秘伝・ガッチン漁! 第36話 6日目③
森の入口の作業場。お昼前。
向こうの方から、ハニサとクズハが一緒にやって来る。
その後方に、アコやムマヂカリ、ササヒコ、みんなの顔が見える。
ハニサ 「シロクンヌー。来たよー。」
シロクンヌ 「ハニサ!」
ハニサは貫頭衣の作業衣のままだ。
手には器と袋を持っている。
ハニサ 「これね、ちょっとここで、下焼きしてみたいの。いいでしょう?」
シロクンヌ 「昨日、作ってたやつか?」
ハニサ 「そうだよ。見て。いい出来じゃない?
灰をたくさん持ってきたから、灰で一気に乾かして、下焼きまでやってみる。
本焼きは、明日!」
アコ 「ハニサ、あんた、ますます綺麗になって行くね!」
ムマヂカリ 「ハニサ、今朝もちょっと思ったが、前のハニサとは、カンジが全然違うな。」
ヤッホ 「ハニサの作業衣姿、そそられるな~。」
ヤシム 「ばか!そんなこと言ってるから、ヤッホは軽く見られるのよ。」
ハニサ 「あたし、なんにも変わってないと思うけどな。」
クズハ 「シロクンヌ、素敵な糸玉をありがとうございます。
とっても綺麗な紫色ね。
何を編もうかしら。」
ハニサ 「あたし、ちょっともらって、貝輪(ブレスレット)に巻いてみた。
綺麗でしょう?
作業中は外すけどね。」
ヤシム 「素敵じゃない!」
ヤッホ 「めずらしい染めだな。さすがアニキはタビンドだけあるね。」
クズハ 「貝で染めたんですって。
ところで、あの人が見当たらないけど・・・」
ハギ 「魚を獲って来るらしい。
川の方に歩いて行ったけど、すれ違わなかったのか・・・」
その時、「クズハ!」森の奥から声がした。
おどろいてみんながそっちを見ると・・・
異様な姿の者が一人、こちらに向かって歩いて来る。
手には何も持ってはいないが、異様なのは、頭だ。
頭が異様に長い。
近付くにしたがって、様子が徐々に判明する。
頭が長いのではない。
ギュッと締められた鉢巻きと頭のあいだに、魚の串刺しの串が、差してあるのだ。
男の頭を、グルッと一周回るように、魚の串刺しが鉢巻きに差し込んであるのだった。
そして・・・
その魚の間から、飛び出すように一本の竹ひごが高く伸び、
その先端にオニヤンマが刺してあり、歩くたびにユラユラ揺れているのであった。
テイトンポ 「クズハ!」 いきなり、抱きしめた。
クズハ 「あなた、なあに、その頭。」
テイトンポ 「落ち鮎だが、腹の足しにはなるだろう?」
クズハ 「鮎は分かるけど、何で頭に差してるの?」
テイトンポ 「手を自由に動かすためだよ。」
クズハ 「トンボは?」
テイトンポ 「蚊遣りトンボだ。こうしておくと、蚊が寄って来ない。」
クズハ 「そうなの?・・・でも、ちょっと滑稽よ。」
ハギ 「12匹いる。しかも全部メスだ。丸々と卵を抱えているよ。
この短い時間に、道具も持たず、何をやったらこんな事ができるんだ?」
テイトンポ 「道具は持っておるぞ。」 首からぶら下げた黒切りを掲げて見せた。
アコ 「それで魚が獲れるの?」
テイトンポ 「いや、これで笹竹を割いて、この串を作ったのだ。
アユを獲ったのは、石だ。
ガッチン獲りだ。
水中の岩にな、大きな石をぶつけるんだ。
すると魂堺(たまざかい。仮死状態。)の魚が浮いて来る。
殺さん様にやるのが通だ。
アコ、後で一緒にやってみるか?」
アコ 「うん!」
ムマヂカリ 「シロクンヌ、おれはやっぱり、弟子になりたかったぞ。」
シロクンヌ 「おれの時より、断然優しい教え方なのだが・・・」
ハギ 「しかし女にガッチンは無理だよ。
女の力では。
おれでもなかなか上手くいかないから。」
テイトンポ 「ガッチンが効く岩があってな、その岩にぶつける。響き岩だな。」
アコ 「響き岩って、簡単に見分けが付くの?」
テイトンポ 「平たく言えば、キンキン岩だ。ボクボク岩にぶつけても、効果は無い。
ぶつける方もキンキン石なら、女の力で十分だ。
大きさも大事だぞ。今度ゆっくり教えてやる。
響き岩を沈めておいてもいいんだぞ。
響き岩を見つけておけば、通りすがりに簡単に魚が獲れる。」
ハギ 「・・・アコ! たのむ! おれをお前の、弟子にしてくれ!」
アコ 「幼虫、食べる?」
離れた場所で、テイトンポ、クズハ、アコが話込んでいる。
他のみんなは、料理の下ごしらえをしている。
ヤッホ 「子供達は?」
ヤシム 「タマがめんどう見てくれてる。タマ、腸とか嫌いだしね。
アコが弟子になったのは分かったけど、幼虫ってなに?」
ヤッホ 「それは・・・今度教えてやる。食事前は、止めておこう。」
ササヒコ 「腸を食って、飲まんというのもあれだろう。
タマに頼んで、ひとカメ持ってきたぞ。
椀もある。」
クマジイ 「わしゃあ、ふたカメ頼むとゆうたんじゃがな、タマめ、ケチくさくなりおって。」
クマジイはふところからヒョウタンを取り出した。
中身は栗実酒だ。
スサラ 「クマジイ、いつの間に・・・」
ササヒコ 「ワッハッハ。お得意の早業を使ったな?」
「やったーーーー!」 そこへアコが走って来た。
アコ 「ヤシム、今までお世話になったね。
あたし、今日からクズハのムロヤで暮らすことになった!」
ヤシム 「え?どういう事なの?」
アコ 「・・・クズハは心の支えだけでもいいんだけど、男はそうもいかないだろう?
そういう訳で、あたし、テイトンポの子を宿すことになったの。」
ハギ 「アコ、おまえどんどん駆け抜けて行くな!」
クマジイ 「わしのかわいいアコがのう。遠くに行ってしまうのう。」
ハニサ 「テイトンポって、そんなにすごいの?」
アコ 「今度、教えてやるよ(笑)。」
ヤッホ 「お、おれにも教えてくれ!」 ヤシムに殴られた。
ササヒコ 「クズハは、それでいいのか?」
クズハ 「アコがそう言ってくれて、私は大助かりなの。
今夜あたり死んでしまうかもって、思っていたから。」
ササヒコ 「す、すごいな・・・」
シロクンヌ 「準備ができた。さあ、みんなで食おうぜ!」
縄文人は、性に対しては、おおらかであったと作者は思っている・・・・・
ちなみに、ガッチン漁は、現代ではほとんどの河川で禁止されています。
やってはいけませんよ(笑)。
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