シロクンヌの出自 第19話 3日目⑥
ハニサのムロヤ。続き。
ハニサ 「だって、最近、聞き集めた話にしては、詳しすぎるし、生々しかったもの。
それにあたし、何となく思ってた。
シロクンヌは特別なイエの生まれなんだろうなって。
そうなんだしょう?」
シロクンヌ 「そうだ。 火の山の事を調べたのはおれの祖先だ。
生き残った者の話を聞いて回ったり、舟に食料を山ほど積み込んで、
水を入れたヒョウタンをいくつも舟で引っ張って、
南の島にも乗り込んだらしい。
そしてその時の様子は、おれのイエに伝わっている。」
ハニサ 「すごい!イエというのは、トコヨクニにいくつも無いって聞いたよ。」
シロクンヌ 「八つだな。
しかしおれも、他のイエのことはよく知らんのだ。
それから、火の山の話とイエのことは、だれにも言わないでくれよ。」
ハニサ 「わかった。絶対言わない!でもあたしには教えてくれたんだね。嬉しい!」
シロクンヌ 「ハニサはおれの子を産むだろ? その子にはハニサから伝えてやってくれ。」
ハニサ 「うん!あたし、シロクンヌの子が産めるんだ。
でも、シロクンヌの後継ぎは?」
シロクンヌ 「話してなかったな・・・
おれはこれまで何度か、乞(こ)われて宿をとって来た。
そこで宿しはしたが、すぐに旅立つから、その後の事は承知しておらん。
それとは別に、ヲウミのイエに3人の息子がいる。
3人とも、おれが18の時に成した子だ。 もちろん母親は違う。
10歳になるとタビンドの訓練が始まって、18で3人の子を成し、
そしてすぐに旅に出る。
それがおれのイエの掟なんだよ。」
ハニサ 「イエには、帰らないの?」
シロクンヌ 「子が、10歳になるまでは、帰ってはいけないことになっている。
だからおれは、まだ子も見ていないし、子の母親の顔さえうろ覚えだな(笑)。
だがおれのイエは、ヲウミの他に出先があって、
そこに立ち寄れば情報は得られる。」
ハニサ 「なんか、すごいんだね。
あたし達とは違う世界の人なんだ・・・
タビンドが全員、シロクンヌみたいな人なんじゃないでしょう?」
シロクンヌ 「タビンドには、望めば誰もがなれるからな。
それに、掟が厳しいだけで、あとはみんなとおんなじだよ。
だがハニサにこの話をしてしまったから、掟をやぶってしまったがな。」
ハニサ 「そうなの?」
シロクンヌ 「そうだ。宿をとっても、決して話はしなかった。
ハニサとハニサの子だけには、教えておきたいと思ったんだ。」
ハニサ 「ありがとう! でも・・・
やっぱりシロクンヌって、いろんな女の人を知ってるんだね。」
シロクンヌ 「いやになったか?」
ハニサ 「そうじゃないけど・・・
魅力的な人、いっぱいいたのかな?って。
・・・あたし、つまんなくない?」
シロクンヌ 「ハニサ、ちょっとここに頭を出して・・・」 削っていた木をあてた。
ハニサ 「それ、なあに?」
シロクンヌ 「髪飾りだ。ハニサの。
早く作って、ヌリホツマに渡さないと、間に合わないからな。
実は今朝、ヌリホツマに頼んだんだよ、これの漆掛けを。
その時言われたよ。惚れおったな!って。
そうかも知れん、と答えておいた。
こんな物を女のために作るのは、これが初めてだから、
確かに惚れたんだろうな。」
ハニサ 「・・・」 強く、背中にしがみついた。
━━ 幕間 ━━
鬼界カルデラの大噴火について。
でも、カルデラで噴火が起きるのです。
実は大噴火は、同じ場所で繰り返し発生するので、今あるカルデラは、将来また噴火する可能性が高いのです。
では、過去一万年の間に地球上で起きた火山噴火の中で、最大のものは何かと言えば、
7300年前の鬼界カルデラの大噴火です。 アカホヤ大噴火とも呼ばれます。
これで、九州の縄文社会は壊滅しました。
この時に積もった火山灰地層はアカホヤと呼ばれ、東北地方南部や朝鮮半島南部にまで及んでいます。
さて、被災した縄文人はどうしたのでしょうか?
作者の率直な感想を述べれば、その点について深く探求した書物や文章がなかなか見つからないのです。
縄文通史を解説した書物でも、噴火後の様子についてはほとんどスルーしています。
もしかすると、考古学界のタブーなのではないのか?とさえ感じられるほどです。
作者の認識では、アカホヤ大噴火は縄文時代最大の事件であり、その後の世界に大影響を及ぼしているはずです。
それは日本列島内においてはもちろんですが、大陸にも及んでいるのではないのか?
思い出して欲しいのは、縄文人は海洋民の一面があったという点です。
舟で逃げ出した家族が何組もいたとは思いませんか?
その中には、大陸に到達した者もいたでしょう。それはおそらく、村が形成できるほどに。
そして遺伝子学方面では、韓国人の中にわずかですが縄文人の母系遺伝子が見られ、
極々わずかですが、縄文人の父系遺伝子が発見されています。
これは、女は子を産まされ、男は殺されたとも捉えられます。
しかし考古学者は大陸からの影響は語りたがりますが、大陸への影響は語ろうとしません。
いや、そもそも見ようとしていない。
そうせざるを得ない事情が、何かあるのかも知れませんね。
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