縄文GoGo

5000年前の中部高地の物語

急流にのまれたタホ 第20話 4日目①

 

 

 

          森の入口の作業場。

 
    シロクンヌは黙々と石斧を振るっている。
    板も何枚か取れ、脚も何本か出来ている。
    そこへハニサが血相を変えて走って来た。
 
ハニサ  「シロクンヌー!大変なのー!」
シロクン  「何があった?」
ハニサ  「ヤッホの子が、飛び石から落ちたの!
      そのまま川に流されて、見つからなくなった!」
 
    シロクンヌは、そばにあった小さな丸太を小脇に抱えた。
    そして石斧を持ったまま、物も言わず走り出した。
    ハニサはあわてて後を追った。
    しかしシロクンヌの走りは尋常ではない。 
    見る見る背中が遠ざかって行く。
    あ!っとハニサは思った。そして、声の限りに叫んだ。
 
    「シロクンヌ! そっちじゃない!右に曲がって!」
 
    しかしシロクンヌは、真っ直ぐにクマザサの茂みに飛び込み、
    その先の笹竹のヤブに、肩から突っ込んだ。
    笹の葉が、弾ける様に大きくうねる。
    そのままヤブを突っ切って、山の斜面を駆け上がって行く。
 
    「飛び石は右だよ!シロクンヌ!聞こえるでしょう!」
 
    石斧を持ち丸太を脇に抱えたまま、野狐のように木々をかわしながら駆け登るシロクンヌ。
    あっという間にシロクンヌの姿は山の中に消えてしまった。
 
    (どうしちゃったの?シロクンヌ・・・) 
    ハニサは息を切らし、そして泣きそうになった。
 
 
          川の飛び石の近く。
 
    「見つかったか?」 上流の崖の上で声がした。
    振り向いたアコは目を見張った。
    何者かが崖を斜めに下って、真っ直ぐこちらに向かってくる。
    突き出た岩に足を乗せ、そこから落ちるようにして下の岩に飛び移っている。
    いや、落ち移っていると言うべきか。 
    おまけに何かを抱え持っていて、到底ヒトの成せる業とは思えない。
    恐怖を覚えかけたが、ようやくそれがシロクンヌだと気がついた。
 
アコ  「まだ見つかってない!シロクンヌ、助けて!」
シロクン  「子が落ちた飛び石は、どれか知ってるか?」
アコ  「私、その時、居なかった。」
シロクン  「知ってる者を連れて来い!」
アコ  「ヤシムー、ここに来てー、シロクンヌが呼んでるー!」
 
    若い女が走って来る。
    シロクンヌは丸太を投げ出すと、いきなり側面に石斧を打ちこんだ。 
    石斧は丸太に突き刺さり、抜けることはない。
 
ヤシム(24歳・女)  「シロクンヌ!タホ(4歳・男)を助けて!お願い!」
シロクン  「タホは、どの石から、落ちた?」
ヤシム  「あれ!」
シロクン  「これだな。どっちに、落ちた?」
ヤシム  「こっち!」
 
    シロクンヌは、そこに丸太を落とした。
    丸太は、時に沈みながらも、急流を流れていく。
    クズハやタマもやって来て、成り行きを見守っている。
    シロクンヌは真剣な顔つきで、丸太のゆくえを追っている。
    そして服を脱ぎ始めた。
    しばらく流れると、丸太は一つの淵に入り込んだ。
    シロクンヌは靴を脱ぎ、すべての服を脱ぎ捨てて、ザブザブと川に入って行く。
    淵に着くと、潜った。
 
    女達は息をのんで、見守っている。
    そこへ息を切らしながら、やっとハニサが合流した。
 
ハニサ  「シロクンヌは、どっかに行っちゃった!」
タマ  「あそこにいるよ!」
ハニサ  「えっ!うそだ!」
タマ  「そこに、服があるだろう。」
 
    「フー!」ようやくシロクンヌが顔を出した。
 
シロクン  「ハニサ、おれの服をそこに広げろ!」 手には子供を抱いている。
ヤシム  「タホー!」
アコ  「やった!」  歓声があがる。
シロクン  「まだわからんぞ。意識が無い。いそいで魂(たま)を、こっちに呼び戻す。」
 
    ハニサは何が何だか、わからなくなった。
    何故ここにシロクンヌがいて、しかも全裸なのか?
 
 
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登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ   ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  クマジイ 63歳 長老だが・・・   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている

      

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)                 塩渡り=海辺の村が作った塩を、山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  トコヨクニ=日本