縄文GoGo

5000年前の中部高地の物語

昆虫食はお好き? 第35話 6日目②

 

 

 

          森の入口の作業場。続き。

 
テイトンポ  「ではアコよ、その樹の根元を、一心不乱に掘れるか?
        出来るなら、やってみよ。道具は、使ってもよいぞ。」
 
    アコは、鹿の角を使って、一心不乱に掘っている。
 
テイトンポ  「幼虫が出てきたな。そいつは取り分けろ。そして掘り続けろ。」
 
    何が起きるのかと、みんながアコを見守っている。
 
テイトンポ  「今ここに、幼虫が3匹いる。 頭の先を見てみろ。牙があるな?
        小さいが、その牙は木を噛み砕く牙だ。
        それに噛まれると、うるさいことになるぞ。
        アコ、その三匹を食らえるか?
        丸飲みすると、腹の中を、牙で噛まれるやも知れんぞ。」
 
    誰も言葉を発しない。固唾を飲んで見守っている。 
    刹那アコが、薄ら笑いを浮かべたように見えた。
 
アコ  「なるほどね・・・痛みなど、問題ではないってことなんだね!」
 
    言うや否や、アコは3匹を口に入れた。そして咀嚼した上で飲み込んだ。
 
アコ  「やってはみたけど、マズイもんだね!」
 
    「ウッ」っと声が方々であがっている。
 
テイトンポ  「たった今から、アコはおれの弟子だ!
        言っておくが、おれは同時に二人の弟子は取らん。
        一人の弟子を、手塩にかける。
        アコ! 弟子としての振る舞いは、この先、おいおい教える。 それでよいか!」
 
    「ありがとうー!」 アコはテイトンポに抱きついた。 
    テイトンポは硬直した。
 
    丸太の木口に焼き石が載せられ、煙が出ている。
    シロクンヌ達は、臼の窪ませ作業をしていた。
    そこから離れた場所で、テイトンポとアコが何やら話し込んでいる。
    抱きついたことをしかられているのだろうと、皆は思っていた。
 
ハギ  「まったく、アコには驚かされたよ。シロクンヌ、女にできる修行なのかい?」
シロクン  「絶対無理だ。まあ、おれと同じ事を、させはしないと思うが。」
ムマヂカリ  「おれはなんだか、アコがうらやましいなあ。」
シロクン  「ムマヂカリはすでに、イッパシじゃないか。今さら弟子でもないだろう。」
ムマヂカリ  「いや、知りあってまだ僅(わず)かだが、いろいろ教わったぞ。」
シロクン  「弟子じゃなくても、教わったんだろう?だから、これからも教えてくれるよ。」
ムマヂカリ  「だとは思うが、弟子にしか教えない事もあるだろうし、
        それに、テイトンポから、鍛え上げられたいんだよ。」
シロクン  「おれはもう、絶対にいやだ。 よくあれで、死ななかったと思うよ(笑)。」
ヤッホ  「そんなに凄いのか・・・アコはどうなっちゃうんだろう。」
ハギ  「アコなら、やれって言われたら、何でもやりそうだし・・・」
ヤッホ  「アニキ、テイトンポに、手加減してくれと頼めないもんだろうか?」
シロクン  「ん~・・・だが、おれが頼んだところで・・・」
 
アコ  「テイトンポはあっちの方も激しいんだろう?」
テイトンポ  「あっちとはどっちだ?」
アコ  「夜の話だよ。昨夜は、何回だったの?」
テイトンポ  「ずけずけ聞いてくるな。」
アコ  「あたしはねえ、クズハを心配してるの! 何回果てたんだい?」
テイトンポ  「・・・4回だ。」
アコ  「それじゃあクズハの身が持たないよ。途中から、嫌がってなかったかい?」
テイトンポ  「・・・・・」
アコ  「抑(おさ)えが利かなかったんだろ? だからね、半分は、あたしが相手になるよ。
     宿しもあたしにしたらいい。クズハは宿しは求めていないだろう?」
テイトンポ  「確かに宿したくはないと、言っているが・・・
        おまえはおれの弟子になりたかったのではないのか?」
アコ  「もう弟子にはしてくれたんだろう?だからこれは、別の話だよ。
     テイトンポが惚れているのはクズハで、あたしは弟子。それはそのままでいいんだ。」
テイトンポ  「修行中にそういう事は、できんぞ。」
アコ  「だから、夜だよ。あたしがクズハのムロヤに引っ越すの。」
 
ササヒコ  「やっておるな(笑)。差し入れだ。 (鴨を一羽、投げてよこした。)
       残りはいろり屋に持って行く。
       おや?あの舟みたいなのは・・・そうか!アク抜きか!水さらしに使うのだな?」
シロクン  「そうだ。まだ未完成だがな。」
ササヒコ  「なるほどあれを埋け込めば、一度に大量にアク抜きでる。女衆が喜びそうだ。
       昼からはわしも手伝うぞ。」
       ん?あんなところで、あの二人は何をしておるのだ?」
ヤッホ  「アコが勢い余って、テイトンポに抱きついたから、しかられてるんだと思う。
      アコは志願して、テイトンポの弟子になったんだぜ。」
ササヒコ  「アコが弟子にか!・・・しかしあれは、アコがしかっているように見えるが・・・
       おや。そのアコがこっちに走って来おったぞ。」
アコ  「もうすぐお昼だね。タレを取りに、一度村に戻るよ。」
ササヒコ  「タレだと?昨日の鹿か?」
ムマヂカリ  「内臓だよ。コノカミも一緒にどうだい。
        いろり屋に行くのなら、食いたいやつがいたら誘ってくれていいぞ。
        アコ、おれも崖の室に行くよ。肉を取りに。」
ササヒコ  「では向こうで、声を掛けてみるか。」
テイトンポ  「それならおれは、魚でも獲ってくるか。食い物が足らんといかんからな。」
 
    魚を獲るという言葉に、ハギは素早く反応したが、
    手ぶらでとぼとぼ川に向かって歩いて行く後ろ姿に、どこか拍子抜けしたような気持ちになり、
    黙って臼のコゲを削り続けたのであった。
 
 
          ━━━ 幕間 ━━━
 
5000年前の縄文人は、昆虫食をしていたか?
縄文人=昆虫食 というイメージを持つ人も多いかも知れません。
ただ、糞石(ふんせき)と言われる物を調べても、昆虫食の証拠は見つかっていませんし(魚の小骨などは見つかっている。ただし、糞石は人糞ではなく犬の糞だとする説もある。)、当時の人骨で、栄養失調の骨は見当たらないそうです。
 
狩猟採集社会に飢饉は無いと言われますし、5000年前の温暖な時代なら、食料は豊富だったと思われます。
当時は縄文時代でも最も人口が多く、日本列島で推定25万~30万人が暮らしていたようです。
 
でも、たったの30万人ですよ?
魚や野生動物や野鳥はウジャウジャいたと思いませんか?
数も多いが個体もでかい。1m以上のタイや巨大イノシシの骨もたくさん出ています。
栗の木の植樹もおこなっていましたし、栽培植物の遺存体もいろいろ出土しています。
村落の周りには里山があり、そこは自然林ではなく人工林と言うべきものでした。
縄文人は、周囲の自然を造り変えていたのです。
そういう事実を、近年の花粉化石研究が次々に明らかにしています。
美味しい食材の獲得には、事欠かなかったはずです。
作者のイメージでは、農耕社会となって飢饉が訪れ、そして昆虫食に走る・・・
もちろん美味しい昆虫なら、縄文人も食べていたと思います。
その一例が、もう少し先のお話で登場することになるはずです。
 
 
 
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登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている

      

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)                 塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま ウルシ村の広場から見える美しい山並み  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本