蚊遣り葉の木? 第34話 6日目①
朝の広場。
ヤッホ 「アニキー、遅いよー、みんな待ってるんだ。」
シロクンヌ 「すまんすまん。寝坊した!」
ハギ 「ハニサ、なにやってんだよ!」
ハニサ 「ごめんなさい!寝坊しちゃった!」
ムマヂカリ 「ま、そうゆうことも、あるな。」 ニヤニヤしている。
シロクンヌ 「テイトンポは?」
アコ 「今、あっちから来たよ。」
テイトンポ 「すまんな。待たせたか?寝坊した。」
ハニサ 「テイトンポ、おはよう!母さんは?」
テイトンポ 「まだ寝ておるようだったから、そのままにしておいたが・・・」
アコ 「オニのように激しい師弟かも知れないね・・・」
テイトンポ 「美しい山々だ・・・あれは、何と言う山なんだ?」
ヤッホ 「御山って言うんだ。あれを全部ひっくるめて御山。」
ハギ 「神の棲む、ありがたい山だって言われてるよ。
下の飛び石の川は、御山から流れて来てるんだ。」
テイトンポ 「うむ、確かに神も棲んでおろうな。あの峰が一番高いようだな。」
ヤッホ 「コタチ山。御山で一番高い峰はコタチ山だってことになってる。」
テイトンポ 「コタチ山? 高いのにコタチ山か(笑)。」
ハニサ 「アハハ、やっぱり師弟だ。シロクンヌと同じこと言ってる。」
ムマヂカリ 「ここやシカ村ではコタチ山と呼ぶのだが、
スワでは別の名で呼ぶと聞いたことがあるぞ。」
アコ 「あたしもそれ聞いたことある。クニタカ山だっけ?」
ムマヂカリ 「いや、確か3音だ。クニタ山か? 誰か知らないか?」
テイトンポ 「・・・誰も知らんようだな。何か謂れ(いわれ)でもあるのかも知れんな。」
しかしこの松茸グリッコってやつ、うまいな!
シカダマシは何で食わん?」
ムマヂカリ 「お、おれはいい。」
テイトンポ 「そうだ、昨日の鹿だがな、内臓はどうなってる?」
ヤッホ 「言われた通り、腸は洗ったよ。他も取り分けて崖の室に入れた。」
テイトンポ 「昼に、作業場で食わんか?」
シロクンヌ 「いいな! しかしテイトンポは丸くなったなあ。」
テイトンポ 「おまえと過ごしたあの頃が、おれの一番オニだった時分だな(笑)。」
シロクンヌ 「思い出したくもない(笑)。 アコ、タレって作業場でも活きてるのか?」
アコ 「活きてるよ。持って行こうか?」
ヤッホ 「頼む! やっぱアコが来てよかったわ。」
ハニサ 「あたしもお昼に顔出していい?」
シロクンヌ 「来ればいい、待ってるよ。
そうだハニサ、作業小屋に臼があったが、あれで粘土を搗(つ)くんだろう?
だいぶ痛んでたようだけど、新しい臼、いらないか?」
ハニサ 「欲しい! 割れかけてるもん。作ってくれるの?」
シロクンヌ 「アコにも頼まれてるから・・・おいみんな、臼を二つ作るぞ。」
ムマヂカリ 「焼き臼か? 河原の石を持っていくか。」
シロクンヌ 「ああ焼き臼でいい。磨けばコゲは取れるから。
石は、一人、三つ以上持てよ。」
ハギ 「石バサミは持っていくか向こうで作るか?」
シロクンヌ 「向こうで作って、なんならそのまま焚いてこよう。
そうだ! ついでにアレも作ってしまうか。」
ムマヂカリ 「アレとは?」
シロクンヌ 「ほら、おれが来た夜、大ムロヤで話していただろう?
ドングリの水晒し場だよ。」
ムマヂカリ 「ああ・・・どうやるんだ?」
シロクンヌ 「丸木舟の短いやつだ。丸太を半分に割くだろう。それを窪ませる。
それを大屋根の下の段の、湧き水の流れに埋け込むんだよ。」
アコ 「そうか! 一度にたくさんの木の実が、アク抜きできるんだ!
今まではザルに入れて流れに晒してたけど、流れる水が少ないから、
ザルの上の方は浸からなかったんだよ。」
ムマヂカリ 「なるほど! だから水に強い槙の木(コウヤマキ)だったんだな!」
ハギ 「なら、鹿の角と手斧(ちょうな)も幾つか持って行くか。」
シロクンヌ 「ダケカンバの皮も少し出してくれ。作業小屋にあったろう?」
ハギ 「分かった。雨上がりだからな。ダケカンバで一気に火をおこそう。
乾いた薪も少し持っていくよ。」
テイトンポ 「蚊も多いんじゃないのか?」
シロクンヌ 「ああ多い。今日は特に多いだろうな。
途中に蚊遣り葉の木が生えているから、葉をむしって行こう。
火がおきたら、まず蚊遣り葉で、辺り一面いぶしてしまおう。」
森の入口の作業場。
シロクンヌ 「今日は大きく火を焚くし、桜の若樹を一本切るから祈りを行う。
テイトンポ、年長であるし、お願いしたい。」
テイトンポ 「よし。みんな、ここに横一列に並んでくれ。
そこで、ひざまずけ。コウベをたれよ。
もーりーのーきーぎーのーみーたーまーにーもーうーしーきーかーせー・・・」
シロクンヌ 「よし、石が焼けた様だから、晒し場作りは後にして臼に取り掛かろうか。」
ヤッホ 「アニキとテイトンポの鹿の角使いには驚いたよ。
大して振り上げてないのに、一撃が重いってどうしてだ?」
ムマヂカリ 「見る見るうちに、木が削れていくだろう?
何だか手の動きがおれ達とは違っていたな。」
ハギ 「背中が波打ってる様に見えたから、そこに秘密がありそうだった。」
テイトンポ 「一つは肩甲骨だ。それから浴びせだな。体重を乗せる。」
ハギ 「わわ!テイトンポが作ったこの石挟み、これは使いやすいぞ!」
ムマヂカリ 「石は、挟むんじゃなくて、抱えるカンジなんだな。」
ヤッホ 「アニキはこういうの、知ってたのかい?」
シロクンヌ 「それが、今、初めて見たんだよ・・・」
テイトンポ 「ははは、シロクンヌよ。確かにおまえは成長した。
だがな、おれだって、あれから成長しておるぞ(笑)。」
アコ 「テイトンポ! あたしを、弟子にしてくれ!」
ひざまずいている。
突然の出来事に、みんなはあっけに取られている。
ヤッホ 「な、なんだよいきなり、びっくりするじゃないか。」
アコ 「何でもする! あたしを、弟子にしてくれ!」
固唾(かたず)を飲んで、みんなが見守っている。
テイトンポ 「アコとやら、おまえ、本気で言っておるのか?」
アコ 「もちろんだよ!こう見えて、痛みとかには、強い方なんだ。」
テイトンポ 「何でもすると、言いおったな。 本気だとも言いおった。 間違いないか?」
アコ 「間違いないよ。」
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