ムロヤの中は流木アート 第13話 2日目⑤
ハニサのムロヤ。
ハニサ 「やったー!二人っきりだ。ねえ、お祝いしていい?」
シロクンヌ 「いいが、どうやるんだ?」
ハニサ 「あたしがやるから、シロクンヌは、そこでくつろいでくれてていいよ。
(台に明り壺を置き、灯を入れた。)
これは、こうやるんだよ。(今朝見せた物を台にかぶせた)
ね?きれいでしょ。」
シロクンヌ 「そうか!うん、綺麗だ!」
ハニサ 「この木には、こうやって・・・これに灯をともせば・・・出来上がり。」
ムロヤの中に、朧(おほろ)で、不思議な灯りがともった。
光と影で、妖しい雰囲気がムロヤに漂った。
ハニサはシロクンヌに寄り添って座った。
シロクンヌ 「こんなムロヤは、初めてだ。
・・・別の世界に迷い込んだような気になるな。」
室内を見回し、朧(おぼろ)にうかぶハニサの横顔に、シロクンヌは息をのんだ。
神々しいほどに、美しい。この美しさは、ヒトを超えてはいないか?
ハニサ 「あたしの宿、気に入ってくれた?」
シロクンヌ 「驚いているよ。昼の時とは感じが違うな。寝転んでいいか?」
ハニサ 「アハハ。その毛皮、お気に入りだね。」
シロクンヌ 「天井も綺麗だ。ムロヤの中に星が出てるぞ(笑)。」
ハニサ 「シロクンヌと眺めようと思って、昨日作ったんだ。
シロクンヌはこれからもタビンドを続けるんでしょう?」
シロクンヌ 「そうだ。」
ハニサ 「今度はどこに行くの?」
シロクンヌ 「フジの山の向こうだ。こっちで黒切り(黒曜石)を掘って、持っていく。」
ハニサ 「そう。ねえ、さっき子供達には海のお話を聞かせてたの?」
シロクンヌ 「そうだ。セトの海の話だ。」
ハニサ 「あたしも聞きたい!海って匂いがするんでしょう?」
シロクンヌ 「する。潮の匂いだ。嗅いだことはないのか?」
ハニサ 「無いよ。だって、海を見たことが無いもの。
どんな匂いなの?」
シロクンヌ 「何と説明すればいいかな・・・
そうだ。塩の渡りで、乾燥ワカメが付いて来ることはないか?」
ハニサ 「ある!あれってちょっと匂いするね。あの匂い?」
シロクンヌ 「あれは磯の匂いと言った方がいいんだろうが、
海の匂いであることには違いない。」
ハニサ 「ああいう匂いなのね。
セトの海ってどんなところ?」
シロクンヌ 「波の少ない穏やかな海なんだが、流れがあるんだ。」
ハニサ 「海の水が、川の様に流れているの?」
シロクンヌ 「流れは見えないぞ。
でも浮かんでいると、流される。
流れの向きも、時間によって変わるんだ。
不思議な海だぞ。
セトの海人(ウミンド)は、流れに詳しいんだ。
流れを利用して移動する。
流れに乗れば、陸の移動よりうんと速い。舟には荷物も載せられるしな。」
ハニサ 「舟って、ヒトなら何人乗れるの?」
シロクンヌ 「大きい物なら、五人は余裕だな。」
ハニサ 「筏(いかだ)とは違うんでしょう?」
シロクンヌ 「違う。丸太をくり抜いて、進みやすくするんだ。漕げばスイスイ進む。」
ハニサ 「海には大きな魚がいるんでしょう?
舟の上から釣ったりもするの?」
シロクンヌ 「鯛を釣ったぞ。こんなに大きいやつだ。
他にも銛(もり)で突く大きい魚もいるな。」
ハニサ 「銛ってヤスにかえしがついてるんでしょう?」
シロクンヌ 「そうだ。川魚はヤスで突くが、銛は投げるんだよ。シカの角で作る。
あと、ハニサはタコって知らないだろう?」
ハニサ 「知らない。魚なの?」
シロクンヌ 「魚ではない。頭の下に足が8本あって、こうんな口をしてる。」
ハニサ 「あはははは。」
シロクンヌ 「器を沈めておいて引き上げるだろう。すると中に入ってるんだ。
棲み家にするんだな。足に吸盤ってのが付いててな・・・」
光と影が織りなす妖しい雰囲気漂うムロヤの中で、タコの話で盛り上がる二人であった。
━━━ 幕間 ━━━
世界的に見て、それだけユニークな文化が日本で興っていたのですね。
とにかくこの人達は海を渡り散らかしています。
先述の静岡県の井出丸山遺跡、3万8000年前の地層から多数の黒曜石が発掘されています。
火山ガラスとも呼ばれる黒曜石は、割れば鋭利なナイフになるのですから、打製石器の花形です。
出土した黒曜石を蛍光エックス線分析すれば、その産出地を特定できるのですが、問題はその産出地。
40キロメートルの海を越えなければ辿り着けません。
(海面が下がった時には、中間に島が現れたとも言われています。)
彼らはこの島に、何度となく黒曜石の採取に行っているのです。
つまり漂流の可能性は全く無く、意志を持って目的地に渡ったとハッキリ分かる航海なのです。
島間で物の移動があった証拠は、世界の他地域では、2万年前までしか遡(さかのぼ)れないそうです。
八丈島の5000年前の遺跡には、本土との緊密とも取れる交流の痕跡があるようです。
5000年前と言えば、丁度この物語の舞台の頃ですね。
ちなみに黒潮ですが、その付近では時速7キロメートル以上の速度で流れ、幅は70キロメートル以上あるようです。
縄文人が丸木舟を使ってそれを横断していた可能性が高いのです。
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