縄文GoGo

5000年前の中部高地の物語

グリッコ100 第12話 2日目④

 

 

    シロクンヌとハニサは並んで、夕食の広場に向かっている。


子供  「遅い遅い~!シロクンヌ、早く~!」
 
    子供達に引っ張られ、シロクンヌは広場の真ん中に連れて行かれ、子供達に囲まれた。
 
ハニサ  「こうなると思ってた。あたし、炊事の手伝いしてくるね。」
 
 
子供  「シロクンヌ、お話してくれるって約束だったでしょう?」
シロクン  「約束したか?まあいいか、何の話が聞きたい?」
子供達  「海のはなし」 「遠くの村のはなし」 
     「こわいはなし」 「工ッチなはなしー」
シロクン  「工ッチな話は、クマジイに頼め。じゃあ、海の話だ。」
子供達  「シロクンヌは海を見たことあるの?」「海ってどっちにあるの?」
     「海のこわいはなしがいい」
シロクン  「一度に、しゃべるな!一人ずつだ。」
子供  「工ッチな海のはなしー」
シロクン  「そんな海など、知らん!おまえ、父さんは誰だ?」
子供  「やっほー」
 
    いろり屋では女衆が大忙しだ。
    そこへ待ちきれぬ男衆がちょっかいをかけに来るから、ややこしいことになる。
 
クマジイ  「アコや、そこの栗実酒をちびっとこれへ」 椀を差し出す。
アコ  「料理に使うんだから、だめだよ。」
クマジイ  「ホムラが寂しがっておる。
       気付けにグイッといかせようかと思うてな。」
アコ  「自分が、グイッとやるんだろ。」
ハギ  「ハニサ、おれとシロクンヌが、魚突き勝負したら、どっちが勝つと思う?」
ハニサ  「魚突きなら兄さん・・・じゃなくて、シロクンヌ!」
タマ  「あたしゃハギにグリッコ10こ。」
ハニサ  「あたしはシロクンヌにグリッコ15。」
ヤッホ  「おれはハギを応援だ。ハギ、おれのカタキ打ち、頼んだぞ!」
ハニサ  「なによカタキって!あたしはシロクンヌにグリッコ30。」
 
子供  「丸太を削って舟にするの?」
シロクン  「そうだ。手斧(ちょうな)と言ってな、
        台に乗って丸太を跨(また)いで振り下ろす。
        鹿の角で削ったりもする。」
子供  「シロクンヌも、削ったの?」
シロクン  「もちろんだ。伐りたての木は軟らかいんだ。乾燥すると硬くなる。
        軟らかいうちに、出来るだけ削ってしまうのが良い。」
子供  「その舟で、海を渡ったの?」
シロクン  「舟は、浮く道具だ。漕ぐ(こぐ)道具がいるだろう?
        櫂(かい)と言ってな、それも木を削って作る。
        自分の舟と自分の櫂があれば、
        セトの海は島だらけだ。好きな島にいけるぞ。
        だが最初は簡単にはいかない。波打ち際で、漕ぎ方の練習をしないとな。」
子供  「練習しないとどうなるの?」
シロクンヌ  「ひっくり返って、海に落ちる。
        深場で落ちると、舟に上がるのに苦労するんだ。」
子供  「シロクンヌも、落ちた?」
シロクンヌ  「ああ、何度か落ちたよ。」
子供  「いいな~ ぼくも、海に落ちたい~」
シロクン  「そこか!」
 
アコ  「魚突きなら、ハギに決まってるよ。」
ヤッホ  「そらみろ。アコだって言ってるじゃないか。」
クマジイ  「シカ村にも、ハギの右に出る者はおらんのじゃろ?」 グイッとやった。
アコ  「クマジイ!また栗実酒を、掠(かす)め取ったね!」
タマ  「アマゴ村になら、居そうだね。」
ヤッホ  「クマジイ、その早業(はやわざ)、おれに教えてくれ!」
ハギ  「いない、いない。だってあそこは網で捕ってるよ。」
クマジイ  「人聞きの悪いことをぬかすな!天の施(ほどこ)しじゃぞ!」
タマ  「網の方が、一度にたくさんとれていいだろに、なんでハギは網を打たないんだい?」
アコ  「まったく、こんな時だけ、すばしっこいんだから!」
ハギ  「ここの流れじゃ無理だよ。もっと下流に行かないと。」
ハニサ  「えっと・・・・・あたしはシロクンヌに、グリッコ100!」
 
 
       ━━━ 幕間 ━━━
 
日本列島にホモ・サピエンスが到達したのは、4万年ほど前ではないかと言われています。
それ以前に他人類が来ていたのかも知れませんが、絶滅して血は途絶えたとされています。
ホモ・サピエンスによる日本での最古の遺跡は、3万8000年前のものだそうです。
静岡県の井出丸山遺跡、長野県の貫ノ木遺跡、熊本県の石の本遺跡群内。
本州と九州ですね。
 
琉球列島を見ると、沖縄島や種子島で3万6500~3万5000年前の遺跡が見つかっています。
かたや北海道はと言えば、3万年前のものが数ヶ所で見つかっています。
 
さて日本列島は3万8000年前には、どんな地形だったのでしょうか?
現在よりも、海面が80メートル低かったとされています。
北海道はサハリンを介してシベリアと地続きでした。古北海道半島と言われます。
ですから北海道では、マンモスの化石が出ます。(本州では出ていません。)
 
そして瀬戸内海は無く、本州、四国、九州は一つの島でした。古本州島と言われます。
瀬戸内海では、ナウマンゾウの化石が漁師の網にかかったりするそうです。
(諸説ありますが、ナウマンゾウは65万年前に現れ、1万6千年前に絶滅しています。)
 
と言う事は、最初の日本列島人は、海を渡って来た渡航者だったのです。
獲物を追いかけて徒歩で来た人達が、最初ではありません。
その渡航者が、陸伝いに来た者達と交わって、縄文人になったと思われます。
ですから縄文人には、海洋民族的側面が色濃く見受けられます。
 
ちなみに最終氷期は13万年前から1万年前までで、もっとも寒かったのが2万年前です。
       

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二万年前の陸地 Nakazawa2018より
海面は現在よりも130メートルも低かったようです。
しかしその時にも津軽海峡は存在し、北海道と本州は陸続きになっていません。
対馬は本州島と地続きになり、朝鮮半島(黄海が陸地になっており、半島ではなくなって
いるが)との間に細長い海がある状態でした。
冬場にはこの海峡が凍り、大陸と本州島とが徒歩で行き来できたのかも知れませんね。
 
東シナ海には広大な陸地がありますし、これには載っていませんが、南シナ海にはスンダランドと呼ばれる、これまた広大な陸地がありました。
当然そこでも人々は生活していたでしょうから、そこは現在海底遺跡となっているかも知れません。
こうして見ると、海底遺跡って普通に存在するんだろうなと思えてきますよね。
 
 
 
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登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ   ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男  ヤッホ 22歳 ササヒコの息子  ハギ 24歳 ヤスが得意  クマジイ 63歳 長老だが・・・  クズハ 39歳 ハギとハニサの母親  タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている

            

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)                 塩渡り=海辺の村が作った塩を、山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  トコヨクニ=日本