シロクンヌと女達 第21話 4日目②
河原。続き
みんな、タホの名を呼んでいる。
シロクンヌはタホにまたがって、胸を押している。
相変わらず、全裸だ。
シロクンヌの服は、タホの体を包んでいる。
やがてタホが水を吐いて、意識を取り戻した。
今度こそ、全員が歓声を上げた。
ヤシム 「ありがとう!」 シロクンヌに抱きついた。
アコ 「カッコよかったよ!」 アコも抱きついた。
ハニサ 「あ! あたしのシロクンヌに!」
クズハ 「ハニサ、これをシロクンヌに羽織っておあげ。」
タマ 「ハニサ、さっさとしないと、シロクンヌが取られちまうよ(笑)。」
シロクンヌ 「ハニサ、速くそれを寄こせ。」
タマ 「見納めだ。みんなしっかり拝んでおきな(笑)。」
ハニサ 「あたしのシロクンヌから、離れて!」
アコ 「ケチくさいな!シロクンヌ、うちに宿に来い。」
一同、村に向かって歩いている。
シロクンヌも服を着て、タホはヤシムに抱かれている。
ハニサ 「あの崖を渡ったの?」
アコ 「カッコよかったんだぞ!」 シロクンヌに腕をからめた。
ハニサ 「アコ、もっと離れて!」
アコ 「いーじゃないか!今だけこうさせろよ。」
ヤシム 「じゃあ、私も!」 腕をからめた。
タマ 「アッハッハッハ。両手に花だね。」
ハニサ 「シロクンヌ!何とか言ってよ!
大体なんで、全裸になんか、なったのよ。下だけは、はいてて欲しかった。」
シロクンヌ 「いやハニサ、全裸の方が泳ぎやすいんだよ。
それにこういう時は、濡れてない布は貴重だろ?
実際、取りあえずおれの服で、タホの体を拭いたんだから。」
ハニサ 「そっか・・・」
でももう遅い(笑)。
ヤシム、しっかり見たよね?」
ヤシム 「うん!」
ハニサ 「もう! 母さんも?」
クズハ 「そりゃあ、まあ、ね・・・」 赤くなっている。
タマ 「アッハッハ。 あたしゃ、惚れ惚れしちまったよ。」
ハニサ 「えー! 母さんも?」
クズハ 「そりゃあ、まあ、ね・・・」 さらに赤くなった。
ハニサ 「イヤだーーー!」
ヤシム 「シロクンヌの作業場は、あの向こうでしょう?」
シロクンヌ 「ああ、そうなるな。」
アコ 「村の連中なら、あそこには、こっちからこう、ぐるっと周って行くよね。」
ヤシム 「うん、平坦だし。そもそもこんなとこは通れないよ。」
クズハ 「シロクンヌは、あの丸太を持ったまま、ここを越えたの?」
アコ 「石斧も、持ってた。
丸太の横ベタに、ガツンと石斧を打ち込んだ時には、何事かと思ったよ。」
ヤシム 「錘(おもり)だったんでしょう?」
シロクンヌ 「そうだ。子供に見立てたんだ。
子供と同じくらいの大きさと重さになろうかと思ってな。」
ヤシム 「それをタホが落ちたのと同じ場所から流したんだよね。
タホの居場所に流れつかないかと、考えたんでしょう?」
シロクンヌ 「確実とは言えんが、おれとしてはやるべきことの一つ目が、それだった。
時間もくわんしな。」
タマ 「そういうことだったのかい。
でもそんなこと、よく思いつくもんだねえ。感心するよ。」
クズハ 「咄嗟にひらめくの?」
シロクンヌ 「たまたまその二つを手に持っている時に、ハニサが駆け込んで来たんだ。
なあ?ハニサ。」
ハニサ 「・・・そうだったかな・・・」
アコ 「んで、飛び石まで一直線に走ったんだね。」
シロクンヌ 「いや、そこは正確に言うが、一直線ではない。
さっきおれが目指したのは、最少歩数だ。」
ヤシム 「少ない歩数でたどり着くって意味?」
シロクンヌ 「そうだ。」
ヤシム 「そんなこと、できるの?」
シロクンヌ 「完全には出来はしない。
だから、気持ちとして、そう心掛けただけだな。
しかし一直線とは、大きく意味が異なる。」
ヤシム 「なんか、すごいんだね。
シロクンヌがいなければ、タホはおそらく死んでたと思う。
私、シロクンヌにどんなお礼でもするよ。」
ヤシムがシロクンヌに寄りかかり、耳元で何かをささやいている。
ハニサ 「ヤシム、やめてよ。 腕を組むだけにして!
それにヤシムには、ヤッホがいるじゃない。」
ヤシム 「知ってるでしょ! ヤッホとは、この子の時だけだよ。
トツギ(結婚)じゃないんだから、私は自由だよ。
それにハニサ、宿と言ったって、それは夜の話だからね。
今の私達は対等だし、
私はシロクンヌに、私に宿してくれとまでは言ってないからね。
子供っぽいことを言って、シロクンヌを縛り付けてると、
そのうち嫌われちゃうよ。」
シロクンヌ 「ヤシム、おれは縛り付けられてはおらんぞ。」
ヤシム 「わかってる・・・言葉のアヤだよ。
シロクンヌを縛り付けることなんて、誰にもできないよ。
それでね・・・」
また耳元でささやき始めた。
ハニサはうつむいて、とぼとぼ歩いているだけだ。
タマ 「ハニサ、しっかりおし。」 ハニサのお尻を、ポンとたたいた。
村の入り口
タマ 「さあ炊事しなきゃね。今夜は鴨鍋だよ。今夜はシロクンヌの話で持ち切りになるね。」
アコ 「この話をみんなに広めなきゃ。シロクンヌ、またね。」
クズハ 「シロクンヌ、風邪ひかないようにね。」
ヤシム 「じゃあ、今度、お礼させてね!」
シロクンヌと二人きりになると、ハニサの目から、ポロポロと涙があふれ出た。
無言のまま、二人はハニサのムロヤに向かって歩いた。
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