縄文GoGo

5000年前の中部高地の物語

魂堺の鹿              第31話 5日目⑦

 

 

 

          大ムロヤ。歓迎の宴。

 

    「目出たい目出たい♪目出たい目出たい♪」  

    クマジイとハギが目出たい踊りを踊っている。
 
ハニサ  「ねえテイトンポ、15歳のシロクンヌって、どんなだったの?」
テイトンポ  「泣きベソでな、泣くと必ず、ハナをたらしておったな。」
ハニサ  「やだー!きたないー!」
ヤシム  「人の事、言えないじゃない!」
シロクン  「ウソだぞ、おれは泣いてなんか、いなかったぞ!」
テイトンポ  「ははは、それは嘘だが、チビッたことは、あったな。」
シロクンヌ  「・・・・・」
ハニサヤシム  「やだー!きたないー!」
ササヒコ  「クズハ、テイトンポのサカヅキが空いておるぞ。
       しかしそういう事なら、この先テイトンポはクズハと暮らす、でいいな?」
 
    テイトンポとクズハは、真っ赤な顔でうなずいた。
 
ササヒコ  「みんな聞いてくれ!目出たい知らせだ!
       村の住人が一人増えたぞ。
       テイトンポだ。
       テイトンポは、あのシロクンヌの師匠だと言う。頼もしい限りではないか!
       テイトンポとクズハは赤い縄で結ばれておったようだ。
       二人はクズハのムロヤで、一緒に暮らすことになった。
       目出たい夜だ。みんな、二人を祝ってやってくれ!」
 
    大歓声があがり、目出たい踊りの輪ができた。
 
アコ  「さすがムマヂカリだね。あの鹿、どこで仕留めたんだい?
     遠くから担いで来たのかい?」
ムマヂカリ  「それなんだよ。
        あの鹿は、おれじゃないぞ。おれは鹿笛を吹いただけだ。
        それも、ここから随分離れた、遠い所で吹いたんだぞ。」
ササヒコ  「テイトンポが、狩ったのか? そしてたった二人でここまで担いで来たのか?」
ヤッホ  「待てよ!さっき鹿をさばいたんだが・・・血抜きの傷しか無かったぞ!
      見事な鹿皮が取れたんだよ。」
スサラ  「たった二人で、生け捕りにしたの?」
ムマヂカリ  「スサラ、だからおれじゃないんだ。二人じゃなく、一人でだ。」
クズハ  「あなたが、やったの?」 テイトンポを見て言った。
ムマヂカリ  「シロクンヌ。おぬしなら、どうやったかわかるのか?」
シロクン  「わかる!おれはそれに失敗して、何度かチビッている!」
 
    (やっぱりチビッたんだね。それも何度かって言ったよ) 
    ハニサとヤシムがヒソヒソ話をしている。
 
ハギ  「どうやったんだ?」
ムマヂカリ  「シロクンヌの他に、どうやったか分かる者は、いるか?」
一同  「・・・・・・」
クマジイ  「じ、じらしおるのう。」
タマ  「早く教えとくれよ!」
ムマヂカリ  「とにかくおれは、びっくりしたんだ。
        二人でこっちに向かって歩いていた。
        すると突然、近くの山に連れていかれて、この茂みにひそんで笛を吹けと言われた。
        そしてテイトンポは、少し離れた樹に登り始めたんだ。
        で、一番下の、太い枝に身をひそめた。
        おれが笛を吹いたら、やがてあの鹿が現れた。
        鹿が樹に近付いたと思ったら、いきなりテイトンポが鹿に飛びついたんだよ。
        鹿も逃げたが、今思えば、逃げ先に飛び込んだって事なんだと思う。」
シロクン  「雄鹿に上から行くのは、ものすごく怖いんだぞ。」
ムマヂカリ  「わかるよ。
        それで、左手で角をつかんだと思ったら、右手を鹿の頭の後ろに打ちつけたんだ。
        いつの間にか石を持ってたな。」
ハギ  「鹿は、死んだのか?」
ムマヂカリ  「ところが死んではいないんだ。
        ピクピクしておって、だが生きている。
        その鹿の前足を肩にかついだかと思ったら、テイトンポは普通に歩きだしたんだ。
        わかるか?鹿はテイトンポの背中に腹をくっつけて、後ろ足で立っている。
        前足を、テイトンポがかついでいる。」
ハギ  「テイトンポの後ろから、鹿がのしかかっている様な格好だな。」
ムマヂカリ  「うん。それでテイトンポが前に向かって歩くと、鹿も後ろ足で歩くんだよ。
        暴れもせずに、おとなしく歩いてついてくるんだ。
        後で聞いたら、魂堺(たまざかい、仮死状態の意)の鹿は、そうなるものらしい。
        あの鹿は、そうやってテイトンポにかつがれて、
        この下の川の飛び石の向こうまで、自分の後足で歩いて来たんだぞ。
        そこでおれが締めたんだ。」
 
    場がいっとき、沈黙した。
 
クズハ  「すごい! あなた!」
 
    クズハがテイトンポを抱き寄せた。
    テイトンポは真っ赤になって、成すがままだ。
 
シロクン  「テイトンポ、いい匂いがするだろう(笑)。
        チビッたことをバラされたからな。
        お返しさせてもらえば、テイトンポは女にはカラッキシなんだ。
        どの村でもいろり屋には女がいるだろう?
        グリッコのおかわりも出来なかったんだぜ。
        女の前じゃあ緊張するんだろうな。
        だからいつも、代わりにおれが貰いに行ってたんだ。」
クズハ  「あなた・・・本当なの?」
 
    テイトンポは、真っ赤になったまま小さくうなずいた。
 
クズハ  「すてきっ!」 抱きついた。
 
    テイトンポは、激しく硬直した。
    クズハには珍しく、人前で大胆な振る舞いであった。
 
 
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登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ   ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている

      

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)                 塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村