む。
今日、シロクンヌの作業場で、臼二つと杵四つができた。
臼は、どんぐり小屋と作業小屋に一つずつ置く。
それから水晒し場も立派なのができそうだ。
その作業中に話題に上ったサメ皮だが・・・
シロクンヌがくれると言うからさっき見たのだが、驚いたぞ。
シロクンヌ、広げて皆に見せてやってくれ。」
アオザメと言って、獰猛な奴等だ。」
ムマヂカリ 「何だこれは!こんなに大きいのか?」
クマジイ 「ヒト二人分の大きさはあるのう。これにあの歯がついておるのか。
噛まれたらひとたまりも無かろうな。」
ヤッホ 「サメ皮と言えば、おれ達は切れ端しか見た事無いよな?」
タマ 「手触りが場所によって違うんだね。ここなんか、怪我しそうだよ。」
シロクンヌ 「頭はこっちだ。逆撫でする時は、気をつけてくれよ。」
テイトンポ 「おれも一匹丸々のサメ皮を見たのは初めてだな。
しかしこれは大きい部類だろう?」
シロクンヌ 「そうだ。
漁に出て、銛(もり)を打って、頭を棍棒でぶん殴って舟に乗せて運ぶからな。
これが限界だと思う。もっと大きいのもいるらしいが。」
ササヒコ 「これをもらっていいのか?」
シロクンヌ 「ああいいさ。このままやるから、部位ごとに切り分けて、使い分けてくれればいい。
見てもらえば分かるが、毛穴がないだろう? 水を漏らさんぞ。
ザルを二つ重ねたその間に入れたら、すぐにオケになる。
みんなが重宝がってくれれば、漁師も喜ぶだろうし、サメも浮かばれるさ。」
タマ 「ここなんかはスリ下ろしで使いたいね。」
クマジイ 「ここは木の削りに持って来いじゃぞ。」
ヌリホツマ 「ここは水汲み袋に良さそうじゃな。」
アコ 「だけどこいつに銛を打ち込むのは、命がけの仕事だろうな。」
ササヒコ 「まったくだ。一体どうやるのか・・・
シロクンヌ、礼を言う。有難く頂くぞ。」
シロクンヌ 「ああいいさ。さて、本題に入ってくれ。」
ササヒコ 「うむ。では、本題に入る。
昼の焚き火で消し熾きが随分取れたが、消し熾きはまだまだ不足している。
だからといって、消し熾きを取るためだけに木を燃やすのは、
ヌリホツマもわしも反対だ。
炎から明りを得たり熱を得たりしてこそ、樹も浮かばれる。
そこで何かいい案はないものだろうか?」
シロクンヌ 「ちょっといいか。ここに来て思ったことなんだが、曲げた木をほとんど見ない。
木曲げをしないのか?」
ムマヂカリ 「木曲げとは、何だ?」
シロクンヌ 「やはり、知らなかったか。木を茹でるんだ。そして曲げるんだよ。」
クマジイ 「なんじゃと!どうやって木を茹でるんじゃ?」
シロクンヌ 「簡単に言うと、地面に穴を掘る。
そこに水をためて焼け石を入れる。沸騰するまでな。
そこに木を沈めておくんだよ。
木曲げができれば、いろんな道具が作れるぞ。
腕輪や足輪もできるから、女達も喜ぶ。」
ササヒコ 「悪いが、そこに湯が沸いておるから、小さい木でやって見せてくれんか?」
シロクンヌ 「やってみるが、しばらく時が掛るぞ・・・
実はこれについては、おれの中で腹案がまとまっておるのだ。言ってもいいか?」
ササヒコ 「是非たのむ。」
シロクンヌ 「ここから降りた川の飛び石の手前左手に、良い具合の4本の樹がある。
その幹と枝を利用すれば、少しの木を足すだけで、かなり広い屋根がふける。
縄で縛るだけだから、樹はまったく傷つかない。そこが作業場だ。壁はいらん。
屋根の下に、穴を掘る。 大・中・小の三つだ。
崖の粘土堀場から粘土を取って、穴の内側に塗る。
そしてまず、穴の中で火を焚く。穴を器にするんだ。
だから屋根をふくのは、その後だな。火事になったら大変だ。
お、そろそろいいかな・・・
木を取って、皮でくるんで・・・な、曲がるだろう?
あとはこのまま乾かせばいいんだ。この形の木ができる。」
ハニサのムロヤ。
ハニサ 「おかえりなさい。シロクンヌ、体を拭いてあげる。汗かいたでしょう?」
シロクンヌ 「しかしアコには驚いたな。今頃どうしてるんだろう。」
ハニサ 「アコにはね、女の子がいたけど、死んじゃったの。」
シロクンヌ 「そうなんだってなあ。」
ハニサ 「その前に、アコのお母さんも死んじゃってたから、
気の毒で、見ていられなかったんだよ。
みんな心配してたんだけど、ヤシムが随分心配してて、いっしょに暮らし始めたの。」
シロクンヌ 「そうだったのか。
タホが流された時、アコは必死におれにすがって来たもんな・・・
死んだ子の、父親はどこにいるんだ?」
ハニサ 「明り壺のお祭りの時に知り合った人なの。
タカジョウって名前で、山奥に住んでいる人。」
シロクンヌ 「そうか。ハニサ、今度はおれが拭いてやるよ。」
━━━ 幕間 ━━━
縄文人はヒスイに穴を開けた人達です。さて、どうやって開けたのでしょう?
骨に穴を開けるには、石の錐(きり)を使ったようです。
それよりも硬い物をとがらせて、それで開ける・・・ごく自然な発想ですよね。
しかしヒスイはとても硬く、日本で採れる石の中でも、非常に硬い部類に入ります。
鉄の無い時代でしたが、鉄よりも硬いのがヒスイです。
ヒスイよりも硬い棒状の物など、日本にはありませんでした。
そこで彼らがとった方法は・・・
それから縄文人は、離頭銛(りとうもり)も発明しています。
トドなどの海獣を獲るのに使いました。
刺さると銛頭が柄から抜けます。銛頭と柄は、長いロープでつながっています。
浮いた柄を回収して、獲物が弱るのを待つのです。
柄はさらに、丸太などの「浮き」とつながっていたかも知れません。
銛頭は、刺さった後回転して、獲物から抜けない仕組みになっていました。
水中でも切れにくい、丈夫なロープも持っていました。
作者は思うのです。
おそらくパーセントで見れば、ごくわずかでしょう。
しかし彼らは、それを実現しています。
それからすると、彼らは、優れた発明家なのです。
全縄文人が欲しいと思った物・・・例えば、夜の灯り、煙たく無い住まい・・・
それらが実現されていたとしても、何の不思議もありません。
この物語には、遺跡から出てきていない物がたくさん登場します。それらはもちろん作者の空想です。
その空想の根拠が、ヒスイの穴と離頭銛なのです。
それから、5000年前に、実際にサメ漁が行われていた様なのです。
それも、ヒスイのふるさとの海で。
加工途中のヒスイが出る遺跡から、アオザメの歯がたくさん出ています。
丸木舟を漕ぎ、沖に乗り出し、アコが言う通りの命がけの漁であったのかも知れません。
でもそのお話が出来るのは・・・もっと先になりそうですね。
長話になりましたね。ヒスイの穴の開け方も、その時にお話しする事にしましょうか。
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